久遠の神話
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第七十一話 全ての光でその四
「だから強いんだよ」
「先生でもなの」
「先生は強いよ、だからね」
それでだというのだ。
「勝てるけれど」
「大丈夫なのね」
「信じよう、厳しい闘いだけれど」
だがそれでもだというのだ。
「先生をね」
「ええ、そうしないとね」
「先生だよ」
二人が敬愛する高代だというのだ。
「絶対に大丈夫だよ」
「ええ」
樹里も上城の言葉に頷いてだった、闘いを見守ることにした。
エルベロスはまずはだった、その毒を吐いてきた。毒の息をだ。
それは霧となって高代に迫って来た、範囲はかなり広い。
その紫の死を前にして構えたままの高代を見てだ、豊香は他の二柱の女神達に問うた。
「あの」
「あの方が勝てるかどうか」
「そのことですね」
「はい」
その通りだとだ、豊香は頷いて答えた。
「このままでは」
「ケルベロスの毒は貴女も知っていますね」
「私は冥府の女神でもあります」
ケルベロスはその冥府の番犬だ、それならばだった。豊香は問うた智子に対して沈痛な声で答えたのだった。
「ですから」
「その通りです。ですから」
「あの毒を少しでも浴びれば」
「そうですね」
「死です」
簡潔だが確実な言葉だった。
「それに至るまでです」
「ケルベロスは毒の魔犬です」
豊香も言う。
「その禍々しい無数の牙と共にです」
「毒でもですね」
「冥府を出ようとする者を追い返します」
それがケルベロスの仕事だ、その力故に出来ることなのだ。
「そうしますので」
「その毒を受けたならばです」
確実に死ぬことだった、だがだった。
智子は正面、そこにいる高代を冷静な目で見て答えた。
「しかしあの人は受けません」
「その毒をですね」
「あの人なら」
受けないというのだ。
「安心して見ていて下さい、貴女も」
「そうですか。私は」
またここで他の女神達を見て言う豊香だった。
「戦い、そして狩りも司っていないで」
「こうしたことはですね」
「どうしてもですね」
「はい、わかりません」
これが豊香だった、戦いには疎いのだ。このことは他ならぬ彼女自身が最もよくわかっていることだった。
「ですがお姉様達は」
「はい、戦いのことはわかります」
「狩りと認識しても」
智子と聡美はそれぞれ豊香に答えた。
「この戦いは勝ちます」
「あの人が」
「では」
豊香は信頼する姉達の言葉を受けてだった、そうして。
彼がどう毒の霧を凌ぐのかを見守ることにした、それが彼女の選択だった。
毒は迫る、その毒の霧に対して。
高代は構えたその剣を縦横に何度も振るいだした、すると。
無数の光の刃が振るその都度放たれてだった、霧を切り裂いた。
そうしてその光で霧を消し去ったのだった、切り裂かれた霧はそこから消え去っていき遂には完全になくなった。
そのうえでだ、こう言うのだった。
「私の光は熱もありましてね」
「グルル・・・・・・」
対するケルベロスは唸り声を挙げるだけだった、喋りはしない。
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