ジム&ジェーンの伝説
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第二章
第二章
「ここなのね」
「ああ」
ジェーンは欠けたアスファルトにやっと血を拭ったばかりのコンクリートを見ていた。まだ事故の後が残っているみたいだった。それが生々しかった。
「ここさ。あいつがいっちまったのは」
「そう・・・・・・」
俺達はヘルメットを脱いでいた。そしてじつがいった場所を見ていた。二人で。
けれどジェーンは一人になっちまっていた。俺はいないも一緒だった。けれどそれでよかった。ジェーンはジムのものだ。それが変わることはない。あいつがいっちまっても。ジェーンはあいつのものだからだ。それだけは変わりがない。俺の想いなんてどうでもいいことだった。
ガードレールも壊れて歪に歪んでいた。そこにあった血も拭き取られていた。けれど。もうあいつはいない。ここで旅立った証拠が壊れたアスファルトとこのガードレールだ。随分派手にやっちまったらしい。ジェーンには言ってないが五体満足でももう全身の骨が粉々だったらしい。即死だったのがせめてもの救いあっていう位のとんでもない有り様だったらしい。
「ジム・・・・・・」
ジェーンは懐から何かを出した。それは一輪の白い薔薇だった。
「貴方が好きだった花。最期にこれをあげるわね」
そう言ってコンクリートの前に捧げた。あいつが身体をぶつけた場所だ。
「そして」
ジェーンの目が動かない。唇も。だが言葉は出た。
「・・・・・・さようなら」
そう言った途端にその動かない目から涙が零れ出てきた。銀色の涙が。泣かない約束も。そんなものももうどうでもよくなって。ジェーンは泣いてしまった。
「・・・・・・帰るか」
俺はそんなジェーンに声をかけた。ジェーンはそれに無言で頷いた。
またヘルメットを被ってバイクに乗った。ジェーンは後ろにいる。俺の後ろで泣いているのがわかる。
俺達は走り出す。そこであのバーガーショップが目に入った。俺もジムもジェーンもいたあの店が。店の中には俺達が笑って映っている写真だってある。
「寄ってくか?」
「いいえ」
ジェーンは俺の後ろで首を横に振った。壁に赤いスプレーの文字が映った。
『I LOVE YOU』
ジムが描いたやつだった。俺達に乗せられて静かなタチだったあいつが珍しく乗って悪さをした時に描いたやつだ。ジェーンにあてた文字だ。けれどその文字も今は主がいない。
「いいわ、今は」
「わかったよ。じゃあ」
俺はジェーンに言った。
「飛ばすぜ、つかまりなよ」
「ええ」
「何も見えない位な。何処までも」
俺はアクセルを思いきり踏んだ。それでスピードをつける。
後ろでジェーンの髪が流れていた。ヘルメットの後ろから出た髪が。まるで流星みたいに。
俺はただただ飛ばした。何も見えなくなるまで、何も考えられなくなるまで。何処までも飛ばした。
その後ろにいるジェーンはジムの背中を思い出していたかどうかはわからない。けれど今俺は飛ばさずにはいられなかった。何処までもだ。
俺達の向こうに赤いライトの群れが見えてきた。それは仲間達だった。
「御前等」
「水臭いぜ」
仲間達は俺達に声をかけてきた。そして言った。
「ジムとジェーンの為にな」
「今日はとことんまで走ろうぜ」
「ああ、何処までもな」
俺はそれに応えたうえでジェーンに声をかけた。
「それでいいよな」
「・・・・・・ええ」
ジェーンはこくりと頷いた。それを受け入れてくれたのだ。
「お願い」
「わかったよ」
「じゃあ皆でな」
「行くぜジェーン」
「そしてジムもな」
「今日は何処までも」
「飛ばすぜ」
俺達は言い合ってさらに飛ばした。バイクはもう風になっちまっていた。
あいつが風になったのと同じで。俺達はそのまま風になって走り続けた。その風に別れを告げて。そこにいるジムに別れを告げて。俺達は何処までも走った。
ジム&ジェーンの伝説 完
2006・9・10
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