ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第十三話
前書き
おまたせしました~。『神話剣』約一カ月ぶりに更新します。
《魔女の村》の昼が明ける。昼が『終わる』のではない。『明ける』のだ。もうすぐ夜が来る。そして、《魔女の村》にとって、夜こそが昼だった。
「はじまりますよ」
ハクガが小さくつぶやいた。
「始まるって……何が」
「見ていればわかります。ほら、来ましたよ!」
いぶかしげな表情を一同が浮かべた、その直後。
ズンッ!という、重厚な波動が世界を揺らした。波動の飛んできた方向は、さびれた《魔女の村》だ。そしてその《魔女の村》周辺を、恐るべき光景が蓋っている。
「な、なんだ、ありゃぁ……」
カズがかすれた声を漏らした。セモンも、リーリュウも、そしてコクトすらが絶句する。
夜が、『明けた』。太陽が昇り、光が差し込むように、闇が昇ってくる。ごぉぉ、と豪風のような音を立てて、闇が空を覆っていく。そして漆黒の空には、鮮やかな星々が、宝石のようにちりばめられた。
驚くべきことに、これらの事象は全てセモン達の真後ろ、つまり《魔女の村》の境界線までの間でしか起こっていなかった。境界線より向こうは、きっちりといまだに青い空が広がっている。
「すげぇ……」
セモンは。思わず声を漏らしてしまった。そして新たな姿となった《魔女の村》を見渡し、戦慄した。
光景が、大きく変わっている。夜空に変わっただけではない。『さびれた村』でしかなかったはずの《魔女の村》が、数倍の規模を誇る漆黒の街に変わっている。家々からは、とんがり帽子をかぶった少女たちが現れはじめた。
「……ハクガ」
「はい、何でしょうか?」
「《適応者》っていうのは、いったい何人いるんだ?」
「最大でも二十人ほどだと言われています。ちなみに、この村に住んでいる《適応者》は、先ほども言った通り、わが師、ハクアさんだけです」
「!?」
セモンは再び言葉を失った。《適応者》は、言ってみればこの世界の『プレイヤー』。それが一人、という事は……
「あの人たちは、全部NPC……!?」
「はい。それも、セモンさんの知っている者とは少し異なると思いますが……とりあえず、ハクアさんの所に行きましょう」
ハクガがトコトコと《魔女の村》もとい《魔女の町》へと歩いて行った。セモン達もあわてて後を追う。
「ハクアさんの家は、《魔女の村》の中でも比較的小さい家です」
「へぇ……」
NPCだらけの街で、唯一のプレイヤー。しかし、その家が比較的小さいと聞いて、セモンは少し驚いていた。プレイヤーよりもNPCの方が力が強いのだろうか。それとも、何か別の理由が……?
と、その時、おもむろにカズが口を開いた。
「そういえば、この村……っていうか、町の家って背が低いよな。なんでだ?」
カズの疑問は最初、少々不思議に思えたが、セモンも町を見回してああ、と納得した。SAO時代に、アインクラッド第一層や第八層、第十八層、第二十二層などは、比較的『小規模な街』のようなものが多かった。主街区は大きかったり広かったりするのだが、第一層を除く別の階層では、それでも『地味さ』がぬぐえていなかった。
そしてこの町の家々は、その『地味で小ぶりな家』よりもさらに二回りほど小さいのだ。おそらくカズが今まで見てきた、この世界の基準から照らしても小さいのだろう。
「ああ、それはですね…………自分の眼で見た方が速いですかね。ほら、つきましたよ。ここが、ハクアさんの家です」
おお……と我知らず呟きが漏れる。そこにあったのは、黒光りする不思議な樹木で作られた、小ぶりな家だった。まるでどこかのパン工場をもっと中世チックにしたような感じである。いかにも「魔女の小屋」といった風情のそれを、セモンはしげしげと眺めた。
「入りましょう」
ハクガが家のドアを開ける。手招きする彼に続いて、家の中に入ったセモンが見たのは――――
――――巨大な下り階段だった。石造りの。何百段もある。
「……は?」
カズが間抜けな声を出す。リーリュウ、挙句の果てにはコクトまでもが驚きに目を見開いている。それもそのはずだ。住居の中心に、ここまで巨大な階段が、しかも下り階段が設置されているとでもなれば、だれでも驚く。
しかしハクガハ勝手知ったる様子で階段を下りていく。
「……行こうぜ」
「あ、ああ……」
カズについていく形で階段を下りていく。回廊はそこまで狭くはなかったが、壁に設置された燭台にともった、明らかに蝋燭物のとは違う輝きが揺れるたびに、不思議な揺らめきが階段を照らす。
――――コハクが嫌いそうな場所だな。
お化け嫌いの恋人を思い出して、セモンは苦笑した。それと同時に、コハクに会いたい、という切ない願いも。
「(……はやく、向こうに戻らないとな……)」
小波が何のためにセモンを呼び寄せたのか、いまだによくわかっていない。《適応者》は二十人余りいるというし、それこそセモンを呼び寄せなくても十分だったはずだ。それなのにもかかわらずセモンが呼び出されたのはなぜか。
ただのご都合主義ではない気がする。なにか、ずっとずっと、強大な思惑がからんだ『ご都合主義』――――
「みなさん、止まって下さい」
ハクガの声で、思考の渦から浮上する。セモン達は、二メートルほどの木製のドアの前に立っていた。金色のドアノブにハクガは手を掛けると、無造作にそれをひねって、ドアを開けた。
――――そして、目の前に地獄が到来した。
散乱した本や紙。折れた万年筆。われたビーカー。よくわからない物質が詰められた試験管。部屋の四方を埋め尽くした本棚にはワケの分からない言語で書かれた本や、何に使うのかよくわからない置物が並べられている。部屋の中心にある巨大な机には、山の様に紙や本などが積み重ねられ、雪崩を起こした後のような有様になっている。部屋のそこかしこに蜘蛛の巣やカビらしきモノ、何なのかよくわからない茸まで生えている。
かつてこれほどまでに汚い部屋があったであろうか。小波の部屋ももう少しましだった気がする。
そして机に付属した椅子には、一人の長い髪の人間が座って、机に寝そべっていた。
「……先生」
ハクガが声を掛けるが、その人間は動かない。
「……先生」
「……」
はぁ……とハクガがため息をつくと、彼はおもむろにその拳を握って、構える。腕に淡いエフェクトライト――――そして、高速の打撃。かつてSAOで《閃打》と呼ばれた体術ソードスキルが、部屋の主に深々とクリーンヒットした。
「ぎゃぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
がばっ!と跳ね起きた部屋の主に、ハクガが飛び退く。
「いった~い……だれですか、こんな暴挙に及んだのは……せっかく人が気持ちよく寝ていたというのにもかかわらず!!」
ぐるり、とこちらを振り向いた部屋の主。澄んだ声は女性の物だ。ぼろぼろの白衣を着崩して、その下から肌色がのぞいている。セモンはとっさに顔をそむけてしまった。つまり彼女が――――
「僕ですよ、ハクアさん――――先生」
「ああ、あなたでしたか、ハクガ……これは後でお仕置きが必要かもしれませんね」
そしてセモンは考える。
ああ、どうして師匠世代は二口目には「お仕置き」なのだろうか、と。
***
「……と、言うわけで、改めまして、自己紹介をさせていただきます。初めまして。《古を詠む月》ハクアです。ハクガの師匠のようなことをさせていただいていました」
「今もでしょう、先生」
「そうでしたね」
ふふふ、と笑うハクアは、先ほどの乱雑な服装から着替えて、ゆったりとしたローブ姿になっていた。《魔法使い》、という言葉がとても似合う服装だった。
「はじめまして。《赤の太陽》カズです」
「《音を運ぶ風》リーリュウです」
「はじめまして。ハクガから話はよく聞いていますよ」
ハクアはにっこりと笑う。その表情はとても魅力的だ。セモンにはコハクという永遠を誓った女性がいるためさほど効果がなかったが、きっと並みの男なら一発で籠絡されたに違いない。
「そしてあなたが、小波さんの弟さんですね?」
「あ、はい。《神話剣》のセモンです」
「お姉さんによく似ていますね。初めまして」
セモンは姉と似ている外見が苦手だが、まぁ、他人から見れば「仲のいい姉弟」の要素の一つであろう。仲は良くないが。
「久しいな、ハクア」
「ええ。まさかコクトが来ているとは思いませんでしたよ」
コクトとハクアの会話に、カズが目を剥く。
「え?師匠とハクアさんは知り合いなのか?」
「何を言っている。《師匠世代》は全員顔見知りだ。それだけでなくてもリアルでは全員一階は顔を合わせている」
「私だけレベルが低いままですねー。いま何レベルですか?」
「73」
「負けました……54です」
ハクアとコクトのレベル比べ。
「先生はインドア派ですからね。たまには外に出てレベル上げでもしたらどうです?この茸何ですか?」
「あ、それですか?二週間前に生えてきまして。可愛いのでそのままにしておきました。効果を確かめたところ、人間が食べると二時間で死亡します」
「何でそんな危険なもの生やしているんですか!?……こっちの薬は?」
「性転換の薬です。そうだ、ハクガとカズ君に飲んでもらいましょう。ハクナちゃんとも久々に会いたいですし」
「何で俺が飲む必要が!?」
「リーリュウ君も女の子になったら可愛いかもしれませんね」
「やめてください。気にしてるんです」
とにかく、とハクガが彼には珍しい怒り顔で言った。
「先生は一度外に出てください。セモンさんに《六門魔術》の手ほどきをお願いします。リーリュウ、ここに残って僕と部屋を掃除しますよ。幸いなことにゴーレムの材料はたくさんあります」
「良いですけど、ハクガ、キノコちゃんは残してくださいね?」
「Ko☆To☆Wa☆Ruです。ぜんぶ消し去って綺麗にします」
「ああ~!キノコちゃん~!!」
ハクアが悲痛な声で叫ぶ。
そしてセモンは考える。
なぜ《師匠世代》は、どこかねじの外れた人ばかりなのだろうか、と。
後書き
おひさしぶりで~す、Askaです。オリジナルに逃げたり、別の話ばっかり更新したりしてしばらく停止していた『神話剣』の最新話です。
次回もまたまた遅れます。
グリ「断言しないでください……」
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