| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第10話 弱虫番長登場!? 喧嘩はダメ、絶対!

 戦闘を終えた後だと言うのに、番の機嫌はすこぶる斜め下を行っていた。
 現在は日本政府が用意した極秘施設、基バンチョーベース(銘々:番)に戻っており、その中に用意された番専用の自室の中に居た。
 その自室と言うのは洋風に作られており、中は言ってしまえば殺風景と言えた。
 簡素な本棚に机、壁沿いには中位のサイズのベットが置かれており、必要最低限の生活を此処で行えるように作られていた。
 そのベットの上で番は今、不貞寝している真っ最中なのであった。
 原因は番達、通称地球防衛軍 番長組(銘々:番)がアメリカの首都ニューヨークに現れたゴクアク組のチンピラ達との抗争中に、その隙を突き日本に現れたゴクアク組の本隊を謎のロボットが破壊してしまった。と言うそうだ。
 それがどうにも番には不満でならなかった。共に戦ってくれる仲間になってくれるのだとしたら、何故姿をくらませてしまったのだろうか?
 どうにも、番には喧嘩の相手を横取りされたみたいで、それが番には不機嫌の要因ともなっていた。
 終始無言のまま、番は天井を見上げつつ、口を尖らせていた。
 やはり、何度考え直してもやはり腑に落ちない。確かに日本を守ってくれたのは礼を言うが、だからと言って何も言わずに去って行ったのは番としては許せなかったのだ。
 戸を叩く音がした。
 誰かが番の部屋の扉を叩いていたのだ。不機嫌の絶頂にある番が、その音に応じる筈もなく、寝返りを内、両耳を腕で塞いだ。
 戸を叩く音は次第に大きくなりだして行き、遂には全身でぶつかっていくような音になりだしている。
 流石に鬱陶しくなりだしてきたようで、ベットから身を起こして扉へと向っていく。
 不満げな顔を隠す事もせずに扉を無造作に開いた。その時番の目の前に映ったのは、茜と茜が振り上げて放った右足だった。
 その後の事は、余り良く覚えていない。気がつくと番は自室の床に仰向けで倒れていた事だけだった。
「大丈夫かぃ? 番」
 倒れた番を見下ろす形で見る茜。彼女の顔を見る限り、明らかに悪気を一切感じている様子が見られない。
「お前に言われると皮肉にしか聞こえねぇよ」
 鼻っ柱を抑えつつ、不満全開な口調を発しながら身を起こした。相当効いたのだろうか? 鼻は真っ赤になり、うっすらとだが鼻から血が垂れているのが見える。
「あんたがさっさと開けないのが悪いのさ。これに懲りたらノックがあったらさっさと開ける様にしな」
 茜の受け答えに不満を感じたのか、番の口から軽く舌打ちした様な音が聞こえてきた。幸い茜には聞こえなかったようだ。もし彼女に聞こえてたら今度は顔面に膝蹴りが叩き込まれてしまうだろう。
 正直未だに茜の蹴りはかなり効く。スケ番を張っているだけあり、その威力は番にとっても脅威であった。
「それで、一体何の用だよ?」
「最初のおっさんがあんたを呼んで来いって言って来てねぇ、そんな訳だからさっさと行くよ」
「へいへい……とぉ」
 承諾はしてみたものの、面倒だったのか言葉に覇気がない。
 ボリボリと頭を掻き毟りながら茜の後に続いて通路を歩いて行く。
 番の自室からそう遠くない場所に集合場所でもある司令室はあった。其処に辿り着くと、既にバンチョウ達も集められており、モニターには最初に訪れた際に映った年寄りの男性が映っていた。
【揃ったようだね? それでは本題に入るとしようか】
「一体何の用だよおっさん」
 あからさまに不機嫌そうな視線でモニターの男性を見る。男性もまた、番の不機嫌さに気付きはしたが、話を進める事にした。一々反応していたらキリがないからだ。
【今回君達を呼んだのは他でもない。君達の合体システムについてある程度だが判明したのでそれの説明をしたくて呼んだのだよ】
 自信満々に男性がそう答える。まぁ、実際番達も自分達の事とは言え殆ど分からないも同然だったのでそれは有り難い事だったりする。
 突然、モニターの画面が切り替わり、今度は若い科学者風の男性が映っていた。
【今回の件で分かった事なのですが、番君と茜さんの両者はそれぞれ、ダイバンチョウと紅バンチョウへ変形合体出来る事は既にご承知の事だと思います】
「ま、自分達の事だしね」
「それだけってこたぁねぇよな?」
 幾ら何でもそれだけで呼び出されたのでは流石に番達も溜まった物じゃない。
【それで、君達の合体の際にだけど、君達の機体が一種のエネルギー向上現象が発生している事が判明したんだ。そこで、これらのエネルギーを『熱血ボルテージ』と呼称させて頂きます】
「何でまたそんな名称なのさ?」
【多分番君だったらそう言う名前にすると思ったからね】
 変な所で気を使う人だったようだ。まぁ、番が仮に銘々したとして、その際にもっと酷い名前になるのも嫌だし、この際はその名前で妥協した方が良さそうだ。
【それで、この熱血ボルテージが計算の結果、約50パーセントを上回った時にのみ、君達の機体が合体変形を行っている事が判明したんだよ。つまり、君達がダイバンチョウ、並びに紅バンチョウに合体変形する為には、君達の中にある熱血ボルテージを上昇させる必要があるって事なんだ】
 何とも面倒極まりないシステムが備わっているようだ。確かに、以前番が茜と初めて対峙した際にもそのせいでダイバンチョウのパワーが大きくダウンしてしまっていた経緯がある。
 恐らくはそのせいなのであろう。つまり、今後は合体する際にはその熱血ボルテージの量にも気を配らなければならないと言う事になる。至極面倒極まりない事この上ない話であった。
「じゃぁよぉ。その熱血ボルテージを溜めるにはどうすりゃ良いんだ?」
【名前の通りだけど、要するに搭乗者でもある君達が熱血すれば上昇する筈なんだよ】
 何とも分かり易い説明であった。つまりは戦闘を続けて体中の血を滾らせて燃え上がらせれば自然と熱血ボルテージが上昇してくれると言うそうだ。
 正に名は体を現すとはこの事だと思われる。
【なるほどのぉ。正にヒーローには常に欠点が付き纏う。っちゅう話じゃのぉ】
「意味分かんねぇよ」
 レッドのその発言に今一共感をもてなかった番。彼自身ヒーローになったつもりはこれっぽっちもない。只単に敵が自分の敷地内に土足で入って来たから叩き帰した。それだけの事だ。
 しかし、世間にとってはダイバンチョウ達は列記としたヒーローなのであろう。
 だからこそ、日本政府もまたこの施設とスカイ番長を提供してくれたのだろう。
【とにかく、今度戦闘を行う際にはその点に注意しておいて欲しいんだ】
 要点はそれで終了したのか、モニターに映っていた男性は消え去り、元の老人の映像に戻った。
「んで、要件はそれだけか?」
【君達が以前ニューヨークへ赴いた際に番町に襲撃してきたゴクアク組の異星人達のことについては知っているかね?】
 男性の問いに番達は頷いて見せた。既にご承知の事だったからだ。そして、番が四六時中不機嫌なのはそのせいだったりする。
「それで、そいつらがどうしたってんだよ?」
【その異星人達が、突然現れた全く別のロボットにより破壊されてしまった……っと、言うのも既に知っていると思うが、そのロボットは君達の仲間かな?】
 言い終わると同時に映像が切り替わり、今度は例の襲撃してきた異星人達を撃退していくロボットの映像が映し出されていた。
 形状からしてパトカーから変形したロボットだと推測出来る。だが、現状の番長組内にパトカーからロボットへ変形するタイプは居ない。それは即ち、このロボットもまた敵になる可能性がないとは言い切れない存在である事も言えていた。
 更に言えば、番が不機嫌なのはこのロボットのせいでもあったりする。
「なるほどねぇ、こんな感じの奴だった訳ねぇ。あたぃが来た時にゃぁ影も形もなかったから分かんなかったけど、見るからに正義の味方って感じじゃないのさ」
【確かに、形状はそうかも知れんが、だからと言って味方だとは限らない。今後はこのロボットには充分注意して欲しい。我々もこのロボットについて出来る限りの情報を集めるよう努めてみるつもりだ】
 それだけを言い終えると、通信は途切れてしまった。どうやらそれだけを伝えたかったのだろう。
 嬉しい事があった後にまた面倒な事が持ち上がってしまった。
 これからより一層厳しい戦いが待っている事は明白な事だろう。




     ***




 謎のロボットの件から既に数日。番達はまた番町に帰って来ていた。バンチョーベース内に居ても生活に不自由はないのだが、番達は学生の身分だ。即ち学業を疎かにしてはいけない。なのでこうして日本に戻り学校に通っているのである。
「……で、あるからして。此処の方程式を解くには―――」
 数学の講師の長々しい説明が教室内に響き渡る。現在、番の居る教室では数学の授業の真っ最中ならしい。無論、此処は番町の中にある学校。
 故にこの学校に通っている生徒の大半は不良か普通の学校へ通えなかった生徒が占めている。
 当然、授業をまともに聞いている生徒など教室内に半数とは居らず、番もまた同様に自分の机の上に腕を組んで呑気にいびきをかいている始末であった。
 他にも携帯を弄っている生徒も居れば教師の講義に野次を飛ばす生徒も居るし、挙句の果てには授業をほっぽって逃げ出す生徒までもが居る始末。なので教師も半ば諦め気味に無視して講義を続けていた。
「ねぇ、番。授業聞かなくて良いの?」
 隣の席に居た美智が番の肩を揺さぶって起こそうとする。しかし、番自身相当眠かったのだろうか、手で肩に触れていた手を払い除けるだけで全く起きる気配がない。
 不満に思ったのか、頬を膨らませる仕草を見せる美智は、何を思ったのか、番の耳元に軽く息を吹きかけて見せた。
「んがっ!!」
 突如耳元に吹いて来た生暖かい風に驚き、番は飛びあがった。片手で耳を抑えながらも、その目線は隣に居る美智へと向けられている。
 安眠を妨害されたのだから相当不機嫌そうな目線を向けていたのだが、当の美智は全く気にしていない。
「起きた?」
「変な起こし方するなよ。気持ち悪いじゃねぇか」
「だって、そうしないと番起きないじゃない」
 番は女が苦手なのは名乗り口上からして理解出来ていると思う。その証拠に美智にこうした嫌がらせを受けるとてき面弱かったりする。
 番の以外な弱点でもあった。
「轟、変な声挙げてたけど、やる気があるならこの図式を解いて見ろ」
「えぇっ!!」
 弱り目に祟り目、とばかりに今度は教師に名指しで指されてしまう始末。当然授業など聞いていなかった番にそんな事出来る筈もなく、結局赤っ恥を掻く羽目になったのは言うまでもない。
 その後も何も変わった様子もなく授業は進み、やがて下校時刻となった。
 学校の校門付近では大勢の生徒達が家路に向い歩いていた。その中に番や美智の姿も見受けられていた。
 相変わらず番は不機嫌そのものでもあったが―――
「どうしたの、番? 今日はずぅっと不機嫌だね」
「お前に変な起こされ方されたせいだよ」
「それよりも前からだよ。番ったら朝からずっと不機嫌だったよねぇ」
「………」
 度重なる美智の質問攻めに、遂に番は黙り込んでしまった。口をへの字に尖らせて視線を真っ直ぐ前に向けている。その視線を見た生徒達が一斉に視線から逃げ去って行く。
「ねぇ、悩みがあるなら話してみてよ。私達小学生からの付き合いじゃない」
「女のお前に言っても仕方のねぇ事だよ。あんまし関わんなよ」
「あぁ! そんな言い方するんだぁ。それって男女差別って言うよねぇ」
 今度は美智が口をとがらせだした。その表情を見た途端番の額に冷や汗が流れ落ちる。こうした表情を浮かべだした美智の機嫌を治すのは相当骨が折れる事を番自身が心得ているからだ。
「そう言う態度をずっととり続けるって言うんだったら、もう番にはノート見せてあげないよぉ」
「うっ!!」
「テスト勉強も手伝ってあげないし、お弁当のおかずだって作ってあげないよぉ~だ!」
「うっうぐぐぅっ……」
 番お決まりの殺され文句であった。既にご承知の事と思われるが、番の成績ははっきり言って赤点以下と言っても良い。
 そんな番が留年もせずに2年生に進学できたのは一重に美智の協力があってこそだったのだ。
 美智は番とは違い勉学に秀でた才女との呼び名も高く、成績は常にトップをキープしている。
 また、料理の腕前も中々の物で、たまにおかずを作りすぎたとかで番におかずを何点か包んで持って来てくれたりしているのだ。
 そのおかずがまた番の好物だったりするのが殆どな為番自身とても嬉しく頂いている。
 彼女の助力が得られないとなると、これから先のテストは全て赤点以下の最悪状態となる事は間違いないだろうし、最悪進級も危ぶまれてしまう。
 出席日数にしたって、喧嘩などでエスケープしまくっているので日数的にもかなりギリギリだったりする。なので番にとっては美智の助力はなくてはならない物なのである。
 その美智が助力を断ったとあっては番に待っているのは破滅しかない。
「す、すまねぇ美智! 俺が謝る! だからそれだけは勘弁してくれ!」
 さっきの態度とは打って変わり、突然猫背になり顔の前で両手を合わせてへこへこと頭を下げだしている。
 番の何時もの姿を見ている者達からしてみればさぞかし異様な光景に見えるだろう。何せ、番にとってどんな強敵よりも美智が遥かに凶悪なのだから。
 必死に謝ってる番の前で、美智は凶悪な顔をしだして腕を組んでいた。先ほどまで邪険に扱われていた仕返しでもしたいのだろう。
「う~~ん、どうしようかなぁ~? さっき番が何で不機嫌か理由聞きたかったのに番ったら全然話してくれないんだもんなぁ~~」
「は、話す! 話すから、だから頼む! 機嫌を治してくれ! この通りだ」
 更に低く頭を下げだす番。それほどまでに番にとって美智の存在は必要不可欠なのだと言える。
「ふ~ん、其処まで必死になって謝るって事は、少しは反省したんだよねぇ? でもどうしようかなぁ?」
「分かった! こうなったら俺も男だ。今日一日お前の言う事何でも聞いてやる! だから機嫌を治してくれないか?」
「今、何でも言う事聞くって言った?」
「あぁ、言った! 言ったとも! 男に二言はないっ!」
「じゃ、今日は番の家に泊めて貰うからね」
「んげぇっ!!!」
 突然の狂言に番は思わずたじろいた。別に美智が番の家に泊まるのはさほど珍しくない。過去にも何度かテスト勉強の為に一夜漬けする為に美智と共に一晩過ごした事だってある。
 が、念の為に言っておくが番は女が苦手だったりするので当然かなり奥手だったりする。
 また、美智は轟家でも既に顔見知りな分類になっている為、彼女が轟家に来るのは寧ろ歓迎されている事だったりする。特に弟の真に至ってはまるで姉の様に慕っていたりする始末なのだから兄貴としてかなり複雑な心境だったりする。
 普段だったら別に構わないだろうが、今家にはバンチョウが居る。下手にバンチョウと鉢合わせしてしまえばかなり後味が悪い。それにバンチョウの存在は既に家族に知られている。
 もしかしたら真辺りがばらしてしまうかも知れない。そうなるとかなり不味い。
 美智に正体がばれる事は即ち学校中にばれる事になりかねない。
 そうなれば恥ずかしくてとても大手を振るって町など歩ける筈がない。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いや、待って下さい! そればかりはご勘弁を……」
「あんれれぇ? 男に二言はないんじゃなかったっけぇ?」
「あうあうぅぅ……」
 開いた口が塞がらないとはこの事だった。こうなってしまっては何を言っても無駄であろう。
 それに、それは番の男の株を下げる行為になってしまう。覚悟を決めるしかなかった。
「はぁ……分かったよ。好きにしやがれ」
「やったね!」
 肩を落としてがっくりする番とは対照的に、凄く嬉しそうになる美智。
 こんな光景は実は日常茶飯事だったりする。
「ねぇ、ところで何でさっきあんなに不機嫌だったの?」
「言っちまえばあれだ。喧嘩の横槍を入れられたみたいな所だよ」
 喧嘩をする事を生き甲斐としている者達にとって喧嘩の横槍を入れられる事は心底腹立たしい事だったりする。その為終始番は不機嫌極まりなかったのだと言える。
「なるほどねぇ、それじゃ喧嘩が三度の飯と同じ位に大好きな番にとっては心底頭に来る事だろうねぇ」
 瞬時に理解した美智。そこら辺は幼馴染が故なのであろう。
 そんな二人の目の前を猛スピードで一台の車が突っ切って行くのが見えた。咄嗟に足を止めたお陰でぶつからずに済んだがこれは番に喧嘩を売っている事に他ならない。
「あんにゃろう!」
 頭に血が昇った番を止める事など出来ない。それに、美智としてもあの車が何故あそこまで飛ばすのか知りたい野次馬精神が芽生えてしまったらしく、番に続いて後を追い出した。
 案外、例の車はすぐ先で停車していたのですんなり追いつく事が出来た。形状から見てその車両はどうやら救急車だったようだ。
 その救急車の横で搭乗者が大声で何かを叫んでいるのが見えたが、生憎内容は聞き取れない為もう少し近づいてみる事にした。
「おいこらぁ! 天下の救急車がスピード違反しやがって! 危うくひき殺される所だったんだぞぉ!」
「あ、あぁ……すまない。実はこいつがさぁ―――」
 搭乗員がそう言い停車してある救急車を指差して見せた。その仕草に疑念を感じた番はフロント前に移動し、前から例の救急車を拝見してみた。
 前から見ても只の救急車にしか見えない。特に何ら変わった所など見えそうに………
【やっぱり僕には無理だよぉ! あんな血塗れの人を積み込むなんて怖くて出来ないよぉぉぉ!】
 突如、救急車からひ弱そうな声が聞こえてきた。中には誰もいない。どうやらこの救急車自身が声を発していたようだ。
「わ、びっくりしたぁ! 最近の救急車って喋るんだねぇ」
「喋る訳ねぇだろうが! ったく、こんな時に何だって面倒な奴と鉢合わせしちまうんだよ」
 物珍しそうに眺めている美智の横で、番は天を仰ぎたくなった。
 ただでさえ面倒毎が立て込んでるというのに更に面倒な出来事が起こったからだ。
 目の前の救急車は明らかにバンチョウやレッド達と同じ異星人の分類に属されている。つまり、このまま放置しておく訳にはいかないのだ。
 本来なら即座にレッドかバンチョウなどを呼んで事態に当たりたいのだが、生憎今回は近くに美智が居る。彼女の近くでバンチョウを呼ぶ訳にはいかないのだ。
「全くよぉ、救急車が患者を運ぶのを怖がってどうするんだよ?」
【御免なさい。でも、僕やっぱり怖いんですよ。血塗れの人を見ちゃうと怖くなっちゃって……】
「それじゃ救急車の意味ないだろうが! しっかりしてくれよ」
 会話の内容から察するにどうやらこの救急車が患者を運ぶのを嫌がっているようだ。
 しかしこいつ変わってるなぁ。
 会話を聞きながら番は常々そう思っていた。今まで出合った異星人はその大半が血の気の多い連中で纏められている。
 だが、今目の前に居る異星人は何所となく気弱な風に見える。
 明らかに今までとは違うタイプの異星人であった。
「とにかくさぁ、その患者さんってどうしたの?」
「あぁ、仕方ないから別の救急車で搬送したよ。にしてもこれじゃ仕事にならないんだよなぁ」
 搭乗者が激しく落胆していた。何せ自分の乗る救急車がこれでは患者の移送が出来ず、他の車両に委任する事になってしまう。
 それでは仕事にならない。それはとても困る事なのだ。
「ったくよぉ、ついこの間まで普通の救急車だったってのに、先週になって突然こんな感じになっちまってよぉ―――」
「やれやれ、面倒な事になっちまったなぁこりゃぁ」
 面倒臭そうに頭を掻き毟る番。このまま放置しておく訳にもいかないだろうし、かと言って此処でバンチョウやレッド達を呼べば美智に見られてしまう。二進も三進も行かない状況に陥ってしまった。
 正にその刹那、突如として激しい振動と爆発が起こった。震源地を見ると、其処にはまたしてもゴクアク組の構成員が襲撃してきたようだ。
 今度は全身に銃器を搭載した重火力を思わせる風貌だった。右手に大型マシンガン、左手にはグレネード砲、両肩は大口径のビーム砲、胴体にはガトリング砲が三門装備しており、膝には尖った誘導ミサイル砲、両目は高出力の破壊光線を発射すると言う正に全身凶器を絵に書いた様な宇宙人であった。
【ガハハッ、石の建物ばかりで鬱陶しいぜ。全部ぶっ壊して綺麗な更地にしてやらぁ!】
 意気揚々と声を張り上げながら全身の武器を発射して町の破壊活動を開始し始めた。次々と建造物が薙ぎ倒されて行き、瓦礫の山が築かれていく。その回りで大勢の人々が悲鳴を挙げて逃げ惑っていくのが見て取れる。
「ちっ、こんな時にあいつら……」
「ちょっと番、あの巨大ロボットの事知ってるの?」
「えぇっ! い、嫌々! 知らない知らない。あんな危なっかしい全身凶器の化け物なんて俺知らないぜぇ」
 美智に問われ、青ざめたまま番は首を左右に激しく振って見せた。どうやら美智自身はゴクアク組の構成員を見るのは初めてらしい。その為にあの巨大ロボットを知ってる風に見える番に疑問を感じたのだろう。此処で美智にゴクアク星人達との関係を知られると自分がバンチョウの操縦者である事がばれてしまう。
 それだけは勘弁願いたい。
【ひ~~~~! こここ、怖いよぉぉぉ~~~!】
 すぐ隣で喋る救急車が目の前のゴクアク組構成員を見て震え上がってしまいガタガタ震えている。何所まで情けない奴なんだこいつは?
「おい、お前仮にも救急車だろ? 目の前で怪我してる人が居るんだから早く運べよ!」
【でも、でもあんな危ない所を走るなんて僕には無理だよぉ!】
「情けねぇ。それでも男かよ?」
 顔に手を当てて心底項垂れる番。此処まで情けない奴には何を言っても無駄だと分かっている。だが、このままでは更にけが人が増えるばかりだ。
 それに、このまま放って置くのも喧嘩から逃げるみたいで番としては我慢が出来ない。
 何とかしなければならない。そんな風に悩んでいる番を他所に美智が喋る救急車に近づいて行った。間近でしゃがみこみ、救急車をじっと見つめていた。
「そんなに怖い?」
【こここ、怖いよ! だってあんなに暴れまわってるんだよ! 怖いじゃないか?】
「只暴れてるだけなら怖くないよ。本当に怖いのは何もせずに後々で後悔する事じゃないの?」
【え!?】
 いきなり真面目な事を言い出す美智。思いっきりキャラ崩壊してる気がするが気にしないでいただこう。
「怖い怖いって思ってるから見える者全部が怖く見えるんじゃないの? 思い切って怖くないって思ってみたら怖くなくなるかも知れないよ」
【そ、それってかなり無茶苦茶なんじゃないの?】
「良いの良いの。世の中なんて所詮そんな感じで出来てるんだしね」
 手をヒラヒラさせて満面の笑みを浮かべる美智。そんな彼女の笑顔を見た喋る救急車は、ふと自分が震えていない事に気付いた。彼女が励ましてくれたお陰で今まで抱いていた恐怖心が消え失せていたのだ。
【有り難う、美智さん。僕分かった気がするよ。確かに危険な場所へ飛び込むのは怖い。けど、僕が行かなかったせいで大勢の人が不幸な思いをするのはもっと怖い!】
「宜しい、それでこそ男の子だね! それじゃ、何をすべきか分かってる?」
【勿論! けが人は僕が責任を持って安全な場所まで避難させます。だから美智さんや番さん、それに運転手さんも安全な場所まで逃げて下さい】
 何時になく喋る救急車が逞しく見えた。今までの情けない姿から180度雰囲気がガラリと変わっているのが見える。何とも男らしい姿であった。
「へっ、良い事言うじゃねぇか。そんなお前を一人危険な場所に送るなんて事したらこの轟番様の名が廃るってもんだぜ。悪いが俺も一緒に行かせて貰うぜ」
【え? でも危ないですよ】
「心配するな。自分の身位自分で守れるさ」
【分かりました、お願いしますね】
「おう!」
 親指を立てて笑みを浮かべる番。自信満々な様子を浮かべている。
「番、大丈夫なの? 相手はデカブツだよ? 流石の番でも勝ち目ないんじゃない?」
「心配すんなよ美智。例え相手がデカブツだろうととことん喧嘩を挑むのが喧嘩道って奴さ」
 番は昔からそうだった。初めて番を知ったのは美智がまだ小学生の頃。その頃の番は喧嘩を売られれば例え相手が大人でも喧嘩を挑むほどの喧嘩馬鹿だった。そんな番を何時も美智は微笑みながらも心配し続けていた。だからこそ、今の美智の口からは、この一言が出てきた。
「喧嘩が好きなのも良いけど、怪我だけは気をつけてね。番」
「ちぇっ、お袋と同じ事言うんだな。お前って」
 頬を紅く染めて鼻っ柱を掻いて照れ隠しをした番。案外純情かつ初心なようだ。
 照れ隠しをする為に、番は急ぎ喋る救急車と共に激戦区へと駆け出した。
 近くに美智が居なければバンチョウと合体してゴクアク組と戦う事が出来る。別に素性が割れても問題は無いのだが、生憎自分は番長。世間的に言えば不良に分類される。不良と称されてる自分が世の為人の為にせっせと働いているなんて知れたら恥ずかしさの余り大手を振るって表を歩く事など出来ない。
 単にそれだけだったりする。本来ヒーロー物であれば素性がばれると周囲に被害が出るとかそんな辺りを想像しそうだが、生憎喧嘩だけが目的の勇者番長にそんな気配りなど無に等しかったりする。
【よぉ、もう良いのか? 番】
 考え事をしていると丁度良いタイミングでバンチョウが現れてくれた。正にナイスタイミングだった。最近はバンチョウも空気を読んで来てくれる為に非常に重宝している。
「良いタイミングだ。好き勝手暴れてるあの野郎にこの星に来た事を嫌と言う程後悔させてやろうぜ!」
【おう! 徹底的に叩きのめして二度とこの星に来たいなんて思わないようにしてやらぁ!】
 とてもヒーローとは思えない会話を交えた後、番はバンチョウと合体し約数メートルの巨大ロボットへと変貌した。大きさはそれでも敵構成員の方が数段大きい。まぁ、それも毎度の事なのだが。
【出たな、バンチョウ星人! 貴様などこのブソウ星人が粉々にしてやる】
【上等じゃねぇか! 素手で喧嘩出来ないチキン野郎に本当の喧嘩の極意ってのを教えてやらぁ!】
 互いに啖呵を切りあった後に、戦いは開始された。先手必勝の如く、バンチョウが拳を握り締めて殴りかかってくる。
 だが、バンチョウの拳が届く距離に到達するよりも前いブソウ星人の武器の数々が火を噴いた。腕のマシンガンやグレネード。肩のビーム砲や胸のガトリング砲が唸りを挙げる。
 その衝撃は凄まじく、バンチョウを易々数メートル後方へ跳ね飛ばしてしまった。
 跳ね飛ばされたバンチョウは地面に背中から落下し更に地面を擦れる形で停止した。
【づっ、野郎……飛び道具なんざ使いやがって!】
【馬鹿め、俺様の武器はこの全身に搭載された無敵の武器の数々だ。お前の喧嘩方法なんぞ時代遅れなんだよ!】
【てめぇ、よくも俺の喧嘩を侮辱しやがったなぁ! 絶対に許さねぇ―――】
 番の胸の内に激しい怒りの炎が燃え上がってきた。敵が強いだけじゃない。自分が貫き通してきた喧嘩スタイルを侮辱されたのが心底腹立たしかったのだ。そして、その怒りの炎が番とバンチョウの中で絶大なエネルギーを構築していった。

《熱血ボルテージ、50パーセント突破! 根性合体、発動可能!》

 機械的音声がそう告げた。恐らく以前モニター越しに説明された例のエネルギーの事であろう。番の激しい怒りの感情がそのまま熱血ボルテージとなり蓄積されたのだ。
【見せてやる! てめぇの卑怯な戦いを真っ向から打ち破る俺の喧嘩スタイルを! 来い、番トラっっ!】
 天を突き破る勢いで番は叫ぶ。すると遥か後方から喧嘩最強と書かれたデコトラ、通称番トラが姿を現す。
【行くぜ、根性合体!】
 番トラとバンチョウがそれぞれ飛翔し、空中で一つになった。一昔前のバンチョウを彷彿とさせる風貌をし、背中には喧嘩最強の文字が力強く描かれている。
【現れたか、ダイバンチョウめ!】
【おうよ、喧嘩一筋十数年! 女にゃ弱いが喧嘩は……】
 名乗り向上を終える前にブソウ星人から一斉に砲撃が浴びせられた。余りの勢いの為にダイバンチョウの周囲は白煙で見えなくなっていった。
 完全に煙で見えなくなった辺りでブソウ星人は攻撃を止め両腕を下げた。
【馬鹿め、何時までも律儀に貴様の名乗り向上を聞く馬鹿が居るか! 完全に隙だらけなんだよてめぇはよ】
 蔑むように笑うブソウ星人。だが、その笑みは突如として消える事となった。煙の中から猛烈な勢いでダイバンチョウが突進してきたのだ。
 顔色から見る限りかなり怒っているのが伺える。
【ば、馬鹿な! あれだけの攻撃を受けて傷一つついてないだとぉ!?】
【この野郎! 人の名乗り向上中に攻撃するたぁ良い度胸してるじゃねぇか! その捻じ曲がった根性をこの俺が叩き直してやらぁ!】
 怒号と共にダイバンチョウの右ストレートがブソウ星人の鳩尾を捕えた。ブソウ星人の体がくの字に曲がる。野太いダイバンチョウの拳がそうさせたのだ。
 凄まじいまでの破壊力だった。完全防備を誇るブソウ星人ですらまともにそれを受ければ只では済まない。
【続けてこいつも食らいやがれ!】
 動けないブソウ星人の頭を両手で掴み動かないように固定する。その後、ダイバンチョウの猛烈なヘッドバットが決まり、千鳥足でブソウ星人は数歩下がった。
 どうやら完全武装を施したが為に接近戦は苦手な様だ。それがダイバンチョウにとっては絶好の相手と言えた。接近戦はダイバンチョウの十八番である。其処に入り込めば敵は最早達磨同然だ。
 何も恐れる事はない。
【け、口先だけみたいだな。トドメを刺してやるぜ!】
 未だにフラフラしているブソウ星人に向い、腕をボキボキ鳴らしながらダイバンチョウが近づく。散々町を破壊した落とし前を着けた後に破壊する算段だったのだ。
 だが、そんなダイバンチョウの前に突如一台のパトカーが姿を現した。
【何だ? こんな時に何だってパトカーが来るんだよ?】
 さっぱり現状が理解出来ない番とダイバンチョウ。すると、目の前でパトカーが突如人型ロボットへと変形を果たした。その姿は以前番達がニューヨークに行っていた際に番町を守ってくれた謎のロボットであった。
【て、てめぇは!】
【人呼んで、イインチョウ! 貴様達、此処での戦いを即刻中止しろ!】
【何だと?】
【お前達は宇宙法第1条、並びに第35条に違反している。大人しく指示に従え! 抵抗する場合は実力行使に移る】
 目の前に立つイインチョウがダイバンチョウとブソウ星人の間に立ちそう進言してきた。
 果たして、このイインチョウは敵となるのか? はたまた味方となってくれるのか?
 事の詳細は次回で明らかになるかも?




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「あの野郎、突然現れて喧嘩の横槍入れるたぁ良い根性してるぜ! その根性を俺が叩き直してやる! って思ったけど、何だこいつ。滅茶苦茶強いぞ!」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【強敵襲来! その名はイインチョウ?】

次回も、宜しくぅ! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧