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ゲルググSEED DESTINY

作者:BK201
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第八十六話 見えない影に

「やあ、連れて来てくれたかね?」

「ハッ、クラウ・ハーケンを三番格納庫にて拘束後、ご命令通りこちらに!」

クラウ・ハーケンを拘束した責任者がデュランダル議長にその報告を行う。彼の私室にはいつものようにチェス盤と椅子が置かれており、普段と変わりない余裕を見せた彼の表情は先程まで戦場で戦ってきた疲れを全く見せていない。

「すまないが、少し席をはずしてくれたまえ。なに、君たちの危惧するような事態が起こることはない」

「しかし――――」

それは流石に万が一のことを考えれば危険ではないかと責任者は口を濁すが、デュランダル議長は微笑んだままに言葉を続ける。

「構わないね」

「……かしこまりました」

二度同じことを言われたという事はこれは命令であるという事だ。責任者はクラウを手錠で拘束したまま部屋へと連れていき、そのまま退出した。

「気分はどうかね?彼も悪気はないんだ。ただ仕事に実直すぎるきらいがあるのでね」

「――――別にどうという事ではないですよ。仕事に実直なのは良い事ですし、俺自身、逃げるつもりもありません」

拘束されたことに対しても気にした様子はない。事実、どうという事は無いのだろう。クラウにとってはここで殺されてしまうような結果になっても返ってくる反応はもしかしたら薄いものかもしれない。

「ふむ、普段と変わらない様子で結構だ。さて、一応は立場ある人間なのでね。例外を認めて君を無罪にするというわけにはいかない。シン・アスカを逃がしたというのは軍規によって罰するというのであれば銃殺刑が妥当であろうが、こうも例外的な事態だ。情状酌量の余地もあるという事と、私の権限で保留としよう」

そこに恩着せがましさや嫌味といった様子が全く見られないのは彼のカリスマからくるものなのか、それとも詐欺師のような存在だからか――――所詮は凡人の枠を出ないクラウに相手の心を見透かすことなど出来ず、ただ受け入れるだけである。

「まあ、そういう事であればありがとうございます――――」

銃殺刑を保留にしてくれたという事には感謝しているのか、それなりに礼儀をわきまえた態度で対応する。十分無礼な態度と言われてもおかしくないのだが、議長の方も大して気にしない。

「それで、これから君はどうしたい?」

「その質問に対する意図と必要性が分からないのですが……あなたが命令する立場であることに変わりませんし、俺は非道な命令だからといって断る道理などもありませんよ」

何をどうしたいからと言って彼に断る権限もなければ、わざわざ手間をかけてまで断るために力を尽くそうという気力も存在しない。クラウにとっては戦争は非日常の一端ではなく日常だ。だから、命令される事には慣れているし、反発することが只々面倒であることも理解している。

「なら一つ仕事を頼まれてくれんかね?」

「当然、それが命令であれば受け入れるしかないので」

故に、彼は議長にとって非常に有意義な駒である。命令を受ければ従い、自己に対する主張は希薄であり、されど他者に対しては主張を促す。典型的な日和見主義者であると同時に、彼は破綻した人格者なのだ。

「なに、そう難しい事ではない――――司令部、私の機体の準備はどうか?」

その命令内容を話し、そしてすぐに通信機の回線を入れ、議長は自らが再度出撃する準備は整っているかを司令部に尋ねる。司令部の方も予想していたのか、すぐさま返答した。

『デュランダル議長、MSの方に関しては最終調整まで完了しております。いつでも発進は可能です。しかし、先程まで出撃したのですからもう少し休まれても……』

「心配なのはわかるが、私もそうそう簡単にやられはせん。戦況はどうなっている?」

議長のその発言は迂闊だと言っても良いが、これまでの戦果のせいで簡単に否定することも出来ない。議長があくまでザフトではなくプラントの人間であるというのも、止めることの出来ない理由に拍車をかけている。やむなしといった様子で司令部の人間は状況を報告することに、つまり軍務に忠実であるよう徹することにした。

『現在、敵勢力は大まかに分類して二つ。一つはザフトの反乱軍、もう一つはアークエンジェルの部隊を中心とした戦力です。ザフトの反乱軍に関してはミネルバとラー・カイラムを旗艦として戦力を二分し、メサイアへと接近中との事。その際、防衛の一角となるレウルーラ級が一隻撃沈されてしまいました』

「流石は我が軍の英雄と言った所か……艦隊を前に出すタイミングは見誤るな。ネオ・ジェネシスに味方が巻き込まれては元も子もないからな」

そういって通信を切った後、席を立って出撃の準備を整える。

「クラウ、出撃の用意をしたまえ。君の機体も問題はないのだろう?」

「大丈夫です。特に問題らしい問題はありませんよ」

そうしてクラウも出撃の為の準備を行う為に退室し、待ち構えていた拘束した責任者に議長に言われた内容を告げて格納庫へと向かう。その際に嫌味を言われたりもしたが彼は気にしない。そうして彼も再び出撃する事となる。







ネオ達ガーティ・ルーの部隊は一度廃棄されたレクイエムに移動した後、ある機体を捜索し、嬉しい誤算が一つあったこと以外は特に問題もなくレクイエムを後にした。
手に入れたのはライゴウと同系列機であるストライクEだ。本来であればファントムペインのある地下施設に放置されている筈だったのだが、ブルーノ・アズラエルが自らの保身の為に少しでも戦力を、と考えて施設に移動させていたものだ。しかし、結局機体が使われる前にダイダロス基地を制圧されてしまった為、放置されザフトに接収されていた。

「俺達にも少しは運が回ってきたんじゃない?ま、何はともあれ気に入らないがアークエンジェルの奴等には感謝するぜ」

アークエンジェルの部隊が居なければ今頃レクイエムはザフトに占領されたままで内部に侵入することなどできなかったはずだ。その点にだけは感謝してもいいとネオは思う。

「さあ、俺達も遅ればせながら介入させてもらうとしよう。各機、出撃準備だ!」

戦場に辿り着きつつある彼らは出撃の準備を整える。動かせるMSはたったの三機、ロッソイージス、G-V、ストライクE――――そんな戦力でもせめてデュランダルに一矢報いなければ死にきれないとネオはそんな事を考えながらヘルメットを被る。

「ネオ、どいつからやるの?色々混じっちゃってるけど、どれが敵ってわけ?」

「関係ないな、コーディネーターであるなら全員敵だ」

ネオと同じようにノーマルスーツに着替えてヘルメットをかぶる様にしているアウルとエミリオ。ネオはその二人の話の内容に対して必要なことを指摘する。

「オイオイ、余裕が無いんだ。流石にそれは勘弁してくれ。俺達の目的はあのメサイアとかいう訳の分からん要塞の破壊だ。相当無茶する羽目になるだろうが頼むぞ」

そう言ってストライクEに乗り込むネオ。ふとライゴウに乗っていた時以上の既知感に陥る。が、ネオはそれを錯覚、或いはライゴウに乗っていたことによるものだと考えた。深みにはまってしまえば後悔すると、本能がそんな風に囁いている気がしたから――――

「ネオ・ロアノーク、ストライク行くぜ!」

ガーティ・ルーの部隊も戦場にこうして介入していく。







「プラントに到着~と。ずんぐりむっくりななりして、わりかし早いのな、この艦」

ダナはアメノミハシラの艦隊に奇襲を仕掛けた後にメサイアに向かって移動していた。彼の部隊の母艦として用意されたザンジバルⅡ級――――リリー・マルレーンに乗っていた彼は、艦橋から覗ける遠くのメサイアの姿に口笛を吹きつつ嗤っていた。

「月のレクイエムやコロニーレーザーなんかよりよっぽど危険じゃねえか、あんなもの。ある意味前大戦の化け物だろ、アレ?」

メサイアのネオ・ジェネシスを見てそう嘯くダナ。リング状に取り付けられた陽電子リフレクターも存在している様子をみて、つくづく桁外れの代物であると考える。

「ま、攻撃を仕掛けるなら後ろから不意打ちでってことだな……」

カタパルトで機体を固定し、ミラージュコロイドを搭載した各機は推進剤等の熱量を放出することなく出撃する。

「よーし、ターゲットはあのラー・カイラムとかいう白い船だ。とっとと落として戦況を混乱させてやるよ」

現状を見てそう判断するダナ。ここでもしデュランダル議長側が圧倒的に有利であったというならメサイアに帰還するという名目でメサイア内部に潜り込んで工作するつもりだったが、幸い?というべきか若干不利な状況は進んでいる。

(メサイアで戦力を温存してるのか、それとも本気で押し込まれてるのか……ま、どっちにしても俺には大して関係ねえな)

ダナの目的はこの戦争をもっと継続させることなのだ。故に、最終的に誰が勝ってもそれが一方的なものでなく、戦争が継続するというのであれば問題はない。しかし、ただそうなるだけでは裏切ってまでザフト側についた意味が薄くなる。

「だからまあ最終的には俺の付いた方のザフトに勝ってもらう必要があるが……その時にデュランダルの野郎がいたんじゃ困るしな。要はタイミングだっていうことだ」

自分の手で始末するにはばれたときのリスクが大きい。だからこそアメノミハシラの艦隊を潰し切らなかったわけだが、それもまた自分の思い通りになるという面では怪しい。ダナはここから調整役としてまだまだ暗躍しなくてはならないだろう。

「というわけで、まずはアンタ等からだ」

そう言ってダナのネロブリッツと同じようにミラージュコロイドで隠密行動を取っている味方機の部隊はラー・カイラムに向けて接近する。戦場でミラージュコロイドによって上手く隠れているダナを見つけるのは至難の業だ。あと少しすれば艦橋を潰せる。そう思える位置までダナが来たとき――――

『何者だ!』

金色の機体が突如として突っ込んできたのだ。慌ててトリケロスでガードする。一体何故ばれたのだと考える、そうやって考え込む間など与えられるはずもなく追撃が来た。

『無駄だ!例えミラージュコロイドであったとしてもこの僕に見通せぬものはない!!』

あ、面倒くさいタイプだ、こいつ――――そんな事を思いながら、発見されたことよりも目の前の相手と相対しなければならないことにうんざりする。トリケロスで敵の攻撃を迎撃し続けるが、予想以上に高い威力のビームランスに押し込まれてしまう。

『このルドルフ・ヴィトゲンシュタイン!伊達に機体をゴールドにしているわけではない!!』

このゴールデンギャンクリーガー――――装甲はエマルジョン塗料による黄金色であり、半液状となっている。それはビーム兵器に対する耐性をそれなりに持たせているのだが、この装甲の真の目的は見えない敵の感知、即ちミラージュコロイド対策であった。
エマルジョン塗料がミラージュコロイドの微量の粒子を捉え、付着した粒子に対して反応する。それがそのままOSに書き込まれたデータによって自動で微量の粒子が付着した際の勢いや密度を計算し、相手の位置を割り出す一種のミラージュコロイドセンサーとなるのだ。
一見不可能なことだと思えるが、実はこの技術――――少し前に純粋な実力で似たような方法で行っている者がいた。その人物はダンテ・ゴルディジャーニと呼ばれる男だ。彼は何もない宇宙空間の中で、粒子の存在と流れをアストレイノワールのソードピストルへの付着によって感じ取り、テスタメントと呼ばれる機体と戦ったという。

『さあ、そこにいるのはわかっている!いい加減正々堂々と姿を現すがいい!!』

「誰がするか、んなこと……」

ともあれ、場所がばれてしまうというのはダナ達にとってはあまりよろしくない事態だ。ダナはネロブリッツの武装である六連ランチャーからダミーバルーンを射出することで逃げようとする。ロウ達と戦った時のようにバルーンにもミラージュコロイドが施されており、突如現れた粒子によってギャンクリーガーの装甲も敵の位置を正確に測ることが出来なくなる。

『ぬうっ、おのれ!逃げるのか!!』

「三十六計逃げるに如かずってな。目的が違うんだ、一々相手してられるかっつうの」

何度も言うが、ダナにとって別に敵の相手をすることは目的を達成する上でそこまで重要ではない。なら面倒な相手と出会ったなら逃げた方が良いというのは当然の判断である。

「能力の分からん敵と戦うほどバカじゃないんでね」

そう言ってダナは一旦ラー・カイラムの艦隊から離れ、別の目標を探すことにする。今の敵は予想外にミラージュコロイドの対策が成されていたが、他の敵がそうそう多くされているとは考えにくい。そして、ダナのその予測は事実であり、別の敵艦隊であるナスカ級を二隻撃沈する。

「軽い軽い――――少しは粘れよな」

下卑た嗤いをしながらダナはネロブリッツで確実に戦果を稼いでいく。しかし、その快進撃もそう続くものではない。

『ディアッカ!周辺一帯にそのショットガンを叩き込め!!』

『グゥレイト、狙い撃つぜ!』

増援としてイザーク達ジュール隊の先発した面々が到着し、落とされるナスカ級やMSの様子をみて、イザークやディアッカはそれがすぐさまミラージュコロイドによる隠密だと気付いた。他の部隊は気付かなかったのかと考えるが、増援として離れた所から見ていたからこそ、イザーク達もすぐさま気付けた。本来であれば乱雑とした戦場で気付くことなどそうそう出来ない。
ともあれ、気付いたからには落とすべきだとすぐさま判断し、ヤクトゲヴェールを構えたディアッカのケンプファーは散弾を撒き散らす。

「ケッ、やってくれるじゃねえの」

流石に散弾を回避することなどできない。何機かの味方MSは逃げ切ることが出来ずあっさりと撃ち落とされ、ダナはVPS装甲を展開して防御にエネルギーを回す。核動力を使っている以上、継続的なエネルギーに問題はなくとも瞬間的なエネルギーの持続には限度がある。VPS装甲を展開すると同時にミラージュコロイドへのエネルギー供給もカットされ、イザーク達の前に姿を現した。

『どこの奴かは知らんが、ただで逃げれると思うなよ!』

そして、ダナ達の隠密部隊と先発のジュール隊が対峙し合う事となる。
 
 

 
後書き
今話で言いたいこと。金色に意味はあった(笑)
裏話でルドルフは実用性云々を金色に求める必要性はないと反対していたが、技術者の矜持としてクラウが無理矢理取り付けたもの。最終的にルドルフは不便というわけでもなく、気に入ったので問題はなかった。 
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