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魔法少女リリカルなのはSCARLET ~紅い狼の伝説~

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第5話 使命~今までとこれからと~

 
前書き
かなり期間が空いて申し訳ありません。 

 
「なんで・・・なんでビーストがこの世界にいるんだよ!あいつらは、俺が全員殺したはずだ!」


「確かに、『あの世界に残っていたビースト』は、お主の手によって全滅した。じゃが、お主が全滅させる以前に生きていたビーストの一部は、お主の手の届かぬところへ逃げたんじゃよ。・・・どこだと思う?」


「・・・・・・・・・」


「この世界、つまり『平行世界』じゃよ」


「平行世界・・・」


 平行世界。この世に無数に存在するという、『IF』の一つ一つで分岐する世界。
 確かにそれなら、俺が奴らに直接手を下すことはできない。


「・・・ビーストは、この世界以外にも逃げているのか?」


「いや、逃げてきたのはこの世界だけじゃ。他の世界にまで手を伸ばす余裕はなかったのじゃろう、ビーストは、この世界にしか存在しておらんよ」


「・・・じゃあ移動の手段は!ビーストに、平行世界を移動するような能力はないはずだ!」


「・・・お主もだいたい察しがついておるじゃろう?」


「・・・何?」


「平行世界の移動もとい、その能力の再現・・・・・・お主の周りには、それができる人間が山ほどおったじゃろうに」


「・・・・・・まさか!」


「・・・・・・H.E.A.R.T.(S)システム。これを使ってゼルリッチの宝石剣でも再現したんじゃろう。まあ、これを利用する以外ビーストが平行世界を移動することなどありえんよ」


「ッ!!」


 そうだ。ビーストが世界を移動するとしたら、それしか方法がない。
 あいつらがH.E.A.R.T.(S)システムを使ったなら・・・使ったなら?


「『H.E.A.R.T.(S)システムは、人間にしか使えないはず。なら奴らは一体どうやってそれを使ったのか?』・・・お主の疑問は大体そんなところじゃろう」


「・・・・・・読心術はやめてくれないか?心臓に悪い」


「今の会話からお主が考えることなど、それくらいじゃろうて」


 いや、確かにそうなんだが・・・いざ当たってたなら怖い。


「で、どうしてビーストがH.E.A.R.T.(S)システムを使えたのかなんじゃが・・・どうやら奴ら、お主らの仲間を何人か拉致して一緒に平行世界を飛んだらしいぞ」


「・・・まあ・・・・・・そうだろうな」


 ビーストによるH.E.A.R.T.(S)システムの所有者・・・通称『ライザー』の拉致は、俺が前いた世界では頻繁に起きていたことだ。当時は、俺たちの作戦やアジトの場所を知るためにしていたのかと思っていたが、どうやらこっちのほうが本命だったらしい。


「それと、お主に謝らなければならないことがある」


「?」


「いや、転生前にな。『どこの世界に転生するかわからん』と言ったじゃろう?」


 ああ、たしかそんなこと言ってたな。


「あれ、嘘なんじゃ」


「うん、知ってた」


「うむ、そうか・・・・・・・ってはぁっ!?し、知っとったじゃと!?」


 うるせえよ、電話越しに叫ぶな。


「正確には今さっきの会話でわかった。ビーストが平行世界に逃げたとかいう話のあたりからなんかきな臭いと思ってたんだよ。大方、平行世界に逃げたビーストを討伐するためにたまたま死んでいた俺を転生させたんだろう?」


 でないと、俺がこの世界に転生した理由がわからん。
 いくら転生する世界がランダムといっても、この世界にしか移動していないビーストと同じ世界に転生するなんてふつうはありえないだろうし。それこそ、奇跡に近い確率で。まあ、そもそも転生すること自体ありえないけど。


「う、うむ。そうなんじゃが・・・・・・というかお主、怒っておらんのか?生前お主をさんざん苦しめたビーストがいる世界にお主を転生させたというのに・・・」


「別に。むしろ感謝してるくらいだね」


「なぬ?感謝じゃと?」


「ああ・・・・・・この手で殺しきれなかったビーストを今度こそ殺し尽くせるんだ。これを感謝せずにどうしろと言うんだ?」


「・・・・・・・・・・・・」


電話越しにじいさんが唾を飲み込む音が聞こえた。
・・・・・・それくらいあいつらは許せない相手なんだよ。わかってくれ。


「それに・・・」


「?」


 まあ、もう一つ理由を挙げるとすれば・・・


「もう・・・・・・ビーストのせいで誰かが傷つくのを見たくないんだ」


 どちらかというと、こっちが本心。
 前の世界で、ビーストが人間を殺すとか、襲うとか、そういうのはこれでもかというくらい見てきた。
 その度にみんな傷ついて・・・苦しんで・・・それで最後には・・・


「・・・・・・・・・・・・ッ」


「・・・・・・ツカサ」


「ん?ああ、悪い。何だ?」


「・・・・・・・・・・・・いや、何でもない・・・・・・やはり記憶にフィルターをかけたのは正解じゃったな」


「?」


 じいさんが何か言っているようだが・・・声が小さくてよく聞き取れない。


「・・・おっと、すまんすまん・・・・・・・・・さて、長いあいだ話しすぎたようじゃな。司よ、ここからが本題じゃ」


「本題?」


「うむ。お主の察しているとおり、お主をこの『リリカルなのは』の世界に転生させたのは、この世界に逃げ込んだビーストの討伐のためじゃ。以後、お主にはこの世界で可能な限りビーストを討伐してもらうことになる」


「可能な限り?」


「ビーストがいつごろからこの世界に侵入してきたのかはまだよくわからんのじゃ。それを確認するあいだに、どれだけ数や勢力が増しておるかもわからんし」


「なるほどな」


 数がわからない以上、手当たり次第に狩るしかないということか。


「それと、お主が生前使っていた武装なんじゃが・・・覚えておるか?」


「ああ、さっきフィルターが外れたおかげで思い出したよ」


「ならよい。一応お主が死んだ時にこっちで預かっておる。今からそっちに送るが、問題ないか?」


「ああ、頼む」


「では・・・・・・・・・フン!」


 じいさんの力んだ声が聞こえて数秒後、仏壇のある和室の方から光が漏れ出してきた。
 俺はとりあえずリビングから和室に移動して、その光の目の前に立った。


 光は徐々に小さくなり、やがて完全に消えた。
 そして俺の目の前に現れたのは・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・え?」


 赤い宝石の埋め込まれた、一個の指輪、だった。


「・・・・・・えーっと、じいさん?確か俺の武装は、剣・・・だったはずなんだが?」


 そう。記憶では、そうなっていたはずだ。
ていうかこんな指輪、見たこともないんだが・・・


「いや、お主の世界に『デバイス』があったじゃろ?さすがに剣を持ち歩いて街中を歩くのもどうかと思ってな」


「うんうん」


「こんなふうに、いつでも持って歩けるように指輪の形にしてみたのじゃ!もちろんお主が念じればいつでも武器に変化するぞ?」


「はあ・・・・・・これが?」


 とりあえず目の前にプカプカ浮いている指輪を右人差し指に装着した。


「適当に命令してみろ。別にどんなセリフでも反応するぞ?」


「・・・・・・・・・起動(アウェイクン)」


<Standing By>


 ピピッて音が鳴ったあとになんか声が聞こえてきた。
 てか・・・この声って・・・まさか


「・・・・・・・・・マルチフォーム」


<Complete>


 すると指輪は宝石の部分から発光。一旦俺の指から外れたあと、その光は指輪全体に渡り、指輪の輪郭しか見えなくなった。


<Multi Form>


 輪郭しか見えなくなった指輪は、徐々にその形を変え、5秒もしないうちにひと振りの両手剣に変わった。


「・・・・・・・・・」


 俺はその剣を両手でつかんだ。うん、確かに俺が使っていた剣だ、間違いない。


「どうじゃ?これでもし魔導士と戦うことになっても、怪しまれずに剣を展開できるじゃろう?」


「うん、それはいいんだ。いいんだけど・・・・・・」


 この指輪から聞こえた声・・・・・・・・・


「マー○大喜多・・・・・・だよな」


「ん?なんじゃ?もしかして串○アキラの声の方が良かったか?」


「いや、大丈夫だ・・・これでいい」


 剣を持ったまま項垂れた。・・・・・・いや、マーク大○多って!マーク○喜多って!
 いくらなんでもネタに走りすぎでしょ!


「うむ、やはり仮面ライダーはええのう。ワシとしてはアギトやクウガが名作じゃったが、今のウィザードもなかなか興味深い作品じゃ。お主はどう思う?」


「別に何でもいいよ・・・」


 とりあえずあんたがライダー好きなのはよくわかった。


「なんじゃ、つれないのう・・・まあよいわ。それで、最後に『リリカルなのはの原作開始』についてなんじゃが」


「?なんだよ?」


「いやな、イレギュラーを可能な限り抑えるために、お主を転生させた時に年齢を原作に合わせたんじゃ。じゃからもうすぐ最初の事件が起こるはずなんじゃが、何かなかったか?」


「うん?なのはにはもう会ったけど、それらしいことは『・・・助けて!・・・』・・・うん、たった今発生した」


「何?」


 いきなり声が俺の頭の中に聞こえてきた。間違いない、これはあのフェレットの念話だ。


「おいツカサ、一体どうしたのじゃ?」


「今、俺の頭に念話が届いた。『助けて』って。多分、ユーノ・スクライアが発信したんだと思う」


 リリカルなのはの原作開始。最初の「ジュエルシード事件」は、なのはがユーノを助けたあとに、そのユーノからの念話を受け取るところから始まっている。
 今の念話がそうなら、きっと今頃、なのはは家を飛び出して動物病院に向かっているはずだ。


「・・・原作には、介入するべきなのか?」


 だが、その原作に本来俺は関わることはない。もし俺が関わったりしたら、それこそどんな影響が出るか・・・・・・ん?


「・・・ってあれ?なんで俺に念話が聞こえたんだ?」


 俺、リンカーコアは持ってないはずなんだが・・・


「ああ、それなら」


 電話越しに俺のひとりごとを聞いていたじいさんが、なにか思い当たるフシがあるかのように言った。


「お主を転生させる際に、魔導師関連で何かあってはいけないと思ってな。ちょっと魂をいじってリンカーコアを作っておいたのじゃ」


 なるほど。だから念話を聞き取ることができたのか。


「ちなみに、魔力値はそんなに高くないから、あまり無理をするなよ?」


「いや、リンカーコアがあるってわかっただけで十分だ。それに、魔法を知らない以上は、戦闘も今までどおり近接戦が主体になるだろうし」


 あの高町なのはは、事件のあいだに劇的な成長を見せているが、それも生まれ持っての才能と、ユーノの適切な指導があったからこそ出来たもの。
 今の俺にそんなことは期待できない。いつ戦闘が起きるかわからない以上、成長の伸び幅のわからない魔法に手を出す余裕などはないのだ。


「あと、原作介入の件じゃが、お主にはできるだけ、原作のメンバーに接触してもらいたいのじゃ」


「は?なんで?」


 俺が関わればどんなイレギュラーが起こるのかわからないんだぞ?それなのに原作メンバーに接触しろと?


「よいか、この世界にビーストが侵入している以上、既にイレギュラーの起こる確率なんぞ高くなっておる。お主が原作に介入したところでイレギュラーが起こる確率など変わりはせんよ」


「?だったら、なおさら関わる必要はないんじゃ・・・」


「・・・・・・わしの話を聞いておったか?わしは今、『お主が関わらんでも、イレギュラーが原作に起こる可能性がある』と言ったんじゃぞ?この意味がわからんのか?」


「ッ!まさか・・・」


「うむ、奴らもこの世界が『リリカルなのは』の世界であることに気が付いておるはず。魔法なんて規格外な技術は、奴らからしても喉から手が出るほど欲しいはず。そうなると、奴らは・・・」


「高確率で原作に介入してくる・・・!」


「あるいは、既に介入しておるかもしれん。ビーストがかなり前からこの世界に来ていたとしたら、管理局へも、既に手が回っておるかもしれんな」


「マジかよ・・・」


 そうなればなのは達を放っておくわけにも行かない。
 ジュエルシードを集めるために魔法を使い続けていたら、いつかはビーストに感づかれるかもしれない。そうなると奴らと戦うことも考えないと・・・ああ、なるほどね。


「つまり、俺が原作に発生するイレギュラーから、みんなを守れと言いたいんだな?」


「そうじゃ、ビーストに対抗できるのは、今現在お主しかおらん。十年後はどうかわからんが・・・そこまで無事に原作が進行する保証などどこにもない。じゃから、お主が彼女たちをイレギュラーから、ビーストから守るのじゃ」


 ビースト討伐に原作キャラの護衛・・・やることが多そうだな。


「・・・引き受けてくれるか?」


「もちろんだ。喜んで、とは言わないけど、引き受けるよ」


「そうかそうか!・・・・・・・・・ところで、さっきの念話が届いてからもうかなり時間が経っておるが、大丈夫なのか?」


 そういえばそうだ。もう今さっきの念話から十分、とは言わないけど、それでもかなりの時間が経っていた。


「まあ、問題ないよ。というか、今から走って行ってもなのはより先に動物病院にたどり着ける自信はある!」


「そうなのか?」


「ああ」


 最悪、家の屋根を飛んでいけば、動物病院まで一分もかからない。


「といっても、流石にこれ以上は気が引ける。そろそろ向かったほうが良いじゃろう」


「ああ、そうさせてもらうよ」


そうと決まればすぐに動こう。
俺は電話を片手にタンスの引き出しに手をかけて中の服を取り出した。


え?どうしてかって?・・・今着てるのは翠屋でも着てたジャージだから・・・ね?さすがにこのままじゃまずいでしょ?
だからとりあえず服は変えておく。


「ツカサ・・・・・・頼んだぞ」


 着替えをしている途中、じいさんは懇願するように言った。
 あ、そうだ。


「・・・一つ、聞き忘れてたんだけど」


「なんじゃ?」


「じいさんは・・・・・・ビーストを野放しにしていたら起こること・・・わかってるんだよな?」


「・・・・・・・・・・・・うむ」


「・・・・・・・・・そっか」


 ならいいんだ、あとは任せておけ、と、最後に言って、俺は電話を切った。


「・・・・・・・・・・・・」


 切った電話をポケットに入れ、上着を羽織る。
 タンスに入ってた中で、デザインがなんとなくバリアジャケットに近いものを選んで着てみたつもりだ。これなら一目見ただけで俺とはわからない・・・って顔のこと忘れてたわ。


「顔は・・・どうしようか」


 衣装変えても顔がわかればそりゃあ意味ないわな。
 そうなると・・・・・・仕方ないか。
 右手を前にかざし、目を閉じて集中する。


「・・・・・・再現(リプロダクション)開始(スタート)」


 俺がそう呟くと、かざした右手の辺りに力の流れが生まれる。
 H.E.A.R.T.(S)システムの能力の一つ、『再現(Reproduction)』。これによって俺は記憶の中にある一つの小道具を想像することができる。


「・・・・・・・・・黒崎一護、虚化!」


 さらに、求めるものの名を口にし、イメージを形にする!


「・・・・・・・・・ふう」


 かざしていた右手を裏返す。そこには、白い仮面が一枚握られていた。


 俺が再現したのは、アニメ『BLEACH』の主人公、黒崎一護が虚化する際に付けていた仮面だ。
 これなら、パッと見俺は誰だかわからないはずだ。
 すぐさま、その仮面を顔につける。
 なお、俺には霊圧なんてものはないから、付けたところで暴走の心配もない。


「オオ、ヤッパコエモカワルノカ」


 仮面ならなんでも良かったけど、一応『声』で判別されないように、という理由でこの仮面を選んだ。
 予想通り、仮面をつけた俺の声はエコーがかかっていて、誰なのかはわからなくなっている。


「ウシ!ナライクカ!」


 さっき発動したままの俺の愛用の剣片手に俺は意気揚々と・・・出て行くわけにも行かないか。


「デキルカギリカイニュウハシナイ。テヲダスノハ、ビーストガアラワレタトキダケダ」


 確かにビーストに介入されても困るが、わざわざ俺自ら介入する必要もないだろう。
 隠し通せるものは隠す、相手に与えるのは最低限の情報だけ、だ。


 引き戸を開け、外に出る。・・・・・・今夜は満月か。


「・・・・・・ハッ!」


 戸を閉めた俺は、そのまま後ろに『跳んだ』。
 そしてそのままバク宙。自宅の屋根に着地する。


「・・・・・・・・・」


 視線の先にはユーノが保護されているという動物病院。一応地図で確認しておいた。そしてそこにおそらく、既になのはとユーノは接触しているはずだ。
 なら・・・急がないとな。


「フッ!」


 俺はそのまま屋根を跳んだ。もちろん着地先はほかの家の屋根。
 そうやって何度も何度も屋根を経由して動物病院に向かう。


「マッテロヨ、ビースト。コンドコソゼンインブッコロシテヤル!」


 そして、誰も傷つけさせはしない。俺の手で、ビーストからみんなを守る。


 この世界に来て初めて、守るために戦うことを決意した俺は、夜の街を一人駆けていった。
 俺の耳に入るのは、轟々と俺が通った事で吹き荒れる、一陣の風の音だけだった。
 
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