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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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開戦

†††Sideなのは†††

『はやて、シグナム、ヴィータ、なのはさん、フェイトさん。そしてこれまで協力をしてくださったシャルロッテさん、ルシリオンさん。みなさん、どうか・・・お願いします。ミッドはもちろん他世界の平和と未来を・・・』

騎士カリムからの直々のお願い。思いはみんな同じ。ゆりかごを止めて、奪われたものを取り返して、スカリエッティを捕まえる。私たちの世界や、のちに危なくなるかもしれない世界を守るために。騎士カリムの全リミッター解除を許可する言葉と同時に、私たちの魔導師としての束縛が消えた。ようやく戻ってきた私たちの本当の力。

「エクシードドライブ!」

≪Ignition≫

バリアジャケットへと変身して、私は“レイジングハート”をフルドライブモードのエクシードへと変形させる。エクセリオンより負担を少なく、それでいて射撃や砲撃を徹底的に強化したこのエクシードに。

「なのは」

「どうしたの、フェイトちゃん?」

私に並んで飛ぶフェイトちゃんに呼ばれた。何か神妙な顔をしているけど、なんだろう・・・?

「なのはとレイジングハートのリミットブレイク・ブラスターモードの事だけど。なのはの事だから、使ったらダメって言っても、どうせ聞かないと思うから言わないけど――」

なんか失礼なことを言われてる気がする。

「でも、これだけは約束してほしいんだ。無理はしないって。ブラスターの効果は確かだけどさ、その代償の体への負担が強いから」

リミットブレイク・“ブラスターモード”。自己ブーストを利用した私の最後の切り札。ブラスター1から3まで段階的に強化していけるけど、それに比例するように負担も強くなっていく形態だ。その他にもブラスタービットっていう切り札も付く。フェイトちゃんの心配は嬉しいけど、それはフェイトちゃんにも言えることだよ。 

「そうは言うけど、私はフェイトちゃんの方が心配なんだよ。フェイトちゃんとバルディッシュのリミットブレイクだってすごい性能だけど、負担も大きいんだから」

「私は大丈夫。平気だよあれくらい」

「はぁ。フェイトちゃんは頑固だな~。昔っから変わってない」

「な、なのはだっていつも危ないことばっかりっ。心配もどこ吹く風だしっ・・・!」

顔を赤くして攻め立ててくるフェイトちゃん。少しは自覚があるみたいだ。よかった。無自覚だったらどうしようかと。

「だって私、航空魔導師だもん。 危ないことも仕事だもん」

危険は覚悟のうえ。それでも私は空を飛びたい。だから辞めない。フェイトちゃんはもちろんみんなも知ってることだ。

「だからってなのはは無茶が多すぎるの! ルシル、なのはが無茶しようとしたら力ずくで止めてあげて!」

そこでルシル君を引っ張り出すあたりがフェイトちゃんらしい。けど、それを言ったら私だって最終兵器を出しちゃうもんね。

「シャルちゃんっ、フェイトちゃんが馬鹿しそうになったら止めてあげて!」

「ば、馬鹿!? それはあんまりだよ、なのは!!」

フィイトちゃんとちょっとばかり言い争う。すると、私の頭に重い衝撃が襲ってきた。

「「あいたっ!?」」

見ればフェイトちゃんも頭を押さえて少し涙目。私とフェイトちゃんを襲った衝撃の正体、それはルシル君の鉄拳制裁。

「どっちもどっちだよ、2人とも」

「うぅ、脳が揺れたよ、ルシル・・・(涙)」

未だに頭を押さえてジト目でルシル君を見つめるフェイトちゃん。ルシル君は溜息ひとつ吐いて、私とフェイトちゃんの頭を撫でた。

「まったく、2人はこんな時でも相変わらずだな。安心しろ、フェイト。なのはが無茶をしないようにちゃんと見ている。だから君も無茶をせず、そしてシャルが馬鹿しないように見張っていてくれ」

「そこで私を出すのはおかしいでしょうが!」

ルシル君の上に移動したシャルちゃんが、ルシル君の頭に鉄拳制裁を振り落した。だけどルシル君はそれをバレルロールで回避。んー、鮮やか。

「お互い無茶をせず、ちゃんと帰ってくる。そうだろ?」

「うん。そうだね。大丈夫だよ、フェイトちゃん。ちゃんとヴィヴィオと一緒に、元気に帰ってくるから。だからフェイトちゃんも、ね?」

ルシル君に答えるように、フェイトちゃんと向き合う。

「うん!」

フェイトちゃんも強く頷いて約束してくれた。みんな一緒に、元気で帰ってくると。

「あのー、フェイトちゃん。そろそろ・・・」

私たち4人のさらに上を飛ぶはやてちゃんからお呼びが掛かる。フェイトちゃんとシャルちゃんは、スカリエッティのアジトへと向かうになる。だからここで一度お別れだ。

「あ、うん・・・」

「フェイト隊長も無茶すんなよ。地上と空はあたしらできっちり抑えるからな。フライハイト、ちゃんと守ってやれよ」

「うん、大丈夫!」

「言われなくとも!」

「フェイトちゃん。頑張ろうね」

「うん、なのは。頑張ろう」

右拳を突き出す。フェイトちゃんは左拳を突き出して、お互いの拳を突き合わせる。よくシャルちゃんとルシル君がしていたことの真似だ。でもこれって結構いいことだと思う。なんか格好良いし。

「シャル。本当に馬鹿だけはするなよ?」

「そっちこそ」

シャルちゃんとルシル君も拳を突き合わせてる。フェイトちゃんとシャルちゃんは、スカリエッティのアジトへと進路を取った。

「行こう、はやてちゃん。ヴィータちゃん」

「うんっ」「ああ」

私とはやてちゃんとヴィータは変わらず聖王のゆりかごへ向けて空を翔ける。

「待ってて、ヴィヴィオ。今迎えに行くから」

・―・―・―・―・

「ドクター、アスモデウスはどこへ・・・?」

ゆりかごからラボへと帰ってきたウーノが辺りを見回す。自分たちナンバーズが空けている際、スカリエッティの護衛としてラボに留まるはずの許されざる色欲たるアスモデウスが居ないことを不審に思ったことからによる疑問。

「彼女は別室だよ」

「そうですか。・・・トーレとセイン、セッテも戻りました。迎撃準備完了です。クアットロとディエチはゆりかご内部に。他の妹たちはそれぞれのミッションポイントと地上本部に向かっています」

スカリエッティがそう言うなら信じるしかないウーノは、ナンバーズの現状を報告する。トーレとセインとセッテはここアジトへと帰還し、侵入者に対する迎撃戦の準備も終え、クアットロとディエチは聖王のゆりかごの内部で待機。残りのナンバーズは、スカリエッティに与えられた任務を全うするためにそれぞれのルートで地上本部へと向かっていると。
モニターに映るのはガジェットⅡ型に乗るルーテシアとガリュー、そしてオットー。しかしそこには許されざる嫉妬たるレヴィヤタンの姿はない。先程、アスモデウスがこのラボに来るように指示をしたためだ。あと数分、いや、数十秒でこのラボへと到着するだろう。

「騎士ゼストも動かれていますね。こちらの計画の妨害をしてしまう可能性がありますが・・・」

「騎士ゼストなら何も問題ないさ。ドゥーエが任務を終え次第、地上本部へ向かってくれる」

スカリエッティの口から出た新たなナンバーズの名、ナンバーⅡドゥーエ。彼女こそがスカリエッティが最高評議会への対策として送り込んでいたスパイ。現在の任務とは最高評議会の抹殺だ。すでに用済みとなった最高評議会を消すためにいる。
最高評議会も予定外だろう。自らが失われた地“アルハザード”の叡智と技術を以って生み出した存在――無限の欲望の開発コードを持つジェイル・スカリエッティによって滅ぼされることになろうとは、と。こちらが利用し、向こうが利用される。その立場を信じてしまっていたことが過ちだった。

「そうでしたね。・・・あの、ドクター? 先程から何故私の方へと振り向いてくださらないのですか?」

ウーノの何気ない疑問。そう、スカリエッティは一度としてウーノに振り向かない。

「?・・・ドクター、その目はどうなさったのですか?」

ウーノは、こちらに顔を向けられたスカリエッティの異変に気付く。スカリエッティの目の色は金だったはず。だが今は真紅に染まっていた。真紅。それはアスモデウスを象徴する色だった。

「この目かい? これはね・・・」

「っ!?」

ウーノの意識はそこで途絶えた。

・―・―・―・―・

聖王のゆりかご周辺に無数と居るガジェット群。そして尚も増え続けていく。それに対処していた航空魔導師部隊は、その圧倒的な数と弱いながらも展開されているAMFの効果によって苦戦を強いられていた。それでも耐えられていたのは、援軍として機動六課の魔導師が――かの有名なエースオブエース・高町なのはを始めとした、高ランク魔導師が来てくれると判っていたから。
それまでは何としても耐える。その空域で戦う魔導師たちの思いがそれだった。この空域に到着し、交戦に入ったなのはとヴィータとルシリオンの3人と、臨時指揮官として指示を出すはやてによって、ようやくまともな戦いになりだした。そしてここはゆりかごより一番離れた第18密集点。そこにはエース達の戦いに見惚れる第1124航空隊・第4小隊の魔導師たちが居た。

「すげぇ。やっぱ強ぇよなぁ、エースオブエース高町一尉!」

「ああ。俺たちがあんな苦戦にしていたガジェットを次々撃墜してく」

小型モニターに映るなのはとヴィータとルシリオンを見ながら感嘆の声を上げる魔導師たち。そんな彼らは射撃魔法でガジェットに対処しながらも器用にモニターを見、話をしている。そんなことが出来ている時点で彼らも十分すごかったりする。それもそのはず。彼らはなのはの教導を受けたことのある魔導師なのだ。あの地獄の教導に比べれば、現状の苦戦など、どういったものでもなかった。

「――ていうか、この黒い人、メチャクチャ凄いですよ!? 交戦開始からたった1分でガジェット撃破数が3桁に届きましたよ!」

彼はごく最近、航空隊に配属された新人魔導師。故に見たことがない。かつて管理局において空戦最強と謳われた空戦魔導師(ルシリオン)のことを。モニターに映るルシリオンの圧倒的な戦闘能力に、新人魔導師はあまりの驚きに大声で叫ぶ。

「なんだ新人? 空戦(そら)の王子様を知らねぇのか?」

新人の驚きに答えるこの部隊の隊長。外見年齢でいえば20代後半くらいの茶色い短髪の隊長だ。

空戦(そら)の王子様? 聞いたことはありますよ・・・。何でも空戦においては管理局最強にして最速・・・って、まさか!」

「そいつがそうだ。ルシリオン・セインテスト・フォン・フライハイト元一等空佐。武装隊、医療局、無限書庫っつう複数の部署を兼任してた、とんでもねぇやつだ。2年ほど前にSSランク魔導師2人が突然管理局を辞めたって騒ぎがあったろ? その当事者の片方で、空戦SSランク。もう片方はそいつの姉で、陸戦SSランクだ」

空戦SSランクの魔導師。それを聞いた新人は鳥肌が立つのが分かった。あのエースオブエース、高町一尉でもS+だというのに、と。そしてその姉もまた陸戦のSSランク。新人の胸は高まり興奮しつつあった。

「そ、そんな凄い人だったなんて・・・! でも辞めたのにどうして・・・?」

「さあな。なんでいるのか判らねぇが、そんなことは小せぇことだ、新人。理由はどうあれミッドの地上と空を守ろうとしている。それだけで十分さ」

隊長の言葉に「おおお」と声を上げるその場にいる彼の部下たち。そんな時、その場に別のガジェット群が襲撃してきた。しかし部隊は対応が遅れ、なす術がないままガジェット群から攻撃を加えられようとしたとき・・・

「随分と余裕があるじゃないですか、ヒルマン二尉?」

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

その声と共にガジェット群へと様々な属性の槍が降り注ぎ、全機を貫いて爆散させた。爆散していくガジェット群を横目に新人は見た。自分たちを守ってくれた魔導師を。細長いひし形の翼が10枚、その間に剣のような翼が12枚、計22枚の翼が蒼く輝いている。実際にこの目で見てみると、それはまるで天使のような姿だ、と新人は思った。

「おお、久しぶりだな、ルシリオン。それと今は一尉だ」

「それは失礼しました、ヒルマン一尉」

久しぶりの再会に隊長ヒルマンとルシリオンは笑みを浮かべる。

「隊長、お知り合いなんですか?」

親しそうにしている2人を見た新人は訊ねる。

「ああ。こいつは局を辞める直前まで俺と組んでいたんだ。相棒ってやつだな」

「相棒と言っても2ヵ月くらいでしたか」

――デスペアー・フライト ver.Ω――

新人の疑問に答えながら、ルシリオンは星填銃2挺から複数の追尾弾を射出。そして着弾した端からガジェットは凍結、破砕、撃破されていく。新人はその光景にただ「すごい」とだけしか言えなかった。

「どうだ、ルシリオン? この状況は?」

「最悪ですね。せっかくの空が狭い。窮屈で仕方がないですよ」

「なるほど、お前らしい。じゃあさっさと片付けねぇと・・・な!!」

ヒルマンとルシリオンが背を向けあい、次々とガジェットを撃破していく。それを黙って見ていた他の隊員たちも続いてガジェットへと攻撃を放っていく。新人もそれを見ながらストレージデバイスを構えて射撃魔法を放ち続ける。

「まったく。ガジェット相手に、なのは、はやて、ヴィータとは贅沢すぎるな」

ルシリオンの呟きが聞こえる。しかし、そこには自分の名前を入れなかった。それを聞いたヒルマンは「お前の場合の謙遜は嫌味でしかねぇよ」と言い放った。

『スターズ1からスターズ5へ! 第11、第12密集点への援護をお願いします!』

「スターズ5、了解した」

なのはからルシリオンへの援護要請。ルシリオンは短く答えて、この第118密集点のガジェット群の殲滅を確認した。

「行くのか」

「ええ」

「気をつけて行けよ、相棒」

そうして2人は拳を突き合わせる。それを合図としてルシリオンは空の彼方へと飛んでいった。新人は思う。いつか自分もあんな魔導師になりたいと。静かになったこの場所で、思い思いに語り始める第1124航空隊・第4小隊の魔導師たち。

「カッコいいっすね」

そうしみじみ呟く新人。しかし彼の感動も、他の隊員たちの発言で半減することになる。

「そうでもねぇぜ。昔は男泣かせって呼ばれてたしな」

「お、男泣かせ? 女泣かせじゃなくて・・・?」

「そうそう。当時の外見はどう見ても背の高い少女。本当は男なのにな。そうとも知らず告って来たヤツを片っ端から撃墜したっつう伝説がある」

「同様にレディの告白も断ってるって話だ」

「ホモ疑惑」

「ああ。でもさ、テスタロッサ執務官とデキてるって噂だ」

「なに!? 俺は高町一尉とデキてるって聞いたぞ!!」

「「「「「「死ねや、コラぁぁぁぁっ!」」」」」」

悲しい男たちの叫びがこだまする。新人は大きく溜息。

「よっしゃ! 俺は今日ツイてる! ヴィータ三尉の可愛らしいインナー(すてき)が見えた!!」

「あぁ、もう少しでも見えそうなんだけどなぁ、高町一尉の・・・」

また別のところでは妙なことで盛り上がっている変態がいた。

「・・おい、誰か。そこの阿呆どもと変態どもを黙らせろ」

ヒルマンの一声で、馬鹿発言をした男たちにはデバイスによる殴打という制裁が与えられた。緊迫下にあるこの空域の中、第1124航空隊・第4小隊の魔導師たちの、ごく一部の頭の中は季節はずれの春だった。

†††Sideなのは†††

『高町一尉、奥へ進めそうな突入口が見つかりました! 突入隊20名が先行しています!』

ゆりかご側面をヴィータちゃんと飛んで、ガジェットや砲門を破壊していた時、待ちに待っていた報せが私たちに届いた。ゆりかごへの進入ルートの発見。すでに20人の突入隊が先行してる、って。突入の許可をもらうために、はやてちゃんに通信を繋げる。

『外に居るガジェットは私らが全部引き受ける! なのはちゃん、ヴィータ、ルシル君、行ってくれるか?』

「了解!」「おう!」

『了解した。なのは、ヴィータ、先に行っていてくれ。はやて、突入前にゆりかご上方のガジェットを叩いておく。部隊を下がらせてくれ』

『了解や!』

私とヴィータちゃんに続いて、ルシル君からの通信も入る。ルシル君には遠く離れた地点でガジェットの掃討を任せていたから少し遅れてしまっている。私とヴィータちゃんが報告のあった突入口へと降り立った直後・・・

――神技ニーベルン・ヴァレスティ――

私たちの遥か頭上に居るガジェット群へと一直線に進んだ槍が蒼い閃光となって爆ぜた。閃光が収まると、そこにはガジェットが1機もなくて、代わりに無数の羽根が舞っていた。

「たった1発で殲滅って、やっぱアイツすげぇよな」

ヴィータちゃんの呟きを聞いて、私は同感した。やっぱりルシル君には敵わないな~。なんて思いながら突入口となる内壁を破壊して、ゆりかご内に突入した。

「機動六課スターズ1、2、内部通路突入!」

ある程度降下した時、いきなり魔力結合に異常が発生。魔力結合を解除された原因はもちろん「チッ、AMFか!!」ヴィータちゃんの言うとおりAMFによるものだ。私とヴィータちゃんは降下じゃなくて落下し始めた。

「内部空間全部に・・・?」

この一帯だけ、ということはないはずだ。出力を上げて一時的にアクセルフィンの効果を持続、着地と同時にアクセルフィンを解除する。そんな簡単なことですら魔力の消費が多かった。ゆりかご内を軽く見渡す。ここに、この中のどこかにヴィヴィオが待ってる。

「スターズ5、スターズ1、2に続き内部通路に突入完了」

上からルシル君がゆっくりと降りてきた。AMFがあることを教えるために声に出そうとしたけど、「AMFか。結構濃度が高いが・・・2人は大丈夫か?」言葉は出なかった。何故なら、ルシル君はAMFの中でもなんら変わらなかったからだ。

「大丈夫だけど・・・、ルシル君は・・・?」

「魔導師のリンカーコアと魔術師の魔力炉(システム)は質が違うからな。この程度のAMFなら影響は受けることはないよ」

そう言って、ルシル君は22枚の翼を無数の羽根にして消していった。でもこれは嬉しい誤算・・・なのかな? 魔導師である私たちにとってAMFは厄介だけど、ルシル君たち魔術師は関係ないってことだ。

「呑気に話してる場合じゃねぇみてぇだぞ」

ヴィータちゃんの視線の先、そこには私たちを迎撃しに来たガジェットが十数機といた。ヴィータちゃんが“アイゼン”を構えて、私たちを庇うようにして前に立つ。

「なのはは魔力を温存してろ。コイツらはあた――」

「待て、ヴィータ」

「んだよ・・・?」

ルシル君がさらにヴィータちゃんの前に出る。少し不機嫌そうなヴィータちゃんだけど、私はルシル君に賛成する。

「このAMFだとヴィータも辛いだろう? ならここは影響の少ない私がやろう」

「ちょっと待てよ! お前だってペッカートゥムと戦わなくちゃいけねぇんだろ!? なのに、こんなことで無駄な魔力を消費していいのかよ!?」

ヴィータちゃんの言うことも正しい。私たちじゃ敵わない存在、“ペッカートゥム”。その内の1人がヴィヴィオの側に居る。でもAMFの影響による魔力消費のことを考えたら、やっぱりルシル君に頼るしかない。

「こんなこと、って・・・。ヴィータとなのはを守るのも大切な私の役目だ。それに、消費の少ない術式を選択すればいいだけだよ。我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想。・・・っと、そうだ2人とも、私から離れないように」

そう言ったルシル君は私たちに近付いて指を鳴らした。直後、ギンッていう鈍い音が聞こえた。

「シャルが居ないなら使ってもいいよな。墜ちろ」

――圧戒(ルイン・トリガー)――

そしてそれは起こった。私たちに迫っていた十数機のガジェットが一斉に墜落。ガジェットは軋みを上げながら火花を散らして、最後は潰れて次々と爆散していった。

「何したんだよ?」

私とヴィータちゃんの間に立つルシル君を見る。それは私も同じことを考えてた。でもなんとなく解ってる。

「私を中心とした半径30m範囲に6倍の重力をかけた。ガジェットはそれに耐えられず地面とキス、バッドエンドというわけだ」

やっぱりそうだ。ガジェットは重力によって墜落していた。

「お前らって本当に何者なんだよ? 魔術師って重力なんてものも操れんのかよ?」

通路を歩き出したルシル君について行きながら、ヴィータちゃんがそう訊く。私もそれに続いてルシル君の後を追う。ガジェットみたいにペチャンコになりたくないから。

「今は私だけだ」

次々と現れるガジェットは、6倍の重力圏に自ら進入して墜落、自滅していく。これで魔力消費の少ない術式? 対人で使われたら、誰もルシル君に勝つことが出来ないかも。空戦でなら強制的に撃墜されて、陸戦でも地面に押し潰されて。身動きが完全に封じられることになる。

「今は、ってことは前は居たのかよ?」

小柄なヴィータちゃんは少し早歩きでルシル君の隣を歩く。

「妹がそうだった。もういないけどな」

ルシル君の血の繋がった本当の家族はもう誰1人としていない。それはヴィータちゃんも知っていることだ。だからヴィータちゃんは気まずい顔をして「すまねぇ」って謝った。ルシル君は笑みを浮かべて「気にするな」と言って、ヴィータちゃんの頭を撫でた。それからガジェットの潰れていく様を何度も見ながら通路を進む。そして・・・

『突入隊、機動六課スターズ分隊へ』

「はい!」

『駆動炉と玉座の間への詳細ルートが判明しました。送りますっ』

ようやくこの聖王のゆりかごのマップが判明した。私たちが居るのはちょうど中央辺り。そして駆動炉と玉座の間の位置は「真逆方向かよ・・・?」ゆりかごの最前方と最後方に位置していた。これだけ大きな艦だと、片方ずつ攻略するには時間が掛かり過ぎる。だからルシル君が「応援のメンバーはまだ揃わないか?」ってオペレーターに訊くと、揃うまであと40分も掛かるって返ってきた。それだと遅すぎる。もう突入隊を当てにすることは出来ない。こうなれば残る手は1つだけになる。

「・・・仕方ねぇな。スターズ1と5は玉座の間へ、スターズ2は駆動炉に向かう」

それは二手に分かれて、それぞれに対処すること。

「ヴィータちゃん・・・」

「そんな心配そうな顔すんなよ。ここまでセインテストのおかげで全然魔力を使ってねぇ。だから万全だ。それに、忘れたのかよ。あたしとアイゼンの得意分野は破壊と粉砕なんだぜ? 鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン。あたしらの前に砕けねぇものはこの世にねぇよ」

そんなことを言われたら、もう何も言えないよ。私はルシル君に振り向いてみるけど、ルシル君はヴィータちゃんの意思を尊重するようだ。黙ってヴィータちゃんを送り出そうとしてる。

「ありがとな、セインテスト。とっとと終わらせてくっから、なのはとセインテストもちゃんとヴィヴィオを助けろよ。そんでコイツの上昇を止めて、表のはやてに合流。あたしが終わってても、そっちが終わってねぇようなら承知しねぇかんな」

ヴィータちゃんもルシル君も覚悟を決めてる。だったら私も覚悟を決めないとダメだ。

「うん。気をつけてね、ヴィータちゃん。絶対に、すぐに合流だからね!」

「当たり前だっつうの! セインテスト、あたしの代わりにちゃんとなのはを守れよ!!」

「ああ。約束だ」

こうして、私とルシル君はヴィヴィオのいる玉座の間に。そしてヴィータちゃんは一人駆動炉の破壊へと向かった。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

なのは達と別れた私とシャルは、スカリエッティのアジトへと到着。そこでシスターシャッハと合流して、アジト内の捜索を始めた。

「烈風一迅! 斬り裂け、ヴィンデルシャフト!」

「トロイメライ!」

≪Gefrieren unt Blitz≫

――双牙氷雷刃(ゲフリーレン・ウント・ブリッツ)――

シスターとシャルの魔法によって、私たちを迎撃しに来たガジェットは反撃することが出来ないまま、ただの鉄塊へと姿を変えていく。

「すごいですね、騎士シャルロッテ。複数の魔力資質変換なんて・・・!」

「シスターもなかなかの腕。一度手合わせをしてみたいです」

「いいのですか!? 私も一度あなたと戦ってみたいと・・・!」

2人の後ろをただ歩いて続く。さっきから私は何もしていない状態だ。だって私が攻撃に入る前に全部シスターとシャルが片付けちゃうから。2人は2人で何やら盛り上がっているし、ちょっと淋しいです。

「新手が来ました!」

シスターの声に反応した私はザンバーを構えていざ、というときに・・・

「しつこいっての!」

――風牙烈風刃・弐連(ツヴィリンゲ・ヴィントシュトゥース)――

シャルがツヴィリンゲ・フォルムとなっている“トロイメライ”二刀を振り、吹き荒れた風の壁を起こしてガジェットへと放った。結果は当然の如く全滅だ。風圧に押し潰されてぺちゃんこ。

「フェイトもシスターもAMFの中じゃ辛いんだから、私に任せておけばいいの♪」

≪Schwert form≫

また1つの長刀になった“トロイメライ”。それを肩に担いでシャルが笑みを浮かべる。そう。魔術師(シャル)魔導師(わたしたち)にとっては面倒なAMF内でも大して堪えていない。さっき聞いたけど、魔術師の魔力炉(システム)の性質上、AMFは脅威にならない、とのことだった。

「あ、アコース査察官の・・・ワンちゃん達だ」

シャルの視線の先にはアコース査察官の猟犬たちが居た。近寄ってきた猟犬たちにシャルは頭を撫でてあげている。そこに別動隊から報告が入った。アジト内の様々なルートを確認して、危険物への封印処置を始めるって。
その辺りの指示はアコース査察官に任せてあるから、シスターシャッハもアコース査察官の指示通りに動くように返した。そして私たちの主行動は、この事件の主犯であるスカリエッティに限定しての捜索に専念。

「んじゃ行こうか」

シャルの言葉に頷いて、さらに奥へと進む。奥へと辿り着くまでに何度もガジェットが現れたけど、シャルが次々と対処していった。シャルが魔法を使ったのは初めのうちだけ。それからは純粋な身体能力と剣技だけで破壊していく。強かった。強すぎた。私は今までシャルの戦いを何度も見てきた。だからこそ私は改めてシャルの実力を思い知った。

「・・・爆発音・・・?」

前を歩いていたシャルが急に立ち止まって耳を澄まし始めた。私とシスターも同じように耳を澄ますけど何も聞こえ・・・あ、聞こえた。遠くの方で爆発音。誰かが戦闘をしている・・・?

「・・・来る!」

シャルが叫んで、私とシスターの腰に手を回して抱えながらそこから離脱。次の瞬間、壁を突き破って人が飛び出してきた。その人には見覚えがある。

「ぅぐ・・・。フェイト・・・お嬢様・・・!?」

先日戦った、紫色の髪をした戦闘機人。だけど彼女の体はボロボロだった。

「トーレ姉!・・・なっ、管理局!? もうこんなところまで・・・!」

紫色の髪をした戦闘機人をトーレと呼んだもう1人の水色の髪をした戦闘機人。続いて出てきたのはトーレと同じ、先日戦った桃色の髪をした戦闘機人が、壁に開いた穴から飛び出して来た。他の2機もトーレよりかはマシだけどボロボロだ。

「あなた達・・・一体何が・・・?」

シスターも予想外の事態に混乱を示している。私だってそうだ。戦闘機人を相手にしてここまで追い詰めることの出来る味方はいない。

「・・・久しぶりね、レヴィヤタン。リベンジしに来たよ」

シャルが私たちを庇うようにして前に出た。壁の穴からゆっくりと出てきたのは、レヴィヤタンという小さな女の子。その子は“ペッカートゥム”の1人で、その速さは私やシャル以上とされる。

「トーレ、とか言ったっけ? あなた達をそんなのにしたのはアレ?」

立ち上がったトーレにシャルは振り向かずにそう訊いた。トーレは少し間を置いて、衝撃的なことを口にした。

「・・・いや、私たちが今戦っているのは・・・ドクターだ」

「そんな・・・!?」

私は信じられずにそう叫んでしまった。スカリエッティと戦闘機人が戦う? もうわけが解らない。他の戦闘機人2人も俯いて、沈黙という形で肯定を示している。

「さっさと白黒つけたいけど。その前にスカリエッティはどうしたわけ? いよいよ狂った?」

「・・・もう解っているはず・・・」

シャルの問いに静かに答えたレヴィヤタン。解っている? シャルにはこの状況の原因を知っているんだろうか?

「おや? ごきげんよう、フェイト・テスタロッサ執務官。それと3rd君」

「「「ドクター!!」」」

続けて穴から出てきたのは、私がずっと追い続けていた男ジェイル・スカリエッティ。ゆっくりとレヴィヤタンの隣に並んだスカリエッティは、トーレたち戦闘機人へと目を向けた。それにしても、3rd君ってシャルのこと・・・? シャルが三番目って、なに?

「まだ動いていたのかい? 今の一撃で止めを刺したと思ったんだが・・・?」

「何故ですかドクター!? 何故このようなことを!?」

トーレの叫びへの答えは、スカリエッティの攻撃だった。右手に装着しているグローブを操作して作り出された赤い糸をトーレに放った。

「だから、利用されて裏切られる間に手を切れ、って言ったのに・・・。ねぇ、スカリエッティ?」

トーレの前に飛び出たシャルがその赤い糸を切断する。シャルが手にしているのは“トロイメライ”じゃなくて“キルシュブリューテ”だ。鋭い眼光と“キルシュブリューテ”の切っ先をスカリエッティに向けている。

「スカリエッティの目の色は確か金。なのに今は真紅。あれだけルシルが忠告してあげていたのにバカね。スカリエッティ、あなた、体を乗っ取られたわけね、アスモデウスに・・・」
 
「「「「っ!?」」」」

「え? どういうこと? アスモデウスがなに?」

シャルの言葉に絶句する私たち。けど水色の髪の戦闘機人は解っていないみたいだ。

「・・・本当は髪も真紅にしたかったのだけど、瞳だけで我慢したわ」

男性の声とは違う女性特有の高い声が、スカリエッティの口から零れた。それを聞いた私たちは無意識に後ろへと退いた。

「何が目的なのか答えなさい、アスモデウス。スカリエッティの体を乗っ取った理由は? そしてお前たちペッカートゥムの狙いは?」

「すべてはルシファーの目的のままに」

スカリエッティの左手に大鎌が現れた。それを掴んで軽々振り回している。

「シャル・・・どうしたら・・・?」

私に対処法はない。それはシスターや戦闘機人も同様のはず。だから“ペッカートゥム”を知るシャルなら何とか出来るだろうと思い訊いてみる。

「スカリエッティごと乗っ取っているアスモデウスを殺す」

シャルの答えは無慈悲だった。

「ドクターを殺すなど認めんぞ!」

シャルの背後に居たトーレが勢いよくシャルの右肩を掴んで無理矢理振り向かせる。だけどシャルの鋭い眼光を見たトーレは肩から手を離して後ずさった。

「別にこの体ごと殺してもいいわよ? でも出来るかしら? 甘々な法の下に動く管理局は、いくら重犯罪者でも殺しを良しとしないのでしょう?」

どんな犯罪者でも殺害することを禁止されているのは間違いない。だからこそ局員や一般市民に犠牲者が出ることもしばしばある。

「私はもう管理局員じゃない。それに世界と人間1人の命、天秤にかけて量る以前の問題。お前1人を犠牲にして世界を救う。悪いけど、それが一番手っ取り早い」

「なるほどね。それはそれは界律の守護神(テスタメント)そのままの偽善に満ちた腐った考え方ね」

「貴様ら絶対殲滅対象(アポリュオン)のように丸ごと滅ぼす連中に言われたくない」
 
シャルとアスモデウスの会話が全然理解できない。“テスタメント”とか“アポリュオン”とか丸ごと滅ぼすとか、一体何を言ってるの? 疑問は尽きない。でも今はそれより・・・

「シャル、ごめん。やっぱり殺害は許可できないよ」

私は私の仕事を全うする。そのためにはシャルちゃんを抑えることからだ。話の内容は未だに理解できないけど、スカリエッティは逮捕、そして法の下に裁く。それを絶対として事を進めていかないとダメだ。

「・・・はぁ、解ってる。今のは単なる冗談だよ。冗談3割、本気7割」

シャル、人はそれを本気と捉えると思う。

「それに・・・アスモデウス。お前は大きなミスを犯してるからね。スカリエッティを殺す必要性はどこにもない」

「なに・・・?」

シャルは“キルシュブリューテ”を持つ右手の逆――左手に再度“トロイメライ”を握り直した。

「その体に答えを刻んであげる・・・。フェイト、シスター、悪いけど手伝って。そんで戦闘機人3機。スカリエッティを救いたいなら手伝いなさい」

“キルシュブルーテ”を逆手に持ち替えて二刀流の構えを取ったシャルに、私たちは協力することを選択した。あとは戦闘機人たちの返答を待つのみだった。

†††Sideフェイト⇒ヴィータ†††

「アイゼン!!」

≪Komet Fliegen≫

コメートフリーゲンで次々と沸いて出てくるガジェットをまた潰した。

「ったく、テメェらはゴキブリかっつうの」

あたしは、なのはとセインテストと別れて駆動炉を目指している。

「にしても、どれだけ歩かせりゃあいいんだよ」

ここに来るまでにどれだけガジェットを潰したのか思い出せねぇし。セインテストが別れる手前までガジェットを相手にしてくれたから正直助かった。もしセインテストがいなかったらもっと魔力を消費していたかもしれねぇ。

「カートリッジはあと・・・13発。十分。駆動炉相手じゃ楽勝だ・・・っ!?」

歩き出そうとしたところで、あたしの体に異変が起きた。それはあたしの胸から伸びる刃。油断とか余裕とかじゃなくて、全く気配がなかった。痛みとか言う前にそのことに対する驚きが頭ん中を占める。あたしは振り向いて、この刃の主を目にした。そこに居たのは、8年前になのはとセインテストを撃墜した機械兵器(アンノウン)に似たやつだった。

「ああ・・・ああ・・・ああああああああッ!」

さっきまであった驚きが全部吹き飛んで怒りに変わるのが判る。その怒りのまま、あたしはギガントフォルムの“アイゼン”をソイツに叩きつけた。ソイツの爆散の衝撃で吹き飛ばされて、通路の床を何度か転がる。痛覚は遮断したおかげでなんとか耐えられる。こういう場合は便利だよな、あたしらって。
それでも胸に穴が開いてることには変わりはねぇ。吐血しながらも“アイゼン”を杖代わりにして起き上がって、あたしは見た。今潰した奴とおんなじのが群れを成して、通路の向こうから押し寄せてくるのを。

「あの雪の日・・・なのはとセインテストを墜としたのは、テメェらの仲間か!?」

機械相手に答えが返ってくるわけねぇか・・・。

「上等だよ・・・テメェら残らずブッ潰してやらぁぁぁーーーーーッ!」

コイツら全部ぶっ壊して、とっとと終わらせてやる。
 
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