魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos10犯罪者たちの秘密な宴~The Desperado Party~
前書き
ようやくYoutubeで、アンスール、というタグが反映されるようになった。前回のアカウントだと最後まで反映されなかったのに。いったい、なにが原因なのだろうか?
†††Sideルシリオン†††
「さて。それじゃあ今回の仕事を発表する。心して聴いてくれ」
リビングに勢ぞろいしてソファに座っている家族みんなを見る。俺の脇には空間モニター。そこに表示されているのはこれから向かう世界の名、そして標的たちの名。
「って! おいおい、今回の標的の人数が半端じゃねぇ!」
「えっと、えっと・・・軽く100人は超えてますよ!」
「いっぺんに相手するつもりなんか、ルシル君!?」
ヴィータ、シャマル、はやてが非難の目を向けて来た。シグナムとザフィーラは無言。だが目でこう言っている。俺にすべて任せる、と。俺は頷いて応じ、「まずは話を聴いてくれ」と始める。これから俺たちが向かう世界は第33無人世界。標的人数は総勢200人。人数を見れば尻込みしてもおかしくはないだろう。
「名うての魔導犯罪者や悪名欲しがるフリーランスの魔導師どもが、裏社会のVIPの招集の下にこの無人世界に集められ、空戦レースを開く。無法者たちによる戦闘行為ありの競宴、デスペラードパーティ。開催期間は3日。俺たちはそれにチームとして参加する」
「戦闘ありのレース、ね。これって全員からリンカーコアを奪えないんじゃないのか?」
「何故そう思う?」
「チームレースって組分けとかあんだろ? 当たる連中、当たらない連中も居んだろうが。そもそもあたしらパラディース・ヴェヒターの参加が許されてること自体がおかしい」
「私たちって一般の人たちには英雄視されてるけど、犯罪者たちにはとても恨まれてるもの」
ヴィータとシャマルがそんなことを言ってきたが、少し考えてみてほしい。
「いやだから俺たちも招待されたんじゃないか。今回のレースで俺たちの正体を暴き、なおかつ数にものを言わせてボコボコにしようって」
「「あ」」
ま、このレースに参加するために裏社会の魔導師を含めた魔導犯罪者にも手を出してきたんだ。招待状が来なければ乗り込む羽目になっていたが。よかったよ、正式な参加者として呼ばれて。ヴィータとシャマルからは軽い非難の目を向けられ、はやてにも「危ないこと禁止!」猛反対を受けてしまった。だが「もう少しなんだ、はやて」俺ははやての膝上に乗っている“夜天の書”を指さす。
「現在のページ数は381。管制人格が実体化できる400ページまであと少しだ。今回の一件を完遂すれば確実に越す」
「それはそうやけど。今までのようにコツコツやるのはアカンの?」
はやては“夜天の書”の表紙を撫でながら本当に心配そうな面持ちで、弱弱しい声で訊いてきた。
「ここで一気に稼いでおいた方が良いと思うんだ。稼げるときに稼ぐ。俺たちパラディース・ヴェヒターの名は表と裏の社会に知れ渡ってるから。いつかは俺たちを恐れて犯罪が減る、かもしれない。それは良いことだ。だけど標的が少なくなればそれだけ完成が遅くなる」
「どうせ減るなら稼いだ後で、か」
「そういうこと。このレースで一気に稼ぎ、後々の標的減少でも困らないように」
本当は減ったところで問題はさほどない。こうして名を売っていけば、必ずと言っていいほど俺たちの首を獲って名を上げようという腕に自信のある馬鹿どもが現れるはずだ。そいつらが魔導犯罪者なら返り討ち、違えば拘束でもして撤退すればいい。
「なぁ、ルシル。レースってんだから入賞したら何か貰えたりするのかよ」
「一応賞金が1千万クレジット。あと優勝チームには願いを1つだけ叶える、というのもある。魔導犯罪者は裏社会の情報やコネクションと言ったものを。フリーランスの魔導師は働き口だな。己の魔法の腕を買ってくれる雇い主探しだ。
で、だ。その、願いを叶える、というのが俺たちの目的だ。俺たちの願いはこうだ。参加チーム全員のリンカーコアを差し出せ。開催側や参加チームは優勝チームの願いを果たさなければならない、という掟があると言う。その掟があるからこそ今もこんなふざけたレースが続けられている」
勝ちさえすれば一生遊んで暮らせるような願いを叶えることも出来るのだ。参加資格を得た者は必ず出場し、得られなかった者は飛び入り参加しようと躍起になるも追い返されるそうだ。
「わはっ。お前、すげぇこと考えんだな」
「でもそんな簡単に聴いてくれるとは思えないわ・・・。思いっきり反抗されそう」
「だろうな。だが願いを宣言した以上は果たしてもらうさ。あと優勝するまでの数レースの最中にもリンカーコアは回収する。何せ戦闘行為ありだ。文句は言われない」
「ルシル。お前、考えることがいちいち恐すぎ」
ヴィータにそう呆れられた。そんなヴィータたち守護騎士を見回し「俺からは以上だ」と話を締めた。
「ま、そういうことならしょうがねぇよな。あたしはやるぜ」
「我も問題ない。ルシリオンの指示に従おう」
「私もそれでいいで~す」
「守護騎士一同、お前のプランに賛成だ、ルシリオン」
「ありがとう、みんな」
実行部隊である守護騎士の賛成は得た。が、一番重要な問題がまだ残っている。俺は「はやてのことなんだけど・・・」心配でしょうがないと言った風な面持ちでみんなを眺めていたはやてへと目をやると、シグナム達も彼女へ顔を向けた。
「5人1組のチーム戦だから、メンバー総出なんだ。俺たちが家を空けている間、はやてが1人になる」
「はやて1人にさせるなんてダメ!」
真っ先にヴィータがソファから立ち上がって両腕をバッテンにした。シャマルも「私も反対! 私が残ります!」って挙手。黙ってはいるがシグナムとザフィーラも、はやてが1人で留守番することに対して反対とでも言うように苦い顔をしている。
「えっと、ええよ、それくらい。みんなが来る前、ルシル君と出会う前はずっと独りぼっちやったもん」
若干泣き笑いが入ってるはやてにそう言われ、ヴィータとシャマルははやての名前を呼び抱きついた。
「ルシル! どうにかなんねぇのかよ!」
「ルシル君っ! はやてちゃんを独りぼっちにするなんてあんまりよ!」
止まることを知らない俺への非難。俺は小さく溜息を吐いて「最後まで聴いてくれ」と2人を黙らせる。
「そうならないためのプランは用意してある。はやてを留守番させると1人になる。そうならないために、俺は異界英雄を召喚しようと考えてる」
「エインヘリヤル・・・、セインテストの使い魔さんね」
「ああ。みんなの信頼を得ているフェンリルを召喚するつもりだ」
「で、でもフェンリルさんを召喚したらルシル君、魔法使えんくなるんやなかった?」
「いや、その問題はもう解決してあるから心配しなくていいよ。で、どうだろう? フェンリルがはやての側に居てくれれば問題かと思うんだけど?」
ジュエルシードの影響で魔力制限が緩んだ今なら、戦闘行為も可能なままで“異界英雄エインヘリヤル”を召喚できる。まぁ、少なからず使用魔力が減るが、雑魚相手(判っている今回の参加者の最高ランクはAAAだ) なら問題はないだろう。
みんなを順繰りに見る。シグナムとザフィーラはフェンリルの人(狼か?)の良さを知っているからか纏っている空気を和らげた。が、心配性のヴィータとシャマルは未だ完全に納得していないようだ。
「それとも・・・どっちかが残るか?」
「「え?」」
「フェンリルを戦力として連れて行ってもいい。招待状にはパラディース・ヴェヒターの皆様とあった。個人を指名していない。フェンリルを新しい騎士として名乗らせれば問題ないだろう」
フェンリルのコードネームはそうだなぁ。狩猟騎士ハンター、かな。などとそんなことを考えていると、「わたしは大丈夫や。フェンリルさんとお留守番してる」はやてが笑顔でそう言った。
「フェンリルさんとは付き合い長いしな。フェンリルさんと一緒に応援するから。みんな、頑張ってな。そして無事で帰って来てな」
そういうわけで、はやてはフェンリルと一緒に留守番となり、俺たちパラディース・ヴェヒターは3日間のデスレース、デスペラードパーティに参加するために第33無人世界へ向かうことになった。その日の夕食は、「験を担いで、今日はカツや♪」豚カツ・牛カツ・チキンカツ・ハムカツ・エビカツという、カツのオンパレードだった。勝つとカツ。よく聴く験担ぎだ。そして深夜1時。俺たちはそっとはやての寝室を覗き、フェンリルと一緒に眠りについているはやてに「いってきます」と小声で挨拶してから、地球を後にした。
俺たちパラディース・ヴェヒターは次元転移を行って世界4つを跨いで、今回の戦場となる第33無人世界へと辿り着くことが出来た。見渡す限り峡谷で、見た目は地球のグランド・キャニオンに酷似している。
唯一の違いと言えば峡谷内の切り立つ壁の内側には尖塔が幾つも突き出していることか。あれは空を飛ぶにも陸を走るにも苦労しそうだ。そんな移動に苦労しそうな峡谷こそがデスペラードパーティ、空戦レースにおけるコース。空からコース全体を眺めていると、
「来たな、魔導犯罪者どもが」
「すげぇ。船があんなに来やがった。戦場みたいだな」
「まさしくこれより戦場になるだろうな」
空を見れば小型・中型の次元航行船が次々と降下して来ていた。降下し終えた中型の船より降りて来るのは裏社会で名を馳せるVIPども。中には世間に良い顔を晒している政治家なども居る。十数隻の小型の船からは魔導犯罪者が降りて来て、他の連中と再会を祝ったり喧嘩腰で睨み合ったりしている。
「それじゃあ行こうか」
「え?」
「ああ」
「おう!」
「うむ」
俺たちは地上でたむろしている犯罪者どもを挑発するかのごとく降り立つ。
「おい、コイツら・・・!」
「ふざけた動物の被り物・・・!」
「パラディース・ヴェヒター!!」
『うわぁ、アウェー感がすさまじぃ~』
『ちょっ、ルシル君。わざわざど真ん中に降りなくても・・・』
一気に騒然となる犯罪者ども。ウサギの頭をしたヴィータが殺気だっている連中をジロリと見回す。が、くるっとした真っ赤な瞳、ふわっとしたウサギ顔の所為で迫力も何もない。そしてヒツジの顔をしたシャマルが若干怯えを見せている。血に飢えた狼(犯罪者)の群れの中に放り込まれてしまったか弱い羊――シャマルの如く。それを想像するとちょっとばかり可笑しくなってしまう。
『コソコソするより堂々としていた方が騎士らしいだろ? それに。襲われるようなら俺がちゃんと守るから』
『えっ、あ、うん・・・。その時はお願い、します』
俺の騎士甲冑の袖をキュッと掴んでくるシャマルを微笑ましく眺めていると、「よくも俺の仲間を!」と憤りデバイスを起動した連中が出て来た。どうやら以前俺たちに捕縛され管理局に引き渡された犯罪者の身内も居るようだ。
『相手にしなくていい。無視して先へ行こう』
みんなには相手にしないよう言って、招待状と一緒に送られてきたマップに記されていた宿泊施設へと歩を進める。ちなみに宿泊施設とは峡谷の最下流にある岩山を掘ったり削ったりして造った洞窟住居だ。地球におけるトルコはカットバキアの洞窟ホテルと同じようなものだ。
連中を無視して行こうとしたが当然の如く「シカトしてんじゃねぇよ!」問答無用で射撃・砲撃魔法で襲い掛かってきた。見逃してやろうと言うのに。彼我の力量差くらい測れ、っていうんだ。
「吹き荒べ、汝の轟嵐」
防性と補助の中級術式、竜巻を発生させるラシエルを発動する。ラシエルは射砲撃を全て粉砕、そして俺たちに攻撃を加えて来た馬鹿、無関係だった犯罪者どもも併せて「うわぁぁぁぁぁぁ!?」吹き飛ばした。
「私たちにケンカを売るならレース中でもいいだろう? その方が私たちも買い易いし、な」
俺は地面に叩き付けられ苦痛に呻いて倒れ伏している犯罪者どもにそう言い放ち、宿泊施設に向かうために改めて歩きだす。俺たちが進む行く手に群がっていた犯罪者どもが道を開けていく。
「見たかよ、今の」
「デバイス無しで魔法陣も発動せずにあんなえげつない魔法を使ったぞ」
「あれがランサーだろ。恐ぇぇ」
「フンっ。俺の敵じゃねぇよ。レースで当たれば真っ先に潰してやる」
「いいや。僕がランサーを討つ。そして次元世界にこの僕、轟拳のパサートの名を轟かせ知らしめる!」
「ダサ。轟拳のパサート(笑)だってさ」
「なんだと貴様! (笑)を付けるな!」
「やろうってか、おおう!?」
「おうおう、やっちまえ!」
「なんだ、レース前の余興か!?」
背後では馬鹿同士が戦いを始めた。俺たちは馬鹿騒ぎを無視して、俺たちに用意された宿泊施設の部屋に入る。キッチンが備え付けられ冷蔵庫もあり、トイレにシャワールームも完備。そしてベッドが6台。それでも十分床でゴロゴロ出来るほどの広さだ。と、まずは『全員そのまま』とくつろぎ始めようとしたヴィータを含めて全員に念話でそう告げる。
「なんだよル――」
「しっ」
俺の名前を呼ぼうとしたヴィータの唇に人差し指を当て黙らせてから部屋中を調べる。やっぱりと言うか何と言うか「盗聴器に盗撮カメラだ。ほら、こんなに」魔法で作られた物じゃなくて魔力探査に引っかからない機械だ。手の平に乗せたそれらに高圧電流を流して内部を焼き切ってやる。
あとついでこの部屋と隣部屋・廊下・外との壁の間、窓と扉にも結界を張った。これで外からの干渉は出来なくなり、盗聴・覗き見・不正侵入も不可。一応俺たち以外も部屋に入ることが出来るが、それにはある条件が要る。それはとても当たり前な事だが、今この世界に居る連中がその条件を果たせるかどうかは限りなく低い確率だろうなぁ~。
「よし、これでもう大丈夫だ。変装を解いても本名で呼び合ってもいい」
「あっぶねぇ」
安堵の息を吐いたヴィータは変身を解いてベッドへダイブ。シャマルもベッドに腰掛けて「ふぅ」と変身を解いて一息吐いた。シグナムとザフィーラもそれぞれ変身を解いてベッドに腰掛けていく。
「あらルシル君? 変身を解かないの?」
「一応パラディース・ヴェヒターの将を任されているから。いつ部屋を出る事になってもいいようにさ」
守護騎士ヴォルケンリッターの将はシグナムだが、楽園の番人パラディース・ヴェヒターの将は俺となっている。理由としては計画の発案者が俺であり、情報収拾・作戦立案も担当しているからだ。
みんなの命を預かっている者としてどんな小さなミスも許されない。だから気を張ってる方がいい塩梅だ。ほら、早速この部屋に向かって駆けて来る足音が複数。こういう状況があるから変身したままでいないといけない。
「ルシリオン」
立ち上ろうとしたザフィーラを手で制し「大丈夫だ」と言い、黙って入口の扉を見る。足音は次第に大きくなり、「この部屋だ!」と怒声も聞こえてきた。客ではないな。そしてガチャっとドアノブに手を掛ける音がし、シグナム達は焦ったように頭部をデフォルメアニマルへと変身させた。が、扉は開くことはなく。代わりに「うわぁぁぁ!?」外から複数の叫び声が聞こえてきた。
「馬鹿だなぁ。ほら、みんなも見てみるといい」
「一体何したんだよ、お前・・・?」
ヴィータに訊かれ、地面に倒れ伏している連中を窓から眺めながら答える。扉にトラップを仕掛けておいた、と。入室の際のマナーであるノック。それを無視して扉を開けようとすると発動し、扉に手を掛けた者やその連れを外へ強制転移させるというものだ。連中はノックせずに扉を開けようとしたためトラップの餌食となり、外へ転移、なかなかの高さから地面へ墜落した、というわけだ。
「ちなみにマナー通りにノックしトラップを免れたとしても、結界の効果で室内は見えないようになってる。だから変身を解いていても問題ないから、安心してくつろいでいてくれ」
そう言うとみんなの張りつめていた空気は緩み、変身を解いて改めてくつろぎ始めた。俺も残りのベッドの1台に腰掛け休んでいると、また足音が聞こえ、それは部屋の前で止まった。
そしてコンコンコン、とマナー通りのノックのあと「パラディース・ヴェヒター様。組分け選考を行いますので、大ホールへお越しくださいませ」老人の声でそう言われた。部屋に置かれていた施設案内図を見、俺たち大ホールへと向かうことにした。
†††Sideルシリオン⇒ヴィータ†††
大ホールっつう場所でAからHブロックの組分け選考をやった。各ブロックに5チームに分けられて、トーナメント方式で1チームになるまでレースを続ける。で、各ブロックで優勝した8チームで決勝レースをして、それで勝ったら優勝っていう、まぁ何の捻りもない感じで進んでく。
あたしらはBチームになって、同じBチームになった他のチームの奴らは一喜一憂。やっぱルシルのことが相当恐いらしい。まぁ、それもしょうがねぇ話だけどさ。なんたってあたしらより先に次元世界に名を轟かせた無敗の騎士だからな。
「相手にとって不足はない。パラディース・ヴェヒターは、俺たちホーカーがぶっ潰す。首を洗って待っていろ!」
ホーカーって名乗った男4人女1人のチームがあたしらに戦意を叩きつけてきやがった。けどルシルとシグナム、ザフィーラはスルー。シャマルはルシルの隣に居ることで気が大きくなってるのか堂々と「どうぞお手柔らかに」と小さくお辞儀して通り過ぎてった。けどあたしだけは足を止めた。
「いいぜ。テメェらもそれはもう名のある魔導犯罪者なんだろ? かかって来いよ。あたしの相手になる奴はもれなくぺちゃんこに・・・潰してやるよ」
「「「「「っ!!」」」」」
本気の殺気を叩きつけてやる。こちとら数百年の年季があんだ。テメェらとは経験値が違うんだよ。あたしの殺気を直に受けたソイツらはちょっと後ろによろけた。そんで「何もんだよ、あんたら・・・」真っ先に挑戦状を叩き付けてきやがったリーダー格の奴が訊いてきた。
「知ってんだろ? パラディース・ヴェヒター。テメェら魔導犯罪者を狩って、狩って、狩りまくるハンターだよ」
「バスター。置いて行くぞ」
「おう、すぐ行く!・・・テメェらに正々堂々は求めてねぇ。その代わりこっちも卑怯って言われようが構わねぇ手段で撃墜すっから覚悟しとけよ」
ルシルに応えて駆ける。背後からはあたしの殺気に巻き込まれた連中がザワザワ騒ぎ始めていた。
そんなこんなで選考会も終わって、あたしらに用意された部屋でルシルとシャマルが自前の食材(ルシルの創世結界から調達)で作った昼ご飯を食べた後、午後から早速第1レース開始となった。
全ブロックが別々のコースで一斉にレースをする。レース方式は基本的にリレーで、翔者の順はローテーション制。ちなみに第1レースでのあたしらの順番は、ザフィーラ、あたし、ルシル、シグナム、シャマルって順だ。
――シャマルは戦闘能力が低い。開始早々に乱戦に巻き込まれたら結構危ない。だから俺たちがシャマルより先に出て、他の連中に追いつかれない程のリードを広げた上でシャマルにバトンを回す――
――アンカーに回る前に敵を全滅させてもいいんだろ?――
――非殺傷設定での攻撃は全て許される。勝利条件はゴールのみ。他の翔者を無視してもよし、全滅させてのんびりゴールするもよし。殺しさえしなければなんでも許されるから、やりたいようにやればいいさ――
――殺しはしねぇ。はやての未来を血で汚したくないからさ――
それぞれの待機場所、峡谷の崖の縁に別れる前にした会話を思い出す。そうさ、あたしらははやての未来の為に戦ってるんだ。そこに穢れは必要ねぇ。
『さぁ、やって参りました、3年の一度の魔導の祭典、デスペラードパーティ! 最後の一組になるまで戦闘行為ありのデスレースを繰り返す!』
実況者らしき奴のハイテンションなその言葉に、参加する連中が「うぉぉぉぉぉ!」って雄叫びを上げ始めた。ちょっと想像してたのと違う、この犯罪者の集会。もっと暗くて陰鬱として、殺気だった中でやるもんだと思ってた。
『わたくし、Bブロックの実況を担当します、ザック・キザシです。どうぞよろしくお願いします! えー、それではスタートの前に各ブロック、全参加チームを紹介していきましょう! Aブロックのジャックさん』
『はい。Aブロックの実況を担当する、ジャック・キザシです。このブロックには――・・・』
Aブロック担当の実況者がAブロックで競い合う参加チームのチーム名やメンバーの名前、それぞれ犯してきた罪状を紹介してく。どれもこれもクズみたいな連中ばかりだった。
こうやって全参加チームの名前や犯罪歴を知らせるのもパフォーマンスの一環ってわけだ。ふつふつと湧き上がってくる怒り。中には子供を拉致して労働力として売り捌くっていう、生かしておく理由が見つかんねぇほどのクズも居た。
(テメェらの面、ぜってぇ忘れねぇかんな)
次いでBブロック。あたしらが居るブロックの紹介だ。真っ先に紹介されたのが、あたしらに突っかかってきたホーカーっつうチームだ。ソイツらもコードネームで、ハリアー、ハリケーン、タイフーン、テンペスト、ホットスパー、だ。奴らホーカーは名のある空戦特化の犯罪請負の傭兵らしい。あたしらにケンカを売った自信はそこから来てるみたいだ。
『さぁ! この祭典に異色のチームが初参加! 楽園の番人パラディース・ヴェヒター! 3ヵ月ほど前に流星のごとく現れ、我々アウトロー、デスペラードを狩りに狩っている、戦闘特化のベルカ騎士!』
あたしらが紹介されて初めて周囲に居る、あたしと同じ第二翔者の連中が殺気立った。あたしの殺気に腰が引けてた連中も殺気立って睨んでくる。ああ、これだよ。緊迫してる中での狩り。腰が引けてる連中を潰してもしょうがねぇ。やる気を漲らせている中でそれを実力でぶっ潰して絶望させる。そして自業自得だってことを思い知らせてやるんだ。
『者ども! 仲間・身内がパラディース・ヴェヒターに捕まったのなら、ここで逆襲を成し遂げるもよし! 無関係な者もここで討ち取って名を上げるもよし! コネを築いて協力関係を結ぶもよし!』
最初の2つは雄叫びで応えて、最後の協力関係云々には大ブーイングの嵐だった。こっちだって死んでも嫌だっつうの。テメェらのような奴らと協力なんてな。
こうして全ブロックの参加チームのメンバー紹介が終わった。どいつもこいつも狩り甲斐のあるクズばかりだったけど、中にはなんの犯罪歴も無い腕自慢・腕試しをしにきた奴も居たし、自立型の戦闘デバイスの開発者っていう会社員も居た。
『各ブロックの第一翔者よ、スタートの準備は万端か?・・・よーしよし。各ブロック、各翔者も準備は万端! 法を恐れず、罪を恐れず、ただひたすら己が欲望に従ってきた無法者たちよ! 叶えたい願いの為、いざ、最強・最速を目指せ!』
あたしら第二翔者の待機場所の頭上に大きなモニターが展開されて、スタート地点と、スタートを知らせるカウントシグナルも表示された。10からカウントが始まって、0になったと同時にザフィーラたち第一翔者が一斉にスタートした・・・んだけど。
『おおっと! Bブロックは早速戦闘開始だ! パラディース・ヴェヒターのガーダーに、ホーカーのテンペストが襲い掛かったぁぁ!』
ザフィーラみたく筋肉質な男テンペストがザフィーラに殴りかかった。ザフィーラはそれを左の裏拳でいなしてカウンターの右ストレートをテンペストの顔面に叩き込んだ。その間に他3人の翔者が少しでも先に進もうって感じですっ飛んで行った。ザフィーラもまた無敗の拳闘士って名高い騎士だ。下手に手を出して返り討ちに遭うのが恐いと見た。
『なあ、ランサー。・・・ラン――・・・っと、思念通話はジャミングで使えないんだっけか』
モニターから得られる情報を思念通話で翔者に伝えてズルが出来ないようにするためって話だ。こんなところで律儀なんだもんなぁ。
(ま、ザフィーラが1位通過しなくてもルシルが追い上げるから心配しなくてもいいか)
アイツに狙われたら最後。もうどこにも逃げられねぇ。だからザフィーラ。そんな奴、徹底的にブッ倒しちまえ。モニターに映るザフィーラはテンペストの攻撃を余裕で全ていなして、次々とカウンターを食らわせていく。空戦特化って話だったけど、なんてことはない。ザフィーラの方がずっと強ぇ。
「くそっ、もうソイツに構うなテンペスト! 早くここに来いっ!」
ホーカーの第二翔者、タイフーンが怒鳴り散らす。あたしはその様子を鼻で笑ってやる。ザフィーラの勝ちを確信して、先行してる他3人が映ってる別モニターを観る。トップ3は峡谷内に張り巡らされている岩の尖塔に苦労しながらここに向かって飛んでいる。そんなトップを飛んでた3人に変化が訪れた。先行してた1人が岩陰に隠れて、ソイツは自分に気付かずに通り過ぎた2人に向かって砲撃をぶっ放した。
『おおっと! チーム・死を呼ぶ銃士隊のウッズマンが奇襲!』
ウッズマンって奴は拳銃型のデバイス2挺から魔力弾を撃ち続けて、攻撃を加えた2人にトドメと言わんばかりに攻撃を加え続けた。そんであらかた撃ち終えた後、飛行を再開した。けど黒煙の中から墜とされたと思った2人が無傷で飛び出してきて、ウッズマンと戦闘を開始。ウッズマンの仲間と、墜とされかけた2人の仲間があたしのすぐ側で汚い言葉で罵り合い始めた。
『やや! ここでガーダーがウッズマンとの戦闘行為を中断し、ようやく飛行開始だ!』
ザフィーラは上手くテンペストを撒いてようやくスタート。テンペストも鼻血を拭きながらもスタート。かと思えば、ザフィーラは急反転して背後から迫って来ていたテンペストに回し蹴り。それを両腕ガードで防いだテンペスト。だけど奴の身動きが一瞬止まったその隙に、ザフィーラは鋼の軛を発動。テンペストを貫いて捕縛した。
『おおっと! ガーダーの魔法が直撃! テンペストは大丈夫か!?』
「テンペスト!!」
タイフーンが目を見開いてモニターに映る奴の名前を叫んだ。あたしは「先に仕掛けてきたテメェらの自業自得だ」って言い放ってやる。ザフィーラはいつものようにリンカーコアを回収するためにテンペストの胸に腕を突き入れて、そんで勢いよく引き抜いた。と同時に鋼の軛を解除、テンペストを足元に在る尖塔の上に墜とした。
『なんと! ガーダーがテンペストのリンカーコアを引き抜いた!・・・そして、ガーダーは飛行を再開! それに対しテンペスト、身動き1つありません! これは大丈夫か!?』
あたしと同じ第二翔者全員がぐったりとして動かないテンペストの様子に唖然としてる。あたしはぐんぐん飛行速度を上げてくザフィーラを見守る。にしてもザフィーラも大変だよな。狼形態になりゃもっと身軽に動けるのに。けど狼形態は見せられねぇ。あたしらのホーム、はやての家の在る世界は管理外世界だけど、万が一にもパラディース・ヴェヒターの事を知る管理世界の奴らが来た時、ザフィーラの狼形態からあたしらの事がバレちゃ笑い話にもなんねぇ。
『医療班がテンペストの元へ向かいます。・・・・えー、医療班から報告が入りました。テンペスト、意識喪失により飛行続行不能! この場合、脱落宣言し失格となるか、第二翔者が最下位スタートするか、選べます』
「最下位スタート!」
タイフーンがあたしらを見張ってる主催者側の人間らしき黒服に向かって大声で宣言すると、その黒服はモニターに向かって何か喋り始めた。そして黒服は「続行を承認しました」って言って、タイフーンの最下位スタートを認めた。これでコイツはあたしがスタートしてから30秒後にスタート出来るようになったわけだ。
『おおっと!? リードしていた3チームによる戦闘に決着がついたようです! 戦闘を仕掛けたチーム・ガン・コールズ・デスのウッズマンが尖塔の1本に墜落! チーム・ハンド・オブ・グローリーのリトル、チーム・ロストエンパイアのバロン・ジョゼフもまたダメージを負っているようだが、それでも飛行を再開! 上位2組はこの両チームで決まりか!?』
1レースにおける勝者は1位から3位までで、4位と5位は脱落。脱落チームはこのデスペラードパーティが終わるまでどこかに幽閉されるって話だ。そして次のレースで1位を決めて、2位と3位は脱落。このままウッズマンが飛行再開しないでザフィーラに追い抜かれたら、3位であたしと交代だ。そしたらあたしは上位2位のアイツらをぶっ潰して終わりだ。
『チーム・ハンド・オブ・グローリーのリトル、チーム・ロストエンパイアのバロン・ジョゼフが第二翔者の待つ、シフトゾーンへ到着! リトルからリングへ、バロン・ジョゼフからカウント・ヘンリーへ!』
先に到着した2チームの第一と第二の翔者がタッチを交わした。これが交代の合図だ。
「先に行かせてもらうぜ、ローマン」
「あばよ」
「くっ・・・!」
戦闘を仕掛けておいて返り討ちになったウッズマンの仲間に中指を立てた2人は崖の縁から飛び降りてコースの指定されてる高度90m以内に進入、第三翔者の待つシフトゾーンを目指して飛んで行った。それを見送るしかなかったローマンって奴は聞こえるくらいに歯軋りして「クソがッ!」叫んだ。モニターに映るローマンの仲間、ウッズマンはまだ動かない。と、「おお来た、来た」ザフィーラがウッズマンの所に来た。
『ここでチーム・パラディース・ヴェヒターのガーダーが元・先頭組のウッズマンの元へ! これはもしや先程と同じように・・・?』
ザフィーラはウッズマンの存在に気付いて急降下。ローマンの顔が一気に青褪める。そうさ。それこそあたしらの目的なんだから。
『おお!? ガーダーがウッズマンの胸部に腕を突き入れ・・・リンカーコアを引き抜いたぁぁぁ!!』
飛行を再開したザフィーラの映るモニターを横目に峡谷内を見下ろす。ローマンもまたタイフーンと同じように最下位スタートを宣言してるのを聞きながらザフィーラが姿を現すのを今か今かと待つ。っと、折り重なるように崖から生えてる尖塔の隙間からザフィーラの姿が見えた。
『ここでついにガーダーがシフトゾーンに到着し、第二翔者、見た目は幼いながらもその攻撃力は圧倒的と名高い鉄槌騎士、バスターと交代!』
「すまぬ、バスター。少し遅れてしまった」
「気にすんな。つかよくやったよ。リンカーコアを2つも手に入れたんだからさ。あとは安心して待ってろ。あたしが追いついて、そんでもってリンカーコアを奪ってやっからよ」
ザフィーラとタッチを交わして、あたしは崖の縁から飛び降りる。
「そぉら、行くぜッ!!」
ルシルの待つ第三シフトゾーン、そして先を行く2人を目指して、あたしは全力で空を翔ける。
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