Element Magic Trinity
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残り6人
『ゲーム終了までの時間は、あと1時間半』
「汚ーぞラクサス!」
「そーだそーだ!」
ラクサスの言葉にナツとハッピーが噛み付く。
「ぬうぅ・・・」
『リタイアしたければギルドの拡声器を使って街中に聞こえる様に宣言しろ。妖精の尻尾のマスターの座をラクサスに譲るとな』
マカロフが唸る。
『よーく考えろよ。自分の地位が大事か、仲間の身が大事か』
「待ちやがれ!」
ブォォン、とラクサスの思念体が大きくブレる。
ナツが駆けだし―――――――
「ぬおっ」
拳を振るった。
が、すかっと空を切る。
「んがーっ!」
「思念体って言ったじゃん」
どうやら怒りすぎて思念体だという事をすっかり忘れていたらしい。
ずごごーん、と勢い良くギルドの床をスピンする。
「くそっ!俺と勝負もしねぇで何が最強だ!マスターの座だ!」
ズッコケて頭を下にした状態でナツが喚く。
「マスターの座など正直どうでもよい」
「いいのかよ」
マカロフの発言にバランスを崩して倒れ込む。
「だが・・・ラクサスに妖精の尻尾を託す訳にはいかん。この席に座るにはあまりにも軽い。信念と心が浮いておる」
そう言うマカロフの目は鋭い。
マスターのいう大きな立場にいるには、ただ強いだけではいけないのだ。
「でも、このままじゃ・・・皆が砂になっちゃう」
「えーい!誰かラクサスを倒せる奴はおらんのかっ!」
「俺だよ俺!」
「ここから出れんのじゃどうしようもなかろう」
口論するナツとマカロフ。
すると、術式から小さい音が零れる。
【ライアーVSフリード:戦闘開始】
2人は睨み合う。
片方はレイピアを構え、もう片方は槍を構えて。
「ジャスティーン。貴様の術式のせいで、起こる必要のない争いが多々起きた。貴様はその魔法の腕を使用する場所を間違えている。今ここで貴様を倒せば、無意味な争いに終止符が打てるだろう!」
項より少し上で1本に結えた黒髪を揺らし、ライアーはフィレーシアンを握りしめる。
「・・・いいだろう」
その強い意志の篭った目を真っ直ぐに見つめ、フリードも戦闘態勢を取る。
静寂が流れ―――――――先手を打ったのはライアーだった。
「ハアァアッ!」
「っ・・・」
槍の形状のままのフィレーシアンを縦に勢いよく振るい、斬りつける。
それを紙一重で避け、ある程度の距離を取った。
避けられたライアーは器用に宙を舞い、地に足を付ける。
「さすがに純粋なる攻撃は喰らわんか・・・ならば!」
小さく地を蹴り、跳び、フィレーシアンを一瞬でレイピアへと変える。
「漆黒連斬!」
吼え、縦にレイピアを振るう。
「くっ・・・」
「まだ終わらんぞ!」
至近距離の攻撃に顔を歪め距離を取るフリードに向かって跳び、今度は横に振るう。
その状態から宙を一回転し、落下しながら空にレイピアを振るった。
「常夜!」
叫び、着地する。
と同時に小規模の闇が発生し、フリードを包んだ。
・・・かのように見えた。
「中々だ。だが・・・隙がある」
フリードは間一髪のところで避けていた。
立ち上がり、真っ直ぐにフリードを見据えるライアー。
「なるほど。習得途中の攻撃は当てにならんか」
呟き、構える。
(奴は雷神衆のリーダー、つまりはビックスローやエバーグリーンをも超える実力があるのだろう・・・術式だけで強くなれるとは思えん。何かを隠している・・・攻撃系であり、術式に似た文字系の何か・・・マクガーデンと同じ立体文字か?)
思考を巡らせながら、その目に戦いの意志を宿らせる。
そしてふと、地面に目を落とし・・・僅かな笑みを浮かべた。
(そうか。ならば・・・!)
ライアーはフィレーシアンを槍へと戻し、その切っ先を地面に突き刺す。
「?何を・・・」
予測不能、理解不能、意味不明なライアーの行動にフリードは首を傾げる。
突き刺さったフィレーシアンの切っ先に魔力を込め、ライアーは吼えた。
「魔滅連斬!」
その瞬間、地面の何か所かが淡い紫の光を帯びる。
左手でフィレーシアンを握り、右手をゆっくりと上げ―――――――
「破!」
一気に光を消滅させた。
光は強く発光し、空に吸い込まれるように消えていく。
「なっ!?」
「これで対等だ、ジャスティーン。貴様が仕掛けた術式は俺のいる場所から一定範囲内には存在しない」
魔滅連斬。
切っ先を突き刺し魔力を込める事で、術者を中心とした一定範囲内の設置型魔法を全て消し去る。
「何故、術式があると解った?」
「俺の武器、フィレーシアンには魔力探知の能力がある。術式が存在するか否かは俺には解らんが、フィレーシアンを突き刺せば一発で判断出来る。これで小細工は無し、対等なる戦いが出来るぞ」
抜いたフィレーシアンの切っ先をフリードに向け、鋭い光を目に映すライアー。
その言葉にフリードは暫し目を伏せ――――――――
「いいだろう。ここからは小細工無し、真正面からお前を叩き潰す」
その目に、鋭い光を宿した。
「っ・・・!」
その鋭い、刃のような光にライアーは軽く身震いする。
身震いを押さえるようにフィレーシアンを強く握りしめ、息を短く吐いた。
(奴が術式以外に何をしてくるかは解らん。ただでさえ関わる事が無く、ギルドに顔を出す事さえも少ない男だからな・・・ここは得意の接近戦で!)
近・中距離の戦いを得意とするライアーは一気に地を蹴り、距離を詰める。
「白銀連斬!」
そしてフィレーシアンを振るい、その腹を横一直線に斬り付けた・・・はずだった。
(手応えが・・・ないっ!?)
今、自分はフリードの後ろにいる。
つまり、確実に斬ったはず。
が、ライアーには手応えが全くなかった。
「この程度か」
「!」
聞こえてきた声に振り返ると、そこには無傷のフリードが立っていた。
「ん?」
外した、と顔を歪めていたライアーは、自分の右肩辺りに描かれた文字に目をやる。
描いた覚えは勿論ない。
「闇の文字・・・痛み」
フリードが小さく呟いた、瞬間。
「ぐっ・・・があああああああああああああっ!」
ライアーが苦しげな叫び声を上げた。
体に激痛が走り、フィレーシアンを握る事さえ不可能になる。
「闇の文字・・・」
フィレーシアンを地に落とし、必死に激痛を押さえようとするライアーにフリードは歩み寄り――
「苦しみ!」
その体に、新たな文字を描いた。
「ぐああああああああああっ!」
激痛と共に己を襲う攻撃に、ライアーは膝をつき、倒れる。
その姿を見下ろし、フリードは無言でその場を去ろうとし―――――
「待て・・・ジャス、ティーン・・・」
「!?」
背後から聞こえてきた声に驚愕し、振り返る。
息を切らし、体中に痛々しい傷を作ったライアーが・・・立っていた。
「俺は、貴様を・・・倒さねば・・・ならない・・・無駄、な争い・・・ほど・・・アイツが好まん、物は・・・ない・・・カハッ・・・」
必死に立ち上がろうとするが、ライアーは力尽き倒れ込む。
「バトル・オブ・フェアリーテイル、残り28人」
【ライアーVSフリード】
【勝者:フリード】
「そんな・・・ライアーも負けちゃった・・・」
ハッピーが呟く。
「やっぱ俺が行くしかねーだろ!」
「お前は出られんじゃろう」
ナツとマカロフは更に口論する。
すると、硬いもの同士が当たるような音が響いた。
ガサゴソと、バーカウンターの方から音がする。
「誰!?」
コトン、とネジが1本転がった。
そっちに3人の視線が向かい、物音の主はひょこっと顔を出す。
「ガジガジ・・・」
「ご機嫌麗しゅう」
顔を出したのは鉄製の食器を食べるガジルと、当然のように鉄やら釘やらで溢れたバケツを持つシュランだった。
「お前らー!」
「食器を食べんなー!」
「鉄はガジル様の食糧ですわ」
そう返すシュランを残し、ガジルはヒョイッとバーカウンターを超える。
「も、もしや・・・行ってくれるのか?」
マカロフの問いに、ガジルは薄い笑みを浮かべる。
「あの野郎には借りもある。まあ・・・任せな」
「おおっ!」
そう言ってガジルはラクサスを倒す為ギルド入り口に向かい―――――――
「!」
―――――出られなかった。
ゴチーン、とナツやマカロフ同様に術式に直撃したのだ。
「「「お前もかーっ!」」」
「な、何だこれはー!」
「あら?この術式から脱出不可能なのは80歳を超える方と石像だけでは?・・・まさかガジル様、その見た目若さにして80歳超えてらっしゃるのですか?」
「んな訳ねーだろうが!」
この状況に置いて戦力になりそうなナツとガジルが出られない事に戸惑う一同。
「つか、シュランは行かねーのか?」
ナツがそう問いかけると、シュランはビクッと震え、俯いた。
「・・・あの方は、恐ろしい方です。無慈悲な暴力を抵抗なく振るう・・・」
そう。
シュランは、以前ガジルに対し容赦など存在しない暴行を加えたラクサスを恐怖の対象にしていた。
まあ、目の前であれ程に遠慮や容赦のない一方的すぎる暴力を見てしまえば、恐怖するなという方が難しいだろう。
「ですが・・・」
若干弱く震える声を発し、シュランはガジルに向かって跪き、頭を垂れる。
「ガジル様がラクサス様討伐を私に命じられるのであれば、その命に従い討伐に赴くまでですわ」
爆発が起こる。
とある建物の前には倒れる多くの魔導士達。
その建物の屋根の上には、エバーグリーン。
「あ~ら、弱いのね」
「うわぁあぁ!」
「ひいいい!」
別の場所では、2人の魔導士が追ってくるトームマンから逃げていた。
「よせ!ビックスロー!仲間じゃねーか!」
ナブが振り返り、叫ぶ。
収穫祭の装飾に足を引っ掛け、逆さま状態のビックスローは笑みを浮かべた。
「仲間?弱い奴は仲間じゃないよ。なァ、ベイビィ!」
「ぐああああっ!」
そう言って手を広げた瞬間、爆発が起こった。
建物に凭れ掛かるようにして歩くアルザック。
すると、その前に1人の魔導士が現れる。
「フリード」
現れたのは、先ほどライアーを倒したフリード。
「お前の術式のせいで・・・僕は仲間をキズつけすぎた。ビスカを元に戻す為だと自分に言い聞かせながら」
そう言って、カッと目を見開く。
「銃弾魔法、台風弾!」
構えた2丁の銃から、2つの台風が吹き荒れる。
それに対してフリードは無言のままレイピアを抜き、台風を切り裂いた。
「風の魔法弾が・・・切り裂かれた!?」
アルザックは驚愕する。
フリードは涼しげな無表情でアルザックを見つめた。
「ぐほっ!」
その瞬間、アルザックに異変が起こる。
「な、何だこれは・・・ぐっ・・・息が・・・うぶっ・・・」
喉を押さえ、呻き声を上げる。
「お、お前・・・術式以外にも妙な魔法・・・を・・・ぐふっ、うぁあ!がっ・・・」
喉を押さえたままアルザックは膝をつき、倒れる。
カシ、と小さく音を立て、フリードはレイピアを閉まった。
スゥゥゥ、とローグ文字が現れる。
【ルール;この術式内の者、魔法を使用した方の酸素を奪う】
「俺は術式を最も効果的に利用しているにすぎん。俺のルールの中で誰が創造主に勝てるものか」
アルザックに背を向け、フリードは呟く。
「バトル・オブ・フェアリーテイル、残り3人か・・・」
「残り3人だけじゃと!?」
マカロフが驚愕する。
ナツとガジルはというと。
「何でお前まで出れねーんだよ、マネすんじゃねー!」
「知るか」
「ハラ減ってきたじゃねーかコノヤロウ!」
「それは本当に知らんわ!」
こんな状況にも拘らず、口喧嘩していた。
「3人?」
マカロフは後ろで口喧嘩するナツとガジルに目を向ける。
「こいつ等とクロスだけじゃとーーーっ!?」
「オイラは頭数に入ってなかったのかー!」
「私が入っていないのは、参加する意思がないからでしょうか」
残っているのは相性最悪のナツとガジル、そして未だ外で戦っているクロスだけと知り、マカロフは驚愕する。
ハッピーは自分が最初から人数に入っていない事にショックを受け、シュランは冷静に呟いた。
(同士討ちや雷神衆の手によって妖精の尻尾の魔導士が全滅したと言うのか!?唯一外に出られるクロスも、もう力が残っているとは思えん。戦える魔導士はもういない・・・ここまでか・・・)
マカロフが諦めかけた瞬間。
「仕方ねぇ、エルザとティアを復活させるか!」
「「「何!?」」」
「何を仰っているんです?」
「あーあ。せっかく2人を見返すチャンスだったのになァ」
ナツがとんでもない言葉を口にした。
当然、ナツ以外の4人は驚愕する。
「ちょ、ちょっと待たんかいっ!お前・・・どうやって・・・!?」
マカロフの問いに、ナツは当然と言った様子で言い放つ。
「燃やしたら溶けんじゃね?石の部分とか」
「やめーーーい!」
信じられない程にさらりととんでもない事を言ってのけるナツ。
そんなナツを必死に止めようとするマカロフだが、既にナツは行動していた。
「やってみなきゃ解んねぇだろ。まずはエルザだな」
「解るわい!よせっ!エルザを殺す気か!」
「ナツ様!火で擦るのをお止め下さい!」
「つーか、てめ・・・手つきエロいぞ・・・」
マカロフとシュランの制止を振り切り、石となったエルザの体を火で擦るナツ。
すると。
《パキッ》
「「「「「・・・!」」」」」
聞こえたくない音が聞こえた。
エルザの額にヒビが入っている!
「しまったー!割れたー!ノリだノリ!ハッピー!ノリー!」
「あいさー!」
「バカヤロウ!そんなんでくっつくか!?俺の鉄をテメェの炎で溶かして溶接するんだ!」
「いえ、ガジル様が自らの鉄を差し出す必要はありませんわっ!ここは私の蛇でどうにか!」
「貴様らーーーーっ!」
ナツがあたふたとし、ハッピーがノリを持って来る為に飛び、ガジルが自分の右手首辺りまでを鉄に変え、シュランが右手に魔法陣を展開させ、マカロフが叫ぶ。
一同が大混乱でドタバタしている間にも、エルザのヒビはどんどん大きくなっていく。
「ひぁーーーーーっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
ヒビ割れていくエルザに向かって必死の謝罪を繰り返すナツ。
そして、バキィン、と音がした。
「あら?」
シュランが首を傾げる。
エルザは――――――割れてなどいなかった。
石化すらも解け、むくっと起き上がっている。
「熱い・・・お前か、ナツ」
その表情を怒りに染めながら、エルザは立ち上がり――――
「何をするかーーーー!」
「ぐほぉ!」
「ギヒャ!」
近くにいたガジルを巻き込んでナツを殴り飛ばした。
「エルザが復活したーーーーーー!」
ハッピーが歓喜の声を上げる。
「エルザ・・・しかし、なぜ・・・」
「それが私にも・・・もしかしたら、この右眼のおかげかもしれませんが・・・」
それを聞き、マカロフは思い出す。
エルザは奴隷時代に右眼を潰され、今はポーリュシカが精巧に作った義眼なのだと。
(そうか!義眼が目から受ける魔法の効果を半減したのか!)
今回はその義眼が役に立ち、エバーグリーンの魔法を半減させ、半分石化状態になっていたのだ。
「エルザ・・・今の状況分かる?」
「ああ・・・全て耳に入っていた」
意識のある石像になっていたエルザは全てを知っていた。
(いける!反撃の時じゃ!)
マカロフの中に希望が生まれた。
「よし!じゃあ次はティアを復活させるか」
「待て、ナツ」
続けて戦力になるティアを復活させようとしたナツだが、エルザに止められる。
「んだよエルザ」
「考えてもみろ。私は右眼のおかげで魔法の効果が半減していたから石化が解けた。だが、ティアの目は義眼じゃない。完全な石化状態にあるんだぞ。そのティアを私の時のように復活させようとしたら、確実にティアは崩れる」
「!」
エルザの言葉にナツの手から炎が消える。
すると、近くでのそっとアイスブルーが動く。
「・・・む」
「ヴィーテルシア!」
それは、ずっと寝ていたヴィーテルシア。
器用に目を擦り、ステージに目を向け、紫の目を見開いた。
「なっ・・・ティア!石か!?何故動かん!何があった!俺が眠っている間に!」
「実は・・・」
慌てふためくヴィーテルシアにハッピーが説明する。
最初はいつも通りの表情をしていたヴィーテルシアだが、徐々にその顔は険しくなっていく。
「なるほど・・・そのラクサスという男が全ての首謀者か。愚かな・・・」
呟き、くるっとギルドの入り口に向かって歩いていく。
「どうした?ヴィーテルシア」
「如何もこうもない!愚かな争いに終止符を打ってくるまでだ」
不機嫌そうに言い放ち、外に―――――――
「む」
出られなかった。
言うまでもなく、術式に引っかかったのである。
「何だこれは。俺の行く手を邪魔しようと言うのか・・・」
「ヴィーテルシアは石像じゃないし・・・80歳越え?」
「失礼なっ!俺はまだ若いぞ!少なくともマカオやワカバよりはな!」
つまりは36歳より下、という事だ。
「それによ・・・コイツが出ても残り人数変わらねぇぞ?」
「え?」
確かに、残り人数は先ほど同様3人。
エルザがカウントされていないのは、カウントまでに時間がかかるという事だろうか。
「俺は頭数に入っていないというのか?」
むっとしたように呟くと、入り口から離れ、苛立たしげに近くの椅子を蹴っ飛ばす。
そして、鼻をひくつかせた。
「どうしたの?」
「匂いが近づいて来る」
ヴィーテルシアがそう言った瞬間―――
「マ、ス・・・ター・・・」
掠れた声が響いた。
出入り口から聞こえる声に全員の視線がそっちに向く。
「クロス!?」
そこにいたのは、体を近くの壁に凭れ掛からせ、肩で息をし、全身に幾つもの傷を負い、所々出血しているクロスだった。
姉と同じ白い肌や整った顔は傷でボロボロになっており、バロンコートもズタズタになっている。
「クロス、お前・・・!」
「すまない・・・マスター・・・俺は、ドレアーと雷神衆を1人も見つけられなかった・・・そして・・・多くの、仲間を・・・この手と、剣で傷つけ・・・!」
悔しそうに顔を歪めるクロス。
「よい、気にするな。今はゆっくり休むんじゃ、クロス」
「悪いが・・・それは出来ない・・・」
クロスはマカロフの言葉をすぐに拒否すると、その青い目を真っ直ぐマカロフに向ける。
「頼みます・・・『あの剣』の使用を認めてください・・・」
「!」
それを聞いたマカロフは驚愕し、目を見開いた。
「ダメじゃ!『あの剣』は認めん!」
「だけど!『あの剣』でないと、俺は姉さんを救えない・・・!『あの剣』さえ使えれば、雷神衆にも勝てる可能性があるんだ!頼むマスター!」
「バカを言うでないっ!『あの剣』はただでさえ魔力消耗が激しく、一振りするだけでも凄まじい体力を消費する!今のお前の状態で使っては、確実に命に危険が及ぶ!」
が、クロスは頑なに首を横に振る。
「俺がどうなろうと構わんっ!姉さんが無事ならそれでいいんだ!」
「いい訳ないじゃろうが!何を言うかバカタレ!」
「だが・・・今の状態の俺ではドレアーは勿論、雷神衆にも勝てない・・・それでは、姉さんが・・・っ!」
奥のステージで石化しているティアに目を向け、ぎゅっと拳を握りしめる。
常に涼しげで『爽やか』という言葉が似合いそうな―――勿論それは怒っている時もだ―――表情は悔しさに歪み、自分の力不足、不甲斐なさに怒っているようにも見えた。
「なるほど」
そこに、至って冷静な声が響く。
声の主、シュランは淡々と言葉を紡いだ。
「でしたら、私がティア様を救出致しましょう」
「え?」
クロスが顔を上げる。
「ティア様には以前、面白い話を聞かせて頂きましたから。そのお礼と思えば容易い事ですもの」
そう言って、ローズピンクの髪を耳にかける。
そして、真っ直ぐにクロスを見つめた。
「ご安心を。嘗てはギルド最強と評された事もありますから、簡単に敗北する気はありませんわ」
「・・・そうか」
その言葉に、クロスの顔に薄い笑みが浮かぶ。
「姉さんを・・・いや、姉さん達を・・・頼んだ、ぞ・・・」
呟き、意識を手放してゆっくりと目を閉じ倒れる。
「クロス!」
「安心せい。気を失っているだけじゃ。ハッピー、ヴィーテルシア。クロスを医務室まで運んでくれんか」
「あいさー!」
「任せろ」
慌てて駆け寄ったナツを安心させるようにマカロフが言う。
頼まれたハッピーはクロスを掴んで飛び、ヴィーテルシアの背に乗せる。
そのままクロスが背から落ちないように見張りながら、2匹は医務室へと向かっていった。
【クロス:戦闘不能】
【残り4人】
「私とシュランが加わった事で残り人数も律儀に変わるという訳か。凝った事を・・・」
「この4人はナツとガジルとエルザとシュランの事だね」
表示された情報を見て、エルザとハッピーが呟く。
【残り5人】
すると、人数が1人増えた。
「!」
「増えた」
「誰だ!?」
「皆様石のままですが・・・一体・・・」
突然増えた残り人数に戸惑っていると、エルザがクスッと微笑む。
「どうやらあの男も参戦を決めたか」
妖精の尻尾最強の男候補―――ミストガン。
一方・・・マグノリアのとある場所で、魔法陣が展開していた。
「よ・・・っと。もう大丈夫かな?」
魔法陣から姿を現した人物はきょろきょろ辺りを見回し、誰もいない事を確認する。
(にしても、まさか上手くいくとはね。どうしてもティアとルーシィを助けたいから、仲間同士で戦う事にならない様に気配と存在を魔法で消してたら、残り人数が一桁になるなんてさ。しかも外に出てるのはエルザとシュランだけみたいだし・・・ま、大丈夫かもね)
その人物は髪を揺らし、街中を駆ける。
「待っててねルーシィ、ティア・・・僕が助けてあげるから」
【残り6人】
いつの間にか残り人数が増えている事に、誰も気づかなかった。
後書き
こんにちは、緋色の空です。
・・・ふと考えた。
ティアが元雷神衆で、抜けた事でラクサスと仲が悪い、とか!
だからラクサスを崇拝するフリードと戦う、とか!
・・・ありがちですね、すいません。
何となくティアとフリードを戦わせたい、と思う緋色の空さんでした。
感想・批評・投票、お待ちしてます。
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