孤高の反逆因子
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孤高の反逆分子
前書き
寒い………
男が感じる感覚は己を蝕もうとする死の恐怖と寒さだけだった。
昨日の事がまるで夢のように感じる
右に最愛の妻、左に愛するわが子そんなささやかだが大切な幸せに囲まれていた………昨日までは
今男の目には昨日まであった幸せな景色は写っていない
最愛だった二人だったものが今男の前に無造作に投げ捨てられていた
男にはもはや自分の身に何が起きているのか判断する余裕は残っていない
今男の部屋は吹雪で包まれていた………
通常ではありえない物理現象の無視
しかしこの世界ではたった一つだけこの馬鹿馬鹿しい現象をいとも簡単に発生させるモノが存在する
男の部屋だった四角く囲まれた立方体の中に何かがいる
それは人類を滅亡寸前まで追い込んだ禁忌の術によって造られた魂を持たない合成生物
「キメラ………」
男がつぶやいた次の瞬間には男の意識は荒れ狂う吹雪に揉み消された
「暑い………」
少年の口からそんな言葉が発せられる
ちらりと部屋の隅に置かれた温度計を眺めてみる
41度そんな数字を無情にも温度計は表示していた
「ふざけんな、なんだこの温度。俺を溶かす気かよ!」
外を窓から眺めてみると陽炎がコンクリートの道路を霧のように覆っていた
「暑い………」
もう一度少年は同じ言葉をつぶやいた
だがそんなことで温度という物理現象が変化するはずもなく容赦ない太陽光が少年の黒髪をチリチリと熱していた。
5畳半のアパートの一室は亜熱帯と化していた
ちらっと時計を見る
12時30分
「なんか作るか」
ぼそっと呟き少年は昼ご飯を作るためごそごそと動き出した
冷蔵庫を開けて中を確認する
「冷やし中華でも作るか」
少年はぼさぼさにはねている黒髪をがりがりと掻き毟りながら冷蔵庫をあさり始めた
20分後、少年の前には氷によってキンキンに冷やされた冷やし中華が置かれていた
「いただきます」
律儀に箸を持って手を合わせながら少年はいつもの言葉をぼそっと言った
15分後少年の前の冷やし中華は跡形もなく食べつくされていた
「ふー食った食った」
少年は満足げに冷やし中華の入っていた皿を台所まで歩いて行って洗い始めた
「………暑い」
冷やし中華を食べた後少年はしばらくその場で読書をしていた
しかしあまりの暑さについに本を閉じてから
「外にでも出るか」
と言って45度を超えた自室の扉を自らあけて外に出て行った
「おーい、サキいるかー」
少年は自らが暮らしている「稲城荘」の一室215番の部屋の扉をたたいた
このおんぼろアパートにはインターホンというものが存在しない
どうも今のオーナーが長屋というものに憧れていたらしくインターホンという曖昧なものを嫌い部屋に入る前に必ずノックをすることをアパートの住民全員に強制させることになったらしい
「おーい、サキー、いないのか勝手に入るぞ」
ノックしても返事がせず外のあまりの暑さに耐えられなくなった少年は勝手に部屋に入ることにした
部屋の中にはベットの中に眠る一人の少女がいた
年齢は少年と同じぐらいで16歳ぐらいだろうか、閉じられた二つの瞳は整った顔をより引き立てていた、幸せそうに寝ている横顔もまた可愛らしいと言えるだろう
少年は少女の幸せそうな寝顔を見つめながら無造作に
「フンッ」
布団をひっくり返した
「ギャフ」
少女の口から女の子とは思えない悲痛な声が漏れる
少女は布団から転げ落ちた後周りをきょろきょろ見回して少年の姿を見つけると細い目を一層鋭くして
「何すんのよ!」
と少年を怒鳴りつけた
「なんだよ、てめえが起きるのが遅いのがいけねえんだろ」
少年はなぜ怒られたのか分からないといった様子で少女に言い返した
「何よ!乙女の大事なプライベートルームに勝手に入って、しかもいたいけな女の子が寝ている布団を剥ぐなんていったいどういう了見よ!」
「ギャーギャーうるせーな。俺はちゃんと部屋はいる前にノックもしたし返事がなかったから勝手に入っただけだ。大体何度もお前の部屋には来てるんだから別に問題ないだろ。」
「そういうことを言ってるんじゃないの!大体あんたはデリカシーってもんがないのよ。ちょっとは乙 女心を理解しようとしなさいよ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。お前に乙女心なんかねえだろ。がさつだし、乱暴だし、おまけにだらしないときた。これで乙女のようなデリカシーさがあるとでも」
「ウッ しょ…しょうがないじゃない。このだらしなさはお母さん譲りなんだし……って大体あんただってだらしないじゃない」
二人が言い争っていると少女のおなかがお昼を過ぎたことを感じ大きな音を立てた
「あ………」
少女の顔が赤く染まる
「ふっ、やはりお前に乙女心を語るには早かったようだな」
「そ…それとこれとは関係ないでしょ。でもおなかすいたな、ねーえ一輝くーん、この哀れな少女に食べ物をめぐんでー」
「金とっていいか?」
「そこをなんとか、お代官様ー」
「ッたく、後でなんかおごれよな」
「さっすが一輝さん、話が分かる!」
そんなこんなで霧谷 一輝は、幼馴染の穂波 沙希のため昼食を作り始めた
一輝が昼食を作っている間、沙希は最近はまっているアクションゲームを始めた
30分後テーブルの上にはありあわせのもので一輝がつくった冷やし中華が氷に冷やされながらおかれていた
キンキンに冷えている冷やし中華はありあわせのもので作ったとは考えられないほどおいしそうだった
「うわー、おいしそー、さすが一輝。料理を作らせたら右に出る者はいないわね。」
沙希がアクションゲームを程よいところでセーブし冷やし中華にまで近寄って一輝の料理の腕を褒めちぎった。
「そ…そうか、ならいいんだ」
唐突に褒められて戸惑っている一輝を見て沙希は笑顔になりながら
「うわー照れてる、照れてる。可愛いー」
茶化した。
「う…うるせー、さっさと食え!温まっちまうぞ。……ん、そういえばこの部屋涼しいな」
一輝が言った通り、この部屋は一輝の部屋よりも7度ほど涼しかった。部屋の壁にかかっている温度計も35度前後をさしていた。
「ふっふっふ」
すると突然、沙希が怪しく笑い始めた。
「よくぞ言ってくれました。実は一昨日に、念願のクーラを買ったのよ」
沙希はにこやかにほほ笑みながら押入れの障子をガバッと開いた
そこには1台の静かな振動音を響かせるクーラが冷たい風を出していた
「あっ…沙希てめえ、裏切ったな。俺とおまえで交わした盟約を忘れたのか。第六条 共に貧乏を貫き贅沢をしない。忘れたとは言わせないぞ」
「今更そんな約束が効果を持っているとでも、甘いのよ。大体もうクーラは取り付けちゃったしもう手遅れよ。一輝は暑い部屋で苦しみながら今年の夏を過ごしなさい」
「ふ…ふざけやがって、約束破りの罪だ。そのクーラ俺によこせ」
そう言いながら一輝は、取り付けられたクーラを力ずくではがそうとクーラに手をかけて力を籠め始めた。
「…あ、バカ!何してんのよ。さっさとその
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