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万華鏡

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第五十一話 文化祭開幕その六

「それで一杯あるから」
「書記さんのお兄さんですか」
「困った兄貴でね。いつもインスタントラーメンで不採用になったのをお家に持ってきて家族に食べろっていうのよ」
「有り難いことなんじゃ」
「美味しいものならね」
 それならというのだ。
「けれどね。不採用になったのばかりよ」
「ということは」
「中には凄いものがあるから」
 その味がだというのだ。
「もうね、何でこんなの作ったのってのが」
「あるんですか」
「例えばね、今はないけれど」
 書記は激辛ヌードル、試作品だったそれを食べながら言う。琴乃はその書記と話しながら里香達のところに座った。
「激甘ラーメンとかね」
「激甘ですか」
「そう、中に蜂蜜を入れた」
「ラーメンに蜂蜜ですか」
「普通ないわよね」
 困った顔でだ、書記は琴乃に返す。
「幾ら何でも」
「そうですね、幾ら何でも」
「酷い味だったわ」
 その蜂蜜ラーメンの味はというのだ。
「あとカップカカオうどんとか」
「おうどんにカカオですか」
「これも凄かったわ」
「八条食品ってそんなのも開発してたんですか」
「不採用になったのの中にはね」
 そうしたものもあったというのだ。
「それでそれをね」
「書記さん達はですか」
「食べたというか食べさせられたのよ」
 実に嫌そうな顔での言葉だった。
「お兄ちゃんが食えっていうから」
「ひょっとして開発したのは」
「そう、お兄ちゃんよ」
 他ならぬだ、彼女の兄自身がそうした大失敗のラーメンの開発者だというのだ。
「うちのお兄ちゃん昔から何でも当たれば大きいけれど」
「外したらですな」
「安定感ないのよ」
 つまりムラッ気が強いというのだ、世の中こうしたタイプもいるのだ。
「調子のいい時はもう世界は自分のものだっている位で」
「調子が悪いとですか」
「そう、さながらね」
 どうかとだ、ここで書記が出す名前は。
「新庄さんみたいなのよ」
「あの人のバッティングですか」
「そんな感じなのよ」
 調子が悪い時はどうしようもないというのだ。
「それが開発しているラーメンにも出るのよ」
「まずいものは徹底的にまずいんですね」
「ブリティッシュ風そばとかね」
「イギリス、ですよね」
「そう、イギリス風の味付けのお蕎麦よ」
 カップの蕎麦である、無論。
「殆ど味のない、食べた瞬間に吐き出したわ」
「そんなのもあったんですか」
「調子のいい時と悪い時は半々で」
「お月様みたいですね」
「実際それと関係あるんじゃって思ってるわ」
 月の満ち欠けとだというのだ、まるで月経の様に。
「あまりにもはっきりしててそれが激しいから」
「ううん、難しい人なんですね」
「何でも会社でも新庄って言われてるらしいわ」
「調子の波が激しいからですね」
「そうなの。外見とか性格もそんなので」
「うわ、大変ですね」
 新庄の様な性格と聞いてだ、琴乃はついついこう言ってしまった。 
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