戦国異伝
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第百四十八話 伊勢長島攻めその九
「まことに有り難いことに」
「殿は一見何も飾っておられませんが」
「それがですいな」
「はい、常に周りに気をl配っておられます」
「そして家臣のことも民のことも考えておられますな」
「そうした方です」
羽柴はこう明智に話すのだった。
「だからこそ我等もです」
「ついていっておられますか」
「左様です」
「ですな、それ故にそれがしもここに来ました」
織田家、この家にだというのだ。
「幕府から」
「ですな、それではこれからも」
「織田家にいます」
そして信長に忠義を尽くすというのだ、こう話してだった。
明智は夜になり城を見た、その時にあるものを見て眉を顰めさせこう細川に言ったのである。二人は今共にいて酒を飲もうとしていたのだ、とはいっても明智は酒は飲めないので彼は水を飲もうとしていたのである。
その場でだ、こう言ったのである。
「今城の方から」
「どうされました?」
「いえ、闇が動いた様な」
城を観ながら言うのだった。
「そんな気がしたのですが」
「いや、それはありますまい」
細川は明智のその言葉をすぐに否定した、そのうえでの言葉である。
「幾ら何でも」
「怪異はですか」
「左様、怨霊の類が出るとしても」
細川もこうした存在のことは否定しない、都にいればそうした存在の話は古来より枚挙に暇がないからである。
「それが出ますのは」
「これからですな」
「左様、今ではありませぬ」
戦になりそれで人が死んでからだというのだ。
「それからです」
「そうですな、確かに」
「はい、今ではありませぬ」
こう明智に言うのである。
「まして殿は基本として助けるおつもりですから」
「ですな、城の者達が相当な意地がない限り」
そうした無謀とも言えることはないというのだ。
「火を点けることもありますまい」
「ではですな」
「とても今怨念が起こるということはありませぬ」
死んでいない、それで恨みが起こるかというのだ。
「生きている者達でも戦を待つなら起こっていますから」
「赤ですな」
その場合の気は、というのだ。
「怒っている場合は」
「とても闇には思えませぬ」
「では今のは」
明智は細川と話しているうちに一つの答えを出した、そして言うのだった。
「それがしの見間違いですな」
「はい、それではあらためて」
細川から言う、そうしてであった。
二人は飲みだした、細川はそこで水を飲もうとする明智にこれを勧めた。
「明智殿はお酒は」
「もどうも」
苦笑いで応える明智だった。
「今もあまり」
「左様ですか」
「酒は苦手であります」
「今もですか」
「どうにも」
こう細川に返すのである。
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