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久遠の神話

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第六十七話 人相その十一

「だから女神のこともな」
「知ってる人います?」
「横須賀の教育隊でも江田島でも一緒だった大卒の人がいた」
 工藤はこの人のことを話に出した。
「今横須賀で船に乗っている」
「その人も幹部ですね」
「そうだ、階級は俺は今は特別待遇で一尉だがな」
 警察では警部待遇だ、やはり特別昇進している高橋に合わせてのことという一面もある。
「その人は二尉だ」
「階級は下ですか、その人の方が」
「俺は特別昇進だからな」
「それでその二尉の人に」
「聞いてみよう」
 こう言うのだった。
「女神、ギリシアの女神のことをな」
「じゃあお願いします」
「おそらく戦いにもかなり関わる」
 だから余計にだというのだ。
「聞いてそしてだ」
「そこから、ですね」
「また動いていこう」
「ええ、この戦いを止める為に」
「日本政府が野心家でも好戦的でもなくてよかった」 
 このことは工藤が心から有り難いと思っていることだ、今の保守系の政党も左翼勢力が言う様なものではないのだ。
「野心がなく平和主義でな」
「そうですね、まあ戦前も戦後も」
「戦前もだな」
「日本って特に野心家でも好戦的でもないですね」
「戦争はいつも土壇場まで迷っていた」
 日清、日露、満州事変、太平洋戦争どれもだ。
「満州事変は迷走の果てにああなった一面が強いがな」
「まあそうですよね」
「戦前の日本は好戦的ではない」
「何処かの学者先生が言う通りではなかったですね」
「あの茸みたいな頭で眼鏡の女だな」
「はい、いつも女がどうとか騒いでいる」
「あいつは本当に学者か」
 工藤はこの人物については心から疑念を覚えていた、それで今こう言ったのである。
「知性も教養も知識も感じないが」
「どっかの大学の教授だったそうですけれどね」
「嘘じゃないのか、同期の大卒の人はどの人もそれなりだ」 
 少なくとも曹候補学生、幹部自衛官になることも前提として採用されている者達とは全く違うというのだ。
「あれではセーラー服も無理だ」
「ああ、一般ですか」
「そうだ、あれでは万年士長にもなれない」
 自衛隊にはこうした立場の人もいるらしい、三曹に三十を超えてもなれずそのまま年齢制限で退職する人がだ。
「とてもな」
「とにかく酷い人ですね」
「あの女が言う様な国ではなかった」
 この学者らしい人物以外にも東大法学部出身の人権派弁護士あがりの党首や平和の名の下に世界一周をする船を動かしていた女等もいる、顔や名前は一緒だが主張はどの女も全く変わらないと言っていい、不思議なことに。
「間違ってもな」
「ですよね」
「慎重だった」
 戦争についてもだ。
「そして野心もなかった」
「生きたいだけでしたね」
「世界征服か。まるで東映の特撮ものの悪役だな」
 工藤は忌々しげにこう言った。
「実在するのか、そんなことを考える人間が」
「それかしたか」
「よくある設定だ、悪の組織のな」
「実際そんなことを考えている人間も組織もないですね」
「言っている人間がいるとすればそれは妄想だ」
 それに過ぎないというのだ。 
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