魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
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第1章 『ネコの手も』
第9話 『お好きなほう』 Cパート
『選択』というのは結果を考えないのであれば、常に自由である。
『選択』とは存在しているうちの『どちらか選ぶ』ということ。
『選択』とは存在しているうちの『どちらも選ぶ』ということ。
『選択』とは存在しているうちの『どちらも選ばない』ということ。
『選択』とは存在してしないものから『新たに選ぶ』ということ。
『選択』には能動的、受動的というものは存在しない。
『選択する』ということが能動的なのであり、『選択させる』というのが受動的なのだ。
『選択する』ということは『子どもにのみ与えられた特権』、あるいは『大人も子どもになれる瞬間』だ。この時、本人は『選択する』厳しさと愛しさを知ることができる。
また、『選択させる』ということは『大人が子どもに与えることのできる特権』、あるいは『子どもも大人になれる瞬間』だ。この時、本人は『選択させる』難しさと残酷さを知ることができる。
そして、『選択させられる』というものは『大人のみに与えられた不憫極まりない特権』で、これが子どもながらに与えられてしまうのは『大人になってほしい』という大人の願いであると、見返りある『期待』ではなく見返りない『信じる』という言葉で支持したい。
では、『選択』に結果を考える、特に『選択した』という能動的過去の場合は?
魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
第9話 『お好きなほう』 Cパート
彼女キャロ・ル・ルシエは『普通』に“自分の居場所”である里で生活をしていた。
彼女は第一次反抗期を終え、自我が目覚めていくらか刻を刻み、大人の視線には気づかずに『普通』に生活をしていた。
彼女は『普通』に自分と同じくらいの年齢の少年少女たちと戯れ、遊び、生活をしていた。
彼女は『普通』に“白銀の飛竜”を肩に置き、生活をしていた。
彼女は『普通』に“黒き火竜”の加護を受け、生活をしていた。
彼女にとってこれらのことは全て『普通』であり、今がまさに物心つき始めた頃なので、これが呼吸のように続くのだろうと、無自覚ながらすごしていた。
しかし、酋長に呼び出されたとき、それが『普通ではない』と自覚できたし、今までの生活が書割であったことも自覚できた。
彼が口を開いたのはキャロが天幕に入り、大事そうに使役竜を抱いて、ぎこちなく正座し、パキリと目の前に炊かれている炎の薪がなった時である。
「アルザスの竜召喚部族ルシエの末裔キャロよ……」
酋長は口ごもり俯くと後ろの女性が口を開く。
「僅か6歳にして“白銀の飛竜”を従え、“黒き火竜”の加護を受けた。お前は誠に素晴らしき竜召喚士よ」
「…………」
2人の表情から褒められているわけではないとキャロは無言を通していた。
また少し間があいた後、酋長は努めて表情に感情を持たぬよう顔を上げる。
「じゃが、強すぎる力は『災い』と『争い』しか生まぬ」
キャロはまだ、『災い』、『争い』という意味を知らず、ただ彼の『選択させられた』大人の顔にどきりと心臓を弾ませた。
「すまんなぁ、お前をこれ以上この里へ置くわけにはいかんのじゃ」
酋長の後ろにいる女性も気づけば同じ表情になっており、またどきりとする。
(置くわけにはいかない?)
彼女には書割のなかから『普通』であった“自分の居場所”を失い、実は『特別』であった“白銀の飛竜”、“黒き火竜”だけが残った。
△▽△▽△▽△▽△▽
知識を得るには何も本だけから得られるものではなく経験によって得ることもある。
キャロは里を追放され、時空管理局に引き取られてから自分の制御できない力が酋長の言う『災い』と『争い』の意味することを知り、自分の竜召喚という力そのものが『危うさ』と『怖さ』を秘めていることも知った。
自分の周りにいる自分を管理する人たちが自分を管理できないでいるのが何よりもそれを理解させていた。
彼女は自分の目の前で白衣を着た男性が持っているカルテをぺらぺらと捲り首を横に振るのを一つの合図であるということも知っていた。
(これは数えちゃだめだ)
別の施設へ移る合図の回数を数えるのを必死で我慢していた。
彼女は『普通』に別の施設へ行く。
彼女は『普通』に白衣を着た男性――あるいは女性――が1枚のカルテを読んでいるのを見る。
彼女は『普通』に自分が調べられる対象になる。
彼女は『普通』にそのカルテが一定枚数まで溜まり、白衣を着た人間が首を横に振るのを見る。
これを幾度と無く繰り返していた。
期間にしては短く、移った場所の数も少なかったが、気づき始めると幾度にも続いているように彼女は思う。
そして、3年後の彼女は今日の『特別』を昨日のことのように覚えている。
それは深々と雪が降っている日であった。
「――確かに、凄まじい能力を持ってはいるんですが、制御がろくにできないんですよ」
男性は一人の女性にキャロの能力について話していた。
「竜召喚だってこの子を守ろうとする竜が勝手に暴れまわるだけで、とてもじゃないけどまともな部隊でなんて働けませんよ」
女性は男性の溜息交じりの説明に俯いている少女の震えを見逃さない。
「精々、単独で殲滅戦に放り込むしか――」
「あぁ、もう結構です」
女性が目を閉じて、溜息混じりに男性の説明を打ち切らせる。
「ありがとうございました」
キャロは俯きながら彼女の低い声で言う謝辞を聞き、
「では――」
「いえ、この子は予定通り、私が預かります」
ふいと顔を上げると、そこには『選択した』女性の横顔が見えた。
周りは、驚きの表情をしている。
女性は周りの表情を気にもせず、キャロに近づき、
「一緒に行こうか」
その後の準備と手続きは何事も無く済み――元々移動が多かったため荷物が少ない――外に出る。
外に出ると、その施設に特に思い入れも無いためキャロは振り向きもしなかったが、女性の発言、行動には不思議に思うところありで、彼女のほうを向く。
「寒い、よね」
女性が彼女の視線に気が付くと、少女と対等になるため足を折ってしゃがみこみ、自分のマフラーを彼女に巻いた。
キャロも話しやすくなったのか意を決して口を開く。
「私は今度は何処へ行けばいいんでしょう?」
女性は自分のマフラーが長いのか調節するために首元にリボンを作り、目を閉じて、
「それは君が何処に行きたくて、何をしたいかによるよ。キャロは何処へ行って、何をしたい?」
『子どもにのみ与えられた特権』を大いに利用させることにした。
△▽△▽△▽△▽△▽
3年後のキャロは現在、他の新人たちと一緒にヘリに乗っている。操縦しているのはヴァイス、隣にはコタロウが座っており、現場に向かっている最中である。
隊舎のオペレーションルームではアルトがキーをタイプして画面を開く。
「問題の貨物車両、速度70を維持。依然進行中です」
「重要貨物室の突破はまだされていないようですが……」
「時間の問題か」
互いに現状を把握すると、すぐに現状が動いたことを警告音が知らせる。
「アルト、ルキノ、広域索敵! 探索対象を空へ!」
画面に空が映し出された。
「ガジェット反応! 空から!?」
「航空型、現地観測帯を捕捉!」
情報をすぐに隊長陣に伝えると、いち早く通信先のフェイトが反応する。
「こちらフェイト。グリフィス、こちらは今、パーキングに到着。車停めて現場に向かうから、飛行許可をお願い」
「了解」
彼女はすぐに手ごろな場所に止めるとすぐに車から出る。
「市街地個人飛行承認します」
その言葉とほぼ同時にフェイトは走りながら愛機に合図を送ると、周りが球体上に光り輝いてセットアップし、空へ風を切りながら駆け抜けていった。
一方なのはも、思うところありでヘリの操縦室に向かい、
「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と2人で空を抑える」
「ウス。なのはさん、お願いします」
ヴァイスがハッチを開くと、彼女はそちらへ歩いていく。
「じゃあ、ちょっと出てくるけど。皆も『頑張って』、ズバッとやっつけちゃおう!」
『はい!』
「はい」
キャロは初めての出撃からくる緊張なのか、或いは自分の制御できない力が『災い』と『争い』を生むということ、『危うさ』と『怖さ』を秘めている可能性とに慄いているせいなのか分からないが、びくりと震え、遅れて返事をする。
「キャロ」
するとなのはは彼女に近づいて、
「大丈夫、そんなに緊張しなくても――」
両頬を両手で包み込み、
「離れてても、通信で繋がってる。孤独じゃないから、ピンチの時は助け合えるし――」
彼女の緊張を取り除き、
「キャロの魔法は皆を護ってあげられる、優しくて強い力なんだから、ね?」
小首を傾げながら、慄きを解いた後、ハッチから飛び降りて愛機に合図を送ると、周りが球体状に光り輝いてセットアップし、空へ風を味方に空気を撫でながら滑っていった。
キャロの頬に温もりを残して。
「スターズ1、ライトニング1、接触を確認」
フェイトはシャリオの通信と相手の魔力でお互いが近いことを確認する。
「こちらの空域は2人で抑える。新人たちのフォローお願い」
「了解」
通信はグリフィスに届き、すぐにヴァイスに伝える。
[同じ空は久しぶりだね、フェイトちゃん]
[うん。なのは]
彼女たちは合流すると、まもなく自分たちの視界に航空型ガジェットが入る。
先に動いたのはなのはだ。
彼女は背後から来るガジェットに旋回して逆に背後につくが、正面からもう数機ガジェットが彼女の正面にあらわれる。
ガジェットは目標を定め、攻撃を放つ。
(囮と攻撃。模範的な動き、だね)
なのはは正面から来る攻撃を引くことなく避ける。互いが交差する速度は単純に互いの速度を加算したものになるため、彼女の横を通り過ぎていく弾速はかなりのものであるが、彼女はそれを避けることをそれほど自分の障害になるとは思っていないようである。
弾幕を避けながらレイジングハートを構え、切先に魔力を込めると口径のある攻城砲の様な砲撃を放ち、自分に背を向けているガジェットを撃ち落とした。
(うーん。初撃、制御できなかった)
彼女も新人が見ているかもしれないなか、ちょっぴり緊張しているようで、それが魔力制御に響き、大きく放出してしまったようである。
彼女は次に狙いを定めると、
<アクセルシューター>
今度はいつも通りの落ち着きを取り戻し、ガジェットを打ち落とす最小限の魔力弾を五月雨に放つと、全機撃ち抜いてて、撃墜した。
(うん! いつも通り。ありがとうレイジングハート!)
撃墜したときの爆煙のなかから、フェイトがなのはと交差するかたちであらわれると、なのはの背後にいるガジェットを、愛機バルディッシュに搭載されている弾式魔力供給機能――レイジングハートにも搭載されている――を使用して、
<弾式魔力装填>
思い切り身体をひねり、構えると、遠心力を利用して今は鉤型のバルディッシュから魔力を放ち、ガジェットを切り裂いて撃墜した。
(思い切りすぎちゃったかな?)
そこでなのはから念話が入る。
[フェイトちゃん、新人たちの前だからかな、ちょっぴり緊張してる、かも]
[私はなのはと久しぶりの空で、はりきっちゃった]
2人はまた交差して互いの後ろにいるガジェットを落として目を合わせると、ふふっと笑う。
[でも――]
[もう――]
『大丈夫!』
今度は合わせるところは合わせ、単独のときは単独で次々と、片っ端からガジェットを撃墜していった。
△▽△▽△▽△▽△▽
「さぁて、新人ども! 隊長さんたちが空を抑えてくれてるおかげで、安全無事に降下地点に到着だ。準備はいいか!」
『はい!』
ヴァイスは操縦室をしているため、声を張りあげて後方に伝える。
「よし、『頑張って』こい!」
彼は隣を向くと、
「コタロウさんも何か言ってあげてはどうですかい?」
眠気が覚めても変わらない表情のコタロウもふいと彼に顔を向けた。
「何か。とは?」
「何でもいいんすよ、一言応援を!」
「応援ですか……わかりました」
彼は立ち上がって操縦室と護送室の間に立つと、
「新人の皆さん」
『はい!』
新人たちは既に飛び降りるため、立ち上がり彼の一言を待つ形になり、彼らはコタロウのどんな言葉にも元気よく答える準備は万端だった。
「『頑張らない』でください」
『はい! ……え?』
「コタロウさん、『頑張らない』なんてそんなありきたり……え?」
一度大きく返事し、飛び降りようとしたところで振り向き、ヴァイスは自分の聞き間違いかと、彼も振り返った。
「……どうか、なさいましたか?」
「えと、コタロウさん、なんて?」
「『頑張らない』でください。ですが?」
「自分は応援って言ったんすけど……」
「『頑張らないでください』は応援になりませんか? 私の周りや、私もよく使うのですが」
(どんな友達ですかい!? もしかして、ジャニカ二佐?)
それは口には出さなかった。
「あの、一応、俺やなのはさんは『頑張って』と……」
コタロウはそれを聞いて、僅かばかり無言になり、ヴァイスの発言がそれで終わりであると分かると、次の言葉を吐く。
それを聞いて、スバルとティアナは一つ息を吐いて、ハッチから飛び降り、エリオも苦笑する。
しかし、キャロだけはきょとんと彼の『大人が子どもに与えることのできる特権』に既視感を覚えていた。
「お好きなほうを選べばよいのでは?」
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