哀しくてジェラシー
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第二章
第二章
「誤解を招く行動が多過ぎるのよ」
「それは御前もだろうがよ」
こんな調子だ。お互い言いたいことを言うだけだ。こんなことじゃ話にもならないことはわかっていても。それでも言い合うばかりだった。
こいつと付き合ってもう一年になる。喧嘩をしなかったのは最初の一月だけで後は全部喧嘩ばかりだ。そんな毎日を過ごしていた。
俺はこいつを好きだ。それは事実だ。そしてこいつも俺のことが好きだ。
しかしであった。それでも俺とこいつは喧嘩ばかりしている。浮気しただの色目を使っただのそんな理由ばかりで。喧嘩ばかりだった。
この日はそのままカラオケ屋に入った。店の名前はスタープラチナという。
その店のカウンターで高校生位の女の子と話をした。店の娘で小柄だが顔はかなり奇麗だ。黒いショートヘアが実によく似合っている。
その娘にだ。俺は明るく声をかけた。
「それで部屋はさ」
「はい、何処がいいですか?」
「ハイパージョイの部屋空いている?」
このことを尋ねた。まずは機種からだ。
「それならそこでさ」
「はい、空いてますよ」
カウンターの中にいるその娘は明るく笑って答えてくれた。
「ハイパージョイなら」
「そうか」
「はい、二つ程」
空いている部屋の数まで答えてくれた。まだ高校生位だがサービスのわかっている娘だ。カウンターの壁にある横浜ベイスターズのグッズの数々が結構目に入る。
「空いてますから」
「じゃあ二人だから」
「二人だから?」
「狭い部屋でいいさ。それでフリータイムで」
「はい、フリータイムで」
「フリードリンクでな」
時間やそういったことについても話した。
「それで頼むな」
「わかりました」
こうして話が決まって俺達はその部屋に入った。部屋は確かに二人に最適でヒーターもあって狭いながらも結構奇麗でいい部屋だ。その部屋に入るとだった。
こいつがまた。俺にむっとした顔で言ってきた。
「ねえ」
「何だよ」
「あの娘は誰なの?」
そのむっとした顔で俺に言ってきた。
「あんなに色目使って仲良く話して」
「誰ってただこの店の娘だろ?」
「可愛い娘だったわね」
言葉に皮肉が篭もってきていた。
「それもかなり」
「御前まさかと思うけれどな」
「何よ、まさかって」
「またか」
まずはこう言ってやった。
「また焼き餅妬いてるのかよ」
「別に」
口ではこう言ってもだった。顔は違っていた。特に目がだ。本当に目ってやつは口よりも多くのことを喋ってくれる。そのこともよくもわかった。
「そんなのじゃないわよ」
「じゃあ何でそんなこと言うんだよ」
「だからあの娘は何なのよ」
「知るか」
ただ店に入っただけだ。それで何もかもなかった。
「誰かも知るか」
「嘘、知ってるでしょ」
「本当に知るかよ」
忌々しげに返してやった。実際に知らなかった。
「俺は誰でも彼でも知ってるっていうのかよ」
「知ってるから声をかけるんでしょ」
「そんな訳あるかよ」
何を言っていると思った。本当にだ。
「そんなよ」
「じゃあ誰でもないのね」
「当たり前だろうがよ」
俺はたまりかねた口調で言い返した。
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