皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第46話 「思惑と読みあい」
前書き
こんなはずじゃなかったのに……。
プロットがー。
ラインハルトがー。
第46話 「まさかのラインハルトのラブコメがはじまる?」
グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーだ。
宰相閣下が檄を飛ばされた翌日、司令部に出征を一旦止めろ、との命が下った。
「朝令暮改もいいとこだが、うまく乗せられたような気がする。よって様子を見る。軍の方には迷惑を掛けるが、待機していてくれ」
やはり冷静なお方だ。
喜怒哀楽の激しいお方だが、単純なお方ではない。
そうそう罠には掛からぬという事か。
■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■
宰相閣下が机のそばに、ラインハルト様をお呼びになりました。
いつもとは少し違い、迷っているようなご様子。
しきりに同盟の情報を探っておられます。
軍や情報部のみならず、フェザーンにも情報を探らせているようでした。
いったい何を考えておられるのでしょうか?
「ラインハルト。向こうの思惑はなんだと思う?」
「う~ん。今のこの時期に出征しようという理由?」
「そうだ。しかも前に話した事があったと思うが、同盟の出征を主導しているのは、ヨブ・トリューニヒト。化物クラスに性質の悪い奴だ」
「前からそいつの事を気にしているようだけど、そんなに性質が悪いのか?」
「ま~ね~」
ラインハルト様が首を捻っておられます。
宰相府の面々も、お二人の会話に興味津々といった感じ。
というよりも宰相閣下が、これほど警戒する相手は、ヨブ・トリューニヒトという人物ぐらいでしょう。それだけに宰相閣下のお考えが見えないのです。
「ティアマトまで出てこないような気がするんだ」
「えっ?」
「ハイネセン近辺に六個艦隊を集結させても、それ以上は出ない。あくまで軍事訓練と言い張るつもりかも知れんな」
「あくまで、先に手を出してきたのは、帝国という形にしようという事なのか?」
「ティアマトも同盟領だからな、自領で活動してどこが悪い。そう主張されれば、いささか分が悪い」
「だが明らかに軍事行動だろう?」
「そうだ。だが自領だ。しくじった。反応を見せてしまったぜ。やられたな、くそっ!!」
考えすぎのような気もしますが、そこまで考えた上で、手を打たねばならないお立場なのでしょう。帝国宰相というものは。
私やラインハルト様もそこまで考えていませんでした。
主導権争いというものは、これほど考えなければならないものなのでしょうか?
ラインハルト様の仰っていた、
「十年、いや五年後にはやつの上をいってみせる」
と決意されていた事を思い出してしまいました。
ラインハルト様は気づいておられる。
帝国を動かすという事に、その難しさに。もし自分が宰相閣下と同じ立場なら、どうするのかを考え始めている。
■宰相府 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■
あのやろう、いったい何を考えてやがる。
……帝国の弱点に気づいたか?
いや、シルヴァーベルヒもオーベルシュタインも気づいている。フェザーンに駐在していたやつが気づかないとは思えん。
くそっ、時間だ。時間が足りない。
せめて後三年は、時間が欲しい。ようやく動き出したんだ。一旦動けば、あっというまに追いつく。そうか、それを理解したのか……。
対抗するより、内から食い荒らそうという事か?
同盟が帝国に併合された場合、フェザーンどころではない巨大な自治領が誕生する。
経済規模も大きい。しかも併合ともなれば、そうそう討伐もできん。それどころか保護する義務が生じる。軍事力では圧倒できても、民間レベルでは向こうの方が上だからな。
こっちの生活水準を、同盟レベルまで持っていかなければならない。
といっても、決して低いという訳ではないから、厄介だ。まあ、上を見ても下を見ても切りはないからな。どうしたものか?
頭の痛い問題だ。
しかも反応してしまった以上は、知らん振りもできん。
「あーもー。いっそ、本気で動かすか……」
「動かすのか?」
ラインハルトが、机に手をついて身を乗り出す。
「ただし、目標はティアマトではなく、エル・ファシルだ」
「エル・ファシル?」
「そうだ。有人惑星を一つ、占領してしまう。そうなれば嫌でも出てくるだろう」
「確かにそうだけど、良いのか」
「良くはない。爆弾を抱えるようなものだ」
残念ながら、今の帝国に同盟を併合するような余裕はない。
軍事力で打ち倒す事はできても、統治する事ができないんだ。政治体制が違いすぎる。旧同盟のあちこちでテロが横行するだろう。そう考えれば、地球教の方がまだマシなぐらいだ。あれの教義をそのまま認める気はないが、麻薬さえ作らなければ、存続を許してやっても良い。というか、麻薬がなければあっさり、支配層が教団から追い出されるだろうしな。
そうか……。
あのやろう~こっちが出て来れないと考えやがったんだな。
脅しても本気で出てこれない。
大軍になればなるほど、倒した後の事を考えると、やばい。やばいとなれば動けなくなる。
それを見越して動かす気になったか……。
しかも倒されても、こちらの懐に入ってくる気だ。原作でもそうだったような気がする。
帝国でも今は貴族だけだが、議会が作られた。いずれ平民も議会に参加できるようになるだろう。そして立憲君主制に移行しようとしている事も、気づいているはずだ。
じわじわやられるよりも、急激に変化した方が、同盟側を統治する事は難しくなる。それは巨大な自治領になるだろう同盟を、纏める事が難しくなるという事だ。
纏めようとすると否が応にも、同盟の首脳達の権限を大きくせざるを得ん。
権限が大きくなるという事は、巨大な自治領を背景に、帝国の国政に口出しできるようになるという事だ。帝国の議会にも影響力を持つようになる。
地球教と同じようなやり方だ。内側から食い物にしようとする。
「なるほど……生贄かよ」
「……生贄か」
「ああ、六個艦隊を生贄にして、帝国に併合させて懐に飛び込もうとしてやがる」
「お、おぞましい考えだ」
ラインハルトの顔に嫌悪感が浮かんだ。
そうだよな。お前ならそう感じるだろう。その点では俺も同じだ。
「やはり予定通り、軍は動かす。そしてティアマトで出てこない場合、アスターテまで押し出すぞ」
それでも出てこない気ならドーリア星域まで向かう。そうなればエル・ファシルだけでなく、シャンプールまで支配星域にできる。
補給先は伸びるが、八個艦隊だ。ヤンが第十三艦隊を持っていない以上、一個艦隊でそれを阻止できる奴がいるとは思えん。つまり向こうも六個艦隊で迎撃する羽目に陥る。
ごちゃごちゃ考えずに、ぶっ飛ばした方がいいな。
後はじわじわ追い詰めるだけだ。
「ただし、ヨブ・トリューニヒトがもう一度、フェザーンに逃げてきても、今度は暗殺してやる」
負けたら嬉々としてフェザーンにやってくるだろう。
表面上は更迭、しかし内心はフェザーンで帝国側とパイプを作り、そこで一定の勢力を作るために。まったく今の段階で、負けた後の事を考えるどころか、負けさせることすらしようとは……。
「化物みたいに性質が悪いやつか……その通りだな」
ラインハルトも嫌悪感と警戒心を綯い交ぜにした表情を見せる。
「予定通り叩いて、その後は磨り潰していく。ただ予定とは違って少し早いがな」
「改革だ。改革。時間がない。だから、馬車馬のようにはたらけー!」
うわっ、ラインハルトの矛先がこっちにも向けられてしまった。
書類でぽかぽか叩いてくる。
なんてこったい。
■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■
宰相閣下とラインハルト様の会話を聞いていて、身の毛がよだつような嫌悪感が湧いてきました。
おぞましいと思ってしまいます。
宰相閣下が分かっていても、やろうとはしなかった策。
『戦術は道徳から解放されたものであり卑怯も何もない』
『やれば勝つと分かっていても、やってはいけない策もある』
とは以前、宰相閣下から教わった言葉ですが、この二つは軍人と統治者の差のような気がします。確かに戦いには勝てるでしょうが、その後の統治を考えると、それでもやってはいけない策がある。
勝てば良かろうだけではいけない。ラインハルト様もそれを感じとられたはず。
ぽかぽか宰相閣下を、書類で叩いているラインハルト様を見ながら、そんな事を考えていました。
■宰相府 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■
予定より一日遅れて軍が出征しました。
豪華絢爛な陣容だそうで、まあ勝って来るだろうと、皇太子殿下もその点では安心しているご様子。それは良いんですけどねー。
問題はあれ。
ジークにべったりとくっついてる、マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマー。
「はぁ~」
と、ジークもため息を吐いています。
というのも、原因はザビーネちゃん。ザビーネ・フォン・リッテンハイム。
この子がやたらとジークに懐いちゃって、マルガレータちゃんと、ジークの取り合いをしてるんです。
「もてる男は辛いねー」
「そうですねー」
両手に花。
皇太子殿下もにやにやと、三人の様子を見ていますし、楽しいです。
見てる分には。
それにラインハルトとエリザベートちゃんの、ぎこちない関係も楽しいです。
ラインハルトってば、どう接して良いのか分からずに、悩んでいますし。我が弟ながら情けない。
女の子の一人ぐらいで、おろおろしてどうするのですか?
きゃっきゃうふうふ、してればいいものを。
育て方を間違えたー。
もっと肉食系に育てるべきでしたー。
「アンネローゼが言うと、なんか生々しいわ」
ぼそっとエリザベートさんが呟きました。
なんて失礼な人でしょうか?
私のどこが肉食系だというのかっ!!
「あ、やっぱ、あんたら、姉弟だわ」
「自覚のないところなんか、そっくり」
失礼な人たちです。
皇太子殿下、皇太子殿下は分かって下さりますよね。
「足して二で割るとちょうど良いかもな」
「そうかもしれませんねー」
「皇太子殿下までー」
わたしの周りの人たちって、どうしてこうなんでしょうか?
後書き
友人たち三人で飲み会をしました。
わたし達らしく、お店ではなくて、各自食べ物を持ち寄って友人宅に集合。
しかーし、集まった食べ物は焼き鳥に鍋。お酒は日本酒という。
煮える鍋を見つつ、「これじゃ今年もお一人様だよね……」と悩む、飲み会でした。
もっと、こー。お洒落な感じはないのかー。
華やかさに欠けるわたし達です。
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