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久遠の神話

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第六十五話 犠牲にするものその八

「それでは」
「そうですね、血に塗れた手で子供達に教えることは」
「正しいと思われていますか?」
 高代のその毅然とした、真っ直ぐな光を放つ目を見ての問いだった。
「貴方は」
「既にお答えしています」
 これが高代の返答だった。
「そうですね」
「そういうことですか」
「はい、間違っています」
 それに他ならないというのだ。
「私は間違っています」
「ですがそれでもですか」
「確かに私は罪を犯しその手を血に塗らしてしまいます」
 このことは否定しなかった。詭弁を郎することはしなかった。
「ですが」
「それでもですか」
「私一人が罪を犯し血に塗れても多くの子供達が助かりますね」
「それならですか」
「私一人が罪を犯して多くの子達が助かるのならどうでしょうか」
 聡美のその目を見ての問いだった。
「いいと思いませんか」
「それは」
「そうです、私はそう考えていますので」
「覚悟がおありだからですか」
「そうです」
 その通りだというのだ、高代は毅然としている顔で述べる。
「私はそのつもりで戦っています」
「毅然としていますね、ですが」
「間違っていますね」
「そう思います、しかしそれでもですか」
「何もかもを私は背負ってみせます」
 罪、それをだというのだ。
「何があろうともです」
「覚悟ですね、本当に」
 例えそれが間違っていてもだ、聡美もそれは認めるしかなかった。そしてそのうえで無念の顔で高代にこう言ったのだった。
「私は。神話の頃より」
「その頃からですか」
「貴方達、そしてお姉様を止めようとしてきましたが」
 それをだというのだ。
「一度も止められませんでした」
「そして今に至るのですね」
「どの方も止めませんでした」
「あの女神も」
「特にお姉様は」
 彼女は特にだというのだ。
「止められません」
「色々とされたのですね」
「ありとあらゆることを。汚いことも」
 それこそここで言える様なこともだというのだ。
「してきましたが」
「それでもですか」
「私は止められませんでした」
 俯き、ソのうえでの言葉だった。
「そして貴方達は何度も死んできました」
「死んでいってそして」
「その時の願いを適えた人もいましたが」
「十三人のうちの十二人は死にました」
 常にそうだったというのだ、彼等は。
「神話の頃からそうでした、そして貴方達の命の数だけお姉様は罪を犯してきました」
「セレネー女神ですね」
「私と同じ月の女神のあの方は」
「貴女はあの女神を本当に大切に思っておられるのですね」
「もう一人の私と言ってもいい程に」
 それ程までにだというのだ、聡美はアルテミスとしてセレネーのことをそこまで想っているというののである。
「常に。あの頃から」
「だからこそ」
「私はお姉様を、貴方達を」
 セレネーだけでなく高代達もというのだ、彼もまた。
「この無残な因果を終わらせて」
「そうですか」
「ですから貴方もまた」
「残念ですが」
 高代はここでも首を横に振って言う。
「それはです」
「そうなのですか」
「私は戦います」
 やはりこう言う高代だった。
「夢、そして子供達を少しでも多く助ける為に」
「その手を血に塗らし」
「戦います」
 こう言うのである、変わらず。
「絶対に」
「私も。そこまで仰るのなら」
 それならというのだ。
「私も貴方も、他の方も」
「止められますか」
「今度はどの知恵を使っても」 
 やはり何としてもだというのだ、言葉には強さがある。
「そうさせてもらいます」
「そうですか」
「ですから」
「そのお心は受けました」
 それはだと、高代は言いはした。 
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