久遠の神話
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第六十五話 犠牲にするものその七
「貴方はこの時代の日本で身体障害者と呼ばれている子供達を助けたいのですね」
「彼等も同じ人間です、ですが」
それでもだというのだ。
「彼等は身体的に健康である子供達よりも差別された世界にいて」
「人は異質なものを排除する傾向がありますからね」
「どうしても」
高代も難しい顔で応える。
「そうした傾向があります」
「人の心には美醜があります」
「いい面と悪い面が」
「どうしてもあります」
どうしてもというのだ、それは。
「そして排除された彼等は辛い立場にありますので」
「その彼等の為にですね」
「私は立ち上がりたいのです」
「何故そこまで思われるのですか?」
怪訝な顔になりだ、聡美は高代に問うた。
「貴方は」
「そのことですか」
「ただの、尽くしてあげたいという上から目線ではないですね」
高代にそうしたものがないことは聡美にもわかった、それもよくだ。
「それはありませんね」
「上から目線ですか」
「同じ位置から何とかしよう、そうした動きですが」
「それはです」
高代は一瞬俯いた、それから。
顔を上げてだ、こう言ったのである。
「私はかつて足が悪かったのです」
「そうだったのですか」
「子供の頃は左足が悪く」
過去、辛いそれを思い出しながら語る言葉だった。高代は今その過去を意を決して聡美に対して話すのである。
「引きずっていました」
「そうだったのですか」
「ちんばですね」
今度はこの言葉を出す。
「そうでした」
「だからですか」
「幸い周りに悪質な人はいなかったのでいじめられたりからかわれたことはありません」
そのことはよかった、だがだというのだ。
「ですが」
「身体が不自由だったことはですか」
「忘れていません」
決してだというのだ。
「あの頃の苦しみは」
「だから貴方は」
「身体障害者は差別されています」
この動かせない現実を知っているからこその言葉だ。
「身体障害者も同じ人間です」
「そのことは変わらないですね」
「人としての心がありますし。それに」
「それにとは」
「特別な存在でもないのです」
このことも強調したのである、彼はここで。
「身体がどうであろうとも」
「では辛い境遇にあると」
「人は心を病んでしまいます」
その病み、それもまた知っているというのだ。
「身体障害者であろうとも性格がいい人もいれば悪い人もいます」
「人間だからですね」
「最初はよくとも病んでしまう人もいます」
「そうした人を作りたくないのですね」
「はい」
そうだというのだ、強い言葉で頷いて返す。
「私は絶対に」
「そうした人を作らない為にも」
「出来る限り少なく、私の出来る範囲で」」
「貴方のですか」
「だから私は学校を築きたいのです」
聡美に対してあらためて言い切った。
「絶対に」
「しかしその手は」
「私の手ですか」
「血に塗れてしまいます」
そうなってしまうというのだ。
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