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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第136話

愛穂の車に乗って数分後。
一同は愛穂が住んでいる、教職員向けに建てられたマンションの前に立っている。
学園都市の住居は基本的に学生寮ばかりで、こういったマンションなりアパートなりといった施設は生徒にあまり縁がない。
建物の外観だけを見れば学生寮もマンションもそう大した違いはないのだが、サービス面に細かい違いがあり、おれらが積み重なって個性となっていた。
なんだかんだ言っても学生寮は『子供を管理する建物』である。
寮はセキュリティという大義名分の下、防犯カメラの位置などに遠慮がないのが特徴的だが、このマンションにはある程度の配慮がされていた。

「何階だ?」

一方通行(アクセラレータ)が尋ねると、ここまで案内してきた黄泉川愛穂が笑いながら答えた。

「一三階。
 停電になると階段使うの苦しいじゃんよー。」

おー、と背の高い建物を見上げて声を出しているのは打ち止め(ラストオーダー)だ。
彼女は件の一三階を眺めようとしたらしいが、途中で太陽を直接見てしまってくらくらと頭を振った。
その小さな肩を背後から支えたのが芳川桔梗だ。

「まぁ、一階や二階に比べれば襲撃の機会は減るんじゃないかしら?」

「建物ごと吹っ飛ばされる場合は上の階の方が被害はデケェンだけどな。」

「お前達はマンションを目の前になに物騒な話をしているんだ?」

桔梗よりもさらに後ろに立っている麻生が聞く。

「そう言えば言ってなかったわね。
 あの子、自分を匿った愛穂が暗部の人間に襲われる事を警戒しているのよ。」

「ふ~ん。
 まぁ、そう警戒しても仕方がないだろ。」

麻生の発言を聞いた一方通行(アクセラレータ)が軽く後ろに振り向いて言う。

「お前は暗部を甘く見過ぎてる。
 あいつらがその気になれば、こんなマンションぶっ壊すのもワケねェンだぞ。」

「お前こそ、誰にモノを言っている?」

その言葉に一方通行(アクセラレータ)はピクリと反応する。
麻生はそのまま一方通行(アクセラレータ)の隣を通り過ぎる瞬間に、小声で話しかける。

(このマンションには俺が能力で作ったセキュリティが幾つも張り巡らされている。
 もちろん、お前の言うとおりマンションが爆破されても、住民を助けれるように準備もしている。)

そう言って、一方通行(アクセラレータ)の肩を軽く叩いて、マンションの入り口に向かって歩いて行く。
麻生の言っている事は嘘ではないだろう。
それは直接戦った一方通行(アクセラレータ)が一番分かっている。
どういった方法で助けるのかは分からないが。

「早くおいでよ!、ってミサカはミサカは両手を大きく手を振り回しながら言ってみる。」

それを見て一方通行(アクセラレータ)は小さく舌打ちをすると、ボストンバックを抱え直し入り口に向かう。
愛穂は出入り口のオートロックで使うのだろう、ラミネート加工のカードを取り出しつつ言った。

「さてさて、ちょっと遅めになるけどお昼も食べなくちゃいけないし、とっとと部屋に入るとしようじゃん。」

「愛穂、俺がいるんだからあんなやり方はさせないからな。」

麻生がそう言うと、愛穂はあはは、と苦笑いを浮かべるだけだった。

「あんなやり方ってどういうこと?、ってミサカはミサカは首を傾げて聞いてみる。」

「それは部屋に入ってからのお楽しみよ。」

桔梗は麻生の言葉を意味が分かっているのか、打ち止め(ラストオーダー)の頭を撫でながら言う。
マンションの出入り口は一見開放的なガラスの自動ドアだが、耐爆仕様になっているのが窺える。
カードを通すだけのロック機構も、実質的にはカードを握る指先から指紋や生体電気信号パターンなどのデータもやり取りしているようだ。
いわゆる高級マンションなのかもしれない、と思った一方通行(アクセラレータ)は胡散臭い目で愛穂を見る。

「公務員の給料ってのは削減する方向じゃなかったンかよ?」

「結構安月給でも何とかなるものじゃん。
 これも建築方面の実地試験を兼ねた『施設』だから、家賃のいくらかは大学側が出してるじゃんよ。
 代わりに、セキュリティの方式なんかがいきなり変更されたりもするんだけどね。」

それに、と愛穂は付け加える。

警備員(アンチスキル)って基本的にボランティアだから無給なんだけどさ、あっちこっちで案外善意のサービスしてくれたりするじゃんよ。
 スーパーのお肉は安くなったりとかね。」

「マンションの家賃と特売日が同じ扱いかよ。」

そんなこんなで、一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)、愛穂、桔梗、麻生の五人はマンションの中へと入る。
ちなみに小萌先生は別の用事があるとかで今はここにいない。
おそらくこれも試作品の一つだろう、低振動エレベーターに乗って浮遊感も覚えず一三階まで辿り着くと、すぐそこのドアが愛穂の部屋だった。

「どうぞー。」

と愛穂が玄関のドアを開けると、そこに待っているのは4LDK。
どう考えても家族向けで、なおかつ一生をかけてローンを払い続ける規模の部屋だ。
実験協力として大学側がある程度の額を免除しているとはいえ、本当に公務員の安月給で何とかなるのだろうか?
ピカピカに磨かれたフローリングのリビングは、一人暮らしというイメージに反して小奇麗に整えられていた。
お酒のビンやグラスなどが棚の中に飾られていて、雑誌や新聞なども専用のラックに収められている。
テレビ、エアコン、コンポ、録画デッキなどのリモコンはテーブルの角に並べて置いてあった。
ソファの上のクッション一つ一つまで丁寧に位置取りしてある。
打ち止め(ラストオーダー)は目を丸くして言う。

「すごいすごい、ほこりもほとんどないかも、ってミサカはミサカはソファの上に飛び込みながら褒めてみたり。」

柔らかいソファに沈む打ち止め(ラストオーダー)の明るい声に反して、桔梗は呆れたように息を吐いて言う。

「貴女、また勤め先で始末書を書かされたのね。」

ギクリ、と愛穂のジャージ姿が大きく揺れた。
すると、隣に立っていた麻生が疲れたようなため息を吐く。

「あ、あはは。
 何の事じゃーん?」

「昨日は徹夜で手伝わされた奴がここにいるのに、よくとぼけていられるな。」

ギクリ、と再び愛穂のジャージ姿が大きく揺れる。
麻生の言葉を聞いた桔梗は愛穂を厳しい視線を送る。

「どういう意味?、ってミサカはミサカはゴロゴロしながら首を傾げてみる。」

「彼女は昔っから問題が起きると部屋の整理整頓を始めるような人間だったというだけよ。
 しかも後先考えずにとりあえず片付けまくる、後になって部屋の鍵が見つからないとかいう事態にもなるの。
 さしずめ、恭介はそれに巻き込まれたって所でしょう。」

「その通り。
 昨日、電話がかかってきて何事かと思い来てみれば、始末書を書くのを手伝ってくれって言いだしてな。
 しかも、その後の整理整頓まで手伝わされて、愛穂が見つけやすいように整頓していたら朝になっていた。」

今日、麻生がとても眠たそうにしていたのはこれが原因である。
昨日の十一時頃の事である。
麻生の携帯に愛穂から電話があった。
内容は一刻を争う事が起こったとの事。
それだけを言って携帯を切られ、麻生は何か面倒事に巻き込まれたのではと思い、能力を使って愛穂のマンションに向かって高速で移動した。
セキュリティを能力で解除して、急いで駆け付けた。
そして、部屋に待っていていたのは机の上に大量の始末書とそれと睨めっこしている愛穂だった。
その光景を見て、麻生は全て把握し、大きな脱力感が襲った。
愛穂はどうやってここまで来たのかなどは気にせずに、こう言った。

「お願い!
 明日までにこれを全部提出しないと駄目じゃん。
 だから、手伝って!」

これまでにないくらい面倒くさそうな顔をするが、断れるわけがなく。
愛穂に向かい合うように机に座り、一枚一枚丁寧に始末書を書きあげていく。
さらに、部屋の整理整頓までし始め、それに手伝わされ気がつけば学校に向かう時間になっていた。

「全く、恭介に手伝わせちゃ駄目でしょう。
 彼にだって私生活があるんだから。」

桔梗の言葉に愛穂は何も言い返せない。
この光景を見て、一方通行(アクセラレータ)は思った。
学校で例えるなら、桔梗は面倒見の良い委員長役で、愛穂がいつも遅刻ばかりする問題児役、麻生がそれらの騒動に巻き込まれる不幸な生徒だろう。
桔梗はさらにリビングから繋がっているキッチンの方へ目をやる。

「その癖が抜けてないって事は、台所の方の癖も相変わらずみたいからしら。」

「それに関しては修行中と言っておくじゃん。」

一方通行(アクセラレータ)打ち止め(ラストオーダー)は二人の会話が気になったのか、桔梗に続いて、キッチンに入る。
『実験の協力』という名目の通り、愛穂自宅のキッチンには様々な調理器具が並んでいた。
水蒸気を利用したスチーム電子レンジや、AI搭載の高周波式全自動食器洗い機などなど、何だかメカメカしいものばかり集結している。
それらを押し退けて一際目立つ物があった。
四台五台とゴロゴロ置いてある電子炊飯器だ。
シューシューと湯気が出ている電子炊飯器が二台、後は稼働していないようだ。

「何だ、このフザけた数は?」

「これもある意味、悪い癖だな。」

麻生が呆れたような表情を浮かべながら説明する。

「こいつはな、電子炊飯器で料理する奴なんだよ。
 何でも、炊く、煮る、蒸す、焼くのほとんどができる万能調理器具らしい。」

「・・・・・・」

麻生の説明を聞いて、言葉が出ない一方通行(アクセラレータ)

「でも、稼働しているのが二台だけなのね。」

「これじゃあ色々不味いと思ってな。
 俺が手料理というのを教えているんだ。
 今じゃあ、電子炊飯器を二台までしか使わせないまでに至った。」

「大変だったでしょうね。」

「死ぬほど面倒くさかった。」

二人には何か思うと所があったのか、うんうんと頷き合っている。
麻生は近くにある黒いエプロンを自分に撒き付けながら言う。

「と、こんな話をしていたらご飯が食えなくなる。
 今日は俺がご飯を作るから、お前達は皿の準備でもしててくれ。」

「恭介の手料理、物凄く楽しみ!、ってミサカはミサカは大はしゃぎしてみる。」

「はいはい、下の階の人に迷惑だから止めましょうね。」

はしゃぐ打ち止め(ラストオーダー)をあやしながらリビングに向かう桔梗と打ち止め(ラストオーダー)。
愛穂は何か納得のいかない表情を浮かべながら、その後について行き。
一方通行(アクセラレータ)はこの馬鹿げた光景を見てため息を吐くのだった。 
 

 
後書き
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