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青い目のハイスクールクイーン

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第四章


第四章

「オ待タセ?」
 彼女を見て思わず声をあげそうになった。金のポニーテールの髪型はいつもだけれど青いジーンズの上下に白地のキャラクターティーシャツがよく似合っていた。似合い過ぎている程だった。冗談抜きで前暇潰しに見た映画のヒロインそのものだった。そのヒロインが今俺の前にやって来たってわけだ。
「いや、全然」
「ソウ、全然ナノネ」
「ああ」
 俺はにこりと笑ってそう応えた。
「だから安心してよ」
「ウン、安心スル」
 俺の言葉を復唱する形で頷いてくれた。それからまた言ってきた。
「ソレジャア」
「うん、乗って」
 助手席を空けて誘う。
「行こうよ」
「ワカッタワ」
 誘いに頷いてくれてそのまま乗ってくれた。暫くは二人で道を飛ばす楽しいドライブだった。俺も彼女もたどたどしい日本語で話をしながらドライブを楽しんだ。問題はその後だった。
 ドライブが終わり近くになってドライブインに入った。もう夕方で周りには人はいない。遠い下に港町が見えていい雰囲気だ。俺はその雰囲気を利用して彼女に声をかけた。
「あのさ」
「ホワット?」
 ボンネットに腰掛けて風にそのポニーテールを揺れさせていた彼女は抜群に綺麗だった。その彼女に声をかける。シチュエーションとしては完璧だった。しかしそれは彼女のこの言葉でいきなり出鼻を挫かれてしまった。
「アッ、何?」
「うん、実はさ」
 出鼻を挫かれてもそれでも俺は言った。ここまで来て止まるつもりはなかった。
「その」
「何カ?」
 首を傾げられた。またしても挫かれた。
「そのさ、つまりあれなんだ」
「アレ、コレ?」
「あっ、いや」
 またしくじった。これで完全におかしくなった。
「そのね、ええとさ」
「エエトサ」
「こういうこと。俺がさ」
 遂に身振り手振りで言う。しかしそれも何か駄目だった。
「俺、ね」
「ユー?」
「そう、俺」
 自分を指差して言う。
「俺が君をね」
 次に彼女を指差す。
「指差スノハ」
「あっ、御免」
 変に日本文化に詳しい。逆に俺が突っ込まれてしまった。
「それでね」
 慌てて手で指し示すのに変えた。
「その、そのさ」
「園田サン?」
 クラスメイトの女の子だ。勿論俺が言いたいのは園田さんの話じゃない。
「園田さんじゃなくて」
「園川サン?」
「いや、あの人でもないし」
 この人もクラスメイトの女の子だ。話が余計に訳がわからなくなってきた。俺は半分位自分が今何を言っているのかわからなくなってきていた。
「だから。いいかな」
「井川君?」
「あいつでもないし」
 今度はクラスメイトの男だ。納豆が嫌いな奴だ。
「クラスメイトノ話ナラシマショウ」
 彼女はにこりと笑って言ってきた。もう完全に話がそっちに流れていた。
「皆ヲ知ルノハトテモイイコトデス」
「そうだね」
 俺も遂に折れて応えた。
「それじゃあコーヒーでも飲みながら」
「カフェデスネ」
「そうそう、それそれ」
 その言葉に頷く。こうして俺達はコーヒーを飲みながらクラスのことについて楽しく話をした。結局俺は伝えたいことは何も言えずに終わったのであった。

「それは残念だったな」
 俺は次の日学校の屋上で仲間達に話した。皆パンや牛乳を飲み食いしながら話をしている。これが誰かの家なら酒や煙草もあるけれど生憎ここは学校だ。流石にそれはまずかった。
 その中で最初にリーダーが言った。俺達は車座になって座って話をしていた。
「失敗か」
「ああ」
 俺はリーダーにそう答えた。
「参ったよ、本当に」
「まあそうなるだろうと思ったさ」
「わかってたんだ」
「ああ、何となくな」
 リーダーは俺に言う。言いながらカレーパンを食べている。
「彼女日本語たどたどしいからな」
「参ったよ、本当に」
 俺はまた言った。
「全然通じないんだよ、しかも肝心な時に」
「園田さんとか井川とかか」
「ああ」
 チビにも答えた。
「何で俺があいつ等の話をするんだか」
「納豆の話かね」
 チビは笑いながら言ってきた。井川は納豆が嫌いだが園田さんは納豆が好きだったりする。それで仇名が納豆女となっている。本人はそれを言うと怒りだすが。
「それだと」
「その話もしたよ」
 俺は口を尖らせて述べた。
「納豆の話もさ」
「ああ、彼女納豆食べるんだ」
 白はそれを聞いて目をぱちくりとさせてきた。
「一応食べるってさ」
「珍しいね、あれ苦手な人多いのに」
 日本人でも苦手な奴は多い。外国人なら余計にだ。あの臭いと糸を引いているのが嫌だというのだ。俺は結構好きだが嫌な奴はとことん嫌なものだ。
「美味いってさ」
 それは事実だ。あの淡白さがいい。
「そう言って食べてるぜ」
「ふうん、珍しいね」
「納豆の話で全部終わりなんだな」
 今度はノッポが尋ねてきた。尋ねる時に牛乳のストローから口を離す。
「結局は」
「彼女を送ってな。それでおしまい」
「何かのどかな終わりだな」
 ヒゲがそこまで聞いて感想を述べてきた。
「高校生らしいって言うのか?それって」
「そうなんだろうな」
 俺はまた憮然として言った。
「ホテルは何処に行こうかって考えていたのにさ」
「それはまた考え過ぎでしょ」
 弟が苦笑いを向けてきた。
「幾ら何でも」
「そうかな」
「そうだよ」
 他の六人の声が一度にやって来た。
「何だよ、ホテルって」
「高望みし過ぎだ」
「ちぇっ」
 俺はそれを聞いて思わず舌打ちした。
「駄目か、やっぱり」
「地道にいけ」
 リーダーがアドバイスをくれた。
「一つずつな。少しずつ」
「やっぱりそれしかないか」
 それをあらためて思った。
「昨日で一気にいきたかったけれど」
「順番ってやつがあるんだよ」
 リーダーはまた俺に言った。
「何でもな。それをわかれよ」
「切れずに焦らずにだね」
「それはできたみたいだな」
「うん、何とかね」
 それはなかった。とりあえずはまともにいけた。俺もそれには自分で満足していたりする。
「上手くいったよ」
「じゃあそのまま行け」
 俺はまた言われた。
「それでわかったな」
「わかったよ。それじゃあまたさ」
 ここで上を見上げた。青い空が広がっている。
「彼女をドライブに誘うよ」
 青い空が何か彼女の目に見えた。その青い空を見上げながら俺はそう決めた。何度でもドライブに誘って少しずつやっていくことに。


青い目のハイスクールクイーン   完


                  2007・3・11
 
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