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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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偽り姿を変える者


『じゃあアンタの名前はヴィーテルシアね。即興だけど、無いよりはマシでしょ?』

頭の中に、幼い少女の声が響く。
名前は知らず、容姿も記憶の中で曖昧になり、覚えているのは女だったという事と声だけ。
年相応に幼く、それでいて鋭く、凛とした雰囲気を醸し出している。

「・・・会えないだろうか、再び――――」

『それ』は小さく呟き、ゆっくりと紫色の目を閉じた。









「オラァッ!」

火竜(サラマンダー)が吼える。
現在、最強チームはマグノリア近くの廃墟をアジトとしている違法な魔法研究をする教団討伐の仕事に来ていた。
もちろん、ティアも一緒に。

「・・・邪魔」

目の前を塞ぐ敵に一言告げ、一瞬にして薙ぎ払う。
獲物を狩る獣のような目つき。闇狩りの戦乙女(ダークハント・ヴァルキリー)の名に相応しく、そう呼ばれるのが当然にも感じる。

「ハァッ!」

最後の1人をエルザが斬り、ナツ達の足元には気を失い倒れる教団員達が残った。

「んだよ、大した事ねー奴等だな」
「あい」
「でも今回は特に物壊さなかったし、家賃払えるわね!」
「ルーシィはいつもそれだね」

ルーシィの言葉にハッピーが呟く。
その横でティアが溜息をついた。

「何で他人の家賃の為に裁く(半殺しにする)のを止めないといけないのよ」
「いや、ホントは家賃の為じゃなくても止めた方がいいんだぞ?」

明らかに不機嫌なティアにグレイが呆れたように返す。
が、ティアは綺麗にスルーした。
いや、スルーというか、聞いちゃいない。

「さて、仕事も終わったし帰るか。報酬はギルドに送ってもらうよう手配したからな」
「おっしゃあ!ティア!帰ったら勝負しろォっ!」
「嫌」
「はやっ!」
「即答!?」
「それがティアです」

ワイワイと通常通りの会話を繰り広げながらギルドへと―――今回はギルドと依頼先が近いので乗り物に乗る必要がなく、ナツは上機嫌だ―――帰っていく。
――――ハズだった。

「ん?」

ナツからの勝負の申し出を凄まじい速さで断り続けたティアが、突然足を止める。

「どうしたんだ?ティア」
「何かいる」
「え!?」
「まさか・・・さっきの奴等の生き残り!?」
「生き残りって・・・全員生きてるから」

若干的の外れたハッピーの言葉にルーシィがツッコみを入れる。
ティアはそんなナツ達を気にせず、ガサガサと茂みの中へと入っていった。

「あ」
「何がいた!?食えるモンか!?」
「オイラ魚がいい!」
「アンタ達・・・」
「グレイ、服はどうした?」
「うおっ!?いつの間に!」

ちなみにグレイが服を脱いでいたのは、この仕事を受けてギルドを出る前、つまりギルドにいる時である。もうグレイが脱いでいるのは日常的な事なので、綺麗に忘れていたが。

「犬がいる」
「犬?」

首を傾げ、ナツ達も茂みの中へと入っていく。
すると、そこにはじっと『犬』を見つめるティアと―――――――

「ほら、犬」
「どっからどう見ても狼ですけど!?」

ティア曰く『犬』、だがどうやって見ても狼にしか見えない『狼』がいた。











「酷い怪我だね・・・ナイフか何かかな」

かなりの怪我をしていた狼をとりあえずギルドに連れて帰ってきたナツ達。
今はギルド内で1番回復を得意とするルーに診てもらっている。

「どう?ルー。治せそう?」
「まだ怪我をして1日2日くらいしか経ってないっぽいからね。大丈夫!いけるよ!」

不安そうなルーシィに笑って見せ、両手に魔力を集中させる。

「風よ・・・癒しの光を運べ・・・大空治癒(アリエスヒール)!」

魔法陣が展開し、空いていたテーブルに寝そべらせた狼が緑色の光に包まれていく。
最強チームメンバーは勿論、ミラやアルカ、エルフマンやカナ達も興味津々といった様子で見ていた。
数分後、緑色の光と魔法陣が消える。

「ふぅ・・・」
「ルー、治せたか?」

アルカが尋ねると、ルーは少し疲れを混ぜた笑みを浮かべた。

「うん。治せたよ・・・でも、少し魔力を使い過ぎたみたいだ」

そう言うと、目まいを起こしたかのようにふらつく。
慌ててアルカが駆け寄るが、ルーはふらつきながらも座り、狼を見つめた。

「にしても・・・何があったんだろうね」
「え?」
「だってこの傷、明らかにうっかり付けちゃった傷じゃないよ。故意に付けられたものだ。しかも、人間がナイフで、ね」
「そんな・・・!」

サルディアが息を呑む。

「動物に危害を加えるとは・・・気にくわんな」
「あー気にくわねぇ!よし、コイツ傷つけた奴ぶん殴ってくる!」
「待てスバル。お前は相手を知らんだろう。知っているのは、傷つけられたコイツだけだ」

ライアーが珍しく舌打ちし、スバルが怒りに任せながらギルドを飛び出して行こうとし、ヒルダがそれをセルリヒュールの先端から魔力の手を作って止める。

「もしかしたら、さっきの奴等がやったのかもな」
「考えられなくもない・・・現に、あの場所には多くの動物の骨や標本があった。自分達が殺した動物たちを標本にしていたのかもしれん」
「何よそれ!動物だって生きてるのに!」

ルーシィが憤慨する。
と、その時。

「・・・ん・・・」

小さい呻き声が零れた。
全員の目が、狼へと向かう。

「んんっ・・・くっ・・・」

ゆっくりと開かれた、吸い込まれてしまいそうなほどに神秘的な紫の瞳が、突然の光を眩しがるように1度閉じられる。
光に慣れてきた頃に再び開かれ、テーブルに寝そべったままキョロキョロと辺りを見回し―――

「どこだ・・・ここは?」

喋った。
その場にいた全員が沈黙し、そして。

『狼が喋ったあああああああああっ!?』
「あら」
「犬って喋るの?」
「姉さん・・・これは犬じゃないと思うぞ」

殆どのメンバーが叫び、ミラが笑い、ティアが首を傾げ、クロスが困ったように笑った。
狼は辺りを見回し、近くにいたミラに声を掛ける。

「そこの銀髪女。名は知らんが教えてほしい。此処は一体何処だ?」
「ここはマグノリアの魔導士ギルド、妖精の尻尾(フェアリーテイル)よ」
「すげぇ・・・ミラ驚かねぇのかよ」
「ふふっ、だってハッピーもネコなのに喋るじゃない」

そういえばそうだったとメンバーが落ち着きを取り戻す。
狼は先ほどまで怪我をしていたとは思えない程に軽いステップでテーブルから降り、自分の右手を見つめた。

「ミラ嬢、といったか。もう1つ教えてほしい事がある。俺は怪我をしていたはずなのだが・・・」
「ミラでいいわ。あなたの怪我を治してくれたのは、そこにいるルーよ」

ミラがルーを指さす。
狼はてくてくとルーに向かって歩き、頭を下げた。

「助かった。礼を言う」
「ううん、気にしないで。治すのが僕の仕事だから!」

先ほどまでの疲れはどこへやら。狼が動き出して安心したのか、その疲れは見事に消えている。
いや、消えていないのかもしれないが、表情から疲れは見えなくなっていた。

「ねー、1つ聞いてもいい?」
「何だ?」
「君、誰?」

ルーの問いにその場にいた全員はズッコケかけた。
普通狼に対して「君、誰?」とは聞かないだろう。

「・・・知らん」
「え?」

狼はゆっくりと言葉を紡いだ。

「俺に名はない。そして俺には特定の姿もない。誰か、と聞かれても、答える事が出来ない」

紫の目を少し伏せ、淡々と呟く。
しばらくその姿が静寂を呼んだが、ふとハッピーが疑問を覚えた。

「ねぇ、特定の姿がないってどういう事?」

そう。
目の前にいるのは狼であり、それが変えようのない特定の姿だ。
ミラのように変身魔法を使うとしても、ミラにはミラの特定の姿がある。

「っ・・・いらん話をしたな」

狼は小さく呟き、口を閉ざす。
その表情は何かを隠しているような、何か言いたくない事があるような雰囲気を醸し出している。
目を逸らし、様々な感情を混ぜた表情の狼は沈黙した。

「だーっ!何黙ってんだよ!モヤモヤすっから早く言えって!」
「奇遇だなナツ!俺も気になって気になって仕方ねーんだよ!うがーっ!」

その沈黙に耐えきれなくなったナツとスバルが苛立ちを含んだ声を上げる。

「・・・貴様等に信じられる話であれば話すが、これはそうではない。現に多くの奴等が俺を疑い、捨ててきた。その経験をしているのに懲りずに話すほど、俺は愚かではない」

その言葉を聞いた瞬間、ティアの眉が動いた。
こちらも沈黙したまま狼に近づき、目線を合わせるかのようにしゃがむ。

「アンタの言う話とやらが今まで誰にも信じられなかったから何?話も聞いていない私達の反応を勝手に決めつけないで。信じるかどうかは、話を聞いてから自分で決めるわ」

淡々と、冷静で冷淡で、微量に冷酷な声が言葉を紡いでいく。
それを聞いた狼は俯き、小さく口を開いた。

「俺は、狼ではない」
「は?」

予想していなかった言葉にティアが首を傾げる。
そして狼は、ゆっくりと顔を上げた。
青い目と紫の目が合う。





「俺は・・・人間だった」





儚く、細い声が響いて消える。

「人間だった?」
「意味が解らないわ。詳しく話しなさいな」

クロスが首を傾げ、ティアが急かすように言う。
狼は「ああ」と短く返事をし、続けた。

「お前達は、偽り姿を変える者(ディスガイズ・ライアー)という魔法を知っているか?」
「ライアー?」
「・・・俺は魔法じゃないぞ」

スバルは横にいたライアーを見るが、ライアーは短く呟く。

偽り姿を変える者(ディスガイズ・ライアー)・・・!?」
「サルディア、知っているのか?」

ヒルダの問いにサルディアは「本で読んだだけだけど」と前置きし、口を開いた。

「変身魔法に似た魔法で、実在していようがしていなかろうが変身出来るの。失われた魔法(ロスト・マジック)であり、太古の魔法(エンシェント・スペル)。使える人は滅多にいないと聞くけど・・・」
「滅多にいない?失われた魔法(ロスト・マジック)だからか?」
「それもそうなんだけど、実在しない者に変身するにはしっかりと変身する者を想像しないといけないの。だから、使う人は並外れた想像力がないと使えなくて、ちょっとでも曖昧じゃダメなんだ」

さすがは歩く魔法辞典。
サルディアの言葉に狼は頷き、言葉を続ける。

「詳しいな、サルディア嬢。説明をしてくれた事に感謝する・・・そして俺は、その偽り姿を変える者(ディスガイズ・ライアー)の使い手だ」

その普通に紡がれた言葉に、全員が驚愕する。

「?」
「い、意味わかんねぇ・・・」

・・・話を理解できなかったナツとスバルを除いて。

「かつては・・・正確には10数年ほど前まで、俺は人間だった。ギルドには属さず、フリーの魔導士として故郷の人達の頼みを聞いて仕事をし、その報酬で生活をしていた。何不自由なく、至って平和で普通な生活だった」

昔を思い出しているのか、少し遠い目をする。

「・・・が、とある仕事で俺はとんでもないヘマをしてしまったんだ」
「ヘマ?」

アルカが首を傾げる。

失われた魔法(ロスト・マジック)には強烈な副作用がある。1度に使いすぎる事で起きる副作用や、とある魔法を使う事で起こる副作用・・・様々だ。そして、偽り姿を変える者(ディスガイズ・ライアー)にも、副作用があった」

その表情が暗くなる。
少し躊躇い、顔を上げ、ティアの青い目を暫し見つめ、口を開く。

「1度に使いすぎる事で・・・本来の姿を失ってしまうんだ」

しゅん、と狼の耳が垂れる。
ギルドメンバーが何とも言えない表情を浮かべる中、ティアは1人無表情だった。

「俺は副作用を受け、本来の姿を失い戻れなくなった。それからは時と場合に合わせて姿を変えている。基本的にはこの狼姿だがな」

紫の目にアイスブルーの毛並みの、テーブルと同じくらいの大きさの狼。
同じ寒色系だからか、ティアの横に並んでいるとしっくりくる。

「・・・で、名前がないってのはどういう事だよ?お前、人間だったんだろ?そん時の名前はあるんじゃねーのか?」

漸く話を理解したナツが首を傾げる。

「・・・捨てた」
「え?」
「人間だった時の名は、姿を失った時に捨てた。その後は名を付けられては捨て、名を付けられては捨てている。名を付けた人間が、俺を捨てたその瞬間にな」

この人間だった狼が何人の人間に捨てられたかは解らない。
が、この話をするのを極力避けようとしていた所を見ると、この話で捨てられる事が多かったのだろう。
狼が人間だった・・・そんな話をしても、信じる人間は少ないだろうから。

「だが・・・1人だけ、俺を捨てなかった女がいた」

狼の顔が、柔らかくなっていく。

「姿は消したが、直接捨てる事はしなかった。俺に名を与え、短い間だが傍にいてくれた。まぁ、それも10数年前の事だし、この姿ではなかったし、忘れているだろうがな」

薄く微笑む。
そしてティアを見つめ、紫の目を細めた。

「頼みがある」
「・・・何」
「俺に名をくれ。お前はその女に似ている。姿も名前も忘れた女だったがな」

そう言われたティアは数回瞬きし、考えるように視線を逸らす。

「名前かー。何がいいかなぁ?」
「俺はミラジェーンがいいと思うぞ」
「それじゃミラと同じだろ。それにコイツぁ『俺』っつってる。男だろーが」
「じゃあ・・・ポチ?」
「サルディア、それじゃあ犬だ」
「む・・・なら、何がいいだろうか・・・」
「お前達・・・考えるのは姉さんなんだぞ」

狼の名前を考え始めるルー達に、クロスが困ったように呟く。
ティアは視線を元に戻し、小さく呟いた。

「ヴィーテルシア」

その小さい呟きに、クロス達の声が止まる。

「ヴィー・・・何だって?」
「ヴィーテルシアよ。知らないの?」
「知らねぇよ」
「魔法学の第一人者だっけ?確かフルネームはヴィーテルシア・ベルザンディ」

長い名前にナツが首を傾げ、魔法学に詳しいサルディアが思い出すように呟く。

「これでいいの?」

ナツ達から目を外し、狼へと目を向けるティア。
そして、目を少し見開く。

「・・・何故、お前がその名を・・・」

狼は、震えていた。
驚愕に目を見開いて表情を染め、声も震わせる。

「何故、って・・・昔・・・確か3歳くらいの時実家に来たネコに付けた名前だけど」
「ネコ?ネコなんて来た事あったか?」
「クロスは知らなくて当然よ。私の部屋に来て、すぐにいなくなったし」
「つかお前は何で3歳で魔法学の第一人者の名前知ってんだよ!?」

御尤もなツッコミをグレイがいれる。

「ネコ・・・?・・・まさか!」

しばらく何かを考えていた狼は、少しして尻尾をピンと立てる。
そして、恐る恐るといった様子で尋ねた。

「お前があったというそのネコ・・・もしかして、濃いグレーの毛にアイスブルーの目じゃなかったか?」
「・・・何でアンタがそれを知ってるの?」

ティアが眉を顰める。
狼は震え、「そうか・・・」と小さく声を零した。

「『似ている』のではない・・・お前が・・・あの時の、少女か」

紫の目が潤み、微笑む。

「アンタがあのネコ?ヴィーテルシア?」
「・・・ああ。かつてはそう呼ばれた。本当に短い間だったがな」

そう言い、1歩近づく。
そして、スンと鼻を鳴らした。

「変わらんな・・・この匂いは。あの時と同じだ」
「・・・もっとマシな確認法、無いの?」
「生憎、容姿は忘れ、名前は聞いてすらいなかったからな」

尻尾をふわふわと揺らし、嬉しそうにティアの脚に頬を摺り寄せる。
一瞬戸惑うような表情を見せたティアだが、その頭にゆっくりと手を伸ばし、撫でた。

「んじゃ、お前もギルドの仲間だな!」

明るい声でナツが言う。

「?」
「だって魔法使えるし、ティアの相棒なんだろ?」
「いや、相棒とは言ってないけど・・・」

何か勘違いしているナツにティアが言いかける。
が、ナツはそれで納得しているようだ。

「相棒・・・を、名乗ってもいいのか?」

紫の目が、じっと見つめる。
ティアは無表情で顔を逸らし、「・・・好きになさいな」と小さく呟いた。

「ならば名乗らせてもらおう。俺の名はヴィーテルシア。ティアの相棒だ」

上機嫌に尻尾を揺らし、紋章を押す為ミラについていく狼―――ヴィーテルシア。

「これから更に騒がしくなりそうだな」

クロスが微笑む。

「となれば、今夜は宴じゃーーーーーー!」
『オオオオオオオオッ!』

マカロフが宣言し、ギルドが歓声に沸いた。
ヴィーテルシアはその騒がしさに微笑み、ティアの横に、当然のように現れる。

「よろしくな、ティア」
「・・・まぁ、アンタなら少しは慣れ合ってもいいわ」

変わらない冷淡な声に、微量の感情が篭っていた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ヴィーテルシアのキャラ説は今度載せます。
今日はもう夜遅いんで。

感想・批評、お待ちしてます。 
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