駄目親父としっかり娘の珍道中
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第47話 子供は大人の裏まで見ている
一面白色で統一された医務室内にて、シグナムは医師と向かい合う形で座っていた。
彼女の表情はとても硬く、冷や汗が流れていた。まるで死刑宣告を待つ死刑囚のようだ。
「先生……結果はどうでしたか?」
診療の結果を待つシグナム。そんな彼女の前で医師は難しい顔をしながら診察結果の書かれていた紙を見ていた。
その表情から察するに余り良い結果ではないようだ。下手すると最悪の結果すらあるやも知れない。
その為か、医師が結果を言うのを渋っている。患者にとっては我慢出来ないシチュエーションと言えた。
「遠慮は要らぬ! いっその事はっきりと言ってくれ! 元に戻るのか? 元に戻らないのか? 私の、私の―――」
烈火の将らしからぬ目に涙を浮かべつつシグナムは医師の目を見つつも声を張り上げた。強気な女性が滅多に見せない弱気な一面。そんな一面に思わずキュンとなってしまう読者も居るだろう。
だが、そんな彼女の髪型は何故か非常に残念な仕上がりを見せていたのは言うに及ばずだったりする。
「私の……この髪型は何時になったら戻るんだ? あれから一向に戻らず、未だにこんなファンキーな髪型なのだ! 一体どうすれば元に戻れるんだ?」
「良いですか? シグナムさん。落ち着いて聞いて下さいね」
覚悟を決めたのか、医師が口を開き説明を始めた。それを食い入るように聞く態勢を取ったシグナム。
「貴方の症状は言わば【ドリフ爆発後ヘアー】と言う症状でして、普段なら2~3カット辺りで元通りになる筈の病気なんです。しかし、此処まで長引くのは正直言って予想外なんですよ」
実際ギャグ展開の多い銀魂の中では比較的掛かり易い病だったりする。だが、それは銀魂の世界での話。なので別世界から来た人間が掛かる事はまず有り得ないのである。
従って守護騎士であるシグナムがこの病に掛かる事は至って稀な事だったりする。
その為にその病に掛かった時の症状の大きさもこの世界の住人の比じゃないのであったりする。
「そ、それでは……それでは私のこの髪型は何時頃治ると言うのだ!」
「まぁ、多分後2~3話位はそのままだろうな。まぁどうせ何時かは戻るんだし気長に待つと良い」
それを聞いた時、シグナムの目の前が突如真っ暗になって行く感覚を覚えた。
後2~3話近くはずっとこの髪型で過ごさなければ成らない。それは即ちその間ずっと沖田には勿論、真選組の面々に笑われるだけでなく、他の守護騎士達からは失笑され、主であるはやてにはその髪型を見る度に爆笑される日々を過ごさなければならないと言う事になるのだろう。
それを思うとシグナムの胸中はまるでブラックホールの如く真っ暗に渦巻いていたのは言うに及ばずだったりする。
まぁ、今回の話にはあんまり関係なかったりする。
***
時刻は丁度江戸でも有名な三馬鹿トリオが寺子屋にて学業に勤しんでいる頃、銀時は一人で居た。
と、言うのも今回の依頼でもある地上げ屋とドリフト星との関連を探る為にであった。
と、言うのは実は建前であり、一人である事を良い事に近くのパチンコ店にて遊びに来たのであった。
今回は銀時の上に勝利の女神が微笑むだろう、と思っていたのだ。
が、そんな世迷い言をする様な人間に純粋な心を持つ勝利の女神が微笑む筈もなく、パチンコ店からふらふらと出てきた際の銀時の体には、微塵も生気が感じられなかったのであった。
「すっからかんだ……折角あいつが隠していた隠し財産を探し当てて一山当てようと企んでたってのに……一気に無一文になっちまった」
真っ青になりながらも何所か重要そうな言葉を放った銀時。そう、普段から金のない銀時が軍資金を手に入れたには訳がある。
それは昨夜の事、何時もの様に夕飯を食べて風呂にも入り、歯も磨き終わった丁度その頃だったりする。
「さぁてと、飯も食ったし風呂も入ったし、お前は明日も寺子屋なんだからさっさと寝ろよ」
「うん、おやすみ~」
そんなこんなでなのはを寝かせた後、銀時は一人で椅子に座り夜恒例のジャンプ朗読に勤しもうとしていたのであった。
だが、そんな時、突如一部の床が腐食していたが為に陥落し、その際に椅子の足の内一部を巻き込んでしまったのだ。
四本足で車輪つき、そして支柱が一本の椅子でそんな事になればどうなるかは予想はつくだろうが、ものの見事に銀時は顔面から崩れ落ちてしまったのであった。
「な、何だよこの仕打ちは……もしかして江戸の神様がさっさと寝ろって囁いてるってかぁ? 悪いがガキは寝る時間だが大人はまだまだ起きていられる時間だってのに……ん?」
ぶつぶつ文句を言っていた銀時であったが、ふと砕けた床の隙間から覗く何かに気付いた。それは一枚の封筒であった。
手を伸ばしてそれを取ってみると、案外分厚い。それにズッシリと重かった。
一体何が入っているのだろうか?
ドキドキとワクワクとちょっぴり不安を胸に封筒の封を開く。すると其処には封筒の中一杯に札束が収められていたではないか!
「こ、これはまさか……なのはの隠し財産!!!」
思わずハッとなり口を塞いだ。折角見つけた大金を持ち主に奪い返されては元も子もない。それに、これを元手にしてパチンコをやり何倍にも膨れ上がらせれば問題ない筈なのだ。
結果的にプラマイゼロどころか+だらけで生活にも潤いが出ると言う物だ。
そんな風に微笑みながら銀時はその封筒をそっと自分の懐に閉まったのであった。
とまぁそんな訳で後先考えずに懐に仕舞いこんだ軍資金を手にパチンコ店にやってきた銀時。だが、結果としては多くの読者達の予想どおりと言うか何と言うか、結果としてあれだけあった軍資金は当然の如く無一文となってしまったのであった。
「やべぇ……俺の計画が目の前で音を立てて崩れていくのが見える気がする」
一体どんな計画を画策していたのか甚だ疑問なのだが。
とにかく、このままの状態で万事屋へ戻った場合は、必ず新八と神楽のダブルコンビにツッコミとストンピングの嵐に見舞われる事山の如しであろう。
流石にそれはまずい。非常にまずい。何せ暫くは銀魂名物のギャグパートなのだから、比較的銀さんの情けないシーンや堕落しきったシーンしか公表されない日々が続く。
其処へ来て娘が溜め込んでいた備蓄を勝手に持ち出した上に使いきってしまったなんて知れ渡れば最悪自分自身のイメージダウンにも繋がってしまうだろう。
それだけは避けなければならなかった。
「しかし、どうすりゃ良いんだ? あれだけの大金を早々手に入れる訳がないだろうし……かと言って知り合いに金持ってる奴ぁ居ないだろうし……ヅラでも警察に売り払えば多少は足しに……なんねぇよなぁ~」
末恐ろしい事を呟いた後に、溜息を吐いてしまう銀時。それ程までに今の銀時は追い詰められていたのだ。まぁ、自業自得なのは変わりない事なのだが。
しかしこの男、如何に自分のせいだったとしても絶対に認める訳がない。断じてない。
そんな訳で何所かに金づるでも転がってないかとあちこち歩き回り始める。
だが、道に落ちてる小銭を拾い集めた所で銀時が使いきった額へ到達させるのは到底無理な話だったりする。
「封筒に入ってたのは……確か10万位あったから、今拾った60円で差し引きすれば……大丈夫、今日中には何とかなる筈だ!」
何を根拠にそんな事を呟いているのか?
そんな風にツッコミを入れたくなってしまう昨今。そんな我等の視線などアウト・オブ・眼中なまでにスルーしつつも、銀時はひたすら小銭の捜索を続けていた。
その動きはさながら乞食か畜生にも見て取れるのだから情けない事この上なかったりする。
「畜生でももう少し日陰で行うべきではないのかな?」
「あん?」
まるで上から目線で蔑むように言いつけてくる発言に苛立ちを感じつつ、銀時は視線を上げた。其処に居たのは唐傘を頭に被った僧侶を気取った男だった。
何故気取ったかを瞬時に察せられたか?
本来僧侶と言えば仏に使える身、もしくはそれに殉ずる者達を言い表す者達だ。
俗世を嫌い、ひたすら身を潔癖にする事と鍛錬を念頭にして生きている者達。銀時には到底出来ない役職だ。
だが、今目の前に居る僧侶にはそれにそぐわない匂いが染み付いていた。
そう、戦いと血の匂いがベッタリとこびり付いていたのだ。
「こんな生臭坊主で良ければ少しは恵んでやっても良いが?」
「あっそ、じゃすぐにでも恵んでくれよ。贅沢は言わねぇよ。とりあえず今すぐで10万用意してくれや」
僧侶は思わずずっこけた。贅沢は言わないとか言っておきながらシレッと大金を要求する。
そんな浅ましさが銀時の美点だと言う人も居たら嬉しいな。
「お、お前アホかぁ! 何所の世に謙遜しつつシレッと10万とか大金ねだる奴が居るんだよ!」
「此処に居るだろうが、此処に」
「あ、なる程……じゃないわぁ!」
思わず納得させられてしまった自分に叱咤しつつ、僧侶は持っていた杖で地面を叩いた。
「情けない。お前の様な輩は仏の手により地獄へ落とされるが運命。心中お察し申すぞ」
「おいおい、気取るのも良いけどよぉ。坊さんやるんだったらその体に染み付いてる血の匂いを取り払ってからにしな。でなきゃ嘘っぱちだってばれるぜ」
目元は見えないが、確実に僧侶の目元が曇ったのを銀時は察した。
全身の筋肉が震えたっている。血が沸き上がっている。目の前に居るこの男を見て、銀時の体全身が振動しているのだ。
-油断するな、こいつは武器を隠している!
外見に惑わされるな、こいつはお前を殺す気だ!
言動を信じるな、こいつの言葉は嘘で塗り固められた汚らしい代物だ!-
四六時中銀時の中で吼え回っている。それを黙らせ、銀時は目の前の僧侶を睨んだ。
既に承知の事だ。この男が仏に仕える身である筈がない。恐らくは刺客。
今回桂が依頼した地上げ屋の件で奴等が雇った腕利きだろう。
そして、その腕利きが同じように匂いを嗅ぎ付けてやってきただけの事だ。
「やれやれ、そんなに臭うかねぇ~、俺?」
ふと、腕を挙げて脇の臭いを嗅いでみた。その刹那、僧侶が動いた。
疾風の如き速さで地を蹴り、銀時目掛けて突っ込んできたのだ。
杖の真ん中部分が怪しく光る。中に鉄の色の輝きと不気味な臭いの染み付いた物が顔を覗かせた。
仕込み杖だった。奴が持っていたのは仕込み杖だったのだ。
一瞬の内に僧侶は銀時の後方に立っていた。一閃の如き居あい抜きであった。
常人であれば恐らく胴体から真っ二つにされていただろう。
だが、それは常人であればの話……
「おいおい、折角の一張羅が台無しじゃねぇか」
「!!!」
僧侶の目の前には切れてしまった着物部分を見せびらかしながら不満そうな顔をする銀時の姿があった。彼自身に外傷はない。
外したか? 嫌、咄嗟のタイミングでかわしたのだ。恐るべき反射神経と動体視力の持ち主だ。
「少しは腕が立つようだな」
「あんれれぇ? 何、お宅ライバル気取りのつもり? 止めときなって。どうせ三下程度の悪役キャラなんだろお前」
「うっせぇよボケェ! 人が気にしてる事をずけずけと言うんじゃねぇよ!」
この動揺っぷり、どうかしなくてもこいつは三下の子悪党だ。わざわざ相手にするまでもない。それに、今は銀時も忙しい身分だ。
こんな雑魚に構ってはいられない。
「はいはい、めんごめんご。悪いけど俺これから家帰って晩飯食わないといけないんだよ。健康は一日三食って言うからな。抜いたら大変だぜ」
「心配は要らぬ。すぐに冥土へ送ってくれるわ! そうすれば一々健康などに気をつける必要もあるまい」
聞く耳持たずとはこの事だろう。仕方ないと銀時は腰に挿してある洞爺湖と彫られた木刀に手を伸ばし、刀身を引き抜いた。
「木刀か……俺も相当舐められたものだな。それとも不殺を気取ってるつもりか?」
「別に良いじゃん。かのるろ○に○心だってやってたんだしさぁ
」
「嫌、剣心はちゃんと逆刃刀って言う刀持ってたじゃん! お前のは明らかに木刀じゃん! しかもやる気の欠片も見えないし! 古今東西お前みたいな堕落した主人公見た事ないぞ!」
「うっせぇよゴラァ! これでもなぁ俺ぁいざって時は煌くから良いんだよ! シリアス展開になったらバッチシ決めるから問題ねぇの!」
何時しか切りあいから一転して醜い罵りあいへと変貌してしまった。
はっきり言って見ているこちらとしてもかなり痛々しい。
このままそんな事を続けられててもはた迷惑な話でしかない。
「こらぁ、お前等ぁ!」
そんな読者の皆様の心を汲み取ってなのか、偶々周囲を巡回中だったお巡りさんに目をつけられてしまう。が、銀時は木刀なので大して問題はないのだが僧侶の方は大問題だったりする。
「廃刀礼のご時世に何て物騒なもん振り回してんだ!」
「げっ! い、いえこれは違うんですよ、偶々魔が差したって奴でしてねぇ……なぁ、お前も何か言って―――」
助けを求めようと銀時の方を見たのだが、その時既に其処に銀時の姿は見受けられなかった。
どうやら一目散にスタコラサッサを決め込んだ模様だ。
「とにかく、一度署で話を聞かせて貰おうか?」
「ちょっ、マジ勘弁して下さい! 俺この間免停食らったばっかなんすよ! これ以上警察のご厄介になったら確実にやばいんスよぉ!」
泣きが入っているようだがお巡りさんは一向に気にせず僧侶の首根っこを引っ張って連れ去って行くのであった。
あぁ無情、この世は正に廃刀礼のご時世也。この世がもし戦国の世とかバイオレンスな世の中であれば仕込み杖とか刀とか振り回していてもさして問題なかったのだろうが。
あぁ無情、この世は刀などのご法度な江戸の町なのであった。
***
どうにかこうにか胡散臭い僧侶から逃げおおせた銀時は、そのままの足取りで万事屋へと無事な帰還を果たした。そんな銀時を出迎えてくれるかの様に毎度御馴染みの面子が揃っていたのは既にご承知の事実だったり。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
「あぁ、もうさっぱりだよ。全然出なくてさぁ……今度からやる台変えた方が良いなぁこりゃ」
「そっちの話なんか誰も聞いちゃいねぇよ」
額に青筋を浮かべつつも真相を早く聞きたい我等が新八は急かし気味に銀時を揺する。
が、幾ら揺すったって叩いたって出ない物は出ない。何せ銀時は今日一日ギャンブルの鬼と化していたのだから。
「つまりあれアルかぁ? 私達が必死に駆け回っていた間、てめぇは一日中パチンコ三昧だったって事アルかぁ?」
「ま、まぁそんな感じなんだけどさぁ……ってか、そのマジ顔止めてくんない? マジで怖いから、銀さん怖くて泣いちゃいそうだからさぁ」
銀時の目の前で怒り心頭になって迫る新八と神楽のダブルパンチ。新八はともかく神楽はマジでやばい。下手するとあばら骨の2~3
本は覚悟しないといけない気がしてならなくなってきた。
「あ、帰ってたんだお父さん!」
正にそんな時であった。丁度夕食の支度をしていたなのはが玄関辺りでの騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。
正に地獄に仏とはこの事だったりする。銀時は藁にも縋る思いでなのはの目の前に逃げ寄ってきた。
「お、おう! いやぁ大変だったぜぇ。こりゃもう大冒険の臭いがする位でさぁ―――」
「何を言いたいのかさっぱりなんだけど?」
ごもっともと言えた。その証拠に言い訳をしていた銀時自身何を言いたかったのかさっぱりだったのだから。
そんな銀時自身でも分からない言い訳をなのはが理解出来る筈もなく銀時の目の前で頭の上に?マークを乱立させてるなのはが居たりしている。
「ま、まぁその何だ……今日も一日無事に過ごせて何よりだった……って事だよなぁ、うんうん」
「何綺麗に纏めようとしてんだこの駄目人間!」
「そうネ。私達にだけ重労働させといて自分は娯楽三昧とか酷すぎるアルよ!」
後ろから痛々しい野次が飛んでくる。しかし一々聞いていては銀時のガラスのメンタルが持つ筈もないので無視するに限る。
「ところでお父さん、明日って暇?」
「あ? 何だよいきなり。因みに銀さんは自慢じゃねぇが万年暇人だぞこの野郎」
それは果たして自慢して良いのだろうか?
疑問が尽きなかったりする昨今だが、まぁ一々気にしていたら仕方がないので先に進める事にする。
「明日さぁ、寺子屋で授業参観があるんだけど、来てくれる?」
「マジでぇ? 面倒臭ぇなぁ」
明らかに行きたくなさそうな顔をする銀時。が、そんな銀時の背後で冷たい視線が突き刺さる感覚を感じた。半身だけ振り返ってみると、其処にはドス黒いオーラを放つ新八と神楽が居た。恐らく、断れば即座に自分に襲い掛かり主人公(元)にする腹積もりに違いない
。
此処は断る訳にはいかなくなってしまった。
「しゃ、しゃぁねぇなぁ~~。明日は銀さんも暇だし~、折角だから付き合ってやっても良いぜ~」
「本当!? わぁいやったぁ!」
年相応な感じで諸手を挙げて喜ぶなのは。こういう所はまだお子様だったりする。
「明日だからね、絶対に忘れないでよね!」
「へいへい、分かりましたよ。そんじゃま、疲れたし飯食ってとっとと寝ようぜ」
上手い具合に危機回避をしてのけた銀時だったりした。まぁ、不満たらたらな新八と神楽だったりしたが、なのはに罪はないし、それに明日の授業参観に差し支えがあっては仕方ないので此処は少々不満だが胸の内に閉まって置く事にした。
それが大人の対応なのである。
***
翌日の朝、なのはは早々に寺子屋へと向かい、新八と神楽は相も変わらず付近の捜索へと乗り出した。
んで、我等が銀時はと言うと………
「あ~~~、だりぃ~~~~」
これである。
まぁ、要するにだらけきっていたのだ。これも普段どおりの銀時と言えばそうなのだが、今日だけはだらけきる訳にはいかない。
例の授業参観は午後の授業でだ、まだ時間はある。なのでその時間までしっかりだらけきろうと計画していたのである。
が、世の中そうは問屋が卸さないのが世の常だったりする。
「御免下さ~い、桂で~す」
「……」
玄関の戸を叩きながら名乗る声。間違いなくヅラこと桂の声であった。
が、銀時は無視する事にした。下手に相手してたら確実にこっちが疲れるからだ。
しかし、玄関に居るヅラは一向に帰る気配を見せず、仕切りに戸を叩き続けている。
はっきり言って鬱陶しい事山の如しであった。
「ちっ……」
流石に鬱陶しかったので追っ払おうと銀時は玄関へと駆け寄る。そして、不満気な顔を隠すような素振りを見せずそのままの表情で戸を開いた。
「おぉ、やっと出てくれたか銀時」
「銀さんは今いらっしゃいません。直ちにお帰り下さいこの野郎!」
「いや、目の前に居るではないか。冗談は止せ銀時」
「いねぇ、っつてんだろ? 今度しつこく戸を叩いたら警察呼ぶぞコラァ!」
そう言って戸を閉めようとする。が、その戸を桂はガッチリと掴んで止めに入った。
「待て銀時! せめて俺の話を聞いてからだらけてくれ!」
「離せゴラァ! てめぇ、国を変えるとか抜かしてた癖に今度は家宅侵入ですかぁ? お巡りさぁぁぁん! 此処に犯罪者が居ますよぉぉぉ!」
片や、必死に戸を閉めようとする銀時。そして片や、その戸を押し開こうとする桂。双方の一歩も譲らぬ空しい戦いが其処に展開していた。
が、此処で銀時が折れたのか戸をゆっくりと押し開ける。
「わぁったよ。聞いてやるから言い終わったらとっとと帰れよな」
「流石は銀時だ。ではお邪魔するとしよう」
「おい、図々しいにも程があるぞヅラ!」
「ヅラじゃない、桂だ!」
最早お決まりの台詞とも言える一言を吐いた後、桂はそそくさと居間に用意されている客用のソファーに腰を下ろす。それに向かい合うように銀時も腰を下ろす。
「で、何だよ話ってのは?」
「先日、例のドリフト星の大使館が何者かに襲撃された」
「!!!」
桂のその一言を聞き、銀時の表情が強張った。ドリフト星大使館と言えば以前桂が情報を入れてくれた地上げ屋とつるんでると噂の奴等だったからだ。
そして、その大使館が昨晩襲撃されたと言うのだ。
「被害は甚大の様でな。しかも大使のカリヤを含め例の地上げ屋二人も死んでは居ないが半死半生の状態で屯所前に突き出されていたそうだ」
「何だそりゃ? 幾ら何でもそりゃないんじゃないの? 確かにあいつらってアニメだとゲストキャラ扱いだから使い方が難しいのは分かるけどさぁ、だからって俺じゃない奴がぶちのめすとかって有り得なくね?」
「そうでもないぞ」
意味深な発言をした桂。すると、懐から小型のテレビを取り出して銀時に手渡す。其処に映っていたのは大使館内の小型カメラの映像であった。
そして、其処にあったのは例の襲撃者の一部始終であった。
「これを見て何か思い当たる事はないか、銀時?」
「……あぁ、うん……良い腕してんねぇこいつ……いやいや、感心しちゃうわぁ、マジで」
「茶化すな! お前なら分かる筈だ!」
さっきとは打って変わっていやに強気な発言をする桂。その発言に銀時は黙り込んでしまった。
「お前なら分かるだろう。その襲撃者の太刀筋、そして戦い方が!」
「………」
「その襲撃者の太刀筋、それは紛れも無い。銀時、お前の戦い方と酷似しているんだ!」
桂の言い分は最もだった。映像に映っているのは銀時とは全く似つかわしくない人物であった。
白い着物に流れる水の絵が施された着物を身に纏い、顔には奇妙な仮面をつけて素顔を隠している。
得物はたった一本の木刀を使用しており、これで並み居る浪士達を次々に返り討ちにしていっている。
その映像を見ている銀時にも理解出来た。こいつの戦い方は俺そのものだと言うのが手に取るように分かったのだ。
映像に映っている人物の刀の振り方から身の返し方、抜き方から捌き方に至るまで、全てが自分の剣技と酷似しているのだ。
それに銀時は深い疑念を抱いていた。
「疑問を抱くのも無理はあるまい。お前の剣技は基本こそあの人から教わっただろうが、殆どが我流。即ち誰の真似でもない。従っておいそれと真似出来る筈がないのだ。だが、この映像の主はそれをいとも容易くやってのけている」
「こいつ、今何所に居るんだ?」
「所在は不明だ。俺達も全力を挙げて捜索しているのだが、一向に手掛かりが掴めん」
正にお手上げ状態であった。銀時は、再度映像に目をやった。映像の主は顔こそ判別がつかない。体つきも男なのか女なのかはっきりしない。が、髪は見る事が出来た。何所か薄汚れた茶色の髪で根元から後ろに束ねている。
相当手入れをしていないのだろう、所々枝毛が目立っている。
(まさか……な)
銀時の中に一つの答えが浮かんだ。だが、すぐにそれを撤回した。現実的に有り得ない答えだったからだ。その答えをすぐに放り捨てた後、持っていた機械を桂に返した。
「ま、要するに俺のファンとか何かだろうな? とりあえず注意して置く事にするさ」
「うむ、俺の方でも何か情報が掴め次第お前に連絡する」
話は以上だった。話し終えた後、桂はそそくさと退散し、再び銀時一人となった。
これで再び堕落タイムへと誘えるかと思ったのだが、時計を見ると、既に昼の12時を差していた。今から行かないとこの後の授業参観に間に合わなくなる。
「覚えてろよ、ヅラ」
呟くように一言言ってのけた後、玄関へと向う。
ヌッと、外から顔を覗かせるかの様に桂がこっちを見てきた。結構不気味な光景だったりする。
「な、何だよ?」
「もう一度言うぞ。ヅラじゃない、桂だ!」
どうやらそれだけを言う為に戻って来たようだ。ハッキリ言ってはた迷惑この上ないと言える。
***
場所は変わり、此処寺子屋では現在授業参観の真っ最中であった。教室には生徒達の親と思われる大人達が後ろで授業風景を見学している。
そして、その中にはご存知江戸の治安を守ってくれている武装警察真選組の姿もあった。
更にその真選組にお世話になっている守護騎士達も揃って見学に来ている。
が、何故かその中にシグナムの姿はなかった。
「シグナムさん、どうかしたの?」
「何でも、病院に行くとか言うとったでぇ?」
「何だよアイツ、風邪でも引いたのか?」
大体の人がそう予想するのだが、真相は冒頭で示されている通りだったりする。
まぁ、大勢の人の前であんなファンキーな髪型を見られるのは騎士として恥ずべき事なのであろう。
其処はそっとしておいて上げて欲しかったりする。
「それにしても、真選組の人たち全員で来るって凄いねぇ」
「せやなぁ、しかも制服姿やから皆気合入っとるなぁ」
チラリと後ろを見る。すると其処では真選組の面子が場所を確保しようと所構わず刀を振り回している。しかも、その中で土方の口から「士道不覚悟」とか「切腹」とか危なっかしい発言がちらほら聞こえて来る。
これでも本当に江戸の治安を守っているのだから疑わしく思えてしまっても言い訳できない。
「そう言えば、なのはちゃんのとこは銀ちゃんが来るんかぁ?」
「そうだよ。昨日そう言っておいたから多分来るとは思うけど……」
噂をすれば、であった。
教室に一際堕落しきった顔の銀時がやってくる。ちゃんと覚えてくれていたようだ。
「何だてめぇは、今日は大事な参観日だ。駄目親父はさっさと退場しやがれ」
「んだゴラァ、こちとらも大事な参観日で来たんだよ。ニコチンマヨラーはとっとと退散しやがれ!」
とまぁこれまた御馴染みと言えば御馴染みなのだが、早速顔を合わせた途端に銀時と土方が互いにメンチを切りあい始めてしまった。
喧嘩する程仲が良いとは良く言うが、この二人には適用しないようだ。
「はぁい、それじゃ今日は皆さんのお父さんお母さんについて発表して下さい」
教壇に立っていた先生がそう述べる。どうやら今日の授業はそんな内容だったらしい。
早速それぞれの生徒達が発表を始める。どれもこれも両親の事について自分なりに纏め上げたと言うが、年相応と言うか何と言うか、とにかく子供臭い内容が殆どだったりする。
が、それも最初の内だけ。こいつらの発表は他の生徒達とは一線を介した内容だったりした。
「はい、それじゃ次に、はやてちゃんとヴィータちゃん。二人は親御さんが一緒だから二人同時にお願いしますね」
次に教壇に上がったのははやてとヴィータだった。親御さん達の拍手で迎えられる中、この二人の発表は正に度肝を抜く代物であった。
「え~、私の家族は、一言で言うと変態の集まりです!」
はやての開始一発目の一言に、その場に居た沖田と銀時以外の大人全員が盛大にずっこけた。まさか最初の第一行目でそんな大それた内容を持って来るなど誰が予想出来ただろうか?
「まず一番上の兄ちゃんは、一人の女の人を執拗に付け狙う世間一般で言うストーカーです。二番目の兄ちゃんは何時も目に気合入れっぱなしなんやけどマヨネーズと煙草に目がなくて、何かあるとすぐに【士道不覚悟で切腹だぁゴラァ!】って怒鳴ります。三番目の兄ちゃんはその二番目の兄ちゃんを亡き者にしてその座に居座ろうと虎視眈々と狙ってます。他にも色んな兄ちゃん達が居まして……」
その後も語られているが、要するに武装警察真選組の内情を滅茶苦茶暴露されてる様な物だ。しかも、先の文章から分かる通り、内容に出てきたのは近藤勲、土方十四郎、沖田総梧の三名だと言うのはお分かり頂けたと思う。
「いやぁ、的を射ていますねぃ。流石ははやてだ。俺達の日常を見逃さずこうして纏め上げるたぁ、将来が楽しみでさぁねぇ」
「俺ぁ逆に心配になってきたよ。ったく、もうちっと言い方ってのがあるだろうが」
はやての発表に沖田はご満悦のようだが土方は不満そうだった。そして近藤勲に至っては、彼の回りから女性陣が一斉に離れだしている光景が見えていたりしている。
「も、もう止めてえええええええええ! 俺の精神ポイントはとっくにゼロを振り切ってるんだよぉぉぉ!」
大の大人が涙を滝の様に流して泣き喚いている。何ともしがたい光景と言えた。
「ぶはははは! マジだせぇ! それでも江戸の治安を守ってる武装警察かよ? マジで腹痛ぇ、やべ、マジで腹がねじ切れそうだわこれ」
そんな彼等のすぐ横では、銀時が腹を抱えて大笑いしていた。はっきり言ってむかっ腹の立つ光景だったりする。
「てめぇ、何がおかしいんだぁコラァ? そんなに腹が痛いんだったらいますぐ此処で腹かっさばいてやっても良いんだぞぉ?」
「何かな土方君? もしかして自分の事言われて恥ずかしいの? 居るんだよねぇそう言う未熟な大人って、あぁ恥ずかしい恥ずかしい」
こいつら、いい加減にして貰えないだろうか? つくづくそう思えてしまう光景だった。
やがて、はやての発表が終わると、次はヴィータの発表が始まった。
「え~っと、あたしの家族……って言うか兄弟、で良いのか? まぁ、とにかく、そいつらも言っちまうと変な奴等の集まりでぇ、まず一番上の姉貴は最近出番が少ないと嘆いてて、先日は自動寿司握りマシーンを【寿司男さん】とか言ってたなぁ。んで二番目の姉貴は最近ファンキーに目覚めたらしく髪型もアフロヘアーに変えてたぞ。そんで、もう一人の兄貴は、ぶっちゃけ言って無口だ!」
この文章から分かる通りヴィータが発表しているのは守護騎士達の事だ。シャマルは最近出番が少なく、ちょっと不満そうで、しかも以前すし屋で訪れた際に妄想したせいで寿司握りマシーンを寿司男と誤認するようになってしまったらしい。
そんで、シグナムは、あれから全然アフロヘアーが治る気配がせず、最終的にはヴィータにまでそう言われる始末となってしまったらしい。
最後にザフィーラは、特にこれと言った特徴がないらしく結構おざなりに纏め上げられてしまったらしい。
「あいつらがこの発表聞いたら何て思うだろうなぁ」
「あん? そういやぁあいつらはどうしたんだよ?」
「俺達の変わりに仕事をやって貰ってる。幾ら大事な参観日だからって隊が仕事ほっぽっちまったらしょうがねぇだろ?」
要するに仕事を押し付けてきたと言うそうだ。それで良いのか武装警察?
等と言っている内にヴィータの発表も終わり、最後を飾ったのはお待ちかねなのはであった。
「え~っと、私のお父さんですけど、一言で言うとマダオです」
その一言を聞いた途端、今度は銀時が盛大にずっこけてしまった。そんな光景を見ながらも、なのはは全く意に返さず発表を続ける。
「まず、家のお父さんは金銭感覚がゼロに等しくて、仕事でお金が入ってもすぐに賭け事や甘い物で消えてしまうのが日常茶飯事だったりします。そのせいで、私が何時も管理してないとすぐに破産状態に追い込まれてしまうほどです」
「ちょ、ちょっと待てなのは! もう少しソフトに言い回してくんない? それだとまるで俺がダメ親父に見えちまうじゃん!」
居ても立っても居られず立ち上がり、その発表に抗議する銀時。だが、そんな銀時に対し大人達からの冷たい視線が突き刺さる。そして、その視線は他の子供達からも一斉に突き刺さってきた。
「お父さんは発表中は静かにお願いします。それと、あくまで子供の発表ですのでそれにいちゃもんをつけるのはご遠慮下さい」
「い、いや! だからってこれはないんじゃないの? 幾ら何でも俺ボロクソじゃん? これってないんじゃないかなぁ?」
「良いから黙って発表聞いてろや、このダメ親父」
グサリ!
教師のその一言が銀時の胸に深く突き刺さった。胸を抑えて銀時はその場に蹲ってしまう。そんな銀時を土方は鼻で笑って見せた。
「ざまぁねぇなぁダメ親父。普段からちゃんとしてないからそうなるんだよ」
「るせぇや」
普段だったらもっと言い返す筈だが、今回はそれで止まってしまった。言い返す気力もないようだ。
「お父さんは仕事の時でも怠けようとしたり逃げ出そうとしたりします。ちゃんと目を光らせてないとすぐに遊びに行っちゃうので毎日が大変です」
その後もなのはの口から言われたのは痛々しい内容ばかりだった。次第に回りの目線が痛くなってくる。銀時のサン値がガリガリ削られていくのが音で分かる感じだった。
「だけど、お父さんは捨て子だった私を拾って育ててくれました。お父さんが拾ってくれなかったら、今頃私は江戸の土になっていたって良く言われます。それに、普段はだらしなくても何時も私の事を守ってくれます。普段はやる気がないのはこう言う時に全力全開で頑張る為だと私は思います。何時もはだらしなくても、本当はカッコいいお父さんだって私は思っています。だから、私はお父さんが大好きです」
しかし、最後は綺麗に纏め上げてくれた。回りの痛々しい視線が徐々に消えて行くのが分かる。銀時も、その発表を聞き、思わず笑みを浮かべてしまった。
こうして、ちょっぴり波乱万丈な授業参観は終わりを迎えるのであった。子供が大人をどう見ているのか? それを知る事が出来る良い機会だったのであろう。
……多分。
つづく
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