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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第七十一話 種族の頂点に立つ九人の王

 
前書き
「おかえり。買い出ししてきたんだ」

「ただいま。ああ、何もないだろうと踏んでね」

「察しのいいことで」

「あとでちょっと頼みごとがしたいんだけどいいか?」

「うん?まぁ、私にできることならいいけど?」

「ああ、それなら大丈夫だ。サラマンダーの王≪火葬の軍神≫ミレイユ殿?」

「クスッ・・・なるほど。頼みごとっていうのは私個人じゃなくて・・・」

「ああ。種族九王全員への頼みだ」

「ほうほう。それで、私たちは何をすればいいのかな?」

「世界樹攻略を手伝ってほしい」

「・・・それは構わないけど・・・あれはクリア不可能よ?」

「そのことなんだが、どうしてそう思うんだ?」

「簡単よ。グランド・クエストは守護騎士たちを押しのけて天蓋までたどり着く、と言うのもなんだけど、天蓋にあるゲートが開かなかったのよ、たどり着いても」

「何かキークエストを見逃してるとかは?」

「その線も考えて、今の今までレネゲイトされながらもいろいろ試したんだけどねー」

「見つからなかった、と」

「ええ。あとは運営が故意にゲートをロックしているとしか思えないわ。それでも行くの?」

「・・・ああ。手を貸してほしい」

「まぁ、弟からの頼みならそう無碍にはできないし・・・いいわ、みんなには私から説明しとくわ」

「ありがとう。そういえば、今皆はどこら辺にいるんだ?」

「私を含む五人が央都アルン、残り四人がレプラコーン領よ。アルンて言うのは簡単に言えば世界樹の根元の街」

「ふむふむ。わかった。じゃあ、ちょっとばかし頼む」

「ええ。連絡、待ってるわ」 

 
前方に伸ばした腕を引っ込めながら二本の槍を背中で交差させて背負っている男性プレイヤーはキリトの方へと向き直った。

「ゆ、ユリウスさん!?」

サクヤが驚きの声を上げる。だが、驚いているのはサクヤだけではなく、キリト、リーファ、レコンを除いた全員がここにいるはずのない人物の登場に呆然としていた。

「おいおい、何だ、その幽霊を見たようなリアクションは」

「え、いや、だって・・・」

ユリウスと呼ばれたプレイヤーの言葉に今度は戸惑いながらもセリーヌが声を上げた。だが、忘れてはいけない。今はグランド・クエストに挑んでいて、周りは守護騎士だらけだということを。そして、守護騎士たちからすれば呆然としている妖精たちは格好の獲物でしかないことを。

「それより、いいのか?隙だらけだぞ?」

「っ!?何をしている!早く陣形を固めろ!!」

ユリウスの言葉とほぼ同時に後方にいたモーティマーが大声で指示を出す。その声に前衛のサラマンダーとシルフは我を取り戻し、急いで体勢を立て直そうとするが――守護騎士たちは目前まで迫っていた。

「あーあ、言わんこっちゃない」

かく言うユリウスの背後にも守護騎士が数体迫っているのだが、当の本人は焦る様子もなく背中に背負っている槍の一本に腕を伸ばす。だが、ユリウスが守護騎士の方を向くよりも早く、入り口付近から巨大な火の玉が飛んできた。突然のあらぬ方向からの予想外の攻撃に(ユリウスを除いた)前衛陣は驚きながら回避する。火の玉はユリウスの横を抜けると天蓋にあるゲートをふさぐ形で隙間なく埋め尽くされていた守護騎士たちの方へと飛んでいき、そのうちの一体に着弾すると火の玉が爆発した。大地を揺るがすような轟音と共に大量の火炎が守護騎士たちを無残に焼き払った。その規模・威力共にソレイユのローカルティ・エターナル・エンド以上だったが、それでも天蓋はまだ見えない。

「おーおー、相変わらず有り得ない火力してんなー」

「まぁ、それが彼女の強みだからね」

いつの間にかユリウスの隣には燃えるような紅い髪を持つ女性プレイヤーがいた。二本の刀を腰に差し、悠然としているその姿にユージーンは目を瞠り、フォルテは喜色が混じった驚きの声を上げる。

「ミレイユさん!?」

「はぁーい。久しぶりね、フォルテ、ユージーン」

「遅ぇよ」

「あなたが突っ走りすぎなのよ」

驚いている二人にのんきに手を振るミレイユだったが、ユリウスの言葉にミレイユは呆れたように言う。だが、ミレイユは守護騎士が迫っているのを感じると腰に差してある刀を抜刀する。隣ではユリウスも槍を構えている。それは二人による蹂躙劇の始まりの合図だった。

「ああ、それから・・・そこのスプリガンの少年!そこからさっさとどいたほうがいいぞ!エリスとエレミアの射線に入ってからよ!」

槍で守護騎士たちを屠りながらユリウスはキリトに向かってそう警告する。あまりその意味を理解できず、首をかしげながらもその場を引くと先ほどまでキリトがいた場所を巨大な火の玉と十個の球体が一直線に通り過ぎていく。その球体たちを眼で追うと、守護騎士にヒットすると巨大な爆発をおこし、さらには後続の球体が奥に爆風を広げて守護騎士たちを焼いていく。それを見たキリトの背中に冷や汗が流れた。

「もし、あれに当たりたかったんなら余計な警告をしてすまなかったな」

「・・・・・・いえ、ありがとうございます」

真顔でそう言うユリウスにキリトは礼を述べることしかできなかった。



「≪軍神≫と≪風神≫ってことは・・・!?」

「当然、私たちもいるわよ」

予想外の人物の登場に唖然とした様子で前衛陣を見上げていたルシフェルはハッと気づいたように声を上げると、その言葉を引き継いだ人物がいた。

「エミリアさん・・・」

「ええ、久しぶりね、ルシフェル」

黒いマントととんがり帽子をかぶったエレミアと呼ばれた魔女風の格好をしているプレイヤーはにっこりとほほ笑みながらルシフェルに向かって軽く手を振っている。

「・・・どうして、ここに?」

「知り合いに頼まれちゃってさー、おもしろそうだからギルドのみんなで来ちゃった」

「ギ、ギルド?」

「ええ。実はね・・・私たち、レネゲイトされた後ギルド作ったの」

「ってことは・・・みんなっていうのは・・・」

「ええ。種族九王のことよ」

エレミアがそう言った瞬間、入り口付近からけたたましい雄叫びと共に白銀の鱗を纏った西洋龍が乱入してきた。それを見た種族幹部たちは顔をひきつらせた。

「ま、マジ、ですか?」

「マ・ジ・よ!」

語尾に音符マークが浮きそうなほど楽しそうにつぶやくエミリアは魔法の詠唱に入る。その詠唱を聞いたルシフェルは再び顔を盛大にひきつらせた。

「ちょ、ここからぶっ放す気ですか!?前衛陣がみんな吹き飛びますよ!!」

「大丈夫よ。当てないようにするから」

「いや、そういう問題じゃないでしょ!」

だが、それでもエレミアの詠唱は止まらない。助けを求めるようにレヴィアたち七大罪(アルカンシェル)に眼を向けるルシフェルだが、レヴィアを含めた他の六人は諦めろ、とその表情が言っていた。
まぁ、七大罪(アルカンシェル)の全員が止めに入ったとしても、とまったためしが無いエレミアだ。それを知っていても前衛陣の安全の為に必死で止めようとするのだからご苦労痛み入る。それでもエレミアは止まらないが。
そんなやり取りの中、魔法の詠唱が完成する。今回エレミアが使用した魔法はエレミアの周りに直径二十センチくらいの球体が十個現れた。その魔法をルシフェルは知らない。ルシフェルが知るエレミアが多用する魔法は“グラン・グリモワール”というアイテムから習得することができる最強クラスの魔法。妖精郷で“最も凶悪”な攻撃魔法。

伝説級魔法≪荒れ狂う混沌の世界≫

その中でも広範囲を焼き尽くす事に長けた殲滅魔法と超長距離爆撃魔法のみだ。他にもいろいろあるらしいのだが、使い勝手がよく無いらしく使っている所をあまり見た事が無い。だからこそ、ルシフェルは先ほど前衛陣を気遣って容赦なく呪文詠唱に入ったエレミアに驚いた。
そんなエレミアの初めて見る魔法に、若干の不安を覚えながらもルシフェル達は見守ることしかできない。
そんな事を知ってか知らずか、エレミアは完成した魔法の照準を天蓋に向けると、先に後方から放たれた火の玉を追うような形で己の魔法を放つ。前衛陣を通り抜け、火の玉で焼き払われて数の減った守護騎士たちに追い打ちをかける形でエレミアの魔法が生き残った守護騎士たちに命中すると、そこから爆発が奥に伸びていった。

「着弾と同時に奥に爆発が広がる魔法よ。直線的な弾道しか取れないけど、こういった戦いでは広範囲殲滅よりも貫通力に飛んだ一点集中型の魔法のほうがいいのよ。覚えておきなさい」

唖然とするルシフェルにエレミアは講師口調でルシフェルに言う。その感じに若干の懐かしさを覚えつつ唖然としながら首を縦に振る。それを見たエレミアは昔を思い出したのか、クスッと笑うと再び魔法の詠唱に入っていく。ルシフェルも、他の七大罪(アルカンシェル)たちもエレミアに続いて魔法の詠唱に入る。それと同時にいくつものバフが発生した。



「・・・・・・またあなたとともに戦える日がくるとは思ってもいませんでした」

「ええ、私もです。正直頼まれでもしなければ来る気はありませんでしたから」

そう話しているのはウンディーネ領主ドロシーと≪霊水の巫女≫メビウスだった。

「詳しい話は後にしましょう。先ずは皆の支援が先です。あなたは回復魔法で魔力の回復を、私はバフを担当します」

そう言って、詠唱に入るメビウス。バフを担当するメビウスが使う魔法はこの妖精郷で“最も狂った”支援魔法だ。エレミアの持つ伝説級魔法≪荒れ狂う混沌の世界≫と並ぶ最強クラスの魔法。

伝説級魔法≪静穏なる原初の世界≫

その中でも、チートにも程があると全プレイヤーが声をあげた魔法。それ以上バフとしての効果はないと思える魔法。その効果は、魔力が続く限り術者以外のパーティーメンバーの体力と魔力を固定するというものだった。
しかし、ALOはレベル制ではなくスキル制のVRMMORPGである。そのため、体力とマナは多少の伸び幅はあるとしてもあまり伸びないこともあり、通常のプレイヤーなら十秒しか持たない。そこで登場するのが現水妖精領主であるドロシーである。
本来ならマナの回復にはポーションを使うか宿屋で休まなければならなかったのだが、グリモワールの中にマナの回復を出来る魔法が存在してた。それを支援が得意な水妖精であるドロシーがドンピシャに引き当てた。当ててしまった。
黎明期当時から、メビウスの支援魔法は多くのマナを必要としていた。こういった集団戦においてドロシーの役目とは“メビウス”のマナの回復係りであるわけだ。その二人の魔法コンボを終わりがないことから――

≪永劫回帰≫

という、異名がALO史上で最も敵に回したくない二人についた。だが、そんな無敵にも思えるコンビにも弱点はしっかりと存在する。ドロシーだ。メビウスに魔力回復をし続けなければならないドロシーは無防備になってしまう。もし、一瞬でもドロシーの回復が止まれば、≪永劫回帰≫の効果を維持することができなくなってしまう。メビウスが守りきれればいいのだが、彼女は遠距離の魔法戦で言えばALOで一二を争う実力を持っているが、近接戦はそれほど強くない。なので、接近さえしてしまえばこのコンボを破ることは容易い。しかし、そこで忘れてはいけないのが、水妖精の(アルコバレーノ)の存在だ。
≪永劫回帰≫が発動した時の(アルコバレーノ)のメンバーの役割はその二人を敵から守ることだ。



「お久しぶりです、みなさん」

「姫様!」

プーカの王≪泡沫の歌姫≫リン。演奏を中断して姫様、姫君、などと相変わらずの呼び名での呼んでくる六詩人(ローレライ)たちにリンは苦笑した。リン自身レネゲイトされたわけではないのだが、けじめということで半ば勝手に領地を去っていった。しかし、それでもこうして慕ってくれる仲間に感謝しながらリンはロゼたち六詩人(ローレライ)に言った。

「感動の再会は後です。まずは私たちがやれることをやりましょう」

その言葉に六詩人(ローレライ)たちは頷くと、先ほどまで持っていた楽器を仕舞うと、別の楽器を取り出した。各々が準備をし終わったと視線でリンに告げる。その視線を受けたリンはロゼに目配せすると、ロゼは迷いなく頷く。
リンが大きく深呼吸すると、演奏が始まった。



「おいおい、こっちは疲れてるってのに・・・」

「口じゃなくて手を動かしてください」

「やってるよ!」

「それに来る途中、ずっと休んでたじゃんか」

「それだけしか休憩もらえないのか!」

「と、棟梁、落ち着いてくださいー!」

「俺はいたって落ち着いてるっ!!」

「とてもそうは見えないね」

レプラコーンの王≪太古の巨匠≫アクセルが溜息と共に愚痴を吐き出すと、それを拾ったノームの王≪大地の剣神≫ヴィクターが辛辣に答えた。そこにさらにスプリガンの王≪黄昏の亡霊≫レイヴンが追い打ちをかける。必死になだめようとするアラン以外の三巨匠(アルティフェクス)。アランはアクセルをなだめることは不可能と割り切っているのか、せっせとプーカに接近しようとする守護騎士をせっせと葬っている。

「さて、じゃあ、私もお仕事しようかな」

そう言って、ケットシーの王≪閃条の龍姫≫エリスは相棒である龍に向かって命令を下す。

「ミラ、ドラゴンブレス、用意!」

その命令を聞いたミラと呼ばれた龍は口を大きくあけ、炎をためていく。そして――

「放て!」

というエリスの命令が下ると、天蓋に向かってためた炎を吐き出した。前衛陣を通り越し、巨大な火の玉は天蓋のゲートを守っている守護騎士たちに向かって飛んでいく。避けるという選択肢がない守護騎士たちはその火の玉をもろに喰らう。着弾と同時に弾けた火の玉は無残に守護騎士たちを散らしていく。

「さて、じゃあ、ちゃっちゃと終わらせちゃおう。ルー!」

「はーい!ここにいるヨ!」

「集中砲火でさっさと道を作るよ!」

「りょーかい!」

その指示を受けると、アリシャ・ルーを含めたドラゴンに跨る戦士たちはブレス攻撃の照準を先ほどエリスが放った場所へと定めた。

「あとは、前衛陣まかせね」

自らの武器である矢をセットして弓の弦を引き絞った。



「さっさと終わらせたいんだが・・・どうするよ、ミレイユ?」

「あなたの背中のそれでも使えばいいじゃない。前みたく」

「まあ、そうなんだろうけどさ」

「メビウスのおかげで使いたい放題でしょ?」

「まぁな」

襲い来る守護騎士たちを見事な槍さばきで蹴散らしながら歯切れの悪い返事をするユリウス。ミレイユはいつもの彼らしくない様子に疑問を浮かべる。

「どうしたのよ、一体?」

「いや、こうしてあらためて思うと・・・地味に俺の仕事多くね?」

「・・・そう言うことはもっと早く言ってよね!何でこんな時にそんなこと言うのよ!!」

「いやぁ、だって、なぁ?」

同意を求めるようにサクヤやセリーヌの方に視線を向けるユリウスであったが、会話の内容を理解できていないサクヤたちは目を合わせないようにすることしかできない。

「薄情者!少しはおれに同意してくれたっていいじゃないか!」

「いえ、同意するも何も・・・どのような作戦を立てて来たのかわからないので・・・」

「何ともいえないんです・・・」

サクヤとセリーヌがそう言うと、ユリウスはあー、そうだった、説明してなかったなーとかぼやいている。それを見たミレイユは相変わらずのやり取りに呆れていた。昔は結構頻繁に見れた光景の一つだ。

「まぁ、めんどくせぇが、やるしかないんだよなぁー」

結局行き着くところはそこだった。もちろん、こんなユリウスの性格を知っているからこそ、ミレイユはこれからの作戦を立てたのだが。

「さて、じゃあ、おっぱじめますか!」

そういうと、今まで手に持っていた槍を背中にしまうと、今度は今まで背負っていた槍を取り出した。

伝説級武器≪グングニル≫

何故か知らないが、この妖精郷に降り立った≪主神≫オーディンにユリウスが単騎で戦いを挑み、その実力が認められ報酬として渡された伝説級武器。その効果は、魔力を込めた量によって攻撃力のアップするのと通常攻撃の攻撃エフェクトを追加させるという≪アディション・シフト≫。例えば、槍を振り回せば通常攻撃と同軌道の魔力の刃が発生したり、突くを繰り出すと貫通能力を持つ魔力の刃が発生したりといろいろある。

「エリス、エレミア!!」

「りょーかい!」

「任せなさい!!」

ユリウスの呼びかけに力強く頷く二人。それを聞いたユリウスはグングニルに魔力を込め始める。メビウスの魔法で魔力が固定されているのでグングニルにはいくらでも魔力を注ぎ込める。限界までたまったことをグングニルがエフェクトで伝えると、ユリウスは――

「さて、行って来い、グングニル!」

天蓋のゲートがある場所に向かってグングニルを投擲した。光を纏ってものすごい速さで守護騎士たちの群れにむかって駆け上がっていく。
魔力を込められて投擲されたグングニルの追加効果は貫通能力の追加と地面などに着弾時に光属性の波状攻撃が発生すると言うものだ。

「ほら、ぼさっとすんな。行くぞ」

「へっ?・・・う、うわーーっ!?」

ユリウスがキリトの襟をつかんで、猛スピードで上昇していく。それはキリトが飛ぶよりも、リーファが飛ぶよりも速い。そのあと覆うようにエリスの指示でミラから巨大な火の玉が、エレミアからは彼女が得意とする広域殲滅魔法が繰り出された。
ユリウスに投擲されたグングニルは一条の閃光となって守護騎士たちを屠っていく。グングニルが通った場所は人二人くらい通れるような穴ができあがっていた。ユリウスはそのグングニルの作った穴へと入ると、さらに速度を上げて守護騎士たちを無視して翅を羽ばたかす。
ユリウスとキリトを追おうと守護騎士たちが動くが、そうはさせまいというタイミングでミラの巨大な火の玉とエレミアの広域殲滅魔法が守護騎士たちの行く手を阻む。当然、ミレイユは前衛陣を射線から退避させているので、その攻撃の餌食になるものはいなかった。



ドゴォンッという音が響いた。それでもかまわずユリウスはグングニルの作った穴を疾走し続ける。すると、天蓋のゲート近くに来ると守護騎士たちの姿があまり見られなかった。てっきり、もっとギッシリと守護騎士たちがいるのかと身構えていたキリトは拍子抜けしたような表情で引っ張られていた。

「さて、到着だ」

そう言うと、勢いよく石でできた天蓋のゲートに着地するユリウス。キリトも翅を羽ばたかせてゲートを見やる。よく見てみれば、ゲートの中心にグングニルが見事に刺さっている。それを引きぬくと、ユリウスはキリトに向かって言った。

「俺達はここまでだ。あとは自分で何とかしろ」

「ああ、わかった。ここまで送ってくれてありがとう」

キリトは礼を言うと、ゲートを見るが一向に開く気配がない。

「開か、ない・・・!?」

「あー、それな。前に来た時も開かなかったからな」

ユリウスがそう言っている中、キリトは剣を構えて突進するも、石でできたゲートは傷一つつかなかった。

「ユイ――どういうことだ!?」

キリトの呼び声に合わせてユイが登場する。石でできたゲートを軽く撫でると、早口で言った。

「パパ。この扉は、クエストフラグによってロックされているものではありません!単なる、システム管理者権限によるものです」

「ど――どういうことだ!?」

キリトが驚く中、ユリウスはユイのパパ発言に驚くと同時に若干キリトから距離を置きながら話を聞く。

「つまり・・・この扉は、プレイヤーには絶対に開けられないということです!」

「な・・・」

キリトは絶句するがユリウスはあまり驚いていなかった。それどころか、まぁ、そんなことだろうと思ったよというふうに溜息を吐いて力なく俯いているキリトを見守っていた。だが、そんなことをしているうちにも守護騎士たちがゲート付近に集まりだした。グングニルを構えるユリウスだったが、何かを思い出したように勢いよく顔を上げたキリトは、腰のポケットに入っていた銀色のカードをユイへと差し伸べる。一瞬だけユイが驚くが、大きく頷くとカードの表面を撫でる。

「コードを転写します!」

そう一声叫ぶと、ユイは両掌でゲートの表面に触れる。その触れた箇所から、放射状に青いラインが走りゲートそのものが発行し始めた。

「転送されます――パパ、掴まって!!」

ユイが小さな手をキリトに伸ばし、キリトもそれをしっかりと掴むとユイを伝って青い光がキリトをも包む。守護騎士たちが奇声を上げてキリトに向かっていくが、それをユリウスが阻止する。
そんなユリウスの後ろ姿にキリトは頭を下げながら転送されていった。

「・・・やれやれ、これで依頼は完了だな。ったく、あの野郎も随分なこと考えるじゃなぇかよ」

キリトが転送されたのを確認したユリウスはそう言うと、とある魔法を唱え始めた。

「エンチャント:ウィンディ・ソウル」

ユリウスが風の魔力を纏う。そして――

「ドラグーン・テンペスト!」

ユリウスの周りに幾つもの竜巻が現れ、守護騎士たちを飲み込んでいく。

「さて、さっさと終わりにすっか!」

もう用もないこの場所を脱出するために翅を羽ばたかせて、守護騎士たちへと突っ込んで行った。



いきなり、本当にいきなり守護騎士たちの動きが変わった。今までは天蓋を守るように動いていた守護騎士たちがいきなり奇声を上げたかと思うと、捨て身とも取れる攻撃にシフトしてきたのだ。いきなりの動きの変化に最初こそ戸惑っていた種族九王と幹部たちだったが、次第にその動きにも慣れ始め簡単に対処できるようになっていた。

「いつまでこんなことをしているつもりだ!」

だが、やはり人間とプログラムとでは勝手が違う。肉体的な疲労がない仮想世界でも精神的な疲れはどうしても生じてしまう。対して、プログラムにそんなものはなく永遠と闘い続けることだってできてしまう。
さて、どうするか。ミレイユがそう思案していると天蓋の方から降りてくる一人のプレイヤーがいた。それを見て上で起こったことをある程度理解したミレイユが即座に指示を飛ばす。

「後退する!プーカから順にドームの外に避難しなさい!!殿は――」

「私とミレイユ、ユリウスで引き受けましょう」

そう言ってきたのはヴィクターだった。ヴィクターの言葉に特に反論はなかったのかミレイユとユリウスは特に何も言わない。他の九王も幹部たちも特に異議を唱えてくるものもいない。

「あ、あたしも――」

残る、とリーファが言おうとしたがサクヤがリーファの肩に手を置いてそれを制する。シルフ五傑に名を連ねるリーファでも種族九王にならぶことは無理だ。先ほどまでの闘いを見ていてリーファ自身も思っていたのか、特に何も言う訳でもなくおとなしく引き下がったが、その拳は現実なら血がにじむほど固く握られていた。
だが、後退しようとしたところで騎士たちの体からとてつもないプレッシャーが発せられていることに気が付いた。まるでキリトを突破させてしまったことへの怒りの様な。そして、リーファたちを意地でも生きて返すまいとでもするような。それでも、今回世界樹攻略に参加したものは翅を羽ばたかせる。メビウスの魔法が生きていれば後退も楽だったのだが、ドロシーの疲労によりメビウスの魔法の効果は既に切れていた。なので、攻撃をくらえばダメージを受けてしまうし、リメインライトにだってなってしまう。ここまできたら何としてでも全員無傷で帰りたいものだ。そう思っていた矢先、後退する者たちの頭上から、高速で光の矢が降り注いだ。

「うーん、やっぱりこうなるのかー」

エレミアが即座に魔法を詠唱する。

「エンチャント:エタニティ・インフェルノ!光の矢は私が食い止めるからお先にどうぞ」

そう言って広範囲攻撃の魔法で光の矢を相殺していく。その隙にプーカ、レプラコーン、スプリガン、ケットシー、ウンディーネ、インプ、ノーム、サラマンダー、シルフの順で出口をくぐる。

「じゃあ、私は先に行くから。あまり遅くならないようにねー」

「ええ、わかっていますよ」

そう言ってエレミアも翅を羽ばたかせて出口をくぐる。

「さてさて――」

「んじゃまぁ――」

「ストレス発散と行きましょうか」

そうして種族九王の中でも対人戦に特化した≪神代(かみよ)三剣(さんけん)≫と呼ばれる三人は怒り心頭な守護騎士たちに向かって己の得物で斬りかかっていった。



しばらくして、ミレイユたちは無傷のまま出口から姿を現した。その表情はどこかすっきりしたように見えるのは決して錯覚ではないだろう。

「それで、どうして貴様らがこんなところにいる?」

戻ってきたミレイユたちに声をかけたのは、案の定と言うべきかモーティマーだった。

「あら、お願いを聞いただけよ?領地に戻るつもりはないから安心しなさい」

ミレイユがそう言うと次はサクヤが前に出ながら口を開いた。

「お願い、と言うのはどのような?」

「企業秘密だ。よう、ルシフェル。おまえなら俺らがここに集められた理由も知ってんだろ?」

「ええ、まぁ・・・」

ユリウスの言葉にルシフェルは歯切れの悪い答え方をするが、広場にいる全員の視線をやり過ごすのは無理だと考えたのか、おとなしく話すことにした。

「停滞に興味はない、そう言っていましたよ」

「そ、それだけですか?」

「ん?まぁ、俺が聞いた限りじゃ」

「あー、そう言えば!ここにゲームの真実が眠っているって言ってた人がいるヨ!」

アリシャ・ルーが思い出したかのように言うと、エリスがアリシャ・ルーの頭を撫でながら口を開いた。アリシャ・ルーはゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいる。

「それが、私たちの来た目的。その内容は私たちも知らないわ」
 
 

 
後書き
どうもお久しぶりです!
言うな、言うなよ、決して言うんじゃないぞ!!言われなくてもわかってるから!?

ルナ「何が?」

仕事明けの変なテンションで作っちまったorz
おかげで空気化した方がものすっごく多いという真実orz
うん、わかった。みえはって集団戦なんて書こうとしたのがいけなかった。今度から気を付けよう。そうしよう。

ルナ「それでも、今回のことが帳消しになるとは限りません」

ぐはっ!?
そ、それを言っちゃいけない・・・(ガクッ
そ、それ、では・・・か、かんそうなど・・・お待ちしております・・・ 
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