久遠の神話
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第六十三話 明かされる秘密その十五
『私は全て彼の為にしているのですから』
「お姉様ご自身の為ではなく」
あえて問い返した、聡美に対して。
「そうではないのですね」
『違います』
言い切った、セレネーにしても。
しかしそれでもだった、聡美はあえて言った。
「そう言えますか、ですがお声が」
『私の声がですか』
「震えています、違いますか」
『私に迷いがあるというのですか』
「間違っておられるかどうかはお姉様が一番御存知の筈です」
それ故にだというのだ。
「声が震えていますね」
『それ貴女の気のせいです』
「そう思われるならいいです、しかし」
それでもだと言うのだった、そして。
聡美は背を向けた、セレネーの方に。
その背から姉と呼ぶ彼女に告げた。
「もう。全てを終わらせましょう」
『私もそのつもりです』
「そうですね、では」
『これまでずっと姉妹の様にいましたが』
「これからもです」
そのことは変わらない、だがだった。
「しかしそれ故に貴女を止めます」
『そうですか』
「それではまた」
背を向けたままでだった、二人は今は別れたのだった。
そしてあるバーに入った、そこのカウンターで飲んでいると横にマガバーンが来た、その彼が言うことはというと。
「何を飲まれますか?」
「お聞きにならないのですね」
聡美は左隣の席に来た彼に顔を向けて問うた。
「何も」
「お話したいでしょうか」
「いえ」
聡美は顔を正面に戻してそのことを否定した。
「ではそういうことで」
「そうですか」
「それで何を飲まれますか?」
マガバーンはあらためて問うた。
「お酒は」
「クラーレット=フロートを」
「それをですね」
「頂きたいです」
「ワインですか」
「神の飲み物と言われていますね」
聡美は少し寂しい顔でマガバーンに問うた。
「その様に」
「そうですね、ギリシアでは」
「それを頂きたいです」
「二つでしょうか」
「三つです」
聡美とマガバーン、そしてだった。
「あの方にも」
「そうですか。それでは」
「あの方と。願えばまた」
共に飲みたいと言う、しかし肝心のところは言わなかった。それは心の隅に押し殺して今は飲むのだった、尽きぬことのない憂いを今だけでも消す為に。
第六十三話 完
2013・3・29
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