ギザギザハートの子守唄
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第六章
第六章
「卒業しようって言ったじゃねえか」
「それでどうしてなんだよ」
「御前だけ。六人で卒業しろって言うのかよ」
「ふざけるな」
それぞれの言葉が出てきた。本当に自然に。
「七人でだろ」
「御前も卒業しろ。もうすぐじゃねえか」
「死んだなんて。馬鹿かよ」
言っても仕方がない。それでも言った。言いながらただただ泣いた。冬なのにまた雨が土砂降りになって。それで言い続けて泣き続けた。冬の寒い夜の中で。
六人で泣いた俺達はそのまま卒業式を迎えた。俺達の行く先はどいつもこいつも適当だった。そこいらの工場に入る奴もいれば俺みたいに実家の手伝いになったり。そんなのばかりだ。それでバンドもやっていく。卒業してもあまりやることは変わらない感じだった。
それで卒業式が終わって解散になっても。俺達はただ学校に残っていた。卒業証書を持っていても何か。何でこんなもの持っているかわからなかった。
「なあ」
不意に仲間の一人が言ってきた。
「俺達何を卒業したんだ?」
「高校じゃねえのか?」
「この高校なんだろ」
泣いている奴等の間で言い合う。俺達だけ何か別世界だった。
「これだって持ってるしよ」
卒業証書を見る。見てもどうってことはない。本当に持っていても手が埋まるだけだった。
「ここを卒業するんだろ」
「へっ」
俺は仲間の言葉を聞いていて。自然に言葉が出た。
「机に向かってガリガリやって。したいことも全然出来なかったな」
「そうだったな」
「何だったんだよ、ここ」
「何でもなかったんだろ」
俺はまた自然に言葉が出た。
「こんなところな。何でもないだろ」
「何でもないか」
「帰るか?」
いても仕方ない、本気で思った。
「こんなところにいてもしようがねえだろ」
「どっか行くか」
「何処に行く?」
自然とこんな話になった。本当に自然にだった。ここでも自然だった。
「バンドの練習に行くか?」
「バンドか」
「悪くないな」
「それか喫茶店か」
今の俺達の行きつけの店だ。
「そこにするか?」
「そうだな。そこでもいいな」
「まあ何処でもいいや」
そんなグダグダした話をしていた。とりあえず学校は出るつもりだった。ところがここで。この俺達に対して声をかけてきた奴がいた。そいつは。
「おい、御前等」
「あん!?あんたかよ」
「何なんだよ」
鬼熊だった。どういうつもりかわからねえが俺達に声をかけてきた。
「御礼参りとかは俺達の趣味じゃねえぜ」
「悪いが他あたってくれよ」
「御礼参りなんかもうとっくに返り討ちにしてわ」
鬼熊は俺達に対して今度はこう言い返してきた。表情を変えずに。
「軟弱な奴等だったな」
「何だ、じゃあ話は終わりだな」
「あばよ。もう会うこともねえだろ」
「そうだな。これっで一旦はお別れだ」
鬼熊の方もそれはわかってる感じだった。
「けれどその前にだ」
「何なんだよ」
「御前等に言っておくことがある」
どういう風の吹き回しか変なことを言ってきた。
「俺達に?」
「そうだ」
何か話がさっぱりわからなかった。卒業したらもう終わりだってのに。正直言って遂に頭がおかしくなっちまったのかとさえ思った。
「これで卒業だな」
「そんなの言うまでもねえじゃねえか」
「だからあんたともお別れなんだよ」
「御前等、最後位人の話は聞け」
いつもと同じ言葉だった。最後って言葉が入ったことだけがいつもと違う。卒業しても変わりそうにないのはこの学校自体がそうだがこいつはまたその中でも特別変わりそうになかった。
「いいか」
「だるいな、おい」
「まあいいさ。最後だしな」
最後だ。これが俺達の気持ちを鬼熊に向けさせた。普段ならさっさと帰って首根っこ引っつかまれて無理矢理聞かされるところだ。けれど今は違っていた。
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