RAINBOW STATION
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第四章
第四章
「そうだよ。そこには楽器も一杯あってね」
また言う。
「歌も歌えるし。水っ気のある美味しい果物も一杯あるし」
「何だそりゃ、天国かよ」
髭がそれを聞いて声をあげた。
「それってよ」
「それ、本当だよね」
弟が車掌に問う。皆同じことを聞きたかった。
「そうだよ。けれどさ、物凄い先なんだ」
彼はそう述べる。
「本当にさ、気の遠くなる位にね」
「それでもいいよ」
今度は白が僕達の言葉を代弁してくれた。
「ちゃんと最後があってそれが素晴らしいものなら」
「そうだな。絶対に行かないとな」
ベースがそれに頷く。
「じゃああんたは道案内もしてくれ。それで俺達と一緒に来てくれ」
「いいの?」
彼は少し戸惑いを覚えながらも僕達も応えてきた。
「それで」
「いいさ、じゃあいいな」
「うん、じゃあ」
これで決まりだった。彼も僕達の仲間になった。これで七人だ。
「よし、これでいい」
リーダーは七人揃ったところで満足した顔で述べた。僕達は七人横一列になって線路の上を歩いている。中央には僕がいて丁度線路の真ん中を歩いていた。
「七人だ。向こうで歌も歌えるな」
「そうだね」
白がそれに頷いてきた。
「僕はキーボードやるよ」
何と背中からピアノみたいな小さいアコーディオンを出してきた。
「俺はパーカッションな」
髭も楽器を出してきた。
「これで楽器はいい」
「じゃあ歌うのは僕だね」
僕は皆の話を聞いて言った。
「それでいいよね」
「ああ、それでいいぜ」
リーダーがそれに頷いてくれた。
「いい歌聴かせてくれよ」
「うん。それにしてもさ」
僕は言う。
「この道はとても長いけれど」
「うん、まだまだ先だよ」
車掌だったドラムが僕の今の言葉に答える。
「けれどそれが近付いたらね」
「何か見えるのか?」
ベースが彼に問う。
「虹が見えるよ。綺麗な虹の橋が」
「虹がなんだね」
弟はそれを聞いて目を瞠ってきた。
「うん、線路をアーチで囲ってね。見えてくるから」
「まずはそれを見るまでだな」
リーダーは頷く。
「それで行こう。いいな」
「ああ」
「じゃあ」
それから僕達はどれだけ歩いたのかわからない。歩いても歩いても荒野ばかりだった。靴がすり減るんじゃないかって思える程歩いた。けれどそれが終わる時が遂に来た。
「ほら、あれ」
ドラムが声をあげて空を指差す。青い空の中に白い雲が少し浮かんでいるだけだったその空に。
「見て、やっとだよ」
「おお、やっとか」
僕達はそれを見た。虹のアーチを。今それがやっと見えてきた。
「見えてきたな」
「うん、やっと」
「見えてきたな」
「もうすぐだよ」
ドラムは僕達に言う。
「終着駅は」
「もうすぐか。じゃあ」
「ああ。あと一息だ」
僕達は自分達に対してそう声をかける。
綺麗な大きい虹だった。左右の岩山の上からそのまま出て入るようにしてかかっている。見ているとそこに脚をかけて渡れそうな感じがする。その虹を見て僕達は身体に力がみなぎるのを感じた。僕はその中で皆に対して言った。
「もうすぐだからさ」
「ああ、向こうについたらまずは」
髭はその口髭を綻ばせて述べてきた。
「美味い果物食って喉を潤して」
「それから飽きるまで演奏だな」
「飽きるわけないじゃない」
白がリーダーに対して言う。
「だって僕達はその為に来たんだから」
気付いたらそうなっていた。そうさせたのは皆が持っている楽器からだ。僕は声がそれだ。皆それをそれぞれ持っていた。音楽の為に。
「そうじゃない」
「そうか。じゃあ」
「そこには誰がいるかわからないけれどな」
ベースはそう言っても楽しそうだった。
「それでもな」
「うん、それでも」
弟がその言葉に頷く。
「その皆が待ってくれているんなら」
「待ってるよ、皆」
ドラムがここで言ってくれた。
「誰かが来るのを」
「そうか。何の心配もいらないんだね」
「うん」
そのうえで僕ににこりと笑って答えてくれた。
「だからさ。安心して」
「行くか」
僕達は虹の下にあるその駅に向かってまた歩く。その先に希望があるのだとわかっているから。七人いれば何も怖くはない。虹の七つの色がそのまま僕達一人一人にかかっているのを見ながら先へ歩いていく。
RAINBOW STATION 完
2007・2・12
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