問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 湖札とウロボロス、出会いの物語 ②
「・・・殿下、成功したみたいだよ。」
「そうか。まったく、どこかでやってる召喚に便乗するなんて、よく思い付いたな。」
「考えるくらいなら、軍師ならできて当然だよ。むしろ凄いのは、そんな無茶ぶりを可能にしてくれたアウラさんと・・・」
「マクスウェル、か。やっぱり、あれでも魔王なんだな。」
「だね。あの人には後ろに控えてもらってるから、邪魔はしてこない・・・はず。」
「勧誘の邪魔さえしなければいいさ。人間の召喚に便乗して、その人間のいた世界に魔王がいるなんて、こんな偶然は何がなんでもものにするぞ。」
「うんっ!」
そして、二人は黒いグリフォンを連れて、召喚予定の場所に向かった。
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天逆海を追って入った謎の穴を抜けた先には、ただひたすらになにもない場所が広がっていた。
「ここ・・・どこ・・・?」
湖札は、世界中を回ったのに見たことのない場所が広がっていることに動揺を隠せないでいた。
が、ズルズル、というなにかを引きずるような音で、それどころではないと思い出した。
「そうだ、天逆海。・・・いた。」
そして、逃げようとしている天逆海のそばに行き、村正を振り上げ、断末魔さえあげることを許さず、その命を奪い、魂を自分のなかに封印する。
そしてその瞬間、神を自らの手で葬り、封印したことで、奥義神成りが発動し・・・カチリ、という封印の解ける音が、湖札の中から何度も、何度もなり、記憶が、よみがえった。
そこには、黄金の弓を引き、言葉で表すことのできないなにかと戦う、自分がいた。
少し遡り、女神と契約を交わす、自分がいた。
少し遡り、言葉で表すことのできないなにかと戦う兄と、その兄に守られる自分がいた。
少し遡り、泣きじゃくって座り込む、小学校に入る前の自分と、そこにてをさしのべる兄の姿があった。
「私・・・贄殿、湖札、です・・・」
それは明らかに、初対面同士の挨拶だった。
《え、うそ・・・でも、私にも檻が・・・》
湖札は必死にその事実を否定しようとするが、より鮮明な記憶がよみがえってきて、そんな湖札を嘲笑う。
別に、檻は本家の人間でなければ持たないのではない。
鬼道の血族なら、分家であっても、檻を持つし、その檻は封印されていない。
そして、記憶の中の湖札が名乗っていたのは・・・紛れもない、分家の一つの名だ。
湖札は、その場に頭を抱えて座り込んだ。
《じゃあ――――ダメ――――私は――――ダメ!――――》
湖札は、認めたくない真実と、それを認めざるを得ない状況に、混乱していき・・・
《お兄ちゃんの――――ダメ!!――――妹じゃ――――ダメ!!!――――ない?》
その事実を、認めてしまった。
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「む・・・この辺りのはずだが・・・」
殿下たちは目的地にたどり着き、召喚した魔王を探していた。
「間違いなくこの辺りなんだけど・・・お、殿下。あの人じゃない?」
「む・・・人間、か?」
リンが見つけたのは、頭を抱えて座り込む一人の少女だった。
『いや、こんなところに人間はいないだろう。恐らく、あれが』
「召喚した魔王様、ですよね?」
「・・・まあ、二人の意見が正しいのだろうな。」
殿下は二人の意見を認め、少女・・・湖札に近づいていく。
「イヤ・・・」
「・・・は?」
そして、湖札が漏らした言葉に疑問の念を返し、
「イヤァァァァァァァァアアア!!!!!」
そう叫ぶ湖札から強力な風が吹き荒れ、三人揃って吹き飛ばされる。
「く・・・なんだあの風は!?」
『分からん!だが、風であれば・・・!』
そう言って、グライアは風をぶつけ、相殺して見せた。
流石はグリフォン、といったところだろう。
「グリフォン・・・言霊よ、宿れ」
そして、湖札は生気なく立ち上がり、洋弓を構えてグライアに狙いを定める。
それは銀色の弓ではなく、湖札の記憶にも有った黄金の弓だ。
『フン、弓何ぞでわしを貫けるはずが』
「グー爺!今すぐに生命の目録を使え!」
グライアが余裕そうに構えていると、殿下があせってそういった。
特に理由があったわけではないが、殿下は湖札の弓を危険だと判断したようだ。
そして、グライアは反射的に生命の目録を使い、ギリギリ、湖札の矢が当たる前に発動することが出来た。
『グ・・・なんだ、この矢は!?』
そして、翼に矢を喰らったグライアは苦しそうにうめく。
これが、封印が解けた状態の湖札のギフト、『言霊の矢』である。
封印が解ける前は自ら言霊を唱える必要があったが、解けた状態・・・元々の状態なら、自分の中に知識があれば問題なく発動することが出来る。
グライアがこれを喰らって生きているのは、生命の目録を発動することで自らの中に異なる種の力を宿していたからだ。
あくまでも湖札が放ったのはグリフォンを穿つ矢なのだから、他の種を穿つことはできない。
「まずいな・・・リン、グー爺を安全なところまで運んで手当てしてやってくれ。」
「うん、分かった。殿下はどうするの?」
「そうだな、とりあえず・・・」
殿下はそう言って、自我を失っている湖札に肉薄する。
「コイツを、俺の配下におく!」
そして、二人は拳をぶつけ合った。
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