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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
麻帆良編
   導入編 第3-M話 昔話

マナに連れられてやってきたのは、それなりに値が張りそうな飲食店が集まるエリア日本家屋風の店舗だった。

『ここだ、いい雰囲気だろ?』
マナが自慢げにいう。
そこには日本風家屋…を模しているのであろう店舗があった、確かにいい雰囲気だな。
『…それなりに値が張りそうだ、ってのはよくわかった。庶民にとってはかなり背伸びして入る位のランクかな』
『こっちの感覚ではそうでもない…かな、学生にとってはその通りだ。
普段は無事に仕事を終えたときのご褒美にコウキとくるんだ』
マナが引き戸を開けて中に入る。

『二人、できれば個室を頼む』
そういわれた店員は戸惑い交じりにこう答えた。
『すいません、私は英語をしゃべる事ができません。わかるスタッフを連れてまいりますのでしばしお待ちください』
マナがはっとした様子で言い直す。
「すまない、日本語もしゃべれる。二人、できれば個室か座敷を使いたい」
「あ、はい。かしこまりました。こちらへどうぞ」
店員はぺこりとお辞儀をして私達を先導するように歩き出した。

「そういえば、レインも日本語はしゃべれるんだったか?」
「ああ、わかるよ。どっちが馴染んでるかっていうと断然英語だけどな」
そんな話をしながら店員に連れられ、私達は奥の個室に到着した。
…やはり靴を脱ぐというのが違和感を感じる。

店員は飲み物のオーダーを取り、食べ物のメニューを開けて提示して、去って行った。

「レイン、私のお勧めで構わないか?」
「ああ、任せる…無茶な高級品はやめてくれよ」
「わかってるさ」
そういっていると店員が瓶コーラと氷入りグラスを二つずつ持って戻ってきた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ああ、鳥釜飯御膳を2つ頼む」
「かしこまりました、しばらくお待ちください」

店員はそういって一礼すると去っていった。

「まずは、再開を祝して乾杯と行こうか」
マナと私はお互いのグラスにコーラを注ぐ。
「再開を祝して」
「乾杯」
グラスを軽く触れさせて一口いただく。

「しかし…日本に来て一週間ほどなんだけどさ、物価は高いが飯がうまい、そして平和だなこの国は」
「そうだな、この国は平和だ、もちろん楽園ではないがな」
「そりゃそうさ、私の上役にあたる武蔵麻帆良の爺さんだって孤児院の院長だし、
労働時間はそれでも自由民なのかよって突っ込みたくなるほど長くって、自殺もかなりあるらしいしな」
「はは、そうだな。まあ街を歩くのに誰かに殺される心配をしなくて良いってのは確かさ。
そして、飢えや乾きで死ぬ可能性は驚くほど低く、
なんやかんや言って人種や出身で殺し合いが起きるほど差別があるわけでもない」
「それだけで世界の中じゃあ相当に恵まれているな、
もっとも、差別って意味じゃあロアナプラにはかなわねぇだろうけどな」
そんなことを言いながら、笑って見せる。

「そりゃあな、あの街じゃ『誰もが平等に価値がない』んだろう?」
それにマナも苦笑で返してくる。
「その通り、そしてその出自なんて誰も興味がありゃしねぇ、人種や出自なんか札の通し番号かなんかと一緒さ。
まあ、ロアナプラ以外の足場の関係で本当にそういった出自や血筋が無価値ってわけでもねぇけどな」

コーラをちびちびやりながらそんな事を話していると店員が膳を二つ持ってきた。
「お待たせしました、鳥釜飯御膳2つ、お持ちしました。
釜飯はもう10分ほどで炊き上がりますのでもうしばらくお待ちください」
店員がそう言って下がっていった。

その膳は前菜らしき山菜の佃煮や高野豆腐、それにきゅうりの酢の物が一口ずつ、
加えて鶏肉らしき刺身、串焼きの鶏肉(タレ焼きと塩焼き)、筑前煮という煮物、それに鳥肉の天ぷらだった。

「では、先にいただこうか」
マナが箸をとる。私も箸をとって高野豆腐を食べる…なかなかうまい。

「そう言えばコウキさんは一緒じゃないのか?」
コウキはマナのパートナーで、四音階の組み鈴に所属する『マギステルマギ』資格を持つ魔法使いだ。
「数日前までは麻帆良にいたんだがな…ここ数日は四音階の組み鈴の活動で日本中を飛び回っていて家にも帰ってきていない」
酢の物の器を置いて不機嫌そうにマナがいう。

「娘を置いてきぼりにするとは悪いダディだな」
筑前煮とやらをつつきながらマナをちゃかす。
もちろん、コウキとマナが親子関係だという事実はない…はずだ。

「…私はコウキの義従妹だ、ちゃんとコウキの叔父夫妻にも認めて貰っているよ、レイン」
少し頬を赤く染めてマナが言った。
いつの間にか戸籍上も身内になっていたようだ。
親子にしなかったのはコウキさんとの年の差が原因か、あるいはマナのコウキへの気持ちゆえか…
…この国、従兄弟でも結婚できるらしいからな。
「冗談だって…ん?従妹?」
確かユウキさんのフルネームは…

と、言ったところで引き戸がノックされ、店員が扉を開けた。
二つの釜を持ってきて私達の前に置く、そして汁物の入った椀と漬物も出てきた。
「それでは失礼いたします。お熱くなっておりますのでお気を付けください」
そういってまた店員は去っていった。

「自分達で盛るのか」
「ああ、茶碗に軽く盛って三杯分ある。こげは残しておいてお茶漬けがおすすめだ」

マナのまねをして釜の中身を混ぜ、茶碗に盛った。

「うまいな、マナが勧めるだけはある」
「コウキのお気に入りでな、麻帆良に帰ってきたら大抵一度はよることにしているんだ」
やっと来た、といわんばかりに釜飯をつつく。

「それで話の続きなんだが、従妹って言うと?」
「ああ、私は戸籍上はユウキの育ての親でもある龍宮夫妻の養子なんだ。
だから私のここでの名前は龍宮真名だ」
マナがどこか誇らしげに言う

「なあ、マナも寮に入るんだよな、その予定日と部屋割りってわかるか?」
「?明後日入寮で関東魔法協会に所属してない関係者二人と同室だ。
確か…長谷川千雨と桜咲刹那と言ったか」

確定だ

「私の日本での名前は言ってなかったかな、マナ」
「そう言えば聞いて無かったか、アイシャさんの名字を使うなら春野レインか?」
まあ、私が戸籍を持っていなければその名前で戸籍を作っただろうが違う。

「いや、私が元々日本人だとは言った事あるだろ?
その戸籍をそのまま使って長谷川千雨と名乗っているんだ、マイルームメイト?」
「…外様の関係者と言う時点で気づくべきだったか…ともかく三年間よろしく頼む」

実は結構気にしてた同居人の一人が知人だった事に気が楽になった私だった。

その後、店員を呼んであんみつの追加注文とマナおすすめのお茶漬けのためのお茶を注文した。
そして締めのお茶漬けを堪能し、私達は昔話に花を咲かせていた。

「初めてレイン、いや千雨と二人だけで出掛けた日の事は今でも忘れられないよ」
「二人の時はレインでいい…まあ、あれは忘れられないだろうな…」
私が苦笑する

「拐われかけたのが2回だったか」
マナも笑いながら言う

「それにスリをぶちのめしたのもそれぞれ2回、それもアイシャの事務所から近くの屋台街までの間に、だな。
普段着ないような服着てるだけで私を私とわからんアホだけだったが…普通、身なりのいい子供が二人だけで歩いてたらあの数倍はある」
「極めつけはお前の友人の運び屋の発砲騒ぎに巻き込まれ、悪徳警察に事情聴取…その次よりはましだったがな」

マナが遠い目をする。

「ああ…あの時はモスクワ初め、町中がピリピリしてたからなぁ…」
「あの時は内戦中の国に迷い込んだかと思ったよ…ああ、あの双子に会ったのもあの時だったな…」
あの二人の事は決して忘れないが、同時にあんまり思い出したくない件だ

「なあ、レイン。久しぶりにあの歌を聞きたい、近々歌ってくれないか?」
「…そうだな、あいつらは…忘れられない友達だからな…こういう街で歌うのも供養になるだろうさ」

私とマナの間にシンミリとした空気が流れる

「お待たせしました、クリーム餡蜜2つお持ちしました」

店員の声が有り難かった。

 
 

 
後書き

いろいろとロアナブラ編のフラグをぶちまけましたが、プロットが変更されると修正入りますのでご容赦を。

何となーくわかると思いますが、二人が入った店はなかなかのランクのお店で、
二人が食べた御膳は3000円くらいを想定しています。 
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