Element Magic Trinity
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強く歩け
「外の世界って凄いな・・・夜だってのに、こんなに人が出歩いてるのか」
アカネビーチのホテルの外には、数々の屋台が出揃っていた。
今から海で泳ごうとする者、水着姿で出歩く者、煙草を吸いながら談笑する者・・・。
そんな中、ショウはキラキラと証明に照らされながら、驚くように周りを見回していた。
「何してやがる!テメェ!」
荒々しい声にショウが目を向けると、そこには小さい人だかりが出来ていた。
「みゃあ?何って置いてあったから食べただけだよ。美味しそうだから」
その人だかりの中心にいるのは、ショウのよく知る少女・・・ミリアーナだった。
屋台に置かれていたチョコバナナを食べている。
「売りモン勝手に食うんじゃねぇって言ってんだよ!」
「売りモン?」
「よくわかんねぇが、テメーのモンならそんな見せびらかす様に置いとくもんじゃねーゼ」
「うっせぇ!金払え!金っ!」
当然、店主は売り物を金も払わず食べられた事に怒鳴る。
「金って何?」
「か、金ってのはホレ・・・何だよ!?映画じゃ皆取り合ってたけど・・・」
普通なら知っていて当然なのだが、この2人は外に出ず塔の中で過ごしてきた為、金も知らなければ、「売り物に対してお金を払う」という事さえも知らないのだ。
「実物は見た事ねぇゼ!」
「嘘つくんじゃねぇっ!いいから!金っ!払え!」
金を見た事が無い、というのは本当なのだが、店主には嘘としか聞こえない。
普通なら知っていて当然だからだ。
――――――その当然を「当然」などと、誰も定めていないのに。
「こっちだ!ミリア!ウォーリー!」
「みゃあ!」
「ショウ!金って何だヨ!?」
「オイ!コラ!待てー!」
見かねたショウはミリアーナを手を引っ張り、その場から逃走する。
店主は当然、金を払ってもらっていない為、その姿を追う。
「追い掛けてくる!私の魔法で・・・」
店主を『敵』と認識したミリアーナは自分の魔法「ネ拘束チューブ」で店主を拘束し、追えない様にしようとする。
「ダメだ!」
が、その提案をショウは一瞬で却下した。
「外の世界で生きていくなら、無闇に魔法を使っちゃダメだよ」
ショウの正論に、ウォーリーとミリアーナは困ったような表情を浮かべた。
アカネビーチの夜の浜辺。
ショウ、ウォーリー、ミリアーナの3人は、一隻の小船の前に集まっていた。
「本当に俺達やっていけるのかナ。外の世界でヨ」
「みゃあ」
先ほどの経験を思い出し、落ち込み俯くウォーリーとミリアーナ。
「やっていけるかどうかじゃないよ!やっていかなきゃ。これ以上、姉さんに迷惑をかけられない」
そんな2人を励ますようにショウが言い、小船を繋いでいたロープに手をかけた。
「行こう!姉さん達が俺達に気づく前に出発するんだ」
「だな!何とかなるゼ!」
「元気最強ー!」
そう言いながら小船を押し出し、出航しようとしたその時――――――
「お前達!」
3人にとって聞き覚えのある声が、ショウ達を呼び止める。
声のする方に目を向けると、緋色が揺れた。
「姉さん!」
「エルちゃん・・・」
「くうう・・・噂をすれば何とか、だゼ」
動揺する3人を、エルザはただ静かに見据える。
「と・・・止めるなら無駄だゼ。俺達は自分で決めたんだ・・・」
ウォーリーがそう言うが、エルザは何も言わない。
黙って3人を見据えるだけだ。
すると、ショウがゆっくりと口を開く。
「俺達はずっと塔の中で育ってきた。これから始めて『外』の世界に出ようとしてる。解らない事や不安な事がいっぱいだけど、自分達の目でこの世界を見てみたい」
ショウの言葉を、エルザは静かに聞いている。
「もう誰かに頼って生きていくのはイヤだし、誰かの為に生きてくのもごめんだ」
握りしめたショウの拳が、小さく震える。
「これからは自分自身の為に生きて、やりたい事は自分の手で見つけたい」
そこまで言うと、ショウは一旦言葉を区切る。
そしてエルザを真っ直ぐな眼で見つめ、ハッキリとした口調で言い放った。
「それが俺達の自由なんだ」
ショウ達の決心を聞いたエルザは、ゆっくりと目を閉じる。
「その強い意志があれば、お前達は何でもできる。安心したよ」
そう言って微笑を浮かべ――――――
「だが妖精の尻尾を抜ける者には3つの掟を伝えねばならない。心して聞け」
換装した。
「ちょ・・・!抜けるって、入ってもねェのに」
「・・・」
エルザの言葉に困惑を隠せない3人。
白シャツにタイトスカート、という服装から、ギルドの紋章が描かれた旗を持ち、豪勢な鎧へと換装した。
「1つ!妖精の尻尾の不利益になる情報は生涯他言してはならない!」
感想を終えたと同時に、叫ぶ。
「2つ!過去の依頼者に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない!」
ギルドの紋章が描かれた旗が揺れる。
「ギルドの不利益になる情報なんて持ってねぇゼ」
「依頼者って何?」
「姉さん・・・」
エルザの言う『掟』の意味が解らず、首を傾げる3人。
「3つ!」
そしてエルザはその両目から涙を流し、最後の掟を口にする。
前の2つの掟よりも大切で、伝えたい言葉を。
「たとえ道は違えど、強く・・・力の限り生きなければならない!決して自らの命を小さなものとして見てはならない!」
そして、叫んだ。
「愛した友の事を、生涯忘れてはならない!」
その言葉を聞いたショウ達の目から、涙が溢れる。
「妖精の尻尾式壮行会!始めェ!」
旗のついた槍を掲げ、エルザが宣言する。
その瞬間、近くに隠れていたナツ達が姿を現した。
「お前らー!また会おーなーっ!」
そう言うと、ナツは頬を膨らませ、もごもごと動かす。
そして、ポンポンと小さな火の玉を夜空に向かって放った。
「心に咲けよ!光の華!」
その火の玉は空で花火となり、暗い夜空に綺麗に花を咲かせた。
そして当然・・・花火を上げるのはナツだけではない。
「花火・・・って呼んでいいのか解らないけど」
空に掌を向けるティア。
その右手に魔法陣が展開し、水の玉が飛び、小さい花火として咲いた。
「氷もあるんだぜ」
グレイは造形魔法を駆使し、氷の花火を打ち上げる。
「んじゃあ俺は・・・砂か!火だとナツと被るし」
アルカは真っ赤な髪を揺らし、肘を曲げた状態で挙げた右手から砂を勢いよく打ち上げる。
枝垂桜を思わせる砂の花火が上がった。
「じゃああたしは星霊バージョン」
ルーシィが星霊の鍵をかざすと、その先から魔力が放たれる。
そして、星の様に煌めく花火が打ちあがった。
「よぉし!僕もいっくよぉー!」
ルーが左手を向けると、そこから風が巻き起こる。
小さい竜巻のような風の中央から風の花火が打ち上げられ、空に咲いた。
打ち上げられる様々な花火を、ショウ達は笑い、涙を流しながら見ている。
「私だって本当は、お前達とずっといたいと思っている。だが・・・それがお前達の足枷になるのなら・・・この旅立ちを私は祝福したい」
「逆だよぉぉ、エルちゃぁぁん」
「俺達がいたら、エルザは辛い事ばかり思い出しちまう」
エルザの言葉に、ウォーリーとミリアーナは涙を流す。
「どこにいようと、お前達の事を忘れはしない」
エルザも涙を流しながら、言葉を続ける。
「そして、辛い思い出は明日へと糧となり、私達を強くする。誰もがそうだ。人間にはそう出来る力がある」
そう言って、更にギルドの紋章の旗を空に掲げる。
「強く歩け。私も強く歩き続ける」
涙が溢れる。
悲しみ、嬉しさ・・・様々な感情が混ざった涙が。
「この日を忘れなければまた会える。元気でな」
更に花火が上がる。
夜空を綺麗に彩り続ける。
「姉さんこそ・・・」
「バイバイ、エルちゃーん」
「ゼッタイまた会おうゼ!約束だゼ!」
「約束だ」
再会を約束し、3人は出航していった。
美しい花火に彩られた夜空の下――――――
強く、歩き続ける為に。
「・・・という訳で」
一方、ここはアカネビーチとは別の場所。
とある家のとあるバスルームで、1人の女性が泡風呂に浸かっていた。
「評議院は責任問題が大きすぎて、しばらく正常に機能しないでしょうね。もしかしたら、組織解体もあり得るわね」
湯船の横に置かれた魔水晶に向かって声を掛ける女性。
『見事だウルティア。で・・・ジェラールはどうなった?』
「さあ・・・死んだんじゃないかしら」
女性の名はウルティア。
評議員の1人だった女であり、ジークレインの仲間であった人物だ。
まぁ、どちらも既に過去の話だが。
『利用していると思っていた女に逆に利用されていたとも知らずに・・・気の毒な男だ』
「うふふ・・・私は楽しかったわよ。彼、可愛いんだもん」
湯船から上がったウルティアは体にバスタオルを巻き、黒髪を綺麗に拭いていく。
その背中には、棘のあるハートのようなマークがあった。
「8年間・・・私が『ゼレフの亡霊』のフリをしていた事に、全く気付かないなんてね」
そう。
ゼレフの亡霊など、最初から存在しなかった。
全てはウルティア――――――。
『洗脳のかいあって、コトは完璧に進んだ。評議院全体を巻き込んだ騒動、エーテリオン投下、全ては計画通り』
「そう・・・ジェラールが暴走してるスキに、アナタは自由に動けるものね」
ウルティアは薄く笑みを浮かべる。
『おかげで封印を解く鍵が1つ我がものに・・・』
「おめでと♪」
そして、ウルティアは黒髪をポニーテールにし、微笑んだ。
「フフ・・・ごめんなさいね、ジェラール様」
その微笑みが、歪み始めた。
「あなたには初めからゼレフを生き返らす事なんて出来なかったの・・・いいえ。誰にもゼレフを生き返らす事なんて出来ないのよ」
「だってゼレフはずっと生きてるから・・・だろ」
「!」
自分の続けようとしていた言葉が別の人間に言われ、ウルティアが慌てて振り返る。
そこには、見慣れた群青色の髪と瞳の青年。
「・・・クロノヴァイス=T=カトレーン」
「クロノでいいぞ。裏切り者さんよォ」
青い目が細くなる。
睨んでいる訳じゃない。笑っているのだ。
「女のお風呂場に無断で入って来るなんて・・・あなたの事は前から変だとは思ってたけど、ここまでだとはね」
「いやー。褒めるな褒めるな」
「褒めてないけど・・・」
凄まじいプラス思考に呆れたように呟くウルティア。
「どうしてここにいるのかしら?評議院の一員として、私を逮捕にでも来たの?」
「残念ながら、そうじゃねぇんだよなァ」
ククッと笑い―――――歪む。
悪人にも見える、歪んだ笑みを。
「これァ俺個人の『興味』さ。妹と同じで、自分の興味を持ったものにはとことん忠実なんだよなァ。ま、それ以外にゃ見向きもしねぇがな」
髪をかきあげ、ズボンのポケットに手を突っ込む。
「オメーが何者か、とかにゃ興味ねぇ。つーか、知る価値もねぇ」
「じゃあ、一体何に興味があるの?」
ウルティアが警戒するようにクロノを睨む。
その睨みをものともせず、クロノはただ笑うだけ。
「・・・別に、興味なんざねーさ。何にもな」
「は?」
まさかの答えに目を見開く。
「ただよォ・・・ずいぶん楽しそうな事してんなぁ、と思ったのさ」
クロノが背を向ける。
そして、笑った。
ウルティアからは見えない、歪んだ笑みを。
「ま・・・せいぜい自由にやってくれよ」
「あなた、検束魔導士でしょ?罪人を放っておいたなんて知られたら終わりよ?」
「生憎、俺ァ仕事より興味を優先する人間なんでな」
その姿が、透き通って消えていく。
バスルームには、ウルティアだけが残った。
「なぁに・・・罪人だろうが何だろうが構わねーさ」
瞬間移動系の魔法を使ったクロノは、ウルティアのいる家とは別の家の屋根の上にいた。
その右掌を見つめ、口角を上げる。
「俺の暇潰しにさえ、なってくれりゃあよォ・・・」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
これにて楽園の塔編、終了ー。
4日、5日は用事があって更新できないので、次は6日ですね。
あ、でも5日はどうだろうな・・・帰ってくる時間にもよるんで。
感想・批評、お待ちしてます。
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