八条学園怪異譚
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第四十九話 柳の歌その十三
「私堅苦しいの駄目だから」
「ううん、その辺りは個性ですね」
「人それぞれですね」
「海軍さんはまた違うのよ」
要するに軍人は、というのだ。
「今だって動きがキビキビとしててしかも細かいところまで目がいくでしょ」
「はい、スマートで目先が利いて几帳面ですね」
「海軍ですよね」
「そうよ、私はそういうのがないからね」
そうした海軍的なものは備えていないというのだ。
「だからね、日下部さんは悪い人じゃないけれど」
「苦手なんですね」
「そうなんですか」
「そもそも私のタイプは旦那だし」
齢九十三にして矍鑠たる彼女の夫だというのだ。
「大柄でマッチョな人がいいから」
「じゃあプロレスラーとかお好きなんですね」
大柄でマッチョが好きと聞いてだ、すぐにこう言った愛実だった。
「そうですね」
「あっ、大柄でマッチョだったらね」
どうなるかとだ、その愛実に聖花が言って来た。
「レスラーの人よりラガーマンとかアメリカンフットボーラーの人の方が凄いのよ」
「そうなの?」
「あの人達は全力でぶつかり合うからね」
「そういえばラグビーとかってそうしたスポーツよね」
「そう、体格と筋肉がないとね」
とてもやっていけないというのだ。
「そうしたスポーツだから」
「体格と筋肉はそっちの方が凄いの」
「そうなの、どっちも殆ど格闘技だし」
「ううん、球技とはいってもなの」
「愛実ちゃんのお店にもラガーマンの人とか来るわよね」
「ええ、来るわ」
実際に愛実の家の店である食堂に来るというのだ、そうしたスポーツをしている人達が。
「うちの高校とか大学の人達がね」
「そうでしょ」
「ラグビー部の人達もアメフト部の人達も」
「うちにも来られるわ、それでね」
「物凄く食べるでしょ」
「ええ、本当に」
呆れるまでだ、食べるというのだ。
「凄いでしょ」
「相撲部の人達と同じ位ね」
愛実も愛実で知っていた、彼等の食べる量を。
「凄い運動量を維持する為によね」
「愛実ちゃんのお店のお料理ってどれも凄いボリュームだけれど」
「それでもよ、普通の人の何倍も食べるから」
「うちもサンドイッチ一気になくなったことがあったわ」
「とにかく食べるでしょ、あの人達」
「本当にね」
「うちの旦那もなのよ」
美奈子がここでまた言う。
「もうね、食べる量が凄くて」
「じゃあ食費もですか」
「凄かったんですね」
「お金の問題じゃないわ、というか農家だから」
その食べるものを作っている家だ、だからそうしたことはというのだ。
「そっちはあまり心配いらなかったわ」
「苺だけを作っていたんじゃないんですね」
「他のもですな」
「苺がメインだけれど他のも作ってるわよ、うちは」
言葉は過去形ではなく現在形だった、彼女の夫も健在だし家は今も農家をしているというのである、それでなのだ。
「他のお野菜もね、西瓜とかね」
「ああ、それでなんですか」
「食べることには」
二人も納得した、尚苺も西瓜も野菜だ。
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