| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

本編
  第34話 塩田設置作業?二十四時間働けますか?

 こんにちは。ギルバートです。塩田設置について、あの後細かい話をしました。その中で一番の問題は、塩田の安全を如何に確保するかです。

 そこで話し合った結果は、塩田の性能を偽る事でした。どの様に偽るかと言うと、生産コストをそのままにして生産量を実際の5分の1程度に偽装します。国王や公爵にだけは、口頭で実際のスペックを伝えますが、その他の資料には全て偽装スペックを公開します。

 これにより、ドリュアス家を敵視する者達に“塩田の所為で、ドリュアス家を打倒出来ない”ではなく“ドリュアス家を打倒すれば、塩田が手に入るかも……”と、思考を誘導するのが狙いです。現在のドリュアス家のウィークポイントは“塩が高騰すれば責任を取らなければならない”と言う物です。父上やマギ商会関係者が、ゲルマニアに訪問したタイミングで岩塩取引を停止するように働きかければ、簡単に塩の値段高騰の責任を追及出来ます。まあ、実際はとんでもないカウンターが待っている訳ですが……。

 他にも塩が高騰すると分かっている訳ですから、大量の塩を確保してこの機に一気に儲けようと考えるはずです。そんな奴らは大損するのです。この条件ならば、リッシュモン辺りが引っ掻かってくれそうです。(楽しみです♪ 塩爆弾♪ ソルトボォム♪)

 しかし、明るい未来ばかり見ている訳には行きません。その前に、やる事やらなければなりません。と言う訳で、やって来ましたオースヘム。私と一緒に居るのは、護衛のクリフとドナです。

「先ずやらなければならない事は、オースヘムの守備を任されている者への挨拶ですね。その次に宿の確保です。そして、ホンダワラ系の海藻がどれくらい確保できるかも問題ですし、必要な人手の数も膨れ上がっています。海藻が足りない場合の代用品は考えましたが、その確保には更なる人手が必要になりますね」

「はい。解っております」

 あれ? なんでクリフが、そんなに煤けてるのですか?

「あの、……ギルバート様」

「何ですか?」

 ドナが言いにくそうに、話しかけて来ます。

「移動中にこれからの予定を、延々と念仏のように呟いていましたよ」

 ……ホントですか? そう言えば召喚した土メイジ(クリフ含む)を、どんだけこき使うか必死に模索していた様な気が。

「……クリフ」

「はい」

「すみません。以後気をつけます」

 私は頭を下げましたが、クリフは「気にしないで下さい」と、返事をしただけでした。後でこの埋め合わせは、しなければなりませんね。でも、仕事はしてもらいます。と言うか、そっちは加減してあげる事が出来ません。

「それはそれとして、オースヘム守備軍の責任者の所に行きましょう」

 私が誤魔化すように言うと、クリフは力なく頷きました。



 責任者への挨拶は、アッサリと終了しました。ある意味、当然と言えば当然でしょう。各領地の守備軍責任者は、元々ドリュアス領守備隊の準隊長クラスなのです。そのクラスの隊員とは、隊舎で良く顔を合わせたので顔見知りなのです。彼の名前は、ガエタンと言います。軽く言葉を交わし、今後の確認だけで話は終わりました。

 それよりも問題なのが、ガエタンが妙に煤けていた事です。いきなり責任ある役職に着いたからと言うのもありますが、それだけではありません。……明らかにオーバーワークです。

 いきなり大役を押し付けられた重圧と、少数の部下のみ(しかも大半が新人)連れて見知らぬ土地の防衛を押し付けられたのです。更に現地調査に人員確保(プラス新人教育)に加え、ワイバーンの調教のおまけも付くのです。想像しただけで、逃げ出したい気分になります。

 この日は厚意により、隊舎に一泊する事になりました。部屋数の関係で、私達3人は同じ部屋で眠る事になりました。夜中にクリフが抜け出し、隣のガエタンの部屋へ行ったのに気付きました。私が風メイジの所為か、僅かに漏れ聞こえる声をハッキリと聞きとる事が出来ます。2人は互いの労をねぎらい合い、少しだけお酒を飲んでいる様です。

「見知らぬ土地の防衛は大変だろう。まして、付けられた部下の殆どが新人と来ている」

「なに、クリフほどではないよ。あのシルフィア様の子だ。クリフの方がよっぽど大変だろう。主にドS的な意味で……」

 その声に、クリフが乾いた笑いを上げていました。先程の念仏の件で、否定出来ないのが悲しい所です。

「アズロック様の子でもあるからな。個人的にはドMである事(苛められないと言う意味で)を期待していたのだが、残念ながらシルフィア様似の様だ。塩田の設置作業は、覚悟しておいた方が良いぞ」

「そんな分かり切った事、今更言うなよ。鬱になりそうだ」

 2人は本当に良い度胸をしています。それに自分の主に対して、ドMやらドSやら言わない方が良いと思いますよ。と言うか、その認識は必ずしも正しくありません。私も最近気付いた話ですが、普段は母上の方が強く見えます。しかし、いざという時に母上は父上に逆らえない様なのです。父上のあり余る包容力の勝利と言えるでしょう。特にベッドの上な……ゲフンゲフン。なんでもありません。

 私の思考を他所に、隣では母上と私の悪口で盛り上がっていました。お酒が適度に回り、声のボリュームも上がっています。もう風メイジでなくとも、聞き取る事は可能でしょう。

「……しかし、本当に良い度胸です。負担を強いるのは可哀想と思っていた私が、まるで馬鹿みたいです。元からする心算はありませんでしたが、もう遠慮しません」

 私の口から、怨念がこもった言葉が漏れ出ました。ドナが被っている毛布が、ガタガタと震えたのは気のせいでは無いでしょう。まあ、如何でも良いです。



 次の日に隊舎を出発し、塩田予定地に一番近い村を目指します。クリフは昨日の愚痴合戦の所為か、かなり回復していましたが、代わりにドナが憔悴していました。

 村に到着すると、熱烈に歓迎されました。どうやら塩田の話が村全体に伝わっている様で、村長の愛想がやたらと良いです。私はこの状況にゲンナリしながらも、マギ商会の協力者と接触する事にしました。

「村長。マギ商会の人間が、先に到着している筈です。何処に居ますか?」

「はい。こちらの方達がそうです」

 目的の人物は、村人達の輪の直ぐ外に居ました。見た目は商人風の男で、25歳位の金髪青目の男です。その顔を見た覚えがありました。資料庫を建てた時に一緒に作業した男で、名前は確か……アンリだったはずです。そしてその隣には、20歳位の銀髪青目の青年が居ました。同じく商人風の格好をしていましたが、こちらには見覚えがありません。……現地採用の新人でしょうか?

「お久しぶりです。ギルバート様。以前資料庫の建設をお手伝いしたアンリです」

 どうやら私の記憶は正しかった様です。

「良く覚えています。建材の調達では、無理をさせてしまいましたね」

 私の返事に、アンリは嬉しそうな顔をしました。

「所で、もう1人の方は誰なのですか?」

「あっ……はい。こいつは、ジュールと言います。ほら。挨拶」

 アンリに促されて、ジュールが自己紹介を始めました。

「初めまして。ジュールと言います。採用されたばかりで、至らぬ点も有ると思いますが、よろしくお願いします」

 どうやら本当に新人の様です。おどおどした感じはありませんが、商人特有のずぶとさが感じられません。しかし私の歳を予め聞いていたのか、戸惑いなく頭を下げて来ました。変なプライドが無さそうなので、成長が早いかもしれません。将来が期待出来そうです。

「よろしく。先ずは今後について話しましょう」

「では、酒場の方へ行きましょう。宿屋も兼業しているので、塩田建設の拠点となります」

 私達はアンリに導かれて、酒場に来ました。

「早速ですが、海藻はどれくらい確保出来そうですか?」

 私は開口一番に、アンリに聞きました。

「以前のプランでも、無理をすれば何とかと言った量でした。増加分を補うのは不可能です」

「やはりですか」

「代替え品の案はあるのですか?」

「ええ。麦藁を編み込んで、《固定化》をかける案で行こうと思っています。効率的には、海藻と大差ないとみています。しかし麦藁を編み込む人員と、《固定化》をかける人員が必要になります。その代わり、海藻を交換する人員を削減できるメリットも有ります。将来的には竹を何処かから発見して、取り替えてしまいたいですね」

 私はそこまで話すと、アンリは頷きました。

「人手を揃えるには……」

「解っています。父上から一次資金として、5千エキュー程預かって来ています」

 私の言葉に、アンリは頷きました。村人達を動員すれば、なんとかなるでしょう。雇用形態は、1個作ったらいくらの内職に近い形が理想です。近くの村や町も巻き込まなければ、間に合いそうにありませんが……。

「物流の方は、如何なっていますか?」

 次の質問をすると、途端にアンリの顔が曇りました。

「正直に言って、芳しくありません。魔の森解決の報は、ガリアにも届いています。今までは森をこれ以上広げない為に、物資の流れを止めない様にガリアも協力していました。ですが、脅威が去った事によりガリアでは、物流の税金を上げようと言う流れがあります」

 あいたたた。それは不味いですね。ですが想定の……。

「それと、塩田の事ですが、ガリア側は既に把握しています。近々、塩に高い税金(通行税)をかけられる筈です」

 ……範囲外でした。恐らく父上の対外工作が裏目に出ましたね。上級貴族がガリアのご機嫌取りにの為に、ガリア高官にこの事を密告したと見て良いでしょう。その他の物資に関しては、税金が上がるのは想定内ですが、塩の税金(通行税)が高いのは不味いです。最悪物納にされて、輸送中の塩を大量に取り上げられてしまいます。現時点で向こうに漏れていると言う事は、もう間に合わないですね。輸送ルート上の領主達は、ガリア国王が父上に便宜を約束する前に対策をとるでしょう。

「それは……不味いですね」

「はい。ガリア側の塩輸送ルートは、もう使えないと見ておいた方が良いですね。絞れるだけ絞りとられるのがオチです」

「そうですね。輸出入なら交渉のしようもありますが、輸送では向こうを引かせる理由がありません」

 私は頭を抱えてしまいたい気分になりました。他の輸送手段は、オースヘムとフラーケニッセを海路で結ぶか、空路による輸送しかありません。海路空路に関わらず、船を借りると莫大なコストがかかってしまいますが、それを加味しても船の方がお金になる可能性が高いですね。……いや、後々のアルビオン交易を考えれば、いっそ(空を飛ぶ方の)船を購入してしまう手もあります。扱う積み荷が塩なら、十分に黒字を期待出来ます。

 次に帰った時に、父上に進言してみますか……。コストが怖いけど、損を出さない唯一の道の筈です。最悪の場合は、魔法の道具袋で何とかするしかないですね。

「解りました。塩の流通に関しては、こちらで手を打ちます。生活必需品などの税金の方は、如何なのですか?」

「そちらの値上がりは、今のところ想定の範囲内です。塩と違って流通管理がしっかりしていないので、下手をすれば自領の物価にも悪影響が出てしまいます。無用な混乱はあちらも望んでいないでしょう」

 ……正論ですね。余程の馬鹿が居ない限り、問題は無いでしょう。私はアンリに大きく頷きました。

「私はこれから、流下式塩田のプロトタイプを設置に向かいます」

「「プロトタイプ?」」

 アンリとジュールが、怪訝そうな顔をしました。今更試作する意味があるのかと言う事でしょうか?

「全体を通して、何処かに問題が無いか確認は必要です。ノウハウも手に入りますし。特に今回竹の代わりに枝条架に使う、麦藁の効果的設置方法や編み方は先に確認しておきたいですから」

 私の言葉に納得したのか、全員が頷きました。

「プロトタイプの設置に2週間。更に、確認と問題点解決に2週間。と、考えているので、今から1ヶ月で設置作業を開始ししたいと考えています」

 再び全員が頷きます。

「主な担当は私が水車と釜屋で、クリフが流下盤、ドナが枝条架、アンリ達は調達や労働力の確保です。ここまでで何か質問はありますか?」

 全員が沈黙を持って答えてくれました。

「本格始動は先程も話した様に、1ヶ月後を予定しています。不明な点がありましたら、随時私の所に質問に来てください。絶対に解らないままで、作業を進めないでください」

 全員がの返事を確認すると、私は更に続けました。

「アンリ達は麦藁(試作分)・水車と釜屋の建材・管理棟と従業員寮の建材の順番で、優先して調達してください。これが詳細です」

 そう言って私は、道具袋から大きめの羊毛紙を取り出して渡します。それをアンリが受け取り、内容を確認しました。

「はい。問題ありません」

「では、いったん解散です。アンリとジュールは、調達の方よろしくお願いします」

「「はい」」

「クリフとドナは、出発前に打ち合わせした通りにお願いします。しつこい様ですが、少しでも不安があったら、必ず私に報告してください」

「「はい」」

 そして、いよいよプロトタイプの設置作業を開始しました。

 クリフの担当する作業は、以下の通りです。

 第一段階として、ディティクト・マジック《探知》で設置場所の水平度を測定し、《錬金》で傾きの無い平坦な土地を作りだします。
 第二段階として、《錬金》で1メイル角の流下盤パネルを作成します。
 第三段階として、流下盤パネルを設置場所に並べ《錬金》で結合します。
 最後に海水を流して問題無ければ、《固定化》をかけて終了です。

 クリフは《錬金》で、なかなか流下盤の黒色(太陽光の熱吸収の都合で黒が良い)が出せずに、大変苦労していました。今後応援として呼ぶ土メイジも、同様の懸念が予想されます。それよりも心配なのが、私とクリフが土のラインメイジである事です。クリフが苦労したと言う事は、土のドットメイジでは流下盤を《錬金》出来ない可能性があるのです。ドリュアス家で抱えている、ラインクラス以上の土メイジの数は、私と父上含め片手でお釣りが来てしまうのです。私、父上、ガストン、クリフ……以上の4人です。となると、必然的に私とクリフが地獄を見る事に……考えたくありません。

 次はドナが作業する内容です。

 ドナには私と一緒に考えた枝条架の形を、麦藁を編んで形にする作業をしてもらいます。枝条架の台や樋は、私が風車とセットで担当し形にします。ドナに向く作業とは言えませんので、近くの村から手先が器用な者を雇ってドナが監督する形です。後は私のサポートですね。

 最後に私がする作業です。

 私がする作業自体は、既に殆ど終わっていたりします。それと言うのも、大体の部品は家で作成済みだからです。簡易風車と手押しポンプは組み立てだけで、釜屋の方も手間なのは建物のみです。終わりしだいクリフと合流ですね。


 作業はつつがなく進みました。私の作業は予想より早く、翌日の中に終える事が出来たのです。組み立てるだけとは言え、もっとてこずると思っていました。建材を翌日朝に用意してくれたアンリに感謝です。そして《探知》は、本当に素晴らしい魔法であると言う事です。《探知》で位置情報も割り出せるので、わざわざ測量する手間が無いのがありがたいです。

 その次の日からは、地獄が待っていました。只管……ただ只管に、《錬金》で流下盤を作る日々です。3日で鬱になるかと思いました。予定通り終わって、本当に良かったです。終わった後に、クリフの目が虚ろだったのが怖かったです。刺されるかと思いました。流下盤の設置作業の方は、外での作業である事と少し見回せば成果が見て取れるので、精神的に追い詰められるような事はありませんでした。……ただ、まだ本番じゃないんですよね。作業量が何倍か、怖くて計算出来ません。定期的に休みを入れれば大丈夫かな?

 それと、問題が発生しました。それは近くを飛び回る海鳥達です。流下盤の上に糞が……。思わずエア・カッターぶっ放しました。隣でドナが固まっていましたが……私は悪く無いと思います。迎撃用のガーゴイル(鳥型)を、大量に用意してあげます。オボエテロヨ。それまでは、デッカイ目玉の案山子で誤魔化すしかないですね。その後何故か、皆が私から距離をとるのです。……ワタシワルクナイヨ。

 後にドナが「うつろな笑いを浮かべながら、偽目玉を吊るし始めたギルバート様は本気で怖かった」と語っていました。……放っておいてください。

 枝条架の実験の方は、問題無く終了しました。海水の濃度も《探知》で一発なので、実験自体も楽に出来ました。採用した編み方を、雇った者達を講師にして労働者に教えさせます。労働者が作った物は明確な査定基準を設け、良品・可品・不可品で判断し、不可品は買い取り不可にしました。反対に良品は、買い取り価格に僅かながら色を付ける事にしました。アンリから提出された、枝条架の品質向上策です。


 いよいよ本作業の開始です。応援部隊の寝泊まりする場所として、管理棟と従業員寮を早々に完成させ、村への往復時間を削減します。

 クリフには引き続き流下盤を担当してもらい、応援に来た土メイジ(ドットクラス)3人の指導をしてもらいました。しかし最悪な事に、流下盤はラインクラスでないと《錬金》不可だったのです。仕方が無いので、形だけ作らせて仕上げは私とクリフで行う事にしました。これだけでも、私とクリフの負担はかなり減ります。

 ドナには塩田の警備と私のサポートを命じました。それと、家との連絡役ですね。これまでの事や現状を、手紙に綴って家に届けてもらう事にしました。それと、塩が一リーブル入る壷を用意し、海水塩10壺・藻塩6壺を魔法の道具袋に入れ、父上の下に届けさせました。トリステイン・ガリア・アルビオン王家とドリュアス家・ヴァリエール家・モンモランシ家に一壺ずつです。残りは全て、タルブ行きですね。

 後心配なのは、情報の漏洩ですね。村や作業員には、この塩田を低効率かつ超低コストの塩田と説明しています。低効率による量を補うために、大規模化していると説明しました。テストの時も、あえて作業員たちに同席させて、魔法を使う事により堂々と誤魔化しました。ばれる可能性があるのが、第一風車の海水の汲み上げ量ですが、こちらは信頼できる守備隊のメイジしか知らない情報なので、軽い口止めだけで問題無いと判断しました。実際の製塩量は魔法の道具袋と、倉庫で誤魔化すしかありません。



作業開始1週目
 管理棟と従業員寮が完成しました。派遣されたメイジ達の中に「牢獄が完成してしまった」とか言っていた人がいましたが、ソンナコトナイヨ。アンリ達が家具・事務用品の運び込みに、四苦八苦していました。

作業開始3週目
 海から海水を汲み上げる、第一風車が全基完成しました。流下盤の《錬金》の気分転換でしょうか? 時々クリフ達が、流下盤設置場所の水平出しの作業をしていました。思ったより手間取り、当初のスケジュールから遅れ始めました。この遅れを、早く取り戻さないと……疲れた。

作業開始4週目
 第一枝条架に海水を汲み上げる、第二風車も全基完成しました。手伝いの人達も作業に慣れて来たのか、作業スピードがだんだん速くなってきました。しかし残念ながら、遅れを取り戻せるまでには至っていません。……平均睡眠時間4時間切りそう。

作業開始6週目
 第二枝条架に海水を汲み上げる、第三風車が全基と枝条架の樋が完成しました。これで風車は全基完成です。次はいよいよ釜屋の方に移ります。かなり疲れました。家から「たまには帰って来い」と、手紙が来ていました。9歳の誕生日? 何それ美味しいの? お断りします。それよりも、クリフが精神的にかなりやられています。また休みを取らせないと……。

作業開始9週目
 思ったより時間がかかりました。かん水(濃い塩水)を釜屋に送る地下パイプの設置に、大きく手間取ったのが原因ですね。……反省です。また「帰って来い」と、手紙が来ていました。今はそれ処ではないので、無視ですね無視。それよりも、いよいよ地獄の流下盤《錬金》に入…り……? 何故か気付いたらベッドの上でした。何故でしょう? ……倒れた? 誰が? とにかく続きです。……休め? 五月蠅いです!!

作業開始10週目
 ケケケッ。流下盤の《錬金》作業は、精神的にキますね。それよりも、最近1日がやたら長い気がします。1日にお外が、4回もオレンジ色に染まるんですよ。何の冗談でしょう? それよりも最近周りが、本当に五月蠅いです。……ヤスメ? 何それ麻雀ですか? ……ネロ? 何処のカオスな吸血鬼ですか? でも、ガクガク動物ランドは行きたいな。裸コート万歳!! テンションが振り切れたのか、《錬金》作業がとっても楽になりました。これであと100年は戦える~~~~。

作業開始11週目
 なんか捕獲されて、ベッドに縛りつけられました。どんな虐めですか? それよりも、早く作業しないと間に合いません。作業に戻ろうと起き出すと、その度に捕まりベッドに連れ戻されます。早くしないと……。あれ……意識が……。



 目を覚ますと何故か私は、ベッドに括り付けられていました。何故? もしかして、誘拐されたのでしょうか? しかし縛り方が甘いです。これなら、なんとか抜けられそうです。

 取りあえずベッドから抜け出すと、部屋を観察します。……見おぼえがありますね。どう見ても、塩田の管理棟にある私の部屋です。私の杖は……机の上にあります。窓から外を確認すると、クリフが普通に設置作業をしていました。……誘拐の線は消えましたね。

「如何言う事ですか?」

 私は必死に思い出しながら、現状を分析しました。しかし、こうなる以前の記憶があやふやです。何か健康的に、問題が出たのでしょうか? ……病気? いや……恐らく過労ですね。おぼろげながら、かなり無茶をした記憶があります。

 ……無理する私を見かねて、部下達が拘束隔離した?

「そう言う事ですか」

 間違い無いですね。皆には心配かけました。それよりも身体の状態から、かなり長い時間寝ていた様ですね。……お腹が空きました。取りあえず食事です。

 取りあえず食堂に行き、あまり物のスープとパンでお腹を満たす事にしました。(食べ終わったら着替えて、仕事の続きかな)そんな事を考えていると、あっと言う間に食べ終わりました。食器を片づけ、いったん部屋に戻ろうと歩きだした所で、それは起こりました。

「大変だ!! ギルバート様が脱走したぞ!!」

 ……おい。私は犯罪者じゃないぞ。

 突然響いた大声に、思わず心の中で突っ込みを入れてしまいました。

「取り逃がしたら、シルフィア様の特訓フルコースと思え!!」

「応!!」

 いや、それはちょっと……罰としては酷過ぎる。……かな?

 出て行くに出て行けない雰囲気が、既に出来上がっています。自業自得とは言えこの状況は、私が悪いのでしょうか? そんな事を考えていると、後ろにある気配に気付きました。

「!?」

 私の背後に居た人間は、体当たりする様にぶつかって来ました。なんとか反応して避けようとしますが、身体の動きが鈍すぎて間に合いません。なすすべなく体当たりを食らい、そのまま取り押さえられました。

「放してください」

「ダメです」

 私を取り押さえているのは、守備軍から応援に来た土メイジの1人です。

「確保しました!!」

 耳元で怒鳴らないで欲しいです。その声を聞きつけ、ぞろぞろと皆が集まって来ました。

「良くやった!!」

 まるで賊を捕まえたような勢いです。止めて欲しい。

「ギルバート様は、絶対安静です。よろしいですね」

「いえ……しかし(……クリフ。なんか怖いよ)」

 日程的に、ここで素直に頷く訳には行きません。

「シルフィア様に、有る事無い事報告しますよ」

 ……脅されました。クリフは本気の様です。ここは逆らわない方が吉ですね。

「はい。解りました」

 私は泣く泣く了承しました。



 それから2日ほど安静にし、ようやく復帰の許可がおりました。作業を再開しましたが、相変わらず流下盤の《錬金》作業は、終わりが全く見えません。全体的に見ると残りは、枝条架の作業が5割強と流下盤の作業が5割弱です。枝条架の方は収穫の季節が終わり、領民達に余裕ができるので一気にスピードアップします。こちらは何とか間に合う計算です。しかし、流下盤の方が終わりません。このままでは、1月(ヤラ)中に終わらないです。

 ……なのに。

「1日の作業時間は、10時間までです」

 ……なんでやねん。終わらないちゅーに。せめてその倍は欲しいです。(注 そんなに働いたらまた倒れます)……クリフは何を考えているのでしょうか? まあ、普通に考えれば、私の健康なんでしょうが……。復帰してから、やたらと調子が良いのに。仕方が無いので隠れて作業しようとしたら、一発でばれて監視を付けられました。お陰さまで対人関係が、ギスギスしていますよ。私が悪いのでしょうか? まあ、悪いんでしょうね。

 しかし何処に行くにも、監視の目……目……目です。肉体的負担は半分以下に減りましたが、精神的負担は4倍以上です。その所為か、なんか孤立している気がします。……寂しいです。



 少し時間が経って1月(ヤラ)に入り、始祖の降臨祭が始まりました。半ば意地になっていた私は、家にも帰らずに塩田の管理棟で降臨祭を過ごしました。皆には警備の人員を残し、交代で休みを取らせましたが、警備=私の監視の図式が出来上がっています。監視の目は全く緩みませんでした。

 後に思えば、この時私の寂しさは臨界を突破していたのでしょう。気が付くとカトレアの名を口にしている事が多くなりました。弱くなった物です。そして私は、ある計画を実行に移す事にしました。普段の私なら、絶対に実行しない様な事……つまり。

 ……使い魔の召喚です。

 実行する場所は、ある程度の広さと人目のない場所である必要があったので、管理棟の裏にしました。実行日時は、なるべく良いコンディションで臨みたかったので、休日(クリフに無理やり取らされてる)にしました。

 監視の目を無くすために、ドナの前で父上に手紙を書きました。内容は謝罪の言葉と「塩田の設置作業に手間取り、設置完了が2月(ハガル)中旬から下旬までかかる」と、言う物です。既にドナの方から報告が行っているので今更ですが、私がもう焦っていないというアピールです。更に作業員全員の前で、無理をした事を謝罪しました。

 それから3日も経つと、クリフ達は安心したのか監視の目が無くなりました。次の休みに実行です。

 とうとう第3週(エオロー)の虚無の曜日になりました。今日が決行の日です。昼過ぎに管理棟裏に移動し、そのまま日向ぼっこをするように休みます。そして人目が完全に無くなったのを確認すると、私は呪文を唱えました。

「我が名はギルバート・アストレア・ド・ドリュアス。五つの力を司るペンタゴン。『私と傷を……孤独を癒し合い、共に支え、共に背負い、共に歩んで行ける者よ』我の運命(さだめ)に従いし、“使い魔”を召還せよ」(どうか……どうか、私の声に応えてくれ)

 呪文が完成すると同時に、銀色の扉……門が現れました。召喚されるのは、私の属性から考えて四足の獣でしょうか? それとも、翼の獣でしょうか? 私は期待に胸膨らませました。

 そして、出て来たのは……。



 ハンターを連想させるシャープなシルエット。

 体毛は全て漆黒に染まり。

 瞳は美しい紅。

 獲物をしとめる力強い牙。

 獲物を切り裂く鋭い爪。

 その身軽さを支える細長い脚。

 優雅に揺れる美しい細長い尻尾。






 そこには完全無欠の黒猫様が居ました♪ 
 

 
後書き
連投4回目にして終わりです。
私は何をやっているのでしょうか?
ご意見ご感想お待ちしております。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧