Element Magic Trinity
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赤い大地の激昂
エーテリオン投下、そして吸収、禁忌の魔法Rシステム起動、楽園の塔崩壊――――様々な問題が起こったあの日から3日。
「んごおぉぉ・・・ぐがぁぁぁ・・・がるるる・・・」
アカネビーチのホテルの一室に、そんな問題とは真逆のかなり平和な(?)イビキが響いていた。
その部屋のベットの上で寝るナツのイビキである。
「大丈夫か、コイツ」
「さすがに3日間も寝っぱなしってのはね」
「相当眠かったんだね。睡眠不足はお肌の大敵だよ」
「ナツが寝てる理由は睡眠不足じゃねーと思うぞ、ルー」
3日間も爆睡しているナツを心配する面々。
「ナツ!ルーシィがメイドのコスプレで歌って踊って皆ひいてるよ!」
「そんなんで反応されて起きてもらってもヤだけど・・・」
「ぷ」
「寝ながら笑うな!」
眠りながらもしっかりと反応を示すナツにルーシィがツッコむ。
「もうしばらく休ませてやろう。仕方ない状況だったとはいえ『毒』を食べたに等しい」
「エーテリオンを食ったんだっけか?だんだんコイツもバケモノじみてきたな」
「全く・・・説教できる立場か?」
呆れたように言いながら、どかっとソファに座るグレイ。
エルザはナツの言った『こんな事は2度とするな!』を思い出しながら、溜息をついた。
「うん。ティアも3日間寝たままだしね」
「聞いた話じゃ、エーテリオンを吸収したってな」
「ナツと同じベットでもよかったんだけどねー、さすがにそれはちょっとダメかなーと思って」
「ちょっとって・・・かなりダメでしょ。殴られるわよ」
変わらないルーの呑気な発言にルーシィが頭を抱える。
「今回の件では皆にも迷惑をかけたな・・・本当に・・・何と言えばいいのか・・・その・・・」
「もう・・・そのセリフ何回言ってるのよォ」
「!」
困ったように言葉を探すエルザにルーシィが言い、エルザは何かに気づいたように部屋を見回す。
「そういえば、あのエレメント4の娘は?ティアの所か?」
そう。
楽園の塔で共に戦ったジュビアの姿がないのだ。
「ああ・・・ジュビアか。もう帰っちまったよ。妖精の尻尾に一刻も早く入りてぇからマスターに頼みに行くんだって」
「そうか・・・聞けば世話になったようだし、私からマスターに稟請してもよかったのだがな」
「ホントあの子行動力あるよね――――て!何してんの!?」
「あい?」
そんな会話をしている間に、何故かハッピーがナツの口に魚を突っ込んでいた。
「つーかエルザ・・・お前は寝てなくていいんかよ?」
「ん・・・見かけほどたいしたケガではない。エーテリオンの渦の中では体は組織レベルで分解されたハズなのだがな」
「分解・・・て・・・本当に奇跡の生還だったんだな」
しれっととんでもない事を言うエルザにグレイが呆れたように言う。
「そういえばよォ、エルザ。ティアが滅竜魔法・・・『星竜の咆哮』を放ったって、本当か?」
アルカが尋ね、エルザは無言で頷く。
「ああ・・・私も驚いた。ティアは滅竜魔導士ではない。それなのに滅竜魔法を・・・」
「もしナツみたいにドラゴンに育てられたとしたら、その兄弟のクロスとクロノさんもドラゴンに育てられた、って事になるよね」
「生き別れた家族、とかじゃなかったらな」
彼女が滅竜魔法を使える事を黙っていた、という説もあるのだが、黙っている理由がない。
全員が考え込む中、エルザが思い出したように顔を上げた。
「そういえば、ジェラールが妙な事を言っていたな」
「妙な事?」
ルーが首を傾げる。
「ティアがエーテリオンを吸収した時だったか・・・『星竜の巫女』と言っていた。ジェラールが言ったのを聞いていただけだから、詳しい事は解らんがな」
「巫女?」
「閃光とか女王じゃなくて?」
彼女の持つ通り名、海の閃光や氷の女王とは別の名・・・星竜の巫女という名に、よく行動を共にするルーやアルカでさえ不思議そうに顔を見合わせる。
「んじゃ、ティアが起きたら聞いてみりゃいいんじゃねぇのか?何か知ってるかもしんねーぞ」
「あい。ギルドに帰ってサルディアに聞くのもいいかもね。こういう系の事には詳しいもん」
「そうだな」
結局、ティアの問題は彼女が起きてから・・・という事になった。
(正直・・・何が起こったのかはよく解らない。だが、今が生きてる事を喜びたいな・・・)
薄い笑みを浮かべ、エルザは生きている事を実感する。
「何はともあれ、さすがエルザだな。勝手に毒食ってくたばってるマヌケとはエライ違いだ」
グレイがそう言いながらナツに目をやる。
それと同時に、ナツの耳がピクンと反応した。
「今なんつったァ!!!!グレーイ!!!!」
「起きたーーーーーー!」
怒号を上げながら、ナツが目を覚ます。
しかしグレイは構わず、ナツに皮肉を言い続ける。
「素敵な食生活デスネって言ったんだよ、バーカ。てかお前、フクロウのエサになってなかったか?食う方か?食われる方か?どっちだよ、食物連鎖野郎」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
グレイの御尤も(?)な皮肉にナツが唸り声を上げる。
そして――――――
「くかー」
「寝たーーー!」
「絡む気がねぇなら起きんじゃねぇ!」
ぱたっと倒れ込み、再び寝た。
「あははははっ!」
「クス」
それを見た一同は同時に笑いを噴き出し―――
『あはははははっ!』
楽しそうな笑い声を響かせたのだった。
雲が渦巻く。
とある火山に、キラキラと煌めく光が2つ現れ、宙を舞った。
「何をしに来た?グランディーネ、グラウアッシュ」
『久しぶりね』
《こんにちは》
地を、空気を、火山を震わせるような低い声が響き、煌めきが軽やかに答える。
「ここへ来る事・・・干渉する事は禁じたハズだ。今すぐ立ち去れ、グランディーネ、グラウアッシュ」
火山の穴から、2つの光が浮かび上がる。
『近くにアナタを感じたものだからね。『あの子』・・・本当に無茶ばかりするのね。誰に似たのかしら?』
煌めきがクスクスと笑い声を零す。
すると、そこにグランディーネとグラウアッシュと呼ばれる煌めきとは別の煌めきが姿を現した。
【うむ・・・なかなか面白そうな話をしているな】
「お前まで来たのか・・・シュテルロギア」
《あら、貴女も久しいわね。シュテルロギア》
【久しいな、グランディーネ。グラウアッシュ。主もな】
シュテルロギアと呼ばれる光はくるくると宙を回転し、笑うように煌めきを強弱させる。
【先ほどの話の続きだが・・・妾も見させてもらった。今回は運が良かったようだが、こんな事はそう何度も続かん。『あ奴』だけに全ての運を与えるなど、そんな偏ったマネを神はせんからな】
『シュテルロギアの言う通りよ・・・『あの子』、死ぬかもね』
2つの煌めきが舞う。
「出ていけ」
低い声が、火山を震わせた。
『いずれ『あの子』もウェンディと会う事になると思うけど、今度は仲良くしてほしいわね』
【ほう・・・となれば、『小娘』ともいずれ会う事になるだろうな。少々『小娘』は手強いぞ?親しくなるのは無理であろう。その点では『あ奴』は特殊的存在とも言える。まぁ・・・『小娘』の暇潰し、程度だろうがな】
《という事は、いずれはココロとも会うかもね。フフッ》
グランディーネとシュテルロギア、2つの声に、火山に住む主の怒りが爆発した。
「出ていけ!!!!人間に干渉するな!!!!」
怒号が上がる。
「このイグニールを怒らせたいのかぁ!!!!!」
イグニール。
鼻辺りに傷のあるドラゴン―――その存在こそ、ナツの探す育ての親だった。
『そうね・・・何を心配したトコで私達に出来る事は何1つない。あとは人間の力を信じるしかないものね・・・』
【妾達に出来るのであれば、人間の力など存在する価値もない。奴等のように感情に流され、他に流され、簡単に闇に堕ちる存在・・・不安定すぎる。本来なら、頼りたくもないが・・・こうなってしまった以上、頼るしかあるまい】
2つの煌めきが、線を描いて火山から姿を消す。
『ゼレフは・・・』
【よせ、グランディーネ】
《もう止めておきましょう》
グランディーネが何かを言いかけ、それをシュテルロギアが制する。
グルルル・・・とイグニールが威嚇に似た声を上げていた。
『竜王祭で会える日を楽しみにしてるわ、イグニール』
【そうだな・・・竜王祭まで暫しの別れだ。イグニール、グランディーネ、グラウアッシュ】
《竜王祭での再会を楽しみにしてるわ》
「っ!」
アカネビーチのホテルの一室。
ルーシィ達のいる部屋とは別の部屋で、ティアは目を覚ました。
息は乱れ、じっとりと汗が滲んでいる。
「何・・・今の夢・・・」
ボソッと呟きながら、シャワー室へと向かっていく。
シャワーを浴びながら、先ほど見た夢を脳内で繰り返した。
(光・・・グランディーネとグラウアッシュ、とか言ってたはず・・・あのドラゴンは・・・)
ぎゅっと、唇を噛みしめる。
「イグニール・・・アイツの探す、火竜・・・」
夢に現れた赤いドラゴン。
その名は何度も聞いた。その姿は何度も話された。
「・・・」
最後に思い浮かぶのは、グランディーネとは違う煌めき。
古風な口調の煌めき。
「どうして・・・どうして、イグニールと・・・」
呟いて、目を伏せる。
「星竜・・・シュテル、ロギア・・・」
「あ、あのよ・・・すまなかったゼ、エルザ」
「ごめんなさい、エルちゃん」
アカネビーチの浜辺で、エルザはショウ、ウォーリー、ミリアーナと向かい合っていた。
「私の方こそ・・・8年も何も出来なかった。本当にすまない」
「姉さんはジェラールに脅されてたんだ。俺達を守る為に近づけなかったんじゃないか」
ショウがフォローするも、エルザは逆に申し訳なさそうに視線を下に落とす。
「今となってはそんな言い訳も虚しいな・・・もっと早くに何とかしていれば、シモンは・・・」
「シモンは真の男だゼ!だって・・・だってよう・・・エルザを守りたかったんだ。アイツはずっと・・・」
「ウォーリー!」
余計な事まで言おうとするウォーリーをミリアーナが止める。
「アイツの気持ちはよく解るし・・・残された者の気持ちも今はよく解る・・・だけど私達は進まねばならない。シモンの残してくれた未来を」
エルザの言葉に、ショウ達は俯く。
「うん」
「とても悲しい事だけど、シモンはずっと私達の中にいるんだね」
「そう信じなきゃやっていけねぇゼ、チクショウ・・・一体俺達は何の為に・・・」
エルザの言葉を受け止めつつも、奴隷時代から仲間として、友達として一緒にいたシモンの死に涙が流れないはずがない。
右手で顔を覆い、ウォーリーは涙を流す。
「過去は未来に変えて歩き出すんだ。そして今日の一歩は必ず明日へと繋がる一歩になる」
その言葉に、少し悲しそうに顔を俯かせる。
「今日の一歩か・・・」
「私達はこれからどうすればいいんだろうね」
ずっと暮らしていた楽園の塔はもうない。
が、塔から出た事のないショウ達に、外の世界で生きていく術はない。
行く先も、帰る先も、自分達を迎えてくれる先もない。
これからの未来に不安を抱く3人に、エルザがとある提案を持ちかけた。
「行くあてがないのなら、妖精の尻尾に来ればいい。お前達なら大歓迎だ」
それを聞いた3人は目を見開いた。
「!」
「フェアリーテイル!?」
「みゃあ!?私達が!?」
突然の話に驚愕する。
エルザはさらに続けた。
「お前達の求めていた自由とは違うかもしれんが、十分に自由なギルドだ。きっと楽しいぞ」
その言葉に、ウォーリーとミリアーナが楽しそうに顔を見合わせる。
「そういや火竜もそんなような事言ってたゼ!」
「元気最強のギルドだぁー!」
声を弾ませるウォーリーとミリアーナ。
「それに、お前達ともずっと一緒にいたいしな」
エルザが微笑む。
そんな中、ショウは1人・・・考え込むように顔を俯かせた。
「さあ・・・もう戻ろう。ナツとティアにもお前達もきちんと紹介せねばな」
「俺の事は世界1ダンディな男って言ってくれヨ」
「私はハッピーちゃんとお友達になるー!」
そんな会話をしながらホテルへと足を進めるエルザ達。
その時―――
―強くなったな、エルザ・・・―
(ジェラール!?)
エルザの耳にジェラールの声が聞こえ、慌てて振り返る。
が、そこには波の音を響かせる広大な海が広がるだけだった。
(・・・そんな訳ないか・・・)
それとほぼ同時刻・・・楽園の塔跡地付近にある、とある島では・・・
「・・・うん。火竜と星竜の巫女の攻撃、エーテリオンの暴発の2つのせいで、楽園の塔は崩壊。もう跡形も残ってなくて、本当に死者を蘇らせる事が出来るのかは確かめられなかったよ」
少女・・・ジェメリィが通信用魔水晶に向かって落ち込んだように話しかける。
すると、魔水晶から男性の声が返ってきた。
『そうか・・・彼女もRシステムにかなりの興味を示していたんだが・・・もう残っていないのなら仕方ない。Rシステムについては私から報告しておこう』
「りょーかい。で、ボクはどうしたらいい?」
首を傾げそう問いかけると、男性は少し考えた後に答えた。
『そうだね・・・とりあえず慌てる事はないよ、ジェメリィ。『あの方』からの命令はない。という事は、私達が動く必要もないという事だ。まぁ、彼女が興味を示すものがあれば、再びその場に行くだけだけどね』
魔水晶に映る男性はそう言って、いたずらっぽく笑う。
『もうすぐ迎えをそっちによこすから、それまでは戦いの傷を癒しているといい。星竜の巫女と戦ったんだ。すぐに傷は治らないだろうからね』
「うんっ!ありがとね!」
ジェメリィは笑い、右手をヒラヒラと振った。
「リーダー!」
「・・・ふぅ」
とある建物に、その男性はいた。
赤い髪をかきあげ、溜息をつく。
「Rシステムの件は残念だったわ」
「・・・いたのかい?シグリット」
シグリットと呼ばれた女性は微笑みながら、男性の隣に立った。
ふわり、と赤い髪が揺れる。
「でもいいわ・・・私達によみがえらせたい人間なんていない。『あの方』が命じない限り、ね」
男性の腕に自分の腕を絡め、満足そうに笑みを浮かべるシグリット。
そんなシグリットを見つめ、男性も優しい笑みを浮かべた。
「にしても・・・何の偶然だろうね。いや・・・必然か?それとも、元々決まっていた運命・・・まさか、3人が同じ場所に集うとは・・・」
呟いて、建物の壁に目を向ける。
そこには、3枚の写真。3枚とも別の人が映っていて、目線が外れ、体すらこっちを向いていない事から隠し撮りだろう。
「アマリリス村の生き残り・・・ルーレギオス・シュトラスキー」
1枚目に映るのはルー。
紅天のボラの奴隷船で暴れた時の写真だ。
「カトレーンの異端児、星竜の巫女・・・ティア=T=カトレーン」
2枚目に映るのはティア。
アカネビーチでパラソルの下で魔法書を読んでいる写真だ。
「そして・・・」
こうなれば、3枚目に来るのは必然的にあの青年。
前2人とは同じ分類に分けられる魔法を使い、そして面白ければ全てよし、の思考を持つ男。
男性は微笑み、その写真を―――幽鬼の支配者の巨人の手の上で銀髪の恋人を抱きしめる写真だ―――見つめた。
「光に生きる闇の子・・・アルカンジュ・イレイザー・・・」
エルザは、その時思った事を恥ずかしそうに、あたしにだけそっと話してくれたの。
それは、あの塔の暴発を防いだのは、もしかしてジェラールかもしれないって事。
あの時、ゼレフの亡霊から解放されて、昔の優しかったジェラールに戻ったのね。
そしてエルザの代わりにエーテリオンと融合して、魔力を空に逃がしたの。
だからエルザは元々、分解なんかされてなかったって説。
確かに、そう考えると結構辻褄が合うんだよね。
だって分解された人間をナツとティアがどうやって見つけんのよ。
てか、どうやって元に戻すの?
けど本当にジェラールがあの時、昔の自分に戻れたとしたら、なんかかわいそうだな。
ジェラールだって、ゼレフの亡霊の被害者って事だもんね。
その日の夜、ようやく目を覚ましたナツとティアを含めた一同は、ショウ達と共に宴会のような夕食を済ませた。
3日ぶりの食事にルーシィと初めて会った時のようにナツは凄まじい勢いで食べ進め、ショウはグレイに絡まれ、ハッピーはミリアーナから魚を貰っていたり・・・と、とても楽しい時間を過ごしたのだが。
「ルーシィ!」
日記を書いていたルーシィの部屋に現れたエルザは、少し困ったような慌てた様な表情をしていた。
「ショウ達を見なかったか?」
「見てないケド・・・」
「同じホテルに泊まっていたハズなんだが、どこにもいないんだ」
「あたし達、明日チェックアウトだから一緒にギルド行こーって言ってたのにね」
「プーン」
それを聞いたエルザは不安そうな表情で俯く。
「も、もしかして、何も言わずに出ていっちゃったの!?」
頭をよぎった考えに、ルーシィは慌てて立ち上がる。
エルザは小さく溜息をつき、「そうか・・・」と呟いた。
「追わなきゃ!どーしたんだろ!?もう離れる必要なんてないのに!」
日記を閉じ、慌ててショウ達を追おうとするルーシィ。
だがエルザは何かを決心したような顔つきになり―――――
「ナツとグレイ、ティア達に『花火』の用意と伝えてくれ」
そう言い残し、部屋を飛び出して行った。
「え・・・ちょ・・・!何!?花火って!?」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
次回、楽園の塔編完結!そして同時にBOF編突入!
・・・ですが、4日と5日は予定が入っている為、更新できないんですよ・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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