生きるために
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第五話 日常での異常
空は今回は生憎の曇天。
まぁ、雨が降るか降らないかだが恐らく勘で降らないことを悟っているから傘は持っておらずそのまま目的の場所まで歩く。
「人が多いなぁ……やっぱり例のか?」
『でしょうね。若者はおろか大人にも人気なスポーツ大会みたいなものですし。そういったマニアには最高な大会でしょう───中には10代の子供にときめくロリコンがいるかもしれないですが』
「犯罪者予備軍の巣窟に俺達は向かうのか……」
『ええ……どうしましょう。異常性愛者で十字架にときめく男とかがいたら……最早おぞましい未来ですね……』
それはないっ、と思いたいが人間が可能性の塊であることがいけない。
無限の可能性を得た人類にいろんな意味で不可能がないというのは何ということだ。人類の未来は果てしない。
「おっ」
そんな下らない事を考えていると目的の場所が見えた。
あからさまな地球で言うと東京ドームみたいなもので、それよりも更に近代的なホール。
DSAA。
正式名称はディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイションだったか。
世界的に有名な公式魔法戦競技会。
それが今回の依頼の目的地であった。
「DSAA? ああ、勿論知っているけど? 確か魔法を使った競技会だったよな?」
『ええ。一度テレビで見ましたね。普通に考えたら結構未来あるというか才能溢れる子供達のガチンコラグナロクって感じでしたねぇ……』
「ああ……拮抗する者同士があたれば青春だったけど、やばいときは一方的なジェノサイドが特徴的だったよな」
「まぁ、夢見る競技者が最初に大敗する所やからなぁ……基本何でもアリやから最早地獄絵図やし。しかもそれでも笑顔。魔法世界の子供。倫理がおかしいんと思う時がある」
「ちょ、ちょっと待って? はやて? それは偏見じゃないかなぁ……?」
脱げば脱ぐほど速くなる残念な子は八神と一緒にスルーした。
ロマン溢れる世界ゆえに一線を越える事に躊躇いがないロマン住人は無視するべきだ。
エロが移る。
「で? そのDSAAがどうした? 関係者が問題か不祥事か何かを起こしたってか?」
「その程度のことやったらなぁ……今頃マスコミが騒いで終わりやろ?」
そりゃ当然。
でも、今のところ件の場所が問題を起こしたというのはテレビでは聞いていないし、フェイからも漏らされていない。
「というと?」
「───さっきDSAAに集まる子供は未来もしくは才能溢れる子供やって言ってたやろう?」
───ああ、つまりそういうこと。
「何時からだ?」
「正直に言って曖昧。最初はちょっとした違和感からやった。ちょっと人気があった子供が来年になると出ていない。まぁ、それ自体はよくある事やねん。夢破れた。もしくは職が。家が。受験が。興味が。健康が。そういった色々な理由で毎回出るというわけやないし。だからそういう意味で発見が遅れた。まぁ言い訳やな。とりあえずいやらしいことに年々有名どころじゃないけどちょっとした選手が出なくなっていたんや」
つまり消えても別に騒がれない程度の選手を狙っての犯行。
やる事がいやらしいというのはこの事か、と思うがそれに関しては俺が思うのは筋違いというものだろう。
「それにしても気づくのが遅過ぎるだろうが。観客には気づかれないかもしれないけど家族や友人が騒ぐだろ普通」
「そやね。騒ぐ人もいてくれたならな」
そりゃ用意周到なことで。
だから隣のハラオウンがこの話を終始不愉快そうに話を聞いているだけだったのか。
「なら逆に気付いた切欠は?」
「一人の管理局員が失踪した───フェイトちゃんの同僚の人みたいやけど」
ふぅん、と客観的に考えれば自分の反応は冷たいものなのかねーと思いつつ本人を見るが本人は真面目顔。
その程度には折り合いが付けているという事なのだろう。
なら、躊躇するのは相手には悪いと見切り遠慮なく聞く。
「その人は優秀だったのか? ハラオウン」
「……間違いなく。魔導師としての実力云々だけで言うなら多分私の方が上だったかもしれないけど執務官という一職務としてならばベテランクラスだった人だと思う。だから勘違いや自分勝手で失踪っていう線はないと思う」
『一応聞きますが、それは私的な意見ですか? それとも公的な意見ですか?』
ハティが抉り込む様にハラオウンに突っ込む。
ハラオウンの口が一瞬沈黙の形を作ったが、それでも冷静な表情で後者だよ、と呟くのでこちらもとやかく言わずに先に進める。
「限りなく黒に近いが……それでもまだ灰色だ。それに幾ら騒ぐ人間を失くしても逆にいなくなり過ぎたら目立ち過ぎるだろうが。その辺は?」
「多分やけど最低限の暗示でもかけているんやと思う……それに狙われた側も孤立している人の家とかも多かったし……」
「……やれやれ。行き詰るね、どうも」
全員で盛大に溜息を吐く。
頭が痛くなる状況に紅茶の甘みを入れることで頭痛を緩和する。
コーヒーだったらこうも気分転換は出来なかったかもしれない。
「じゃあ、続きだ。これは内部犯か? それとも外部かという事になるんだが」
「残念やけど……お手上げやねんははは───いやいやちょっとそこで五寸釘を懐から取り出すのは止めようか。あ、ちょっとっフェイトちゃん? このバインドは何かなー? ご丁寧に指を広げて……ああ待った待った蝋燭は不味い不味い不味い……!」
「なぁ、ハラオウン。知ってるか? 人間は指に神経が詰まっているらしいぞ」
「そうなんだ? でも習うより慣れろってよく言うからはやてなら教えてくれるよね? うん幼馴染のはやては器が広いから何でも許してくれるって。こういう時に以心伝心できる友達がいるって安心だね」
「それは以心伝心やなくて自分の都合通りの自己解釈や……!」
暫く暴れまわる似非関西人を押さえつけて雰囲気を和らげながら話を続ける。
「となると問題が一つ生まれるよな───ずばり犯人はまだそこにいるのかって」
「そやなぁ……五分五分───より下の可能性やろうな」
当然、とハティと一緒に頷く。
何年くらい誘拐めいた事をしたのかは知らないが、今度は現役の管理局員を行方不明にしたのだ。
魔法の総本山と言ってもいいレベルの局員にそんな一般人が騙せる程度の暗示をかけられるわけもないし、何よりも敵の総本山に突っ込む馬鹿もいるはずがない。
「念のために聞くけどスコールはどう思う?」
「捜査初心者に聞くなよハラオウン……まぁ、だが俺ならば間違いなく逃げるね。一目散。絶対に逃げる。周りから多少怪しまれても逃げの一手を打つ───と言いたいところだが」
「───うん。時期が重なるから逃げると間違いなく自分が犯人だと確定されるね」
答えを先取りするなよ、と思わず苦笑する。
そう、時期───DSAA開催の時期。
つまり開催者側からしたら特大イベントなのだ。地区選考会まで確か残り数日か一週間程度だったと思う。
そんな忙しい時期にいきなり止めるなどというのは明らかにおかしい。
「まぁ、これも内部の人間が犯人だった場合の話なんだけどな」
「そうなんだけどね……」
まぁ、だけど二人の依頼内容が大体理解できた。
「ずばり囮捜査かね」
「そういう事やな」
依頼人の理解を得て。ようやく依頼の内容に入ったといえるかもしれない。
囮捜査。
まさかテレビにあるような事をテレビに映る大舞台でやれと言われるとは思わなかった。
「正直に言うけど外れる可能性は大いにある。内部か外部かは半々やから内部なら確率は高いけど外部やったら恐らく無意味な依頼になることになる可能性の方が高い」
『正論ですね』
かといって気楽で挑んではい奇襲でおじゃんとかされても無意味だろう。
しかも囮といっても引っかかるのが自分とは限らない。
周りの人間が巻き込まれる可能性があるのだ。それら全てに糸を張り巡らすのは難しい。
正直無茶無理無謀この上ないという所である。
「まぁ、他の選手たちは私らが有給取って出来る限りサポートはするつもりやけど……」
「おいおい。あんたらみたいな有名人があんな場所に普通にいたらばれるだろうが」
「んなもん変装するに決まってるやんか。女はちょ~~と服や髪形を変えるだけでかなり変わるもんなんやで?」
「女?」
視線を全体に焦点を合わせ八神の体を見る事数秒。
結論
「───はん」
「は、鼻で笑いおったな!? やっぱり男は乳か!? 乳なんか!? ちくしょう! フェイトちゃんといいなのはちゃんといいすずかちゃんといい周りで急成長しおって……! フェイトちゃんはまだ外人系やから許せるけどあの二人の乳遺伝子はどういうことなんや……!? それに別に私の胸はそんなに小さいってわけやないんやでこんちくしょーーー!」
「はやて。スコールがかなり引いてるからどうどうっ。リィンもちょっと手伝って。はい電気マッサージ冷凍風~」
「ひょーーーー!? し、心臓が止まる! 止まる! 私の鼓動が刻むビートが止まる……! あ、あ、リィン! 手足から徐々に凍らせるのももっとあかん……!」
「止せ、ハラオウン、ちびっこ。こんな事で現代社会に一石を投じてどうする」
「ちびっこじゃないですーーー!」
自分のマスターを凍らせていたちびっこは何故かこちらの頭に乗ってペしぺしと叩き出す。
はっきり言って全然痛くはないのだが
「重いからどくんだちびっこ」
「お、女の子に向かって重いとはなんですか!? そういう事は言ってはいけないってはやてちゃんが言ってました!」
「やかましい。ちびっこをちびっこ言って何が悪いという。そんなに言うならそこのハラオウンみたいなナイススタイルになってから出直せ」
おうぼーですーー!? という叫びは無視する。
それにクスクス笑う保護者二人。
ハラオウンはともかく八神はそのアフロになっている頭と両手両足の凍った箇所を温めてから笑えよ。
「いやはや……何だかんだで人見知りの激しい私らの末っ子と仲がよろしいやんか? 子供に好かれる性質?」
「いや全く覚えがないが?」
『ですが、これはデバイス不倫ですマスター!? 私の穴という穴を弄った癖にロリコンに転向とは……! 年上は駄目なんですか!? おうふっ! わ、私を振り回すとは……! ふ、振り回されるだけの女じゃないんですからね!? うえっぷ』
「これは問題外だから気にするなよ?」
このキチガイデバイスは規格外なのだからと指に引っかかって振り回されているハティがわざわざ音声でえろえろえろなどとほざいている。
「まぁ、とりあえずやるだけやるという方針か。あんまりああいう舞台は好きじゃないんだが……仕事に私情を持ち込むのもどうかと思うしやるしかないか」
「っていう事は引き受けてくれるん?」
「おうよ」
覚悟は一瞬。
振り回していた十字架を手の中に握りしめ
「便利屋スコール&ハティ。この依頼、確かに引き受けた」
「とまぁ、決め台詞はかましたけど現実はまずエントリーからだよなぁ」
ははは、と笑いながら歩を進める。
現実は実に面倒である。
これがアニメや漫画ならもう物語が始まって、こんな面倒なイベントをこなさなくて済むものだろうに。
「それにしてもDSAAか……」
『あんまり参加する意欲は湧かないと便利屋始める前に知った時にも言いましたね』
懐かしいものである。
戦争が終わって最初の一年はどうしようかと色々路頭に迷ったものである。
その時に確かテレビで知ったのがDSAAで知名度を上げるという意味ならば確かにもっともいい方法だったのかもしれないが
「ありゃ俺には合わないって一瞬で思ったわ。観客を沸かす戦闘なんていう派手な戦いなんて俺には荷が重過ぎるからな」
『とは言っても何時も通りに一撃必殺だけかますだけじゃあ引っ掛からないかもしれない。ジレンマですが仕事だから仕方がないでしょう』
「それくらいは解っている」
はぁ、と溜息を吐いて歩く。
ここで愚痴だけ零しても無駄なのだ。
隣で珍しい黒髪で長髪の少女と擦れ違うが、そんな事すらどうでもいいと思えるくらいだ。
何とか闘技場映えするような戦いをしないとなぁ……
時間は本当に少しだけ逆行する。
少女の目から見たら世界はまるで非常に脆い硝子細工のように見えた。
建物が、街灯が、車が、自転車が、道路が、そして人が。
何もかもが脆く見えた。
建物は撫でたら砕けそうだし、街頭は握ったらそのまま折れそうだ。
車などあっという間にプレスされる未来しか見えないし、自転車なども言うまでもない。
そして人など余りにも多くい過ぎて逆に一瞬で何もかもを粉砕して柔らかい人体の構造をそのまま露出させてしまうんじゃないかと思うと恐怖で歯が震える。
恐ろしい。
それが少女の原初の思いだった。
地面を踏みしめるだけで地面なんか脆く崩れそうだし、流れるような人波が自分に触れるときは慌てて後ろを確認してしまう。
今の自分が安心して見れるものはそれこそ空くらいしかない。
自分の薄汚れた格好のお蔭で周りが避けてくれる事だけが、救いであった。
町の中で生きるには余りにもおぞましい自分にはここは毒だ。だから、うちはせめて寝床を探そうと周りを恐れながら歩いていた。
そんな時であった。
目の前から人型の悪夢としか思えない存在が現れた。
「ひっ……!」
口から洩れた悲鳴なんて可愛いものであった。
正面から現れたものに比べれば。
見た目はただの少年に見え、服装も適当に選んだとしか思えない黒色の服装に黒髪。
首からはアクセサリーかデバイスか。十字架をぶら下げてとてつもなく面倒だという表情のままこちらに向かっている。
周りの人間は勿論、気にしない。
冗談じゃない。
どうしてあんな人がこんな当たり前で脆そうな場所を平然と歩けるのだ、と記憶が告げる。
彼はそのままこちらの事なんて気付かずに擦れ違った。
それにほっとすると同時に待って、と言いたくなる。
自分の行動は正気だろうか、と思う。
頭ではなく自分のではない記憶があれは危険な人だとちゃんと報告している。
だけど感情があの人に興味を持っている。
何故かなんて分るほど自分は自分の事を知らない。
ただ知りたい、というある意味で子供らしい欲求に従い、少女は先程とは打って変わって彼の背中をおっかなびっくりで追う。
その先は何か大きなホールがあるけど少女───ジークには関係ない話であった。
後書き
何故か最近はなのはが凄い勢いで書ける……
まぁ、それはともかくようやく出ましたヒロイン(?)です。
今、ロリコンって言った人間は処刑するけど問題ないね?
まぁ、今の彼女はジークの台詞をそのまま使うならまだ色んな人助けられていない状況の彼女だから当然何もかもに倦んでます。
そして彼女がどうしてスコールに反応したかというと彼女のエレミアとしての記憶ですね。
スコールみたいな戦争帰還者を直感で理解し、それ故にどうして人の脆さなどを理解していてそれでもそんなに平然と歩けるのかという疑問を鉄腕少女はそこに興味を抱いたわけです。
簡単に言えば怖いもの見たさなんですけど、ジークからしたら他人事ではない問題ですから子供ながら必死ですねー。
さて次回でエントリー終了と出るぞクロマッキー……!
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