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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第31話 エグイ?それはお互い様です

 こんにちは。ギルバートです。領名義の借金が発覚しました。正直あり得ない事ですし、こんな手を打って来るとは思いませんでした。

 私は自分の部屋の扉を開け中に入ると、隠してあった箱を二つ取り出し中身を確認しました。二つの箱には、それぞれ真球の形をしたダイヤモンドが入っています。

 ちなみに箱は、中身に相応しい物を父上と2人で作成しました。一つあたりの作成費は、百エキューかかっていなかったりします。と言っても、この箱を売れば4~5万エキューはするでしょう。巷で幻と言われている軽銀(アルミ)を潤沢に使ってますし。《錬金》万歳としか言えません。

 脱線しかけた思考を、強引に元に戻すと箱を道具袋にしまいます。これで道具袋の中身は、インビジブルマント・ダイヤモンドと箱×2・20万エキューです。これだけの物が入っていて、全体の収納量の一割も使っていないのは凄いです。魔法の道具袋バンザ……また思考がずれました。現実逃避している場合では無いです。

 自室から出て、父上達の所に戻ります。

 先ず冷静に考えて、借金を無効化するのは難しいと考えておくべきです。簡単に無効化出来るなら、こんなリスクの高い手を打って来るはずがありません。王印の件もありますし。となると、何処に返済義務が生じるかですね。

 先ず第一候補として出て来るのが、王国……つまり国になります。王印もあり一度王領になっている訳ですから、国が返済するのが筋です。しかし王国の財政状況を考えると、財務を担当している内政官達に間違いなく拒否されます。無理に払おうとすれば、何処から予算を削るかで内部分裂や抗争が起こりかねません。そう考えると、国が自由になる資金は余りにも少なすぎます。

 第二候補が王家なのですが、こちらも厳しいとしか言いようがありません。馬鹿貴族のバンザイアタックで騎獣が不足し、その補充のための特別予算。次に魔の森解決による軍の再編成に必要な特別予算。ここまでならまだ余力があったのですが、先の水の精霊の断水事件(予想以上に被害が大きかった)で止めを刺されてしまいました。これ以上王家は資金を出せないでしょう。

 いえ、出そうと思えば出せるのですが、王家として最低限の体面……要するに見栄さえ保てなくなってしまいます。これでは陛下が許しても、周りの貴族達が許さないでしょう。……まあ、こればかりは仕方がありません。

 次の候補が、この借金の原因になった者です。不確定要素なので今の所なんとも言えませんが、ハッキリ言って期待出来ません。

 そして最後の候補が、現領主であるドリュアス家になります。開発資金を切り崩せば、払えない金額でないのが悲しい所です。リッシュモンから奪った20万エキューもありますし。……認めたくありませんが、金の出所さえ隠せれば問題無しですね。ヴァリエール公爵も協力してくれますし。

 国や王家が払えないのに、弱小?のドリュアス家が払える現実に凹みます。トリステイン王国の内部腐敗が、それだけ進んでいると言う証拠と言えるでしょう。……鬱になりそうです。

 次に借金を返すかですね。これは残念ながら、返さなければなりません。その理由は、これからの資金調達です。ドリュアス家は開拓の為に、これから借金をして資金を集めなければなりません。そんな家が「借金を踏み倒す家」と言う醜聞が立てば、如何なるでしょうか? ヴァリエール公爵も資金を貸しにくくなりますし、クルデンホルフ大公は一銭も貸してくれなくなるでしょう。相手が唯の商人なら、犯罪者として一網打尽に出来ますが、バックにリッシュモンが付いて居る以上、不可能と考えるのが妥当です。

 払わなければ、醜聞をたてて資金調達妨害。更に信用問題で煽られれば、マギ商会にも大きな打撃を受ける。……確実に開拓失敗コースですね。

 国や王家が払うなら、内部抗争が勃発(起きなければ煽る)します。もし抗争が勃発すれば、それを治める為にヴァリエール公爵家とクルデンホルフ大公家は、手間・資金・人材を取られて消耗してしまいます。……これが一番不味い開拓失敗コースですね。

 更に対応にもたつけば、利子により状況は更に困窮してしまいます。……時間もあちらの味方ですね。

 ……こうなると、大人しく払うしかないですね。しかし、せめて一矢報いたいです。

 そんな事を考えていると、私の頭の中に一つの案が浮かびました。使えるかどうか分かりませんが、一応父上に報告しておきましょう。



---- SIDE アズロック ----

 あれからすぐに出発して、ようやく王都に到着する事が出来た。時間的に途中で暗くなるので、騎獣はグリフォンでは無くマンティコアに騎乗した。お陰でいつもより疲れた。護衛もいつもの2人ではないので、王宮等での対応に若干不安が残る。

 しかし不満ばかり言っていられない。ギルバートから借りた道具袋からインビジブルマントを取り出し、夜の王都に侵入する事にした。

「私はヴァリエール公爵に接触する。お前達は朝になったら、騎獣舎に騎獣を預け公爵の別邸に来てくれ」

「「はい」」

 夜遅いこの時間なら、公爵は別邸に居るはずだ。途中でマントを被ると、王都の外壁をフライ《飛行》で飛び越え、難なく公爵の別邸前まで来れた。インビジブルマントの効果に、思わず感嘆の声が漏れそうになる。しかしここからは、マントの力は必要ないだろう。物陰でマントを脱ぎ、道具袋にしまうと門番の前に移動する。

「アズロック・ユーシス・ド・ドリュアスである。夜分に申し訳ないが、公爵に火急の用がある。取り次いでくれ」

「ド ドリュアス侯爵? 侯爵は、領地に居る筈では? それに護衛も……」

 門番が、私に対して戸惑いの声を上げる。

「ディテクト・マジック《探知》を使ってくれてかまわない。火急の用件なのだ。速く取り次いでくれ」

「はい!! 侯爵。失礼します」

 門番の1人が《探知》を使用した。

「ご本人に間違いない。ご案内します」

 門番の1人に館内に通され、使用人に引き継がれ客間に通された。暫く待つと、公爵が慌てて入って来た。

「アズロック。速かったな。来るなら明日の早朝と思っていたが……」

「? ……如何いう事ですか?」

 お互いの様子に、嫌な予感を覚える。

「王の召喚命令で王都に来たのではないのか?」

「召喚命令!?」

 私の反応に、公爵の顔が歪む。

「まさか……、そちらも厄介事か?」

「……はい。出来れば、聞き耳が無い所で話したいのですが」

「分かった」

 歩き始めた公爵の後を追い、別の部屋へ移動した。ここに来た際に、何度も使用した部屋だ。

「では話を始めよう。最初はそちらの用件から聞こう」

 公爵に促され、私は今回の事を話した。フラーケニッセ領・ローゼンハウト領名義で借金があり、その支払いを求められた事。そして、その金額が30万エキューである事と、月に1割と言う高額な利子を突き付けられている事を話した。最後に王印が押されていた事と、商会と商人の名前も話した。

「……そうか」

 公爵が渋い顔をしながら呟いた。

「次はこちらの番だな。……本日王都にて、公金横領で逮捕者が出た。情報提供者はリッシュモンだ。罪状は、フラーケニッセ領とローゼンハウト領の防衛費横領だ」

「まさか……」

「そのまさかだ。消えた防衛費は30万エキュー近い金額だ。そしてその全額が、未払いになっている。商会の名前が一致し、請求額が同額で王印も押されていれば間違いなく同一の物だな。アズロック。一応聞いておくが、返済を求めて来た商人は……」

「大丈夫です。手を出していません」

 公爵はホッとした様に、胸をなでおろしていた。

「そうなると、請求は正当な物となるのですか?」

「そうなる。本来なら、横領した犯人の財産を没収し補填するのだが……」

 公爵が途中で口ごもった。

「回収できる金銭が、横領額より少ないのですか?」

「ああ。見込みでは8万エキュー程だ。22万エキュー足りない」

「そんなすぐばれる様な事をしたのは、誰なのですか?」

「アズロックは覚えているか? 最初の謁見の時に、余計な口出しをして来たリッシュモン派の奴だ」

 正直に言わせれ貰えば、印象が薄過ぎて覚えていない。私が反応に困っていると、公爵は私の内心を察したのだろう。苦笑いをしていた。

「まあ、そいつの単独犯と言う事になっている」

「なっていると言う事は……」

「ああ。明らかに部下に犠牲を強要して、この状況を作り出している。その者に減刑を餌に供述を取っているが、切り捨てられただけあって碌な情報を持っていないのだ。恐らく現状では、リッシュモンの関与を証明するのは無理だろう」

 公爵が苦々しい表情をしている。私も公爵の言には、溜息しか出なかった。そうなれば、未払い分の金銭を如何するかだ。

「それで王家からは、不足分を出す事が出来るのですか?」

「無理だ。ただでさえ予算を切り詰めているのに、水の精霊の断水事件で少額ながら各部署の予算削減を行っている。国庫からは払えないし、王家なら払えない額ではないが、無理をすれば他の貴族達の反発は必至だ」

「煽る者がいる以上、内部抗争は避けられませんね。もしそうなれば、国自体が潰れかねないと……。ゲルマニアがこの隙を、黙って見過ごす訳が無いですから」

「その通りだ。そしてそれを理解している貴族が、この国には少なすぎる。かと言って借金をなかった事にすれば、醜聞被害で開拓が失敗する。結果として、支払いはドリュアス家が追う事になるだろう。しかし利子を考えれば、どこかから借り直した方が賢明だ」

「そうなると、開拓資金から切り崩すしかないですね。公爵は我々に、どれ位の資金投資を考えていただいているのですか?」

 失礼かと思ったが、状況が状況だけにズバリ聞いた。

「40万エキューだ。これ以上は出せん。利子は年一割で考えている」

 予想金額より多い。利子も大分譲歩してくれている。しかしここから更に良い条件を、公爵から引き出さなければならない。と言っても、既に最高……いや、それ以上の条件を出されているので、同じ条件では話し合う余地が無い。ならば、もう切り札を切るしかないだろう。

「では、これを質に出せば如何でしょう?」

 私は道具袋から、ダイヤモンドが入った箱を取り出し公爵に渡した。

「これは見事な宝石箱だな。……中身は、ガラス玉か? いや……まさか!!」

「お察しの通りダイヤモンドです。《探知》で確認してください」

「馬鹿な!! 本物なら6000カラット近くあるんじゃないか!? ッ……!!本物だ」

 公爵は驚きながらも《探知》を発動し、ダイヤモンドが本物である事を確認した様だ。公爵の反応に、以前の自分が重なり苦笑いしか出ない。

「ダイヤモンド自体はマギからの預かり物ですが、本人から何かあった時は売る様に言われている物です。金額の上乗せと、利子の見直しをして頂けますか?」

「……またマギか。相変わらず非常識だな」

 私の質問に、公爵は頭を抱えてしまった。暫く唸った後に、公爵は口を開いた。

「倍の80万エキュー出そう。利子は年4分……いや3分まで抑えられるな」

 やはり公爵は、信じられないほど破格の条件を出してくれた。物を見る目もある。このダイヤモンド自体は、マギ商会に確認した所80万エキュー前後の価値があると評価されていたのだ。

「十分です。ありがとうございます。それからこのダイヤモンドの存在は、秘匿していただけると助かります」

「……よかろう」

 これで大筋の話は終わりだ。後は明日にでも、王にドリュアス家が返済を持つと報告すれば良い。上手くすれば、免税期間の延長を勝ち取れるかもしれない。しかし十分に対策出来たとは言え、このままリッシュモンに大人しく金を払うのは面白く無い。幸いギルバートの案が使えそうだし、その辺の話をするのも良いだろう。

「リッシュモンは今回の件で、どれほど関わっているのですか?」

「黒幕なのは間違いないだろう。しかし表向きは、情報提供者以上の関わりを見せていない。流石に露骨に関わるのは不味いと判断したのだろう。例の商会を支援している貴族の中にも、奴の名前は無い」

「最終的に30万エキューは、誰の懐に入ると思いますか?」

「当然リッシュモンだろう。だが、手形を追うのは不可能だぞ」

 公爵の言葉に、私は笑みを抑えきれなかった。手形を追うのが不可能な理由は、他の手形や現金と混じると追跡が不可能であるからだ。そう言えば、ギルバートがマネーロンダリングとか言っていたな。

「もし可能なら如何ですか?」

「可能なのか?」

「条件がいくつかあります。先ず一つ目は、30万エキューの手形を1枚だけ発行する事です」

 手形の額の大きさは、良識と言う物がある。30万エキューもの手形なら、当然分割して発行するのが普通だ。今回の場合なら、一万エキュー30枚や五千エキュー60枚と言った風にだ。それをあえて、今回は無視する。

「!!……30万エキューの手形を1枚だけ発行すると言うのか? しかし、現金に換えられたら如何するのだ? 王家と当家が協力しても、即金では30万エキューは用意出来ないぞ」

「当家で、20万エキューの現金を既に用意してあります」

「なっ!! 何処から!?」

「マギ商会を使って、なんとかと言った所です。現物はこの道具袋の中です」

 ダイヤモンドを出した道具袋を軽くたたく。公爵は呆れた様な顔をしていた。嘘を言うのは心苦しいが、今回ばかりが仕方が無い。

 現金が用意出来ているなら、受け取りと言う手はこちらに有利に働く。それは大量の現金を、どこかに運び込まなければならなくなるからだ。運び込んだ先を調べれば、リッシュモンに辿り着く証拠が出て来るだろう。しかし、関係ない所に分散して少しずつ回収されれば、対応は難しい。

「次の条件が、手形を曰く付きの物にする事です。手形を持つ者や変えた現金を受け取った者が、王家に睨まれると噂を流すのです」

「……随分エグイ手を使うな」

「それはお互い様です」

「……それもそうか」

 私もギルバートから話を聞いた時は、公爵と同じ反応をした。その時ギルバートに、全く同じ言葉を言われたのだ。その為、公爵の気持ちは良く分かる。

 後は明日国王に謁見して、表向き当たり障りない事を話して、今の内容は公爵経由で知らせれば問題無い。後は現金を引き渡して護衛と合流し、クルデンホルフ大公から資金を引き出しに行くだけだな。

 上手くすれば今回の件で、リッシュモンを完全に潰す事が出来るかもしれないな。

---- SIDE アズロック END ----



 父上は上手くやっているのでしょうか? 心配ではありますが、ここは自分の仕事に集中しなければないりませんね。

 そう。特に塩田の設置準備です。

 設置場所は、森の南西のオースヘムに決定しました。オースヘムには川が無く、テール山脈からの乾いた吹き下ろしが、1年を通じて吹いています。海水も綺麗で川も無いので文句無しです。(フラーケニッセには、川が在ったので除外しました)

 その中には、手押しポンプの生産や風車の設計も含まれます。手押しポンプは以前作った事がありますし、型が残っているので問題ないのですが、風車の設計に意外とてこずってしまいました。その甲斐あってか、手押しポンプと風車を組み合わせて、効率良く海水を汲み上げるシステムを作る事が出来ました。同様の効果があるマジックアイテムは、目が飛び出るほど高い上に維持費もシャレになりません。

 これで王家から正式な許可が下りれば、何時でも施工開始出来る状態になりました。






 そう言えば最近、訓練をサボりっ放しですね。ディーネ達に大差を付けられなければ良いのですが。 
 

 
後書き
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