鉄槌と清風
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2部分:2:『凪』を目指して
2:『凪』を目指して
八坂流合気術…八坂の家に古くから伝わる武術で、通常の合気にくわえ、古流の柔術や中国拳法でいう所の纏絲勁などを取り入れており、より実践的な流派である。
5歳の頃から、約4年間の間、祖父から毎日のように基礎を積み上げられ、幾つかの技を習った…が、どれもまだ未熟であり、
それを自分でもわかっているため、できる限りの時間を修行に充てているのではあるが…夏休み明けに転校予定のため、宿題が無いのもありがたかったが。
祖父がいっていた、基礎にして奥儀…『弾き』という纏絲勁、『捌き』という歩法・体術…というか、それ以外はほとんど教わる前だった。
一応、他の技に関しては古くから伝わる書があるのだが…これ何語?というレベルで達筆すぎて全く理解できなかったのだ。
「まぁ…とりあえず爺ちゃんがみせてくれた、『凪』は使いたいよなぁ」
『凪』とは、祖父が見せてくれた『弾き』と『捌き』を合わせた業で、自分に向かってくるあらゆる物…サイズの限界はあれど…を、弾き、かわしていくという業で、達人は銃弾さえ弾き、かわす事ができるらしい。
実際祖父は、弓矢や、丸太などを時には弾き、時にはかわしてみせた…弾く手はほとんど見えず、かわしたときは、残像が残ってたきがするが。
しかもそれを、半径1mの円から出ずに行っていたのだ、それを見て、良彦は感動し、自分も身に付けたいと望んだ…その先に待っていたのが地獄に近いとは知らず。
「えっと…このくらいでいい、かな」
人のあまりこない、海浜公園の片隅、地面に大きめの円をかき、廻りには枝からブラ上がったロープ、その先に木材が付いたものを複数。
端から見れば、何をしてるのやら、という光景だが、少年である良彦に、これ以上の道具などは準備できず、かといって高町一家に手伝いを頼めず、結果として、この仕掛けを作る事になったわけで。
「おし…んじゃ、いくかっ!」
近くにぶら下がった木材を、強く殴りつける…適当に繋がったロープ同士がそれでひっぱられ、無差別の軌道で、良彦へと殺到する。
その木材を、ある特定範囲…手で打ち払える範囲…に来た瞬間、拳に捻りを加え、『弾く』…『弾く』…弾ききれないものは上体の動きだけで、『捌く』のだが。
段々と弾けなくなり、さばけなくなり…こーんっ、と良い音と共に一本の木材が、後頭部に当たり…痛さのあまりうずくまってしまう。
「んっーーーーーっ!!」
後頭部を抑え、声も無くうずくまる事数分…気を取り直したように立ち上がり。
「もいっちょー!」
再び同じ事を繰り返し始める、良彦、だが彼はわかっているのだろうか…『凪』とは、『制空圏』といわれる、一種の個人結界にもにた、武術家としての感覚も大事だという事が…『弾き』『捌き』…そして、『制空圏』、視覚だけに頼らず、五感すべてを研ぎ澄まし見えてくるものが必要だと。
何度も繰り返す、修行…毎回毎回死角からの木材で失敗する、いまだ視覚に多くを頼り、その先に進めていない、その証拠…そして、それを見てる者がいることにも気付いていない。
赤い髪をした少女と、青い毛の大型犬…此処暫くで町内の名物の一つになった光景だ…大型犬を散歩するのは、引っ張られればそのままいくらでも引きずられそうな少女なのだ。
「あっちーぞ、ザフィーラ、これ帰りにアイス買ってもはやてゆるしてくれるよな?」
「(お前はアイスが食べたいだけだろう、ヴィータ)」
呆れたような念話が少女の言葉に返される。
「うっせ、んじゃお前はアイスいらねーのかよ?」
「(それとこれとは話は別だ…ん?」
「どうした?」
「(いや、あちらから呻き声が聞こえた気がしたんだが)」
「ん?…たしかに、なんか聞こえるな、いってみるかっ」
「(構わんが、厄介ごとなら直ぐ離れるぞ、主に心配をかけられん)」
「わーってる、つーの」
少女…ヴィータと、大型犬…ザフィーラは、声のほうに近づいていく。
少し木々の中に入った所でうずくまる少年、その回りには、ロープでぶら下がった木材があり、ロープ同士もつながっている。
「(なんだ、あれ?)」
「(……ふむ)」
二人が見ているのに気付いていないのか、少年…良彦…は、再び立ち上がり木材を殴りつけ、襲い来る木材を『弾き』『捌き』…死角からきた木材に当たり、うずくまる。
「(あれ、何してんだ?)」
「(恐らくは、あの木材を避ける事による修行、なのだろうが…目にばかり頼って、死角からの物に対応しきれていない、な)」
「(はぁっ、てか、ガキ一人でんなことやってんのか?)」
「(少なくても、基礎はできてるように見える…拳のうちかた、体さばき、上体の動かし方などはしっかりしているな)」
「(つっても、ただの木材とかじゃ、あの年のガキじゃ、よけれねーんじゃね?)」
「(あぁ、指導者がいれば、別だろうが…あの少年は、視覚に頼りすぎている、木材には殺気などないし、五感で感じねば無理だろう)」
「(まぁ、いいや…そろそろ、もd)」
きびすを返そうとした瞬間…何かに気付いたかのように、少女の視線が少年と重なる。
「頼むぜ鉄槌の騎士!」
「そっちこそな、清風の騎士!」
一瞬の幻影、見たのはどちらか…少年か、少女か、此処に、鉄槌と清風の物語が、再び交差を始める。
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短めですが投稿。
『凪』は制空圏の一種です、魔法を使うようになると少しかわります。
次は良彦とヴィータの会話辺りの予定です。
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