『曹徳の奮闘記』改訂版
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外伝その一
前書き
明けましておめでとうございます。
「劉ソウ様、お逃げ下さいッ!! 我等が楯になりますッ!!」
「私の最期は此処だと決めたのだ。お前達だけを残して逃げるものかッ!!」
荊州を脱出して以後、苦楽を共にしてきた部下からの言葉に私はそう答えた。既に部隊は壊滅状態で、周りにいるのは数人しかいなかった。
「御願いしますッ!! 再起を期すためも、私達のためにも御願いしますッ!!」
「それは出来んッ!! 劉備の頚を取る事だけに専念しろッ!!」
「く……御免ッ!!」
「ガッ!?」
その時、背後にいた部下に私は頭を殴られてそこで意識が途切れた。
「今のうちに劉ソウ様を河口に投げ込めッ!!」
「生き延びて下さい劉ソウ様ッ!!」
気絶した劉ソウを部下達は河口に投げた。その後、部下達は奮戦して全員が果てたのであった。
「……ぅ……」
私が目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。
「此処は……」
「起きたのね」
部屋に入ってきたのは……。
「司馬懿殿……」
仲軍を離脱した司馬懿殿だった。何故司馬懿殿が此処に……。
「私が貴方を助けたのよ。全く、岸辺付近に貴方が浮いているから何となく助けたけど……」
「岸辺……すると私の部下達はッ!?」
「私が知るわけないでしょ? まぁ全員が貴方を逃がすために討ち死にしたんでしょ」
司馬懿殿はそう言って本を読み始めた。
「戦は既に二日前に終わっているわ。勿論仲の負けで王双様達は倭国へ逃げたわ」
「そうか……長門殿達は無事に倭国へ行かれたか……ところで此処は?」
「呉の私の家よ。私は建業や他のところにもこういった隠れ家を持っているわ」
「何故隠れ家を……」
「勿論静かに暮らすためよ」
私の言葉に司馬懿殿はキッパリとそう言った。
「本当は実家に戻りたいけど、母上が五月蝿いからね。だから此処にいるのよ」
「はぁ、それと何か言葉使いが……」
「気に食わないのかしら?」
「い、いやそんな事は無いが……」
「これが本来の私よ。公の場では敬語でしているだけよ」
司馬懿殿は視線を本に向けた。
「暫くは治療に専念なさい。後は劉備の頚を取ろうが荊州に帰ろうかは好きになさい」
司馬懿殿のそう言って頁を捲った。それから数週間、私は司馬懿殿の家に厄介になっていた。
家事は勿論掃除、洗濯(ただし自分ののみ)を司馬懿殿に代わって行っていた。
「司馬懿殿、寝ながら本を読まないで下さい」
「んぁ~? いいのいいの」
司馬懿殿が寝台で寝ながら本を読んでいた。よく読めるなと思う。
「食材を購入してきます」
「あ~い」
私はそう言って市場へ買い出しに向かった。
市場は普通に賑わっていたが、仲の頃よりは若干賑わいは下がっている。
「また税収が増えるらしいぞ」
「またかよ。こう小刻みに増えていくと俺達のカネが無くなるぞ」
「袁術様がいた時はそんな事は無かったのにな……」
「けどその袁術様も俺達を置いて逃げ出したじゃないか」
市場では人々がそう話していた。
「俺の息子が仲軍にいたんだが、袁術様は此処が戦になるのを避けたらしい。此処が戦になっていたら今頃は荒廃していたぞ」
「そりゃあそうだがよ……」
蜀の評価は様々だった。仲の時代を懐かしむ者もおり、逆に三国が統一されて平和な時代になったと言う者もいた。
「……私達は正しかったのだろうか……」
私は人混みにまぎれながらそう呟いた。それから月日は二年と半が過ぎた。
私は未だに司馬懿殿の家に厄介になっており……というより私が司馬懿殿を世話をしている感じだ。
暇があれば司馬懿殿は本を読んでいるから気を付けないといけない。(最初の頃は風呂に入ってなかったから臭かったりもした)
そんなある日、私は夜半に物音がして目覚めてゆっくりと外を見ると人々がいた。
まさか気付かれたのか?
「司馬懿殿……」
「判っているわ。こんな事もあろうかと地下通路を作って逃げ道もあるわ」
司馬懿殿はそう言って床に木材を開けると穴が開いていた。よくこんなのを……。
「御免ッ!! 司馬懿様と劉ソウ様は居られるであろうか」
『………』
私は息を飲む。隣にいた司馬懿殿もそうだ。
「我々は元仲の兵士であります」
その言葉に私は一瞬迷ったが、意を決して扉を開ける。もし、敵であれば司馬懿殿を逃がすしかあるまい。
「おぉ劉ソウ様ッ!!」
「司馬懿様も居られるぞッ!!」
「お前達は……」
「先程も仰いましたが、我々は袁術様に仕えていた者達です。内密な話があります」
「……入りなさい」
家主である司馬懿殿は許可をして皆を中に入れた。
「それで……今更敗軍の将である私らに用とは何かな?」
「……単刀直入に申し上げます。決起しませんか?」
「決起……だと?」
「その通りです。反乱です」
反乱とは……。
「どういう事だ? 今は平和な時代だろう?」
「確かに。三国は統一されて平和な時代です。ですが、税は前の三倍に増やされ貧しい人々が増えているのが現状です」
確かに。市場の隅に貧しい人々が座り込んでいたりしているのが増えている。蜀の内政は諸葛とホウ統、北郷がしていたが人数が不足していて滞っているらしい。
「蜀の無茶な税収に娘を売ったりする者も増えています。蜀の内政に不満を言う者達も各地で増えており、これは蜀内でもいるようです。そるに仲を懐かしむ者達もおります」
「……それで反乱するのか?」
「愚策だとは判っています。ですがこのままですと税収は更に増え、人々が貧困化するのは判りきっています」
「……司馬懿殿はどう思いますか?」
「……やるにしても目的が無いと反乱は鎮圧されるわ」
「目的はあります。仲の復活です」
「復活というけれど、首班は誰にするのよ? まさか私とか言うんじゃないでしょうね?」
「いえ、司馬懿様ではなく……」
そう言って全員が視線を私に向けた。
「……私を王にして反乱するというのか?」
「無茶は承知です。御願いしますッ!!」
『御願いしますッ!!』
その瞬間、皆が頭を下げた。
「……貴方が思う通りにしたらいいわ劉ソウ」
「司馬懿殿……私は……」
皆からの視線に……私は決断した。
「……判りました。やりましょう」
私は……もう一度戦う事にした。
「ふぅ、これで一人になるわね」
「何を言っているんですか司馬懿殿? 貴女もやってもらいますよ」
「はぁ? 何を言っているのよ」
司馬懿殿が嫌そうな表情をしているが、無視だ。
「放っておけば貴女は何日も本を読むでしょう。たまには外に出て日の光を浴びて下さい」
「嫌よ」
「それならカネは差し押さえです。この家のカネを握っているのは私ですから」
「ぐ……」
司馬懿殿を心配するのは尤もだが、司馬懿殿の頭も私は欲しい。
「御願いします司馬懿殿。私は貴女が欲しい」
「……判ったわよ」
司馬懿殿が顔を赤くしていたが何かあったのだろうか?
それから私の周りはにわかに忙しくなった。計画は内密にしないといけないので用意周到な計画をしていた。そして半年が経った時、蜀は突如五湖からの侵攻を受けた。
「反乱の機会はこの時しかないッ!!」
直ぐに決行が開始され、建業にて三千五百の反乱軍が立ち上がり建業を瞬く間に占拠した。
「国名はどうします?」
「……晋はどうかしら? 以前から思案していた国名よ」
「なら国名は晋にします」
建業の人々はいきなりの反乱に驚いていたが、王の名が私だと知ると仲の復活だと喜んでいた。
間者の報告だと北郷は鎮圧部隊を送ろうとしたが、五湖の侵攻に鎮圧部隊を送るどころではなかった。
その間にも各地で反乱が起き、蜀はボロボロになっていき、最終的に国内は蜀と晋の二国に分けられた。
「それで劉ソウ。私に用とは?」
「……司馬懿殿、私の妻になりませんか?」
「え……?」
とある日、私は思いきって司馬懿殿に想いを告白した。確かに司馬懿殿は寝台で寝ながら本を読んだりだらしない格好だが……私は司馬懿殿と共にしたい。司馬懿殿にはその場での返答は避けられたが、後に快諾してくれて私は司馬懿殿――鈴華を妻にした。
「さて鈴華。今日も政務ですよ」
「……本が読みたい」
「政務が終わってからなら存分に読んで下さい」
他の皆からは何故妻にしたか判らないと言われたがまぁ良いと思う。
今日も晋は平和だった。
後書き
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