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第三章
「お母さん、たわしは?」
「たわし?」
「そう、たわし何処?」
「何処ってここにいるわよ」
お母さんが今いる場所にというのです。
「ちゃぶ台の上にね」
「そこにいるんだ、また」
「また寝転がってるわよ」
たわしはよくちゃぶ台の上に寝転がります、それで食事の用意の邪魔になるのです。悪気はないのですが。
「今もね」
「そうなんだ」
「たわしがどうしたの?」
「じゃあむくこは?」
光一はたわしがそこにいると聞いて今度はむくこのことを尋ねました。
「何処にいるの?」
「何処って」
お母さんは少し玄関のところに行きました、そのうえで確かめてから答えました。
「玄関で寝てるわよ、あとね」
「あとって?」
「何でむくこの前に絵の具とかが置いてあるのよ」
お母さんは怒った声で光一に言ってきました。
「あんたむくこ描こうと思ってそのままにしたの?」
「いや、違うよ」
光一はこのことははっきりと否定しました。
「それはね」
「じゃあどうしてあそこに置いたままなのよ。こっちに来てお話しなさい」
「わかったよ、それじゃあ」
丁度御飯を食べに行くついででした、そして。
光一はむくこに絵を描く様に頼んだことを玄関の前のその図画用紙と道具を全部なおしたうえでお話しました、そしてたわしに頼んだことも。たわしは光一がお母さんと一緒に座っているちゃぶ台の上にまだ寝転がっています、二人が食べていても一向に気にしていません。
そのお話を聞いてです、お母さんは光一に呆れた顔でこう言いました。
「あんた何考えてるのよ」
「駄目かな」
「つまり猫の手も借りたいっていうのね」
「犬もね」
つまりむくこの方もだというのです。
「それで頼んだけれど」
「たわしが書道なんて出来る訳ないでしょ」
目の前のちゃぶ台のところに寝転がっているたわしを見ての言葉です。
「この子が」
「やっぱり無理かな」
「無理に決まってるでしょ」
「むくこもなんだ」
「猫も犬もよ」
どちらであろうともというのです。
「そんなことしないわよ」
「そうなんだ」
「そうよ、というか書道の場所とか滅茶苦茶にしないだけましだったのよ」
「あっ、確かに」
「たわしやむくこが墨汁や絵の具で汚れたらあんたに洗ってもらってたわよ」
彼等のその身体をというのです。
「たわしをお風呂に入れたら大変でしょ」
「むくこもね」
どちらもお風呂は大嫌いです、それこそ物凄く暴れます。たわしに至ってはその爪と牙で激しく抵抗して光一も全身傷だらけになったことがあります。
それをです、させられるところだったというのです。
「そうしてもらってたわよ」
「そうならないでよかったよ」
「たわしが寝たままでね」
「そうだね、言われてみれば」
「たわしは普段寝てばかりだから」
むくこもです、どっちも一日のかなりの部分を寝て過ごしているのです。実際にどちらも今も気持ちよさそうに寝ています。
「何かしないでよかったでしょ」
「うん」
「それだけましよ」
またこう言うお母さんでした。
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