問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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白夜叉の送別会
前書き
感想で教えてくださった方がいましたので、スニーカー文庫の二十五周年記念のに載っていた者の短編です。
では、本編へどうぞ!
――――送別会・“円形闘技場”。
山梔子の花が咲き乱れる円形闘技場には、たった三人だけが立っていた。
一人は、今回のゲームの主催者である白夜王こと白夜叉。
一人は、白夜叉から“階層支配者”の任を受け継ぐ蛟劉。
そして、最後の一人は両手で剣の常態になったスレイブを握る、寺西一輝。
スレイブをカウントしなかったのは、剣の状態だからだ。
蛟劉は数百万トンの水流を用いて闘技場を大渦で包み込むが、一輝はギフトを用いて、白夜叉は当然のようにたって微動だにしない。
それどころか、白夜叉は愛用の扇を一閃し、炎を伴った閃熱を放って渦を真っ二つにする。その熱量で、蛟劉が放った水流は一瞬で蒸発した。
閃熱はまだ消え切れておらず、二人の元に向かい、風を纏ったスレイブによって切り裂かれ、ようやく消滅した。
「悪いな、スレイブ。熱くなかったか?」
「いえ、一輝様のおかげで、そこまでは。」
その一幕だけをみればいい試合をしているようにも見える。
だが、両腕に水流を纏わせている蛟劉や、スレイブを構え、自分の周りに様々なものを漂わせている一輝は肩で息をしているのに対し、白夜叉は余裕そうに立っている。
ちなみに、最初はレティシア以外のメイド全員が参加していたのだが、途中で一輝の手にあったスレイブ以外は皆吹っ飛ばされた。
「ふむ。これで残ったのはおんしらだけじゃの。」
「んん、まあ・・・真に不本意やけど、そうなるな。」
「ってか、俺がまだ残ってるのが不思議でしょうがねえよ・・・」
蛟劉は白夜叉の挙動一つ一つに、一輝は白夜叉の周りの気流の変化に警戒しながらそう漏らす。
別に、二人とも白夜叉と戦いたくて参加しているわけではない。
蛟劉は後継者として参加しとくのが礼儀だと考えて、一輝はメイドたちのことで色々と手を回してもらったし、悪徳コミュニティを潰した際に破格の報酬を受け取ったりしているので、お礼代わりに参加しておこう、位のつもりだったのだ。
だがしかし、いざ気付けばかなり熱の入った試合になっている。
まあ、隠しきれない実力の差が有るのだが。
「さて、せめてあの使い魔くらいはどうにかできないと、恥ずかしくて皆のところに帰れないんだが・・・」
一輝は、白夜叉の周りにいる四つの発光体を睨みつつ、そうつぶやく。
「それもかなり難しいと思います。一体一体が先ほどの渦を消滅させてお釣りが来るほどの力を秘めているようですし。」
「ってか、アレが使い魔ってのはどうなんだ?あれ自体がもうボスクラスだろ。」
しかも、それぞれが白夜叉を守るように立ち塞がるのだから、攻撃のしようがない。
「いやはや、東側にも存外喧嘩好きが多いな。老骨にはちと堪えたぞ。」
「そんなくだらない冗談言ってんじゃねえよ。」
「一輝の言う通りや、白夜王。このていどでどうにかなるたまとちゃうやろ。」
「うむ、少し猫被ってみた。実は全然疲れておらんの!」
白夜叉が阿々と笑う姿に、一輝は眉間にしわを寄せる。
まあ、それだけの実力を持っているのは確かだし、そこには何も言わない。
それに、初日だけで何千人と戦いを挑んだとはいえ、後半は三人の戦いに巻き込まれて吹き飛んでいるのだし、同等の疲労があるわけではないだろう。
ちなみに、メイド組もその余波で吹き飛んだ。
「さて、下層で名のあるコミュニティは既に出場したようだし、残っているのは・・・」
「――――よう。待たせたな白夜叉。」
そんな時、入場口から声がした。
一輝がそちらを向くと、十六夜、黒ウサギ、飛鳥、耀、レティシアの五人がギフトカードを持って入場してきた。
「遅かったな、皆。ってか、十六夜は参加しないと思ってたんだが。」
「ああ、俺は参加しないつもりだったぜ。」
「って、オイ十六夜!アレだけお世話になった素敵神のゲームをスルーとは、さすがに失礼ではないか!?」
十六夜の台詞に、白夜叉は本気でショックを受ける。
相手と自分の実力差をほぼ正確に知っている一輝ですら参加していたため、そのショックは一段と大きそうだ。
そして、一輝も合流したノーネーム一同は、困惑したように顔を見合わせた。
「ねえ、皆。白夜叉が私達の世話を焼いてくれたことがあったかしら?」
「ええっと・・・ギフトカードを貰ったこととか?」
まず、耀は魔王とのゲームで生き残れるか否かが左右されるラプラスの紙片こと、ギフトカードを貰ったことを上げた。
「俺は、メイドたちのことでかなり世話になってるな。」
「確かに、私も世話になりましたね。」
一輝は、色々とおせっかいで連れてきた四人のことをあげる。
なんだかんだで、ヤシロ以外は白夜叉からギフトカードを貰っており、世話になっているのだ。
悪徳コミュニティの件を上げなかったのは、単に恥ずかしいからである。
「私を“ペルセウス”から逃がしてくれたこともあったな。」
レティシアは、コミュニティの再建を諦めるよう言うために“ノーネーム”を訪れた際のことを言う。
「黒ウサギには、皆さんが来る前の次期に審判の仕事を破格の報酬で紹介してくれましたね。」
かつてのコミュニティの稼ぎであった審判のことを、黒ウサギはあげた。
「俺は、下層のゲームに出禁になったから、代わりのゲームを紹介してくれたな。」
十六夜が言っている事の例としては、白雪が隷属したゲームがある。
「あ、それは俺もだな。そう考えると、火龍誕生祭にも連れて行ってもらってるし・・・白夜叉が俺たちにしたことは、問題児的行動よりも助けてもらった回数のほうが多いのか?」
「「「「「「「なんと、驚愕の新事実!」」」」」」」
「おんしら本当に失礼だなッ!!」
十六夜、黒ウサギ、飛鳥、耀、レティシア、一輝、スレイブの七人が異口同音にそう言うと、白夜叉は角を立てて怒った。
まあ、セクハラ行動が目立ってしまうので勘違いされがちではあるが、仕事に手を抜いたことは一度もないのだ。
だからこそ、一輝が何の見返りも考えずに潰して回った悪徳コミュニティのことも、しっかりと調べていたのだ。
「全く・・・おんしらのように誤解するものが多いから、私を箱庭三大問題児に数える輩がいるのだ。私はクイーンやアルゴールとは違うとあれほど――――」
「「「「「「「え!!!???」」」」」」」
一瞬、沈黙が走った。
「うおおおおおおおおおい!!?な、何だその反応はッ!まさかおんしらも勘違いしておったのか!?あんな非常識三傑集と一緒にするではない。というか、黒ウサギや一輝にはかなり便宜を図ってやっただろう!私は神霊、純血の龍、星霊――――最強種の中では超!が付くくらい良心的で社交的なのだ!そうであろう、蛟劉ッ!!」
「せやな。」
「嘘でしょう!?」
「いや、これは本当やで飛鳥ちゃん。他の最強種なんてどいつもこいつも横暴と非常識と宇宙原理な輩が服着てお洒落して現世を闊歩しとるようなもんやからな。最強種がセクハラ一つで大人しくしとるなんて、安いもんやで?」
「あー・・・ちなみに、他の最強種はどんな感じなんだ?」
「せやなあ・・・『今日は天気が良いから地平線から水平線までを侵略して傘下に入ったコミュニティに美味しいティラミスを作らせましょう。』とかやな。」
「マジか・・・」
「うむ、私も魔王として侵略するべきか、それともセクハラするかで悩んだ末の選択なのだ。なので私は悪くない。というわけで、また音央と鳴央をつれてきてはくれんかの?」
「はっはっは。断るに決まってんだろ。」
「ならば、黒ウサギの胸を、」
「ふざけないでください、この御馬鹿様!」
白夜叉は遠まわしにセクハラを正当化しようとしたが、失敗した。
そして、十六夜は腕を組んで渋い顔をしながら、感慨深くつぶやいた。
「・・・世の中、上には上がいるもんだな。俺たち四人も、より磨きをかけて唯我独尊の道を」
「いえ、進まなくて良いですから」
「「「「爆走しよう!」」」」
「って、上を行くんですか!?」
黒ウサギは、これだけ突っ込んでも疲れた様子がない。
そういったギフトでもあるのだろうかと、少し悩むものだ。
「まあ、恩を感じてないわけじゃねえよ。ただ送別会の百花繚乱が見事なもんだったから初日くらいは眺めてるつもりだったんだよ。・・・まあ、うちの女性陣が血気盛んだったり、一輝が参加してたりしたもんでね。」
「おいおい、俺のせいかよ。」
一輝は不本意そうにそういった。
「さて、少年達も来たことやし、僕も後任らしくもう少し根性見せようか。――――そう言うわけやから、さっきまでみたいには行かんで、白夜王。」
「まあ、俺もこいつらの前でそんなことは出来ないからな。もうちょい、後先考えるのを止めるか。」
二人は僅かに闘志を滾らせる。
対する白夜叉も挑発的な笑みを浮かべ、微笑む。
「よい、まとめて相手をしてやろう。・・・ところで、後から来た五人はゲームルールを知っているか?」
「ええと・・・この闘技場から突き落とせば勝利とは。」
「うむ、確かにその通りだ。だが、それではさすがに不利すぎるからの。よって、参加者には救済措置を用意してみた。」
白夜叉がパチンと指を鳴らすと、四対の発光体の光が衰え、本体が見える。
そこには丑、虎、戌、亥の獣印が入っている。
それを利用した特別勝利条件が、このゲームには用意されているのだ。
その内容は、『四獣の獣が駆ける謎を解き、季節を薫る花の簪を沈む大地に突き立てよ』。
「まあ、俺には何にもわからないんだけどな。」
「簡単には解かせぬよ。」
が、その意外な展開に、飛鳥は明るい声を上げた。
「そう・・・ふふ。それなら、私達にも十分に勝ち目がありそうじゃない。」
「無茶言うなよ。その条件を満たそうと行動すれば、間違いなく白夜叉の標的になるんだぞ?」
「せやから、白夜王の妨害をかわしながらになるんやけど、無理やろ?」
蛟劉のその台詞に、十六夜はむしろ楽しそうに笑う。
「何だ、それなら話が早い。せっかく頭数がいるんだから、二手に分かれればいい。」
「じゃあ、それで行くか。俺は白夜叉に挑む。スレイブ、付き合ってもらえるか?」
「もちろんです。私は貴方の剣。貴方の望みに従いましょう。」
「なら、私達が謎解きね。」
「うん。そんなに難しそうじゃないから大丈夫。」
そして、七人が戦闘体制を取ると、白夜叉は扇を掲げ、ゲーム再開を叫んだ。
「では相手してやろう。かかってくるがよい、問題児共ッ!」
その瞬間、四体の発光体は闘技場を駆け回る。
そして、攻撃隊が発光体を攻撃しようとした瞬間、全員の足が闘技場から離れた。
「クソッタレ、空中じゃどうにもならない!春日部か一輝に拾ってもらうしか、」
「無駄じゃよ十六夜。他の連中は既にリング外だ。一輝も、ほれ。」
白夜叉がさすほうに十六夜が視線を送ると、一輝が片手に大剣をもって浮かんでいた。
「遅い、遅すぎるぞ小僧。おんしらが遅いせいで、謎解きタイムが終了してしまったぞ。」
「は、はあ!?今始まったばかりだろうが!」
「いや、違う。もう始まっていた。そして、悠長なゲームメイクを選んだせいで、敗北をしてしまったのだ。少し考えれば勝利できたじゃろうに。」
十六夜は落下していく僅かな時間に思考をめぐらせ・・・
「くそ・・・!!こんな簡単な勝利条件だったのか・・・!!!」
そう、本当はそこまで複雑なルールではない。
まず、季節を薫る花は、闘技場に捧げられている山梔子のこと。
そこから、季節は夏となり、夏には太陽は丑虎から戌亥・・・北東から北西に沈む。
よって、勝利条件はリングの北西方向に山梔子をさすことなのだ。
「当然だ。真に良質なゲームとは特別なものにしかクリアできないゲームではなく、誰にでもクリアできるものでなければならない。そう言う意味では、ゲームの全てを把握してから戦いに挑むなど、チキンプレイに他ならんわ!」
白夜叉は扇を掲げてそう言う。
「くそ・・・くそ、くそ、これじゃ格好がつかねえ・・・!!」
「なあに、これで一つ学習したであろ。何も死ぬわけではないのだから、次のゲームにいかせばよい。」
白夜叉は水面に舞い降り、十六夜のほうへと歩み寄る。
十六夜はそんな白夜叉に、苦々しい声音で告げた。
「・・・確かに、これからのゲームでは生かせるさ。でも、次の白夜叉のゲームでは生かせないんだろ?」
白夜叉は、十六夜の言葉に瞳を大きく見開いた。
そう、もう白夜叉のゲームを、短い一生しか送れない人間である十六夜が受けることは、出来ない可能性が高いのだ。
なぜなら、一度返却してしまった神格を再取得するには、数百年はかかるかもしれないのだから。
「事実上、これは俺たちと白夜叉の最終決戦なんだ。なのに俺たちがこんな負け方をしたんじゃ・・・とても、“下層は任せとけ”なんて、口が裂けてもいえないからな。」
白夜叉は、そんな十六夜の言葉に本気で動揺していた。
彼らが下層を去る白夜叉を安心させようとしていたのにそうすることも出来なかったとしり、初手必殺をしてしまったことに罪悪感を感じているのだ。
そして、二人の間に沈黙が満たし・・・ふと、十六夜は顔を上げた。
悪戯を思いついたような顔をした、問題児の顔を。
「ところで白夜叉・・・本当に、全員を落としたと思うのか?」
「は?何を・・・」
白夜叉は本気で拍子抜けしたように返すが、後頭部に走った衝撃で、バランスを崩す。
「鬼道流体術、流星。」
「×2、だ。」
そして、白夜叉の頭の上には、一輝とスレイブの膝があった。
要するに、二人係で跳び膝蹴りをしたのだ。
ちなみに、十六夜がみた一輝とスレイブは一輝の式神が化けた姿であり、本物の一輝とスレイブは水に乗って一気に上空に飛んでいたのだ。
少し考えれば、大剣が沈まないことに疑問を抱けたであろう。
「それに、敗北条件もないし、な!」
十六夜はそう言いながら、バランスを崩した白夜叉をつかみ、引っ張る。
同時に何本もの手が白夜叉をつかみ、白夜叉を引きずり込もうとする。
「ぬ、お・・・簡単には、」
「さあ、百鬼夜行の始まりだ!」
もちろん、白夜叉は耐えようとするが、自分の上に現れた重みによって、水中に落ちる。
一輝が、妖使いを使って檻の中の妖怪を大量召喚したのだ。
「よっしゃ、よくやったで少年!これで僕らの勝利や!」
「YES!見事に作戦勝ちなのですよ!」
そう言いながら蛟劉と黒ウサギが堀の上に上がってくる。
飛鳥と耀もそれに続いて堀の上に上がってきて、空から堀に着地した一輝や人間常態になったスレイブも合流し、八人でハイタッチをする。
「ハハ、備えあれば憂いなしだな!」
「ええ。文句なしの大勝利よ。」
「・・・精神攻撃はゲームメイクの基本。」
「あの演技のおかげで、俺とスレイブはかなり動きやすかったしな。」
「少しでも上を向かれれば、気付かれていましたからね。」
そして、黒ウサギや蛟劉も口々に喜びを漏らし、その場を笑い声が包んだが・・・それは、だんだんと弱まっていき、ついには無くなった。
笑うことに飽きたのではなく、危険を感じ取ったのだ。
悪寒の発信源は、白夜叉が落ちた辺り。
普通であれば、白夜叉が祝福の言葉を述べ、一輝たちがそれに一言ずつ返すことで感動的なフィナーレになるはずだった。
だが、肝心の白夜叉は全く行動を起こしていない。
どうしたものかと一同が戸惑っていると・・・突如、大地から白い風が吹き始めた。
「兄様、これは・・・」
「あー・・・皆、俺は逃げる!」
「オイ待てこら!」
一輝は、スレイブを連れて脱兎のごとくその場を去った。
数分後、メイドたちを連れて訪れた一輝が見たのは、シースルーのビッチェスカートを着て歌って踊る、黒ウサギの姿だった。
後書き
こんな感じになりました。
この作品の次の投稿は、年が明けてからです。
他のは投稿する予定ですが。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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