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ジュリアに傷心

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第二章


第二章

「もうお部屋は」
「ああ、借りたさ」
 俺の方から部屋を出る。それももう決めていた。
 それでだった。俺の荷物もその新しい部屋に送っていた。俺達は何もかもが終わってだ。別れることになっていた。
 それで最後にその曲を聴いていた。聴きながら俺はまた言った。
「この町に来たての時も」
「この曲聴いたわね」
「あの頃の俺達何も持ってなかったよな」
「ええ。生活に必要なものも買いはじめたばかりで」
 都会で生活をはじめたてで。右も左もわからなければ何も持っていなかった。俺達は二人だけだった。けれどそれでもだった。
「これからのこと考えてね」
「楽しかったよな」
「ええ、とてもね」
 あいつはまた言った。
「楽しかったわ」
「だよな」
「けれどそれもね」
 終わる。この曲が終わって俺が部屋を出て。
 何もかもが終わって、そうしてだった。
 曲が終わった。遂にだった。ラジオのスイッチを切ってから。
 俺の方からだ。あいつに言った。
「じゃあな」
「うん、じゃあ」
 俺は席を立って部屋を出た。玄関まで見送るあいつは。
 泣いていた。それがわかった。けれど俺はそのあいつは見ずに。
 部屋を出た。そうして俺の新しい家に向かった。
 俺は自分の部屋に向かいながら。その時も思い出していた。
 夏の頃は休みにずっと二人だった。それでだった。
 あいつは海でも山でも笑顔でヒットパレードも聴いて。
 開放的になって髪のリボンをいつも解いた。
 長い髪が溢れ出て夏の日差しに照らされて。
 あんな奇麗なものはないと思った。冬なのに夏を思い出していた。
 その夏のことも思い出していた。そうして俺は一人になった。
 そうして過ごしているクリスマス。俺は一人でいた。けれど。
 ショーウィンドゥを観ていた俺にだ。後ろから声がした。
「ねえ」
「何だよ」
 あいつの声だった。その声を聞いてだ。
 俺は無意識のうちに振り返った。そこにはやっぱりあいつがいた。
 唇を噛み締めて。それで俺に言ってきた。
「また会えるなんてね」
「思わなかったな」
「御互いなのね」
「あれで終わりと思ったさ」
 俺は眉を顰めさせて言った。
「本当にな」
「私もよ」
「今会ってもな」
「仕方ないわね。けれどね」
「けれど。どうしたんだ?」
「折角のクリスマスだから」
 どうしようかと。こいつから言ってきた。
「二人で行かない?」
「二人か」
「そう。踊りにね」
「あの店だよな」
 俺にはすぐにわかった。二人でいつも行っていた店だ。
 その店でだ。お互いにだった。
「もうそれでなんだな」
「クリスマスだけはって思ってたし」
「そうだよな」
 俺もだ。こいつの言葉に頷いた。
 それでだ。こう答えた。
「じゃあ行くか」
「道は知ってるわよね」
「忘れる筈ないだろ」
 俺はにこりとせずに返した。
 
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