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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターン32 南方の大自然と暗黒の中世

 
前書き
さらば、隼人。エアーズロック・サンライズはOCG化しても文句つける人はいなかったと思うの。 

 
「る~る~るるるるる~るっるるっる~♪きょーうっもごっはんが、できましたー!」

 メロディーもリズムも完全に即興の、僕自身ですら二度と再現不可能な歌を口ずさんでリズムをとりながら、手首をひねることでフライパンを振ってその中身、我ながらいい感じにぱらっぱらになったチャーハンを人数分の皿に盛りつけていく。ああ、今日も人生が無駄に楽しくてしょうがない。

「盛り付けよし、副菜よし、スープよし、デザート………は、まあ明日にはできるかな。よしサッカー、ちょっと上行って十代たち引っ張ってきてー」

 幻魔との戦いが終わってから、かれこれ二週間経ったらしい。らしいというのは単に、つい昨日まで僕が意識不明だったため今一つそんなに時間がたった実感がないというだけだ。鮎川先生はまだ今日も保健室で入院していて欲しかったみたいだし、その気持ちもわからないではない。だけどやっぱり、じっとしてたり入院したりは性に合わない。料理してる方が楽しいし。

「やり、今日は久しぶりに清明のメシだ!」
「おい十代!勝手に一番大きいのを持っていくな!………まったく、お前がいない間ずっとこいつらのうまくもないメシを食う羽目になってたんだ。そしてお前のメシはこの万丈目サンダーが認める程度の味はある。だから、もう勝手に倒れたりするなよ」
「悪いけど万丈目君の料理もはっきり言ってあんまりおいしくなかったッスよ」
『うんうん。精霊のアタイたちもカードの中に隠れたくなるくらい焦げ臭かったのもあるしね~』

 こんなひねくれた言い方だけど、要するに万丈目も心配してくれたんだ。こんな風にワイワイ会話してるのを見ると、つくづく日常ってやつが戻ってきたんだろうなあ、と思う。ちょっとしみじみ。と、一人だけいつもと反応が違うことに気が付いた。

「あれ隼人、食べないの?風邪でもひいた?」

 いつもは率先してやってきて配膳やらなんやらもちょっとは手伝ってくれる隼人が、今日はずいぶんと元気がなさそうだ。目の下にはうっすらとくまができ、どうも顔色も心なしか悪い。もしかして病気だろうか。

「あ、そういえば清明君は知らなかったッスね。実は隼人君、明日の進級試験受けることになったんだよ」
「え、それホント!?なんで誰も教えてくんなかったのさ!」
「いや、だっててっきりもう知ってるもんだとばっかり………」
「僕この一日入院中だったよ!?」
「悪い悪い」

 あ、十代この顔は全然悪いと思ってない顔だ。しかし、隼人が進級試験か。

「ちなみに相手は?」
「………クロノス教諭、なんだな」
「ここで隼人が勝てば推薦がもらえて、あのI2(インダストリアルイリュージョン)社に入ることができるんだぜ!ペガサスさんからの大抜擢だ!」

 なるほど、そりゃ緊張で胃も痛くなろうってものだ。特に隼人の場合、自分に対するコンプレックスが強いから余計に気が重いんだろう。

「(ということで何か力になれないかな、ユーノ)」
『無茶言いやがって。……ま、お前が心配する必要はないぜ。お前がバッタリ倒れてた間にも、世界は毎日進歩してんだ』
「(へ?)」
『あとは明日のお楽しみ、ってな。一つヒントを出すとしたら、進級試験の話は今日でてきた、ってことだ』

 それからも食事中に何度かせっついてみたが、詳しい意味については何一つ教えてくれなかった。一体何を知っているんだろう、この男は。




 
 そして、午前3時ごろ。これまでずっと体は寝てる……というか倒れてる生活を送ってきたせいか、まったく眠れずにベッドで寝返りを打ち続けていたのだが、それもいい加減飽きてきたのでふらっと外に出る。ちょっと一人で考えたいことがあったので、ユーノもサッカーも連れて行かない完全フリー状態だ。波の音を聞きながら玄関を出ると、頭上に満天の星空が広がっていた。

「うわぁ………」

 思えばこのところ、夜は幻魔に警戒してばっかりで星なんてまともに見る機会がなかったからなあ。考えたいことがあるとはいえ正直僕が考えてどうにかなる話でもなさそうだし、ユーノにも明日あたり相談するとして今夜はもう少しこっちをゆっくり見てこうかな。と、誰か来た。

「ふわぁ……清明、こんな夜中にどうしたんだな」
「いやそりゃこっちのセリフでしょ隼人。何やってたの一体」

 まさか隼人が夜遊びだなんて、さすがに想定外すぎる。そう思ったのが顔に出てたのか、ちょっとムッとした表情で否定するように手を振った。

「多分、お前が想像したようなことはないんだな。それはともかく清明、お前に一つお願いがあるんだけど、いいか?」
「お願い?まあいいけど、内容によるよー?」

 隼人のお願い、ね。珍しいこともあるもんだけど、まあ別に断る理由もないわけだし。

「このカードを、お前にあずかっててほしいんだな」

 そう言って彼が差し出したのは、やたらときれいなイラストの魔法カード、エアーズロック・サンライズ。なになに、効果は……

 エアーズロック・サンライズ(アニメオリカ)
通常魔法
相手フィールド上の表側表示モンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの攻撃力・守備力を、エンドフェイズまで
自分の墓地の獣族・植物族・鳥獣族モンスターの数×200ポイントダウンする。
その後、自分の墓地の獣族・植物族・鳥獣族モンスター1体を選んで
自分フィールド上に特殊召喚できる。

「へー、羨ましいなー。これの水・魚・海竜族版とかあったら欲しいかも。でもなんで僕に?こんないいカードなら、明日の試験で使えばいいじゃない」

 そう聞くと、隼人は思いのほか真剣な顔できっぱりと言い切った。

「このカードは、俺がデザインしたものをインダストリアルイリュージョン社が特別にカードにしてくれたものなんだな。いうなればこのカードは、ずっとくすぶって落ちこぼれて、全部を諦めてた去年の俺との決別のあかしなんだな」
「だったらなおのこと……」
「いや、俺はこのカードを使わずに明日の試験に挑むんだな。そして、自分のことを一人前のデュエリストだと胸を張って言えるようになる。そうじゃないと、このカードを使う資格がないような気がしてならないんだな。だから、明日のデュエルが終わるまで、このカードはお前が持っててくれ」
「隼人………」

 きっと何を言っても聞かないだろうな、そう思うほど隼人は決意の固い目をしていた。なら、僕にできることなんて一つしかないじゃないか。せっかく前に踏み出そうとしてるんだ、僕の方が年下なのにこんなこと言うのもおかしいけど、ここはひとつ背中を押すとしよう。

「任せてよ、隼人。そのかわり、明日はちゃんと勝ってよ?」
「わ、わかってるんだな。ありがとう、清明。もう俺は寝るからな」
「うん、お休み」

 隼人の後姿を見送ってから、もう一度エアーズロック・サンライズのカードに目を落とす。その細部まできっちり書き込んであって、すごく芸術的な仕上がりのイラストを見ているとなんとなくシリアスちっくに考え事しようと思っていたのがばからしくなってくる。自然はこんなにでっかいんだ、それに比べりゃどうってことない、みたいな。どれ、もう一回眠れるかどうか試してみますかね。





 で、ついに試験の始まり。結論から言うと昨夜は結局ぜんっぜん眠れなかったから、今になってちょっと眠いかも。

「シニョール前田、準備はよろしいノーネ?」
「よろしくお願いします、クロノス先生」
「いいでショウ。それでは、デュエルを始めるノーネ!」

「「デュエル!」」

「シニョール前田、先行は譲るノーネ」
「それじゃあ俺のターン、ドローするんだな。そして手札から、デス・コアラを攻撃表示で召喚!さらにカードを1枚伏せて、ターンエンドなんだな」

 デス・コアラ 攻1100

「ええ!?」
「オー、シニョール前田……」

 思わず声が出てしまった。デス・コアラはリバースした時にバーンダメージを相手に与えるリバース効果モンスター。なのにそれを、よりにもよってお世辞にもステータスが高いとは言えない攻撃表示で出すなんて。確かこの間も同じことやって怒られてたじゃないの。………このデュエル、大丈夫かなあ?
 だが、今のプレイングを見ていたユーノの感想はこっちと真逆だったようだ。

『クククッ、なるほどな。いやらしい真似しこんでくれやがるぜ』
「何?おい貴様、それはどういう意味だ。俺にはあのコアラが素人並みのプレミスをしたようにしか見えんぞ」
『まあ万丈目、黙ってみてなって。今の隼人は一味違うデュエリストだからな。あ、ちゃんと録画しといてくれよ』
「そんなことはわかっている!」
『ねえアニキ、これおいらたちも写っちゃダメかい?』
お前ら(精霊)が写ったらただの心霊写真だろうが!」

 プンすかしながらもちゃんと手に持つカメラを構えなおす万丈目。なんでも、今日のデュエルを見たい奴がいるから録画が必要らしい。でもそれが誰なのかは教えてくれないなんて、あいっかわらず情報を小出しにしか出さないやつだ。

「どうやらあなたは、この一年でもあまり成長していないようでいささか残念でスーノ。ですが、だからと言って手を抜くようなことはありえまセン。私のターン、手札からフィールド魔法、歯車街(ギア・タウン)を発動するノーネ!」
『お、出たなチートフィールド』

 のんびりとつぶやくユーノをよそに、みるみるうちに地面からいくつもの大小さまざまな歯車が組み合わさった建物や歯車型の光を放つスポットライトがせりあがってきてちょっとした未来都市の図が出来上がる。えっと、この効果は………

「……解説お願い三沢っち!」
「その呼び方はやめてくれ!歯車街(ギア・タウン)の効果は、まず永続的に【古代の機械】シリーズのアドバンス召喚にかかるリリースの数を一つ減らすことだ。それとは別に破壊された時デッキの古代の機械を特殊召喚する効果もある」
「なるほど、センキュー」
「私は歯車街の効果により、レベル6の古代の機械合成獣をリリースなしで召喚しますーノ!」

 頭が二つある獣を模した機械獣が、2つの口を開けてデス・コアラを威嚇する。本来ならば胸に開いた3つの穴のどれかに3色の歯車をはめ込むことで力を発揮するモンスターも、リリースなしで出されたらただのバニラモンスターでしかない。だけど、単純に攻撃力2300のノーデメリットモンスターをリリース抜きで出したとなれば話は別だ。

 古代の機械合成獣(アンティーク・ギアガジェルキメラ) 攻2300

「機械合成獣で、デス・コアラにバトルを挑みますノーネ!」
「リバースカード、皆既日蝕の書を発動するんだな!このカードは発動時、すべてのモンスターを裏側守備表示に変更する!」

 機械合成獣がデス・コアラに向けて一歩を踏み出そうとした瞬間、ふっとあたりが真っ暗になった。すぐに明かりは戻ってきたものの、すべてのモンスターがセット状態に変更されている。そして、あのカードの効果って確か。

「ぐぬぬ、私はせめてカードを2枚伏せて、ターンエンドなノーネ」
「この瞬間、皆既日蝕の書のさらなる効果が発動して、先生の古代の機械合成獣を表側守備表示にするんだな。それでそのあと、先生は今表になったモンスターの数だけ、つまり1枚カードをドローする」

 古代の機械合成獣 守1300

 隼人 LP4000 手札:4
          モンスター:???(デス・コアラ)
          魔法・罠:なし

 クロノス LP4000 手札:3
            モンスター:古代の機械合成獣(守)
            魔法・罠:2(伏せ)
            場:歯車街

「俺のターン、まずはこのデス・コアラを反転召喚するんだな。そしてデス・コアラはリバースした時、相手の手札1枚につき400ポイントのダメージを与える!」

 クロノス LP4000→2800

「……意外だ」

 隼人、本気出せばむちゃくちゃ強いじゃん。あのクロノス先生相手に一方的にデュエルを進めてる。

「さらに手札から、吸血コアラを召喚。バトル!吸血コアラで、古代の機械合成獣を攻撃するんだな!」

 もこもこした見た目のオーストラリア原産の動物、コアラをモチーフにした………のだろうが、その見た目は明らかに並みのコアラではない。なにしろ悪魔の羽と牙をもち、目も真っ赤に輝いているのだ。そんなコアラがパタパタと空を飛んで機械の獣に鋭い爪で踊りかかり、連続でひっかいて回路をショートさせた。あら怖い。

 吸血コアラ 攻1800→古代の機械合成獣 守1300(破壊)

「気張れ、デス・コアラ!クロノス先生にダイレクトアタック!さらにこの攻撃の時、手札から速攻魔法、百獣行進を発動するんだな!このカードは、自分フィールドの獣族モンスター1体につき200ポイント、獣族モンスターの攻撃力を上げる効果がある。俺の場には獣族の吸血コアラとデス・コアラがいるから、デス・コアラの攻撃力は400ポイント上がるんだな!」
「マ、マンマミーア!」

 デス・コアラ 攻1100→1500→クロノス(直接攻撃)
 クロノス LP2800→1300

「メインフェイズ2にカードをセットして、俺のターンは終了だ」
「ぐぐぐ……シニョール前田、あなたのことを見くびっていた私を許してほしいノーネ。あなたの成長は目覚ましいです。しかーし、私もこの栄光あるデュエルアカデミア実技担当最高責任者の名に賭けて、負けはしないノーネ!私のターン、モンスターをセットしてターンエンドしマス」

 クロノス先生、あんだけかっこつけといてやることがそれ(セット)だけですか。いやまあ別に悪いとは言わないけど!言わないけども!

 隼人 LP4000 手札:2
          モンスター:デス・コアラ(攻)
                吸血コアラ(攻)
          魔法・罠:1(伏せ)

 クロノス LP1300 手札:3
            モンスター:???(セット)
            魔法・罠:2(伏せ)
            場:歯車街

「俺のターン、吸血コアラで伏せモンスターに攻撃!」

 吸血コアラ 攻1800→??? 守700(破壊)
 
「セットモンスターはメタモルポット。リバース効果によってお互いは手札をすべて捨て、カードを5枚ドローするノーネ」
「だけど、俺にはまだデス・コアラの攻撃がある!行けえ、デス・コアラ!」
「残念ですが、手札から速攻のかかしの効果を使うノーネ!相手のダイレクトアタック時にこのカードを捨てることで、バトルフェイズは終了しマス」
「なら、ターン終了なんだな」
「私のターン!古代の機械砲台(アンティーク・ギアキャノン)を召喚してセットカード、機械複製術を発動。攻撃力500である古代の機械砲台を、デッキからもう2体特殊召喚するノーネ!」

 古代の機械砲台×3 攻500

 これで、クロノス先生の場にはモンスターが3体。だが、そのうちで隼人の場のコアラ軍団を突破できる攻撃力の持ち主はいない。じゃあ、一体これから何をする気なんだろう。

「そして私は最後のセットカード、魔法の歯車(マジック・ギア)を使用するノーネ!このカードは、自分の場のアンティーク・ギアと名のつくカードを3枚墓地に送ることーで、手札とデッキからそれぞれ古代の機械巨人を召喚条件を無視して特殊召喚することができるノーネ!現れなサイ、古代の機械巨人!」

 3つの砲台がバラバラに分解されて組み合わさり、一つの光輝く巨大な歯車の形をとっていく。なんだなんだと見ているうちにその歯車が歯車街の建物の一角に吸い込まれ、ガタゴトと作業音が響いたらその工場の入り口から2体の巨人がモノアイをキュピーンと光らせてのっしのっしと歩いてきた。忘れもしないあのカード、クロノス先生の切り札だ。

 古代の機械巨人×2 攻3000

「さらに手札の魔法カード、大嵐を発動するノーネ!このカードの効果によって、私は自分の歯車街とあなたの伏せカードを破壊しますーノ!」
「だったらそれにチェーンして発動、威嚇する咆哮!このカードを使ったことで、このターン先生はバトルをすることができないんだな!」

 歯車の町が台風に飲み込まれ、ガラガラと崩れていく。あれ、リリース軽減能力のある歯車街をここで捨ててまでしてデッキから出したい古代の機械がいるんだろうか。クロノス先生の切り札、古代の機械巨人には特殊召喚できないジョーズマンみたいなデメリットがあるっていうのに。

「私が歯車街の効果で呼び出すのは、レベル8で攻撃力3000の大型機械、古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)!」
「こ、攻撃力3000!?」

 なんてこったい、クロノス先生のデッキには攻撃力3000の大型モンスターが2種類も入ってたのか。これは予想できなかった。

「ふむ、まあクロノス教諭のデッキが【古代の機械】である以上あの流れは当然か……」
「え」
「ここまでは予想できたな。もっとも、まさか生徒に対してここまで本気を出してくるとは思わなかったが」
「え」

 ……………まだまだ勉強不足だったみたい。反省反省。

「さ、さすがクロノス先生なんだな……」
「このターン私は攻撃ができず、さらに魔法の歯車のデメリット効果により2ターンの間通常召喚を行うことができなくなったノーネ。さあシニョール前田、この布陣を突破できるものならしてみなサイ」

 隼人 LP4000 手札:5
          モンスター:デス・コアラ(攻)
                吸血コアラ(攻)
          魔法・罠:なし

 クロノス LP1300 手札:1
            モンスター:古代の機械巨人(攻)
                  古代の機械巨人(攻)
                  古代の機械巨竜(攻)
            魔法・罠:なし

「お、俺はもう、目の前のデュエルから逃げないんだな!この一年間、清明や十代たちはずっと命がけで戦い続けてた、だから俺ももう一回頑張ろうって決めたんだ!2体のモンスターをリリースして、ビッグ・コアラを召喚!」

 ビッグ・コアラ 攻2700

「ビッグ・コアラの攻撃力は2700ですが、それはどうするノーネ?」
「もちろん、対策はあるんだな!永続魔法発動、一族の結束!」
「三沢~」
「わかったわかった、わかったからそんな捨てられた子犬みたいな声を出さないでくれ。一族の結束……自分のモンスターをデメリットなしで常に攻撃力を800アップさせる強力な効果を持つ半面、墓地にその種族以外のモンスターが1体でもいると効力を失ってしまう永続魔法だ。獣族に手札誘発のモンスターは純粋に戦闘能力の高いグリーンやイエローのバブーンくらいしかいないことを踏まえると、今の隼人のデッキにはエフェクト・ヴェーラーや増殖するG、といったコンボや妨害用カードはまず入っていないことがわかるな」

 効果だけ教えてくれればよかったのに、期待以上に濃密な解説をくれた三沢には感謝。そうかそうか、800のぽんぷあっぷ?って言うんだっけこういうの。

「だよね、ユーノ?」
『……まさかとは思うがもしかして、バンプアップのこと言ってんのか?』
「…………ハイ」

 ビッグ・コアラ 攻2700→3500

「バトル!古代の機械巨人の一体に攻撃、ユーカリ・ボム!」

 ドスンドスンと大地を揺らしながらビッグ・コアラが駆け、勢いよくフライング・ボディアタックを仕掛ける。あのモフモフしてそうな体はやはりかなりの重さがあったらしく、真正面から受け止めにかかった古代の機械巨人の関節がショートして歯車がひん曲がり、あっという間につぶれてスクラップになってしまった。南無。

 ビッグ・コアラ 攻3500→古代の機械巨人 攻3000(破壊)
 クロノス LP1300→800

「俺はこれで、ターンエンドなんだな」
「なるほど、攻撃力を上げることで正面から私の古代の機械巨人を倒しましたか。ですが、まだまだ詰めが甘いノーネ!装備魔法、重力の斧-グラールを発動。古代の機械巨竜の攻撃力は500ポイントアップする!」

 古代の機械巨竜 攻3000→3500

「これで攻撃力は同じ、古代の機械巨竜でビッグ・コアラを攻撃!」

 古代の機械巨竜 攻3500(破壊)→ビッグ・コアラ 攻3500(破壊)

「場はがら空きになりましたが、私にはまだ古代の機械巨人の攻撃が残っているノーネ!アルティメット・パウンド!」

 古代の機械巨人 攻3000→隼人(直接攻撃)
 隼人 LP4000→1000

「ターン終了しマス」

 隼人 LP1000 手札:4
          モンスター:なし
          魔法・罠:一族の結束

 クロノス LP800 手札:1
            モンスター:古代の機械巨人(攻)
            魔法・罠:なし

「俺のターン!こ、ここはこのカードで時間を稼ぐんだな。モンスターをセットして、一時休戦を発動!お互いにカードをドローして、次の先生のエンドフェイズまで受けるダメージはすべて0になるんだな。さらに闇の護封剣を発動!ターンエンド」

 隼人のセットモンスターの陰から3本の闇の剣が飛び出してきて、最後の機械巨人を串刺しにする。これで機械巨人は裏側守備表示になって、ほんの少しだけ時間が稼げる。でも、ちょっともったいないかも。護封剣、別に今発動することはなかったんじゃ?

『ふむ、下手に巨人と巨竜を倒せたから自分でも気づかないうちに油断が出たか?今のミスが響いてこなけりゃいいが』

 あ、よかった。やっぱりミスだったんだ。いやよくないけど。

 闇の護封剣
永続魔法
このカードの発動時に、相手フィールド上の全てのモンスターを裏側守備表示にする。
また、このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上のモンスターは表示形式を変更できない。
このカードは発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に破壊される。

「むむむ、私のターン。魔法の歯車による通常召喚の制限はもう終わりましたから、古代の機械兵士を通常召喚してそのまま攻撃させますーノ!プレシャス・ブリッド!」

 さっきまでの巨人を小型にして片腕を丸ごと銃に取り換えたような機械兵が、無数の銃弾を乱射する。だが、その攻撃を受けるかに見えたモンスターはなんと勢いよく跳ね起きて華麗なフットワークでひょいひょいと銃弾をすべてかわしながら近づいていき、呆然とした様子の機械兵士に必殺のアッパーパンチをぶち当てた。

 古代の機械兵士 攻1300→??? 守1700

「私の古代の機械兵士が、破壊された!?」
「俺のセットモンスターは、デス・カンガルー………このカードの守備力以下の攻撃力のモンスターが守備表示のこのカードに攻撃してきたとき、その相手を破壊する。一時休戦の効果でダメージはなくなったけど、効果の発動だけならできるんだな」
「……いいでショウ、1枚カードを伏せて、ターンエンドしますーノ」

 隼人 LP1000 手札:2
          モンスター:デス・カンガルー(守)
          魔法・罠:一族の結束
               闇の護封剣(0)

 クロノス LP800 手札:1
            モンスター:???(セット・古代の機械巨人)
            魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン、これで次のスタンバイフェイズに闇の護封剣は破壊されるんだな。ターンエンド」
「私のターン!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地の古代の機械砲台を3枚と古代の機械巨竜、古代の機械兵士をデッキに戻して2枚ドロー。ふうむ、どうせこのターン攻撃できないなら悪くないカードを引いたノーネ。魔法カード、クロス・ソウルを発動!このカードは、自分がモンスターをリリースするとき相手モンスター1体を身代りにできるカード!これによりシニョール前田のデス・カンガルーと私のセットされた古代の機械巨人をリリースして、手札から最後の古代の機械巨人を召喚するノーネ!もっとも、私はクロス・ソウルのデメリット効果でこのターンバトルフェイズを行えまセンが」

 古代の機械巨人 攻3000

「さらに装備魔法、巨大化を発動。このカードを装備した古代の機械巨人の攻撃力は、倍になりますーノ!」

 ただでさえ巨体の古代の機械巨人の体がさらに大きくなり、頭のてっぺんが高い天井に届くほどになる。で、でかい。というか鬼かあの先生は。

 古代の機械巨人 攻3000→6000

「ターンを終了するノーネ」

 隼人 LP1000 手札:3
          モンスター:なし
          魔法・罠:一族の結束
               闇の護封剣(1)

 クロノス LP800 手札:0
            モンスター:古代の機械巨人(攻・巨)
            魔法・罠:巨大化(古)
                1(伏せ)

「お、俺のターン………」

 一目見ればわかる。隼人、完全に気合負けしてる。いやでも、攻撃力6000の貫通もちで攻撃反応カードが使えない相手なんて出されたらそりゃ仕方ないと思う。思う、けど……

「気張れ、隼人ー!ここで勝つんでしょー!?勝ってこのカード、エアーズロック・サンライズを胸張って使えるようになるんだって言ってたじゃん!だから負けるな隼人、気張れーっ!」
「そうだぜ、隼人!オシリスレッドの意地を見せてやれ!」
「頑張れー、隼人君!」

 僕が声を張り上げるのを見て、十代や翔も応援に加わる。それだけじゃない、万丈目も三沢も明日香もいつの間にかいた鮫島校長も、みんなが隼人に期待を向けている。

「清明……皆も……俺、まだまだだったんだな。ついさっき頑張るって言ったのに、また心が折れそうになって………でも、今度こそやってやるんだな!魔法カード、思い出のブランコを発動!墓地の通常モンスター1体を、エンドフェイズに破壊するかわりに特殊召喚できるんだな!俺が呼び戻すのは、もちろんビッグ・コアラ!」

 ビッグ・コアラ 攻2700→3500

「さらに手札の融合を発動!2枚目のデス・カンガルーと、場のビッグ・コアラを融合!来い、俺の最強カード!マスター・オブ・OZ(オージー)!!」

 両手に赤いボクシンググローブをつけた、筋肉隆々の強面コアラ………隼人のデッキで最強の攻撃力を誇る、圧倒的パワーの持ち主。なにせ2体融合で攻撃力4200なんだ、何かがおかしいってレベルじゃない。さらにOZは獣族、一族の結束の適用範囲でもある。

 マスター・オブ・OZ 攻4200→5000

「攻撃力5000では、私の古代の機械巨人にはかないませんよ?」
「そんなこと、わかっているんだな。バトル!マスター・オブ・OZで古代の機械巨人に攻撃、さらにこの瞬間に手札から速攻魔法、野性解放を発動!OZの攻撃力はその守備力の数値と同じだけ、つまり3700ポイントアップするんだな!エアーズ・ロッキー!」

 マスター・オブ・OZ 攻5000→8700

「よくやりましたノーネ、シニョール隼人。私もこの攻撃を受け、ライフを0にしてあげたいところです。しかーし、私はあなたがたの教師。ここで手を抜いてしまっては、他の生徒たちに合わす顔がないノーネ!速攻魔法、リミッター解除発動!古代の機械巨人の攻撃力を6000の2倍、12000に引き上げるノーネ!」

 マスター・オブ・OZの右パンチがうなり、機械巨人の顔面に吸い込まれる。だが、その腕に自身の左腕を絡めるように合わせてパンチを放つ機械巨人。先に目標に命中したのは俗に言うクロスカウンター………古代の機械巨人の一撃だった。

 マスター・オブ・OZ 攻8700(破壊)→古代の機械巨人 攻12000
 隼人 LP1000→0





「ま、負けたんだな」
「隼人……」

 何か言おうと思ったけど、今声をかけても月並みな言葉しか出ないだろうと思い口を閉じる。ああいった状況での気持ちは大事な局面での負けが多い僕が一番わかってると思う。少なくとも僕なら、中途半端な同情はよけい自分が惨めになるだけだ。

「シニョール前田、あなたは立派に成長したノーネ。あそこまで私が追い込まれるとは思っていませんでシタ」
「………でも、結局俺、負けちゃったんだな。だけど、俺、すごくワクワクした。あんなに楽しいデュエル、初めてだったんだな」
「その通りです、前田君」

 そこで口を開いたのは、鮫島校長だった。優しげな笑みを浮かべながら、ボロボロと悔し涙をこぼす隼人に向かってゆっくりと話しかけていく。

「前田君、君のデュエルを見て私は確信しました。デュエルを愛する心を持つ君ならば、きっといいカードデザイナーになれるでしょう。クロノス先生、よろしいですか?」
「もちろん。シニョール前田、あなたの推薦は私が許可するノーネ。だから、あちらでもしっかりやってきてくだサイ!」
「………はい、わかりました!!」





 そして、その次の日。いよいよ本土に向けて旅立つ隼人をレッド寮総出で見送りに来ていたのだが、肝心の隼人が来ない。あとユーノもいない。おっかしいなあ、もうヘリ来てるんだよ?……あ、やっと走ってきた。

「ご、ごめんなさいなんだな~!」
『悪ぃ悪ぃ、遅れちまった』
「遅いよ隼人、どこ行ってたの!?」
「俺の師匠に、最後のお礼を言ってきたんだな………」

 師匠だのなんだのよくわからないことを言っている隼人に首をかしげつつ、胸ポケットから1枚のカードを差し出す。何があったのかは知らないけど、まだこれを渡してなかったからね。

「はい、これ」
「エアーズロック・サンライズ………」

 一瞬嬉しそうな顔をするものの、すぐに後ろめたそうな表情がとってかわる。もしかして、まだ負けたことを気にしてるんだろうか。気持ちはわからないでもないんだけどね。

「少なくとも僕は、受け取っていいと思うよ。昨日のデュエル、すごくワクワクしたもん」

 そう言うと、やっと決心したように受け取った。そのカードをそっとデッキに入れ、ヘリのパイロットに頭を下げてから乗り込んでいく。

「さようなら、みんな!これまでありがとうなんだな~!」
「またね、隼人ー!」
「じゃあな、元気でなー!」
「また戻って来い、この俺様直々に相手してやる!」
「さよならッス、隼人君!」

 そして上昇していくヘリ。窓にへばりつくようにこちらを見ている隼人の横の窓には隼人の精霊、デス・コアラが笑顔でぶんぶんと手を振っているのが見えた。空は、すごく晴れ渡っていた。 
 

 
後書き
おまけ

数日後、いつもの廃寮にて
清明(以下清)「………っていうことがあったんです。でもどしたの急に、『何か本校舎で面白いことあった?』なんて聞いたりして」
ユーノ(以下ユ)『もうそろそろバラシどきじゃねーか?ってかそもそもこれ隠す意味ないだろ』
清「?」
稲石(以下稲)「そーだね。実はね、その隼人君の師匠ってのは自分のことだったんだよ。君が倒れちゃってから何か思うところがあったのか毎晩ここに来てね、俺にデュエルの稽古をつけてほしいんだな、って。たまには人に教えるってのも悪くないかと思ってオーケー出したんだよ」
清「………マジなのそれ!?」
ユ『おお。俺も毎晩ついてったけど、毎回毎回ちょっとずつ上達してったぜ。……まあ、あん時はお前が倒れてたせいで俺もいっぱいいっぱいだったからアドバイス出してやる心の余裕もなかったわけなんだけどな』
稲「ビデオも見せてもらったよ。皆既日蝕の書だの闇の護封剣だの、自分のゴーストリックの裏側戦術がちょっとうつっちゃったみたいだね。まあ師匠としては嬉しいけど。序盤で百獣行進を先に発動して無効化されなかったらデス・コアラで機械合成獣を殴って吸血コアラでダイレクト、っていう選択肢ができてればベストだったけどまあ過ぎたこと言ってもしょうがないし、自分的には十分合格圏内だったよ」 
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