鉄槌と清風
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15部分:14:良彦とヴィータ
14:良彦とヴィータ
2学期が始まった最初の週末、久しぶりに公園で修行する良彦の姿があった。
夏休みの初めに比べるといくらか長く『凪』を続けていられる様子である、シグナムとの組み手や、基礎を繰り返した事、魔法を覚えた事で並列思考ができるようになったのも大きいのかもしれない。
ともあれ、迫る木材を弾く音が木々の間に響き、良彦に触れる事が無かった木材がひゅんっと音を立てて行き過ぎる。
それを、じっと見つめるのは赤い髪の少女…ヴィータだ。
何時も通りにザフィーラの散歩にきたら久しぶりに良彦をみつけ、なんとなく見学していたのである。
そして、かこーんっという良い音と共にうずくまった良彦、そしてふと上げた顔…お互いの視線が絡まり。
「あっははは、また、また後頭部かよっ!」
「うっせ、てか何時からいやがったヴィータ!」
後頭部を痛そうに抑えながら立ち上がり、つかつかとヴィータに歩み寄る。
「一寸前から、つか、公園なんだから何時から居てもいーんじゃねーか?」
「いや、まぁそうなんだけど…ともあれ、久しぶりだな」
「おう、つっても数日しかたってないけどな、夏休みはほぼ毎日あってたから、なんか長いようにかんじっけど」
「そういやそうだな、今日は一人なのか?」
「ザフィーラは、シャマルが散歩してくるっつーから、暇つぶしにな、どうせ良彦のことだから学校休みならいそうだったし」
タオルで汗を拭き、スポーツドリンクをあおり、軽く会話を交わす。
「つか、俺はどんだけ修行好きだと思われてんだ?」
「シグナムの同類レベルじゃね?」
苦笑しながらの問いに、素で返すヴィータ。
「マジでか、其処までじゃねーだろう」
「いや、あたしらの中じゃ、それが通説だぞ」
「んなふうに思われてたのか…はぁ、ま、いいや…んで、暇つぶしってんなら、何か目的とかあったのか?」
「良彦をからかおうと思ってきた」
「ほぅ…此処一ヶ月の修行で落ち着きを身につけた俺をか」
「身長はのびなかったよな」
ぴきっと良彦の笑顔が固まり、米神に十字路がうかぶ。
「ほ、ほほう…どうしてそうおもうんだ、ヴィータ」
「夏休み終わる前にザフィーラ相手に、哀しそうにかたってたじゃねーか」
さらっと言われる言葉に顔を赤くしながら
「まさか、みてたのか?」
「あぁ、撮っといたぞ」
「今すぐそれを消去しろ、そして記憶からも消せーっ!」
「だが、断る!」
だだっと良彦が駆け出し、それに対して逃げるヴィータ。
「くそ、相変わらず足がはえー、だが」
公園の中を走り回る少年と少女、ゆっくりとだが、その差が縮まって。
がしっと、良彦がヴィータを捕まえる…両手で、少女のわきの下からもちあげて。
「ちょ、離せ、つか、あっついっ!」
「なら、消去するって約束しろ、約束しないなら自爆をも辞さないぞ!」
真っ赤になって暴れるヴィータ、しっかりと抱きしめている良彦。
ザフィーラは居ないものの、いまだ蒸し暑い季節、このまま引っ付いているだけでもどちらも体力を奪われていく。
「つか、女相手にこんなことすんな」
「はぁ?…ちびっこあいてのまちがっいぃぃ!」
振り上げられた少女の細い足が、振り下ろされ、人体の中でも難い部位である、踵が、良彦のひざに打ち下ろされる。
痛さのあまりうずくまる良彦、抜け出すヴィータ。
「良彦はいっつもそんな扱いだよな、あたしのこと!」
「どういう意味か判らんけど、いまのは流石に痛いんだが、イヤ、普段、脛蹴られるのもいてーけど」
「はっ、朴念仁には良いおしおきだっつーの」
「いや、ごめん、意味判んねーから」
「ったく、てめえは…はぁ、疲れたし喉渇いたから、アイス、トリプルな」
「…は?」
「良彦の驕りで」
「なんでだ?」
「はっ、てめえで考えろっつの」
「む…判らないが、まぁいいか、俺も喉渇いたしな」
「はぁ…この修行馬鹿が」
何故か深い溜息をつくヴィータ。
「んじゃいくか、いつものアイススタンドでいいよな?」
「おう、バニラとチョコミントとオレンジな」
「はいはい、つかトリプルとか腹一杯にならないのか?」
「アイスは別腹だっつの」
「それでよく腹痛くしてんのだれだっけ?」
「うっせ、今日は大丈夫だよ、あんだけ走って暑いし、喉渇いてんだから」
「ホントはそういう時はぬるいのとかのがいいんだけどな」
「修行馬鹿+健康馬鹿か、お前は?」
「いや、常識だろ…違うのか?」
「多分あんまり知ってる奴はいねーんじゃねーか、良彦の年くらいだと」
「…爺さんから何時もそういわれてたから、疑問にも思ってなかったな」
とことこと並んで歩く様は、端から見ると微笑ましい兄妹か、それとも…。
ともあれ、まだ暑い残暑の季節、アイスは冷たく美味しかったらしい。
事件らしい事件もない、そんな話。
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まぁ、短めですが、二人の会話を…事件前なので、まったりとしています。
次回はそろそろA's開始の予定です。
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