リリカルなのは~優しき狂王~
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第五十五話~相性と意地~
前書き
更新遅れてスイマセン
遅れた理由は忙しさにモチベーションを持って行かれたことです。
あと、今回駆け足気味なので正直あまり出来はよくないと感じるかもしれません。あまり展開の進展もありませんし(ーー;)
では本編どうぞ
ゆりかご・祭壇区画
桃色と橙色の2つの光の柱。黄色と紫の軌跡とそれを囲うように飛ぶ鉄の刃。交じり合う光はそこが戦場である事を示していた。
そしてその部屋の中には戦闘する人物達の他にもう1人いた。それは未だにコンソールを弄り続けるジェイルである。彼は無表情で操作を続ける。まるで自分のすぐ横で戦闘が行われていることを日常の一部として、受け入れてしまっているかのような落ち着きぶりを彼は見せていた。
彼の逮捕の為にゆりかごに突入してきたなのはとフェイトは、隙あらばジェイルの拿捕に動こうとしていたが、それも彼の護衛である戦闘機人に阻まれてしまう。最大の目標であるジェイル・スカリエッティと言う人物が目の前にいるというのに、遅々として変化しない状況に2人は焦りを覚え始めていた。
しかも、2人が焦る理由はそれだけではない。先程から映されている違う場所での戦い。その中の1つである、ライとヴィヴィオの戦闘が2人にはどうしても気になってしまっていたのだ。
『なら、『私』は狂王として、聖王に挑む』
先ほどのライが言い放った言葉が2人の頭の中で幾度となく、繰り返し再生される。そしてその度にライの記憶の中で見た、国民の死に囲まれて悲しみライの姿が写りこんでくる。
その光景が2人を焦らせる。決して起こることはないと信じているのに、どうしてもイメージしてしまうのは、ライがヴィヴィオの亡骸を抱きしめている光景。来るはずのない“if”に戦々恐々とする2人であったが、ジェイルの唐突に呟いた言葉と目の前に映る映像に呆然とする事になった。
「ふむ、これはどうやら私たちの方が有利と見るべきかな?」
「え?」
「ウソ……」
どこか誇らしげに語るジェイルとは正反対になのはとフェイトは目の前の現実を理解ができなかった。
『ハァハァッ!』
『……』
2人が目にしたのは、息が上がりながらも健在のヴィヴィオの姿と――――
壁にクレーターを作り、その中央にもたれる様にして座り込み、血を流しているライの姿であった。
ミッドチルダ・地上
管理局側の主力である六課の隊長格が3人ほど抜けたことで、空における戦線は下げることになった。だが、いつの間にか増えていた敵の損耗によって、地上での戦闘では管理局側が盛り返そうとしていた。
はやてもライから渡された指揮権を最大限使いながら戦っていた。そして自分が指揮を一時中断しても余裕が出来そうになった頃、その報告は来る。
『ミッドチルダ郊外よりナイトメアフレームが多数接近!こちらに向かって来ます!』
これまで航空戦力としてカウントしていなかったナイトメアフレームがフロートユニットを装備しての増援。しかも、少量のランスロットタイプだけではなく、量産機であるグロースターやサザーランド、無頼タイプも共通規格なのかフロートユニットを装備していた。更に言えば、その増援の中には普通のナイトメアフレームよりも大きく漆黒の装甲をまとう機体があった。
「あれってガウェイン、やったっけ?もしかしてあれが今まで敵の指揮を取っとったんか?」
はやての独り言は正鵠を射ていた。
元々機体のペイロードが大きい分高性能のセンサー類を装備していたことと、ライの世界でも装備されていたドルイドシステムも装備されており、通常のナイトメアフレームに装備されているファクトスフィアを大きく上回る索敵能力を持っている。その為、AIとは言え指揮を行う上で大きなアドバンテージがあることに違いはなかった。
正確に言えば、ガウェイン1機が特定数の機体を制御下に置いている状態であるのだが。
はやては攻勢が落ち着いてきたため自分もゆりかご内に突入する心算であったが、今現れた敵の増援の為に二の足を踏む。
「主、はやて」
「シグナム!」
そんな彼女の傍にシグナムが飛んでくる。
「ここは我らに任せてください。我らと地上にいるキャロのヴォルテールがいればここの戦線は維持できます。なので、主はリィンとゆりかごの方へ」
そう言うと、シグナムのバリアジャケットの影からリィンフォースが姿を見せる。彼女は先の襲撃事件の際に負傷し今までデバイスとしてのメンテナンスを受けていたのだ。
「はやてちゃん、心配をおかけしましたです。2人でライさんたちを迎えに行きましょう!」
「……ありがとな!ちょう、行ってくるわ!」
迷う素振りを一瞬だけ見せたが、はやてはどこか溌剌とした顔でゆりかごを目指して飛んでいく。二つ名である『祝福の風』を表すようにリィンフォースも彼女に寄り添い飛んでいく。
はやてを見送りながらシグナムは自分が立ち向かうべき敵部隊に目を向けた。それと同時に、先ほどのリィンフォースと同じようにバリアジャケットから小柄な人影が姿を見せる。それはライの指示でシグナムと合流したばかりの烈火の剣聖アギトであった。
「どうだ、アギト?私はお前の主足り得るか?」
「……悔しいけど、旦那以上にアンタとの相性はいい」
ぶっきらぼうにそう返してくるアギトに苦笑しつつ、シグナムは大量の敵ナイトメアフレームに対してどう立ち回るのかを考え始める。先ほどはやてに言ったキャロのヴォルテールの事を一瞬戦力に組み込むことを考えたが、拮抗状態の地上の戦闘に参加しているキャロを空に上げることをシグナムはしたくなかった。
これからの展開について思考を働かせている中、唐突にアギトが声をかけてくる。
「そう言えば、ライからアンタに伝言があった」
「?」
視線をアギトの方に向けシグナムはライの伝言が何かを瞬間的に予想した。「もしや対ナイトメアフレームについての戦略か?」と考えた彼女であったが、アギトから発せられた言葉はシグナムの予想の斜め上に行く。
「『烈火の将と烈火の剣聖が揃っていて、ナイトメアフレーム如きに負けるはずはない』だってさ」
言った本人が恥ずかしかったのか、少し顔を赤くしプイッと顔をそらすアギト。シグナムは彼女の言葉に今度こそ本当に笑った。
「ハハハハ!そこまで期待されているのだ、これは手を抜けないな」
シグナムは今とても愉快であった。たった数ヶ月の付き合いで自分がここまで信じ、信じられることのできる相手と出会えたことに。
「さて、行くか!」
シグナムの言葉に頷いて見せたアギトはレヴァンティンに触れる。そして2人は声を揃えて叫んだ。
「「ユニゾン、イン!」」
叫びと共に光が放たれ、それが収まるとそこには炎の翼を広げた騎士がいた。
「行くぞ、悪夢の名を関する人形共」
そして彼女は戦場を駆け始める。自分が認めた男からの言葉を後押しにして。
ゆりかご・聖王の間
油断はなかった。この世界に来てから知り、学び、力として受け入れた魔法と言う戦闘方法を使い、今回も戦っていた。
ライは自分を強いと思ったことはない。ただ、彼は自分と相手の力量を測りその上で自分にとっての最良の結果を引き寄せる事をしているだけである。
だが、だからこそライにとって今のヴィヴィオとの相性は最悪であった。
『聖王の鎧』
全ての物理、魔法攻撃に対してオートガードを働かせる鉄壁の守り。それを身にまとったヴィヴィオに近づいたライは自分の攻撃を全て防がれ、カウンター気味の一撃をもらい、今に至っていた。
ライの戦闘における魔法運用の基本は『長時間の魔法戦闘を行う為に効率的な魔力消費を行う』である。簡単に言えば、魔力の無駄遣いを可能な限り削ぎ落とし、敵に対して必要な分だけの魔力を使うというものである。
なので、強力に見えるライのヴァリスを使った射撃魔法も、実はガジェットのAMFを破り最小限の破壊しかしないようにしている為、魔力弾はガジェット本体を貫通しなかったりするのだ。そう言う意味では、威力だけで言えばティアナの方が強力な射撃を行っていることになる。
そして、基本的には敵の攻撃は受けること無く避ける方針であったライのバリアジャケットは必要最低限の防御機能しか持っておらず、今現在溢れ出るほどの魔力の籠ったヴィヴィオの攻撃はライにとっては一撃で致命傷足りえた。
「………反応時間……魔力発動………タイムラグ…………反応量………………単発での反応時間……」
座り込んだ状態でブツブツと何かの言葉をつぶやき続けるライ。それは第三者から見れば、気が触れたようにしか見えない。
それを映像越しに見ていたジェイルは一つため息をつき、ライに語りかけた。
『君が壊れるのは勝手だが、君は僕にまだ教えてないことがあるだろう』
ジェイルの言葉に反応するようにライは立ち上がる。
『君が僕をゆりかごにいるように誘導するために、Cの世界についての情報を僕に教えたのは理解できた』
ジェイルの言葉に大きく反応したのは、ジェイルと同じ部屋にいたなのはとフェイト。彼女たちはライがジェイルに情報を――――しかも、存在自体が危険であるCの世界についての詳細を渡しているとは思わなかったのだ。
『君の思惑通り、僕はここに残りCの世界についての調査を始めた。だが、それらしい施設は見つけることができてもそれに干渉する事はできない……君は僕に嘘をついたのか?』
「………嘘はついていないさ」
ヴィヴィオに向かい合うようにライは立つ。だが、先程まであった凛々しさはバリアジャケットを濡らす血のせいでなりを潜めていたが。
「聞かれなかったから答えなかった……ただそれだけだ」
『詐欺師の――いやこの場合は子供の理屈というのかな?』
「確かに貴方に教えなかった情報の中には、Cの世界に干渉する上での最低条件は含まれていなかった。だがその方法はこの世界にいる限りでは絶対に条件を満たすことはできない」
ライは以前の取引でジェイルにギアスの存在は教えても、それの取得条件である『コード』保持者との接触、そして不老不死者である『コード』持ちの人物の詳細は明かしていなかった。C.C.のことはもちろんとして、ライ自身が自分と契約した人間の情報は摩耗した記憶からサルベージすることができなかった事も原因の一つではあるのだが。
「それを教えなかった事に意図があったことは認めるさ、だが――与えられるだけなら生きていることにはならないだろう、<無限の欲望/アンリミテッドディザイア>?」
ある人物を彷彿させられる物言いであった事に、内心不満であったライであったが、この言葉で一応の納得の態度をジェイルが見せた。何故なら<無限の欲望/アンリミテッドディザイア>であるジェイル・スカリエッティにとって知ること、知ろうとする知識欲は人間が呼吸をするのと同じで彼にとって至極当然のことなのである。だが、それを知る過程においてジェイルの科学者としての一面として自分の力で知ると言う事は大きな意味を持っていたのである。
『ふむ、それについては納得しておくとしよう。それではもう1つ尋ねるが、今の君はとても不利に見えるのだがね?まだ続けるのかい?』
「生憎と諦めは悪い方なのでな。それにまだ手はあるさ」
そう言うとライは片手を地面に付け前傾姿勢になり、一見するとスプリンターを彷彿とさせる態勢をとる。
「蒼月、モードリリース。パラディン、設定変更」
短く呟かれたその言葉を皮切りに、ライは一瞬だけ光に包まれる。
「アクセルドライブ」
その光が収まる前に呟かれた始動キー。その言葉がライに力を与えるように彼は加速する。
光が収まるとそこにあるのは、ライの魔力光である銀色の魔法陣のみ。
「!どこ――」
目の前の敵が消えたことに驚いたヴィヴィオは首を振り、目標を探そうとする。だが、彼女がライを視界に収める前に、背後からの衝撃で彼女の身体は宙を流れた。
「な?!」
聖王の鎧の防御で肉体的なダメージがないとは言え、自分の身に何が起こったのか解らないということは精神的にはあまりよくない。それが戦場であるのなら尚更であった。
この時、聖王の間全体を映している映像を見ていた六課のメンバーはライが何をやったのか、そして今現在何をしているのかを知り得ることが出来ていた。
ライはヴィヴィオの様に出鱈目な防御力を持った相手が自分にとっての鬼門であることを理解していた。だからこそ取ることができる戦術は限られてくる。
ライが取った戦術はいたって簡単、ただの力押しである。
最初の交戦で分かった、聖王の鎧の発動とヴィヴィオの敵からの攻撃に対する反応との間にあるタイムラグを検討。その結果、その僅かなタイムラグの間に攻撃をねじ込むのが最善という答えにたどり着く。
だが、聖王の鎧は明確な発動を起こしていない時でさえ、なのはの防御魔法と同程度の障壁が張られている。その為、ヴィヴィオに攻撃を通す最低条件として、全ての攻撃がカートリッジを消費させた威力の魔法攻撃でなければならない。
そしてもう1つ満たさなければならない条件がある。それは聖王の鎧に対してほぼ同時に別方向からの攻撃を複数回入れなければならないというものであった。そうすることにより、攻撃に干渉する一箇所辺りの魔力分配が少なくなり攻撃が徹りやすくなると言う考えからの結論である。
ライが使用するエナジーウイングの加速をフルに使えば、それも不可能なことではない。だが、ここに来るまでに使用したカートリッジの消費量から考えて正直な話、ギリギリであるとライは思っていた。
その為もう1つ、無謀とも下策ともいえる手段を選んでいた。
『バリアジャケットが!?』
ディスプレイから聞こえてくるのが誰の声かも判別する余裕が、今のライにはなかった。
ライは少しでも攻撃に魔力を載せる為に蒼月に設定していたバリアジャケットを解いたのだ。ただでさえ防御力が薄いライに今のヴィヴィオの攻撃が当たれば致命傷どころでは済まない。だが、勝利するためにライは自らにかける負担を増やす。
(押し切る!)
珍しく、自らを鼓舞するような言葉を内心で叫ぶ。
そしてライは自分にとって不利以外の何物でもないチキンレースに身を投じた。
後書き
ということでライが苦戦している話でした。
次回は明日か明後日に上げれると思います。
あとここからは、作者の自己解釈、オリジナル設定が少し多くなるかもしれませんがよろしくお願いしますm(_ _)m
ではまた次回
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