ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第30話 借金?借金?また借金!?
こんにちは。ギルバートです。母上がモンモランシ伯と交渉に行く事になった時、ハッキリ言って物凄く不安でした。しかし母上は、見事に交渉をまとめて見せたのです。その時心の中で、ごめんなさいと謝っておきました。まあ、謝った所で地獄からは逃げられないのは確定ですが……。
あれから3日経ち、ディーネが帰って来ると……やっぱりと言うか何と言うか、母上の地獄の特訓が待っていました。出発時の失言が原因なのですが、普段の母上を見る限り交渉事が出来る人間に見えません。これは母上の日頃の行いの所為であり、私達は絶対に悪く無いと思います。……思いたいです。
疲れましたが、時間は待ってくれません。日付は、7月の第2週の週末に達しました。来週は王都にて、父上の陞爵式が開かれます。そんな中、私達兄弟3人が母上に呼び出されました。
その時私達は、訓練後のお茶を楽しんでいたので3人一緒に居ました。3人仲良く母上の居る執務室に向かいます。
(3人一緒という事は、書類仕事じゃないみたいですね。……となると、やはり)
そんな事を考えながら、私が代表でノックします。すると、すぐに入るように返事がありました。
「失礼します」
私達の姿を確認すると、母上が口を開きました。
「あら? 3人一緒だったの? 丁度良かったわ」
恐らく話の内容は、来週の陞爵式についてでしょう。
「来週に控えた陞爵式についてなんだけど……。流石に“子供が全員欠席”と言う訳にはいかないの」
……やはりですか。要するに子供の中で、最低1人は陞爵式に出席しろと言う事です。正直に言わせてもらえば、アンリエッタに会いそうな所はパスです。会った瞬間に騒ぎになりかねません。対策はとっていたので、こちらからアクションを起こす手間が省けました。
「ギルが行くべきと思います」
突然ディーネが、そう口にしました。ディーネもそう言う席が嫌いの様です。
「いえ、年長者であるディーネが行くべきでしょう」
「ここは実子が行くべきでしょう。特に跡取りのギルは行くべきです」
「ディーネ。実子なんて、そんな悲しい事言わないでください。……そうですよね。母上♪」
私には割と余裕があります。陞爵式対策は立てていますし。
「ギルバートちゃんの言うとおりよ。私悲しいわ」
「ぐっ……。ならば姉命令です。ギル行きなさい」
ここで強権発動か。そうは行くか。
「では、兄命令です。アナスタシア。行きなさい」
「ふぇ……。あたしぃ」
自分は関係ないと思って、油断していたのでしょう。話を振られたアナスタシアは、面白い位慌てています。……あ。なんか和む。
……ちなみに私はSではありません。母上に少し影響を受けただけです。
「うぅ……お姉ちゃん」
アナスタシアが涙目で、ディーネに訴えかけます。
「ぐぅ……ぐ、ギル」
「アナスタシア」
「うぅ、お姉ちゃん」
あっという間に、もう1周しました。これでは永遠に決まらないか、母上が切れて全員出席ですね。ですが、私は面倒事はごめんです。と言う訳で、用意していた対策を使う事にしました。
「母上。塩田の設置場所の調査は、もう行っても大丈夫ですか?」
「なっ!!」「え?」
突然の話題変換に、ディーネとアナスタシアは驚きの声を上げました。しかし母上は、私の発言を予想していた様です。別段驚いた風も無く口を開きました。
「王家の許可は、アズロックが内々にとってあるから問題無いわ。守備隊の展開は、本日中に終了する予定よ。明日以降なら大丈夫よ」
ディーネとアナスタシアの視線が突き刺さるのは、無視です無視。と言うか、母上の地獄の特訓(ストレス解消)に加え、書類仕事に忙殺されていたのはこの為です。ダメとか言われたら、ガン泣きますよ。
「でしたら準備が出来次第、調査を開始したいのですが」
「……そうね。塩田の設置は急務だもの。ギルバートちゃんは、そちらを優先してくれて良いわ」
はい解決。私は陞爵式に出なくてOKです。
「で、陞爵式にはどっちが行くんですか?」
私が余裕の笑みを浮かべて聞くと、ディーネに怖い顔で睨まれてしまいます。しかし、そんなディーネに止めを刺す存在が居ました。
……アナスタシアです。
「お姉ちゃんが行くなら私も行く」
この一言で、ディーネとアナスタシアの出席が決定しました。この後ディーネがいじけていた様な気がしますが、……気のせいですね。
さて、いよいよ出発の日になりました。母上達を見送った後、私もすぐに調査に出発します。
ディーネが時々、恨みがましい目で私を睨んで来ますが全てスルーしています。実はあの後アナスタシアが、自分も調査を手伝えないか聞いて来ましたが、無いと断言しておきました。今更1人で行けと言ったら、ディーネが間違いなくキレます。そして怒りの矛先は、間違いなく私に向きます。それだけは本気で勘弁です。
母上、ディーネ、アナスタシアの3人が、竜籠に乗り込みます。私が「行ってらっしゃい」と言うと、母上だけは笑顔で答えてくれましたが、ディーネには怖い顔で、アナスタシアには涙目で睨まれました。
うん。今の心情を音楽にすると、何故かドナドナのメロディーが恐ろしくマッチします。
(如何してでしょう? 物凄く良心が痛みます。まあ、こんな気持ちは津軽海峡にポイっですね。ポイっ。……何故? 津軽海峡? まあ、気にしない気にしない)
いけませんね。最近疲れているのか、思考が変な事になっています。このままでは、大変な事(キチガイ的な意味で)になるかもしれません。
「まあ、大丈夫でしょう。今回の調査は、半分旅行みたいな物ですから。書類仕事も無ければ、堅苦しいパーティーにも出なくて良い。母上が居ない環境(ここ重要)で、ユックリさせてもらいましょう」
私は嬉しさのあまり、口から本音がダダ漏れていました♪
「若。奥様が聞いたら、大変な事になりますぞ」
声をかけられ振り向くと、そこには2人の男が居ました。
話しかけて来たのは、クリストフと言う男です。クリフの愛称で皆には呼ばれています。落ち着いた物腰と老け顔の所為で、かなり年上に見えますが実際は24歳です。白に近い銀髪が、白髪に見えるので40代と言われても違和感がありません。しかも本人が、それを気にしていたりします。土のラインメイジで、グリフォンを騎獣にしています。
もう1人が、ドナルドと言う男です。愛称はドナにしました。こっちは色白で、真っ赤な天然パーマが特徴の17歳です。これで好物がバーガーと聞いた時は“どんなネタキャラだよ”と、内心突っ込みを入れてしまいました。ですが物腰は年の割に落ち着いて、真面目な性格をしています。火のドットメイジで、マンティコアを騎獣にしています。
これから私の護衛として、仕えてくれる者達です。
調査中は、この2人の騎獣に乗せてもらう予定です。私も専用の騎獣が欲しいのですが、騎乗訓練は10歳になってからと言われてしまいました。速く1人で騎獣を乗りこなしたいです。
「まあ、良いじゃないですか。……それよりも、調査について説明します」
私は前半は明るく、後半は真面目な声で言いました。私の真面目な声を聞くと、2人は姿勢を正し私の話を聞く姿勢をとります。
「ドリュアス家は森の正体を突き止め、魔の森の問題を解決に導きました。その功績を認められ、多くの領地を王より賜る事になります。そこで賜った領地を有効利用する為、塩田を設置しトリステイン王国経済に貢献する事になりました。今回はその為の調査です。森の北西、海沿いの土地、フラーケニッセ。森の南西、海沿いの土地、オースヘム。この二カ所より、塩田の設置に相応しい場所を調べます」
王から賜った土地は、ドリュアス家の南のフェンロウ。その南のルーモンド。さらに南のガリア国境沿いのマースリヒト。森の北西、海沿いのフラーケニッセ。そのすぐ東のローゼンハウト。森の南西、海沿いのオースヘム。その東のブルーヘント。計七つの領地を賜る事になりました。
「第1条件は、近くに河口が無い事です。これは、真水が混じる場所では製塩効率が大きく落ちるからです。第2条件は、水の綺麗な場所である事です。これは出来あがった塩の味に関係します。第3条件が、1年を通してほど良い風が吹いている事です。これも製塩効率に影響します。この三つの条件がそろっている場所を探します。第3条件はある程度妥協できますが、第1第2条件は妥協出来ません。……ここまでで何か質問はありますか?」
私はそこでいったん言葉を切って、2人の反応を見ます。……どうやら質問は無い様です。
「では、北側のフラーケニッセから調査を開始します。私はクリフのグリフォンに同乗します。各自騎獣に乗り込んでください」
私の掛け声で、それぞれの騎獣に乗り込みます。準備完了を確認すると、私は叫びました。
「出発!!」
私の掛け声と共に、騎獣が浮かび上がりました。
---- SIDE ディーネ ----
ようやく王都に竜籠が到着しました。精神的には、竜籠より騎獣の方が楽ですね。
そんな事を思いながら竜籠を下りると、お父様とヴァリエール公爵にモンモランシ伯爵が出迎えてくれました。初めに出迎えてくれたのが、知っている顔だったのでホッとしました。
「ようこそ王都へ」
公爵が代表で、歓迎の言葉を口にしました。そんな公爵へ母上が対応します。しかし私とアナスタシアは、それどころではありません。竜籠の発着場には、知らない貴族達が何人も居ました。その貴族達の視線が、気になってしょうがないのです。強い敵意こそ感じませんが、何と言うか……値踏みされている様な気がして気持ち悪いです。この状況にアナスタシアは、私の影に隠れてしまいました。
「長旅で疲れただろう。立ち話もなんなので、私の別邸へ向かおう」
公爵は私達の状況に気付いたのか、そう声をかけてくれました。
「ありがとうございます」
私はホッとして、公爵にお礼を言いました。
「あちらに馬車が用意してある」
そこには4人乗りの馬車が、2台用意してありました。お父様とお母様それに公爵が、何やら話しながら馬車に向かいます。
となると……。
私がアナスタシアに視線を向けると、すがる様な眼をしながら私の服をギュッとつかんで来ました。
「その様子では、もう1台の馬車に乗るしか無い様だな」
モンモランシ伯が、そう言って話しかけて来ます。
「はい。そのようです。私達は、もう1台の馬車に乗りましょう」
「うむ」
私はアナスタシアの手を引き、もう1台の馬車に乗り込みました。それにモンモランシ伯が続きます。私達が着席し、すぐに出発すると思いましたが、ヴァリエール公爵が馬車に飛び込んで来ました。
「わざわざ狭い方に来るとは、如何したんだね?」
モンモランシ伯の質問に、公爵は心底嫌そうに答えます。
「あの万年新婚夫婦と、密閉されて空間で一緒に居ろと?」
「あー」
モンモランシ伯が、納得の声を上げました。私もその気持ちは良く分かります。公爵が腰を下ろすと、馬車のドアが閉められ動き出しました。
「ギルバートが居ないようだが、如何したのだ?」
「逃げました」
公爵が私に聞いて来たので、私は間髪いれず答えました。
「何!? 理由は?」
「問い詰めましたが、口ごもるばかりで答えてくれませんでした。公式の場が嫌だったのでしょう」
「侯爵家の嫡子になるのに、それはいかんな」
伯爵の評に公爵が頷きました。私もそれには同感です。
「あの」
意外な事に、ここでアナスタシアが口を開きました。
「何だね?」
公爵が優しく問いかけます。
「……アンリエッタ姫に、会いたく……ないって、言ってました」
慣れない人の前で緊張したのか、アナスタシアがたどたどしく口を開きます。私的には褒めてあげたいのですが、その内容がよろしくありませんでした。伯爵は渋い顔をします。そしてそれは、私の顔も同様だったでしょう。よりにもよって、自国の姫に会いたくない等と言う、馬鹿が居るとは思いませんでした。下手をすれば不敬罪ですよ。
しかし、公爵の反応だけは違ったのです。
「あっ……、あー。そう言う事か」
どうやら公爵だけは何か知っている様です。
「何か知っているのですか?」
私の質問に、公爵は答えにくそうにしています。
「何か知っているなら、答えてあげても良いんじゃないか?」
「教えて」
伯爵とアナスタシアの加勢を得て、公爵が渋々と言った表情で口を開きました。
「アンリエッタ姫が陞爵式に出席するから、ギルバートは出られん」
「何故?」「え?」「ほう」
私達の反応を無視して、公爵は説明を続けました。
「今年の5月に、アンリエッタ姫が国王の壺を割って逃亡した事があって、王宮外に逃げたと大騒ぎになったのだ」
伯爵はその話を聞いた事があるのか、頷いていました。
「……しかし逃げだ先は、外では無くギルバートが居た王宮資料庫だったのだ。姫はギルバートを脅して、王宮資料庫に隠れていた。それをギルバートが、我々に報告したのだ。その際姫に王族としての自覚を持たせる為に、ギルバートが姫をかどわかした犯人として、姫の前で逮捕して見せた。姫にギルバートは、チェルノボーグ監獄に居ると言ってある」
「「「……………」」」
あまりな内容に、私達3人は絶句してしまいました。しかし、話は更に続きます。
「その事件の後は、姫も王族としての自覚を持ったのか、お転婆ぶりが鳴りを潜め姫に近い家臣たちは大変喜んでいる。……かく言う私もその1人だ。だがその事件の後、姫が笑わなくなってしまってな。私と王が、ギルバートの事を話そうとしたのだが、他の家臣に絶対に話さない様に泣きつかれている。切っ掛けの事件が事件だけに、私も王もその願いを無碍に出来ない状況なのだ」
家臣が泣きつくって、普段のアンリエッタ姫って……。私は普段の姫を想像して、そんな姫など居る訳ないと頭を振りました。と言うか、居ないと信じたいです。
「その後の姫の事は、私もアズロックも話していないはずだが、ギルバートは知っていたのかもしれんな。それで効率を重視して、領に残る事を選択したのだろう。娘達はギルバートに会うのを楽し……み……に…………」
しかし公爵は言葉の途中で、何かに気付いた様な仕草を見せると、何故か青い顔になり震え始めます。その様子に私達が声を掛けられずにいると、馬車が止まりました。どうやら公爵の別邸に到着した様です。
私達は馬車を下りましたが、公爵だけはなかなか下りて来ません。別邸の前で出向かえてくれているのは、カリーヌ様、エレオノール様、ルイズ、コレット様、モンモランシー、使用人数人……それに病弱で領を出られないはずのカトレア様が居ます。カトレア様は上機嫌の様で、コロコロと笑っていました。
少し待つと、観念した様な表情で公爵が下りて来ました。その時にはもう、お父様とお母様がカリーヌ様達に挨拶をしていました。
公爵の降車を確認すると、御者が忘れ物がないか簡単に確認し馬車のドアを閉めます。一仕事終えた馬車は、再び進み始めました。馬車は車庫に、馬は馬小屋に帰すのでしょう。
遅れて来た私達4人を確認すると、何故かルイズが焦った様な声を上げました。
「あっ あの あのあの 兄様、ギルバート兄様は?」
「領地経営の準備の為、ドリュアス領に残りました」
様子が変な事に訝しく思いながらも、私は正直に答えました。
「……そんな」
(しかし“ギルバート兄様”と来ましたか。ギルはルイズに、そこまで好かれていたでしょうか? そう言えば、ギルがカリーヌ様と公爵家に行った時の話は、ギョームの件以外はやたら歯切れが悪く、何も話してくれませんでしたね)
明らかに落胆しているルイズに、公爵が諭すように声をかけました。
「我儘を言ってはいけないよ。私の小さなルイズ。今後を考えれば、仕方が無い事なんだ」
公爵の言葉に、納得してルイズが頷こうとします。しかしそれを止める様に、声が上がりました。
「本当の所は、如何なんですの」
その声の所為で、先程まで暖かかった場の空気が、一瞬にして凍りつきました。声を上げたのはカトレア様でした。先程までコロコロ笑っていた人の声とは、とても思えません。何か物凄く冷たくて……背筋がゾッとする様な……。
「いや……その、なんだ……」
公爵の態度が、明らかに挙動不審になりました。後ろめたい事があると、言っている様なものです。先程の件だけなら、そこまで挙動不審になる事は無いと思うのですが……。
「まあ、ギルバートの事は仕方が無いでしょう。それよりも、玄関先で何時までも立ち話では……」
何故かお父様が、公爵のフォローに入りました。公爵ほどではないですが、お父様も若干目が泳いでいて挙動不審です。
「お話。聞かせてもらえますね?」
カトレア様が笑顔で確認していましたが、まとう雰囲気が明らかに脅迫です。側に居るだけの私でさえ、怖気が走ります。カトレア様はこんな人だったでしょうか? と言うか、何故こんなに怒っているのでしょう?
公爵とお父様が、カトレア様に連行されて行きます。カリーヌ様とお母様も不味いと思ったか、3人について行きました。心配ですが、私達もここで立ちっぱなしと言う訳には行きません。
「エレオノール様。ルイズ。取りあえず……」
私は声をかけようとしましたが、エレオノール様もルイズもガタガタ震えるばかりで、私の声は全く耳に入っていませんでした。私達が途方に暮れていると、別邸から老執事が慌てて出て来ました。恐らく広間に控えていたのでしょう。たしか、ジェロームと言う人だったはずです。
「申し訳ありません。すぐにお部屋にご案内します」
ジェロームさんは、申し訳なさそうに頭を下げ私達を案内してくれました。
荷物を置いて一息つこうとしたら、アナスタシアが部屋に突入して来ました。一緒にモンモランシーも入って来ます。私はこの状況に違和感を覚えました。本来ならモンモランシーも、アナスタシアと一緒に突撃して来るはずなのです。しかしその原因は、モンモランシーの言葉ですぐに分かりました。
「もう。アナスタシアったら、子供なんだから。そんなんじゃ、レディーとしてダメよ」
今のモンモランシーは、昔ギルに対していた時の自分そっくりです。アナスタシアに対して、お姉さんぶりたいのでしょう。この事実に私は、苦笑いしか出ませんでした。
そんな感慨にふける間も無く、扉がノックも無しに突然開きました。部屋に入って来たのは、ルイズでした。そのまま私の後ろに隠れ、背中にへばりつきます。
「待ちなさい!!ちびルイズーーーー!!」
どうやら、エレオノール様から逃げて来たようです。エレオノール様は、私の後ろに隠れるルイズを確認すると、怖い顔でズンズンと歩いて来ます。
「ディーネさん。お説教をしなければならないから、ちびルイズを引き渡してくれませんか?」
ルイズは震えながらも、必死に私にしがみつきます。正直言って、ここで見捨てるのは私の精神衛生上よろしくありません。
「まあ、エレオノール様。落ち着いてください。いったい何があったのですか?」
「生意気なちびルイズが、姉である私を馬鹿にするから!!」
「何と言ったのですか?」
「そ それは……」
途端にエレオノール様の怒りが霧散し、挙動不審になりました。まあ、どの道ルイズの不用意な一言が原因でしょう。
「何があったか知りませんが、お茶にでもしませんか?」
私の提案にしぶしぶと言った様子でしたが、エレオノール様は了承してくれました。
お茶の準備が整い、とりとめのない話で談笑しながらお茶会は進行して行きます。エレオノール様とこうしてお茶お飲むのは、初めてヴァリエール公爵家にお邪魔した時以来ですから、実に2年ぶりと言う事になります。相変わらずエレオノール様は聡明で、楽しい時間となりました。しかしこのお茶会は、楽しいままでは終わりませんでした。切っ掛けは、アナスタシアの一言です。
「さっきカトレア様が、凄く怖くなったけどあれって如何して?」
この言葉に、エレオノール様とルイズが固まります。聞くに聞けなかった事なので、アナスタシアが代わりに聞いてくれて助かりました。
「私もカトレア様の地雷は、把握しておきたいです」
「ジライ?」
アナスタシア以外の人が、不思議そうな顔をしました。そう言えば、ギルから教わった言葉でした。
「踏むと爆発する危険な物らしいです。歩くのを会話、踏む場所を話題や言葉に例えると分かりやすいと思います。この場合は禁句の事です」
「へー。面白い表現ね」
エレオノール様が、感心したように呟きました。
「ギルに教えてもらいました。何かをして、損をした時にも使うらしいです。分かっている物は、“見えてる地雷”と表現していました」
エレオノール様は、感心した様に頷いています。ルイズとモンモランシーも、私の説明で何となく分かった様です。しきりに頷いていました。
「つまり“見えない地雷”より“見えている地雷”の方が、助かるって事ね」
「さすがエレオノール様です。その通りです」
「そうね。他の人が踏んだ地雷に巻き込まれるのは、嫌だから教えるわ」
ルイズもエレオノール様の言に納得したのか、しきりに頷いていました。
「……その前に、カトレアとギルバートって付き合ったら上手く行くと思う?」
エレオノール様の言に、ルイズ以外の全員が迷わず首を横に振りました。
「それは絶対にあり得ないと思います。ギルの好みは知りませんが、明らかにカトレア様を避けています」
私の言葉に、エレオノール様を含めた全員が頷きました。
「……それよ。それが問題なの。あの子、最初にギルバートが家に来た時から、ギルバートが気になっているみたいだったの。話をすると必ず話題に出て来ていたから。家の皆もあの子が恋を出来たって、複雑な思いはあっても喜んでいたわ。でも去年母さまが、ギルバートを連れて来た時に、何かがあったみたいなの。あの子、ギルバートと結婚するって言い出したのよ」
エレオノール様は、いったん言葉を切ると大きなため息を吐きました。そして、視線をルイズに向けます。それに気付いたルイズは、涙目になり首を横にブンブン振りました。
「原因はちびルイズが、カトレアとギルバートを引き合わせた事みたいなんだけど……」
「わ 私悪く無いもん。ちい姉様に頼まれて……」
ルイズが反論しましたが、エレオノール様が一睨みで黙らせました。
「いい!! ちびルイズ!! 良く考えなさい!!」
「はい!!」
「気になる男の子が出来ました。でもその男の子は、何故か自分を避けるのよ。嫌だと思わない? 悲しいと思わない?」
「はい!! 嫌です!! 悲しいです!!」
「経緯はどうあれ、その男の子がお見舞いに来てくれました。しかも、素敵な帽子をプレゼントしてくれました。嫌われてなかったと思わない? 嬉しいと思わない?」
「はい!! とっても嬉しいです!!」
「そうでしょう!! 今まで嫌われていると思っていた分、ころっと行くでしょう!! しかもこれで、あの帽子を貰ってないのは私だけよ。仲間外れにして楽しいの? 自慢したいの?」
何時の間にか論点が擦り替わっているのは、気のせいでしょうか? そう思っていると、エレオノール様が立ちあがりルイズの頬に手を伸ばします。頬を抓るつもりの様ですが、手の動きが遅いのでルイズなら簡単に避けられるでしょう。そう思い考えをまとめようと、思考の海に身を投げ出そうと……。
「ちび!! ちびルイズ!!」
「いだい~~~~」
何故避けないのですか? と言う疑問に駆られましたが、すぐにエレオノール様の教育の賜と気付きました。恐らくルイズの様子から、避けたら罰を倍にする等の教育を施したのでしょう。ギルに同様の教育を施すか一瞬悩んだのは、私だけの秘密です。それよりも、このまま見ているのは、私の精神衛生上よろしくありません。
「エレオノール様。話の続きをしましょう」
「ムッ。……分かったわよ」
多少不満そうな表情が見えましたが、エレオノール様は席に戻ってくれました。
「実際問題、カトレア様とギルの結婚は難しいのです」
「うぅ。……そうなのよね」
「えっ? 如何して?」
私とエレオノール様の会話に、モンモランシーが初めて割り込んで来ました。アナスタシアも不思議そうな顔をしていたので、分からない様です。ルイズは暗い顔をしていたので、既に誰かから話を聞いているのでしょう。そんなモンモランシーに、エレオノール様が説明を始めます。
「とにかくカトレアの健康状態ね。あれでは子供が産めないわ。跡継ぎが産めない女は、貴族の嫁として問題があるわ。特にギルバートは嫡子だから、これは譲れないわね。まあこの問題は、ギルバートのおかげであの子も頑張っているから、王都に出て来れるまで回復しているのだけど」
そうか。そういう問題もあるのか。しかし私が懸念しているは、その問題じゃありません。
「一番の問題は、ギルの気持ちでしょう。ドリュアス家の人間は、例外無くギルの気持ち最優先で動きますよ。……そう。例外なく」
最後の「例外なく」を強調したので、エレオノール様もルイズも私の言いたい事を理解してくれた様です。エレオノール様は怒りで顔を真っ赤にし、ルイズは顔を真っ青にして震え始めました。
「ディーネ!! 貴女ヴァリエール公爵家の娘を……」
「本気で嫌がっている男の下に嫁いで、カトレア様が幸せになれると思っているのですか?」
「うっ……。そうね。貴方の言うとおりだわ」
こうしてお茶会は、気まずい雰囲気のまま終わりを迎えました。この後何故か、ルイズがディーネ姉様と呼んで来るようになりました。……エレオノール様を言い負かしたからでしょうか?
この日の夕食の席に、公爵とお父様は居ませんでした。カトレア様の機嫌は、元に戻っていたから良かったのですが、カリーヌ様とお母様の機嫌が物凄く悪くなっていました。帰った時の事を考えると、頭が痛いです。
明日からは、発着場に居た様な貴族の相手をしなければならないのに……。
---- SIDE ディーネ END ----
ようやく調査が終わったので、ドリュアス領へ帰って来ました。予定より少し時間がかかってしまい、7月の第4週も半ばに達しています。家の様子から察するに、既に父上達は帰って来ている様です。
「クリフ。ドナ。調査中の護衛お疲れ様でした。今回の護衛任務は、これで終了です。私は今回の調査内容を、父上と母上に報告に行きます。解散してください」
私の号令に応えると、クリフとドナが騎獣舎へ向かって騎獣を飛ばしました。それを確認すると、老執事のオーギュストと一緒にディーネとアナスタシアが、出迎えの為に館から出て来ました。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ。坊ちゃん」
「お帰りなさい。ギル」
「お帰りなさい。兄様」
オーギュストには、いい加減坊ちゃん言うの止めてほしいです。見た目的に違和感は無いのでしょうが、中身的には違和感あり過ぎです。オーギュストは私の中身を知っているので、呼び方を変えてほしいと再三言っているのですが、本人全く直す気が無い様です。私も半ば諦めていますが……。
「調査が終了したので、父上と母上に報告したいのですが」
「ただいま旦那様と奥様は、接客中でございます」
「客?」
「どうも王都から来た商人の様です」
私達は館の中に移動しながら話していました。
「ふざけるな!!」
丁度客間の前を通った時に、突然父上の怒鳴り声が響きました。いけないとは思いましたが、私達は聞き耳を立てます。
「しかし、返していただかなければ私たちが困ります」
「ドリュアス家がした借金では無い!!」
借金?
「書類は正式な物ですし、王印もあります。これは間違いなく、現領主のドリュアス家が返済しなければいけない借金です」
「くっ」
「とにかく払えないのでしたら、利息分でも払っていただきます」
どうやら、父上も母上も言い返せない様です。
「今日の所は、これで失礼します」
どうやら商人は帰る様です。私達は隣の部屋に隠れて、商人をやり過ごしました。そしてすぐに、父上達の居る客室に突入します。
「父上!! 母上!! 借金とは如何言う事ですか!?」
「ギルバート。帰っていたのか?」
「はい。先程戻ったばかりです。それより、借金とは如何言う事ですか?」
私の質問に、父上は額を抑え大きなため息をつきました。母上は……、見なかった事にしよう。大気がチリチリ言っています。
「……父上」
「やられたよ。フラーケニッセ領とローゼンハウト領の名義で、借金があったのだ。いや、あった事になっているか? 通常は領名義での借金は御法度なのだが、王印が押してある以上有効だ。合計で30万エキュー近い借金だ。利子も法外で、月一割だそうだ。来週には33万エキューに膨れ上がるな」
父上の言葉に、私の頭を抱えてしまいました。ダイヤモンドと“水の精霊の涙”と言う切り札が無ければ、ドリュアス家が用意できる金額は、40~50万エキューがやっとです。確実に開拓が失敗する金額ですね。しかし切り札が有るとは言え、ここで止まれば事態は悪化します。下手をすれば、切り札さえ飲みこまれかねません。
「父上。先程王印が押してあると聞きました。王家に確認しましょう。同時にヴァリエール公爵に、手形の用意をお願いしてみてはいかがでしょう」
私の言葉に、父上が渋い顔をしました。
「状況から見て、返済を回避する事は恐らく不可能でしょう。利子を出した分だけ、敵を儲けさせるだけです。ならば敵が嫌がるのは、いきなり全額返される事です。借金があるという事実は、お金を借りるのに大きな弊害となります。利子と借金の妨害が、敵の目的で間違いありません」
「その通りだな。それと同じ手が使えぬように、手も打たねばならいな。私はその足で、ヴァリエール公爵とクルデンホルフ大公に金を借りて来る。ダイヤモンドと道具袋を貸してくれないか?」
私は大きく頷くと、部屋にあるダイヤモンドを取りに行く為に歩き始めました。
今回の妨害は、リッシュモンの野郎が犯人で間違いないでしょう。
必ずこの借りは返します。覚えてやがれ。
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