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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第40話 バルトマンの過去(後編)

 
前書き
明けましておめでとうございます、blueoceanです。

これからもよろしくお願いします!!! 

 
それはバルトがカリムの専属騎士になって2ヶ月経った頃の出来事だった。

「アグラットへの介入が正式に決まった。明後日出発し、そこでお前と出会った国に付き戦う事になるだろう」

ロレンスに呼び出されたバルトは入って早々にロレンスにそう告げられた。

「そうか。俺は………」
「留守番だ」
「はぁ!?」
「お前はカリムのお抱えだろうが。護衛がいなくなってどうする」
「いや、だが大した事は全然無かったし大丈夫だろ」
「ん?大した事が無い?と言う事は一応何かあったのか?」
「まあな。カリムを暗殺しようとしたり、狙撃しようとしたりしてた奴は居たな。………後は俺に色々とちょっかいかけてきたりしてきた位だな」

そう説明しながら机の上にあったクッキーを食べるバルト。
そんなバルトに対し、ロレンスは固まっていた。

「………おい、カリム狙われたのか?」
「ああ、そうだぞ。………このクッキー美味いな………」
「定期報告には無しと聞いていたが?」
「ああ、カリムには気づかれずに全て始末したから問題無い」
「問題あるわ!!!言ったはずだよな?襲われた場合逐一報告しろって!!!」
「………忘れてた」
「この馬鹿野郎が!!」
「うおっ!?」

机越しに殴りかかってくるロレンスを避け、拳を掴んだ。

「ま、待てって!!無事だし問題ねえだろ!!!」
「問題無いだと………カリムに傷でもあったら俺はマジでお前を殺すぞ!!!!」
「いや、死合うのはむしろ願ったり叶ったりだが、そんな理由で戦いたくねえわ!!それよりも先に話す事あるだろうがこの親バカが!!!」

互いに譲らず、睨み合う2人。
やがてため息を吐いたロレンスが深々と椅子に座りバルトを見た。

「だな………で、バルト、お前には引き続きというか、本腰を入れてカリムの護衛を頼むぞ」
「いや、俺はいつも真面目に………」
「お前に真面目って言葉は無い」
「いや、決めつけるなよ」
「とにかく、俺が消える事で相手も本腰を入れてくるだろう。………だから娘を頼むぞ」

真っ直ぐバルトを見てそう言うロレンス。その顔はいつも以上にバルトに懇願しているようにも見えた。

「………分かった、引き受けよう。………だがな、その場合は夜もカリムの傍についてねえといけねえな………」
「お前!!どさくさに紛れて俺の娘に手を出すつもりか!?許さんぞ!!手を出した瞬間首を刎ねる!!!」
「あんなガキ、手を出さねえよ」
「何だよ魅力が無いってか!?言っとくがな、後2、3年すれば見違えるほど美人でボンキュボンになるぞ!!お前それでも男か!?」
「あんたは一体俺にどうして欲しいんだよ………」

もはや突っ込む気力も無くなったバルトだった………






















「………って事で、護衛を夜も付こうと思うんだが………」

昨日のロレンスとの会話をそのまま伝えたバルトはカリムの答えをコーヒーを飲みながら待っていた。
バルトもそこまでデリカシーが無いわけではない。嫌と言われればそれでも良いと思っていた。

「大丈夫よ。夜は他の騎士も夜間巡回しているし、バルトもバルトもいざという時に休んでないと大変でしょ?」
「別に俺はどこにでも寝れるから外で寝ていても良いんだが………」
「大丈夫だって」
「しかしだな………」
「それに?」
「バルトに寝顔を見られたくないもん………」

恥ずかしそうに言うカリムだったがバルトの反応は冷ややかだった。

「何だ?寝顔なんて別に平気だろ?あっ、分かった、実はいびきがうるせえとかそんなんだろ?悪い、悪い気を遣わなくて………って何で睨んでんだ?」
「私いびきなんてかかないわよ!!!」

結局バルトはカリムの部屋の前で寝ることになった。






「久しぶりだな、ベットの無い場所で休むのは………」

その日の夜、早速廊下に座り、壁に背中を預けるバルト。

「最近はこの生活にも慣れてベットも嫌いじゃ無くなったが、やはりこっちが落ち着く………」

デバイスガーフォルを展開し、それを立てて抱え込み窓から見える夜空を見る。

「ここに来る前はこうして休むのが普通だったんだがな………人生分からないもんだな………」

そう呟きながらこれまでの事を思い出すバルト。

「もしかしたらこれが幸せってやつかもな………ジジイとバカやってカリムとのんびりして………って俺働いてないな!」

と1人小さく笑うバルト。

「守ってやるさ、ジジイ。だからそっちもヘマすんじゃねえぞ………?」

そう呟いてバルトは浅い眠りについた………














バルトが眠りにつく3時間前………

「団長、管理局S級4番艦、オレゴン到着しました」

遠くから騎士の一人がやって来て報告してきた。

「おう。………随分遅い到着だな」
「S級ですか………一番小さい艦ですね………」

団長のお付きの騎士、ロイ・ルーダルが小さく呟いた。

「まあ少々狭いが第2騎士団が乗れるスペースはあるだろう。そんなに遠い世界じゃないし、我慢してろよお前ら」

そう言って敬礼した部下を確認した後、降りてきた人物の所へ向かう。

「初めましてですな、管理局少将のグレゴール・オルソーです」

年齢は40代後半のちょび髭を生やした男性がロレンスに挨拶した。

「聖王騎士団団長ロレンス・グラシアです、今回は宜しくお願いします」

がっしりと握手を交わす2人。

(………一世界の介入に最高指揮官が少将か………S級の艦からみてもやはり本気で介入する気は無いって事か………)

と、そんな感想を思いながらも表は笑顔で対応していた。

「早速ですが、管理局側からはどのくらいの戦力が集まりましたか?」
「私の部下たちを含め、50名ちょっと。その中武装隊として前線にでるのは30名ですな。そちらはどうですか?」
「第2騎士団150名です」
「ほう、第2騎士団ですか!!精鋭ばかりのベルカの騎士の実力期待しておりますぞ!!」

そう笑いながら自分の艦へと戻っていくグレゴール。

「………団長?どうしましたそんな怖い顔をして………」
「いや、今回は色々と苦労すると思ってな………自分の部下って言ってたよな?期待できそうに無いな………」
「元々我々だけでも良かったんです。ですがセルド大司教が管理局に協力を要請して………」
「セルドが………?確か奴は元々管理局の出身じゃなかったか?」
「はい、確かそうでした」

そんな部下の言葉を聞いてバルトは考える。

(待てよ………もし犯人がセルドだった場合、管理局が裏で通じている線はありそうだな………管理局と聖王教会2つが更に繋がりを強め、一番邪魔な俺を先ずは排除する。そうすれば奴自身更に上の位に上がれる。もしくは管理局で良い地位で受け入れてもらえるようにしたのか?どちらにせよいつ何が起こるか分からないな………)

「準備出来ました、騎士のみなさん、艦への搭乗をお願いします」

管理局の局員にそう言われ、順に搭乗していった………











(………ん?部屋から複数の人の気配がする)

静かに立ち上がり扉に耳を当てる。

(話し声は聞こえるが、知り合いか?カリムも落ち着いて話している………問題無いか)

カリムの部屋は一階にあり、窓から要件を言いに来る者も多い。
流石のバルトも夜に女性の部屋に勝手に上がる様な事は出来なかった。
扉越しに聞こえたカリムの声に安心してしまったのが問題だった。

「ん?静かになったな………話が終わったのか?………いや違う!!」

扉を破壊する勢いで蹴り上げるとカリムを抱え上げているシエラがいた。

「………てめえ、何してる?」
「くっ、時間を稼げ!!」

シエラの命令で側に控えていた男達がバルトに襲いかかった。

「邪魔だ、どけ!!!」

ガーフォルで男の振るった剣を受け止め、力尽くで振り、男2人を吹っ飛ばした。

「カリム!!!」

大声で呼ぶが反応がない。
その隙にシエラは窓から外に出てしまった。

「あのバカ、何の疑いもなく睡眠薬飲んだな……ちっ、逃がすか!!」

起き上がった男に電気を流し、完全に気絶させた後、バルトも2人を追って窓から外に出た。

「ちっ、車か!!」

エンジン音が聞こえた後、走る音が聞こえる。

「待ちやがれ!!」

雷神化。
バルトがこの3年得た技であり、荒技である。
自身の筋肉に電気を流し、強制的に人間の限界を超えた動きを可能にする技だが、無理やり動かすこの技は後々にその負担が自身に返ってくる技だ。しかしその分効果は高い。

現にこの技を使い、ロレンスの虚を突く事が出来た。
………もっとも結果的には負けてしまったのだが。

「どこに行く気だ………?」

車に追走出来るほどのスピードで追いかけるバルト。
しかし直ぐには助けようとせず、その後を気づかれないように追いかけているだけであった。

「輸送艦………?」

車の向かった先は10分ほど移動した滑走路だ。
ここは艦の停留所として大きなターミナルとは違い、しっかりした場所では無いが、着陸し、離陸することの出来る場所だ。
因みにロレンスが管理局と合流したのもこの場所だ。

「何処かへ連れ出す気なのか?」

車が中に乗り込むのを確認した後、バルトは輸送艦に近づく。

「さて、どう中に乗り込むか………流石に壊して侵入したら気が付かれるよな………ん?あれは………」

輸送艦にへばりついて周りの様子を見ていたバルト。すると暫くして輸送艦の中から1人ゆっくりとスーツのサングラスの男が降りてきた。

「良いタイミングだ…………だけど何でスーツとサングラス?まあいいか………」

そう呟いたバルトはゆっくりと男に近づいて………

「うっ!?」

得意の電気を流し、気絶させた。

「さて、後はこいつになりすまして………」

そう呟きながら機体の陰に隠れて身ぐるみを奪うバルト。

「さて………これでOKだな。………髪は………どうにもならないか………まあいい、後は成り行きに任せるか」

そう決めたバルトは堂々と輸送艦へと入って行った………


















「これはどういう事だ?」
「いえ、私も何が何だが………」

ロイに聞くが困った顔で返事を返された。
目的の星についてみれば、戦闘は行っておらず、オレゴンは何もない荒野に降りて早々囲まれていた。
周りを囲む魔導師から質量兵器の数々。

乗っていたメンバーは手を上げゆっくり降りた。

「どういう事だグレゴール!?」

手を上げながら後ろを向き、声を荒げるロレンス。

「………無闇に動かないで頂きましょうか騎士団長?」

そんなロレンスに向かってデバイスの杖を向けた。

「グレゴール。………やはりこれは………」
「まあお察しの通りですな。貴方を邪魔だと思っているのは何も聖王教会だけじゃないって事ですよ」
「………だが、何故この星の奴らまで協力している?」
「この部隊は敵国ですからな。協力してもらう代わりにそちら側の国に付くといった条件でな」
「お前等は………!!」

睨むロレンスに余裕そうにグレゴールは笑う。

「俺が連れてきた騎士も………」
「残念ながら先に乗っていただいた後、変わってもらったよ。今いるのは第4騎士団だ」
「だから俺とロイの2人は別の場所に、その後、離陸まで少し時間が空いたのか………」

そんな会話をしつつ、ロイの顔をチラリと見た。

(どうします………?)
(奴らはチェックメイトだと思って油断している。ロイ、お前はここから離脱し、何としてもこの事実を聖王教会に伝えろ)

「さて、私もこれでも忙しい身でな。そんなに時間をかけていられないんだ」
「ほう、少将でも馬車馬みたいに働くんだな」

(ですが団長………!!)
(俺の強さは知っているだろ。ある程度戦ったら逃げる)
(だけどこの数は………それに団長は………)
(大丈夫だ、こいつらを相手にしているよりもバルトの相手をしている方がよっぽど疲れる)

「口だけは余裕の様だ。………さて、これで終わりだ、騎士団団長」

そう言って手を上げたその時、

「ロイ!!」
「はい!!」

お付きの騎士のロイが地面に小さな玉を叩き付け、そこから大きく煙がモクモクと上がった。

「煙幕!?くっ、古典的な手を………うぐっ!?」
「………悪いな、先ずは指揮官を潰して命令系統を混乱させてもらう」
「ロレンス………誰か!!ロレンスはここに………」
「良いのか?こんなに視界の悪い場所で攻撃したらお前まで巻き込まれるぞ」

そう指摘されると途端に真っ青になるグレゴール。

「う、撃つな!!早く煙をどうにかしろ!!」
「その前にお前は気絶してろ!!」

ロレンスに鳩尾を殴られ、悶絶するグレゴールに止めと言わんばかりに手刀を放って気絶させた。

「これで少将か………今の管理局は無能な奴ばかりがはびこっているのか?………まあいい、これで準備はよし。後はロイが逃げ切るまでどこまで敵を引き付けていられるかだな………しくじるなよロイ………」

そう小さく呟くと同時に煙が晴れ始める。

「いたぞ!ロレンスだ!!」
「おっと、今手を出すとこの上司様まで巻き込むぜ?」
「くっ………」
「後ろの奴も手を出すなよ!!お前がワシを攻撃するのとワシがこいつを殺すのとどちらが速いか勝負してみるか?」」

そう叫ぶと途端に武器を下す管理局の部下達。
しかしこの国の人間は違った。

「奴を殺せ!!殺せば莫大な援助を得られる!!!」

指揮官の声か、大声で命令を下した瞬間、攻撃が始まった。

「あいつら、俺達がいる中で………!!」
「全員、盾で身を守れ!!」

第4騎士団は主に攻防一体の戦闘スタイルを得意としたメンバーで構成された部隊だ。なので盾と武器を持つ騎士が多い。

「よし、狙い通り混戦状態になった。後は………」

そう呟いてグレゴールを地面に下ろし、自身のデバイスを展開するロレンス。

「後は逃げながら戦うのみ!!」

そう力強く呟いたロレンスは向かって来た騎士達を一閃し、気絶させたのだった………












「さて、潜入したのは良いが………」

「くそ、どこへ行った!?」
「探せ探せ!!」

「やっぱり無理があったか…………」

と苦笑いしながら探し回る乗組員の様子を見ているバルト。
バルトの潜入は離陸後乗組員がバルトとぶつかった際落ちたサングラスの影響でバレることになり、それ以降撃退しながら逃げていた。

「………まあ戻らないところを見るとどうやらこのまま目的地へ行くみたいだな」

そう言いながら匍匐前進で前へ進む。
追いかけられているバルトは誰も居ない部屋に入った後、直ぐに天井裏へと登り、匍匐前進で進んでいた。

「この先にカリムが入れば良いんだが………まあ進めば分かるか」

そう呟きながら静かに進むのだった………









「まだバルトは見つからないの………?」
「はい。乗組員全員で捜索していますが未だに発見できていません」

輸送艦のブリッジ、そこにカリムを誘拐した張本人のシエルがいた。

(ついてるな俺。まさか進んだ先でカリムを見つけられるとはな………しかしあのバカぐっすり寝ていやがるな………こっちは苦労してるのによ………ったく)

小さな穴を開け、ブリッジの様子を見たバルトは椅子に座っているカリムを確認でき安心する。そしてブリッジでの会話に耳をかたむけた。

「もういいわ。貴方たちは輸送艦の操縦に集中しなさい。捜索は他の乗組員に任せるわ。全く、車に付いてくるなんて………」
「ログスバインの名は伊達ではありませんね………」
「その名を名乗るな!!!あんな男にその名は合わないわ!!!団長の身勝手な決定で決められただけよ!!!!」
「す、すみません………」

そんなシエルの感情むき出しの発言にブリッジいる全員が静まり返るが、自然に自分の業務に戻った。

「驚いた………あんなに大声を上げるシエルを見るのは初めてだ………ジジイの作戦、イマイチ効果無いと思っていたがそうでもなさそうだ………」


そんな事を呟きながら引き続き、バルトは天井裏から様子を見ているのだった………





















(ロイは上手く逃げられたか?)

攻撃を最小限のステップで避けながらロレンスは思う。

「団長、覚悟!!」

後ろから盾を前に構え並んで向かってくる騎士が3人。

「並んで攻め、敵の攻撃を分断させ、攻撃する。教え通りだな………だが!!」

ロレンスは魔力を込めた刃で横一閃。向かって来た3人を吹っ飛ばした。

「マニュアル通りじゃ強い敵には通用しないぞ?………くっ!?」

そんな言葉を送った後、ロレンスに向かって放たれる砲撃。

「………流石に立て直してきたか………あの少将どのがもう目を覚ましたとは考えられん。………他にまとめる奴が居たって事か………」

そう呟きながらロレンスは横を見るとロレンスに向かって砲撃魔法を放とうとする一団を見つけた。

「やれやれ………ご老体を労わるって気持ちは無いのかね………」

そんな言葉を吐きながらそこに向かって行くロレンスだった………













「もう少しで付きます」
「着艦は戦場から離れた場所に止めなさい。でないと巻き込まれるわよ。………グレゴール少将から連絡は?」
「依然ありません」
「もしかしてドジったのかしら?使えないわね管理局も………まあいいわ、降りて確認する。それと全乗組員に通達。バルトは着艦と同時に動く可能性が高いわ、注意しなさい」
「了解」

そんな指示を出している内に機体は降下に入っていった。

「後は戦場の状況が分かればいいんだけど………」
「残念ながらお前がそれを知る時はねえよ」
「えっ!?うっ………!?」

小さな呻き声をあげ、倒れるシエル。

「ん………お前はバルト!!」
「動くなよてめえ等。じゃないとこの裏切り秘書さんにトドメをさすぜ?」

その脅しにブリッジにいた乗組員達は手に持った武器を下ろし地面に置いた。

「それでいい。お前達は着艦に集中しろ。安心しろ、お前達が何か変な動きをしないうちは殺しはしないさ」

悔しそうにバルトの指示通りに動く乗組員。

「………」
「おいそこの通信士、艦内の味方を呼ぶような真似したらシエルをこれで殺すぞ?」

バリバリと手のひらで光る雷の玉を見せ、脅した。

「………分かったよ」
「それでいい」

通信士の態度に満足したバルトはシエルを持ち上げ、カリムが寝ている横に移動した。

(カリムは寝かしたままの方がやりやすいか。………さて、俺達は何処へ連れて来られたんだか………)

「着陸します!!」













「はあ!!」
「おっと」

相手の攻撃を避け、反撃で敵を倒すロレンス。

(しかしこれは大事件になったものだな………)

敵の砲撃を避けながらロレンスはそう思った。
ロレンスの攻撃で死亡した人間はいない。しかし三つの勢力がバラバラに攻撃を開始した為、その流れ弾で死亡した者が多いのだ。
特にクロスレンジで戦闘している聖王教会の騎士が被害が多かった。

(こんな事までしてまでワシの事が邪魔かセルド・スミス………)

怒りがこみ上げてくるが、小さく深呼吸して自分を落ち着かせた。

(奴の事は後だ。先ずはこの戦いから早く離脱するべきなんだが…………)

そう思いながら前と同じように体を反らし、攻撃を避けようとするが………

「くっ!?」

攻撃がかすってしまった。

「ちっ、もう限界が近くなってきたな………これはまずい………」
「団長、覚悟!!」

足が止まったロレンスに襲いかかる騎士。

「くっ!?」

ロレンスはその攻撃を受け止め、バックステップで距離をとった。

「ふっ、チャンスだ!!団長はスタミナ切れだ!!一気に押し込め!!」

その騎士の声は戦場全体に響き渡り、乱戦状態だった戦場に静かな間が出来た。

(くっ、まずい!!早く薬を………)
「全軍、攻撃!!!」

「くそっ!!」

薬を取り出す前に攻撃が始まり、ロレンスはシールドを展開しながら何もない荒野を走って逃げていた。

魔力枯渇病。
原因不明のリンカーコアにかかる病気で、徐々に総魔力量が減っていくという病気である。しかも厄介なのはそれだけでなく、定期的に抑える薬を飲まないと普段使っている魔力量以上の魔力を使ってしまう為、戦闘にも支障が出てしまう。
ロレンスも戦闘前、薬を飲んではいたが、長期化した戦闘に効力が切れてしまったのだ。

「ちっ、もたんか………」

シールドもずっと展開していては魔力を消費するため、長時間展開出来ない。

「情けない………バルトにああ言っているものの、ワシもこんなものか………」

殺傷設定の砲撃を受け、肩や足から出血をしながらも逃げていたロレンスだったが、敵に囲まれて動いていた足が止まった。

「………せめてカリムだけは幸せに………」

地面に尻をつき、そう覚悟を決め呟いた時だった。

「………何勝手に諦めてんだよ!!!」

そんな大声と共にロレンスの後ろから大きな雷の斬撃が囲んでいた魔導師達を襲った。

「情けねえよジジイ」
「バルト!?貴様、何故ここに………」
「えっ、いやまあ色々あってな………」
「色々………?お前、カリムはどうした?」
「だ、大丈夫だ、安全な場所にいるからそんな怖い顔するなよ………」

睨むロレンスに流石に申し訳なさそうな顔をするバルトだが、すぐに真面目な顔で周りを見るバルト。

「………んで、見事にやられたみたいだなジジイ」
「………ああ、ワシが相手を甘く見ていたな………」
「しかも何だそのざまは。俺と戦っていた時比べてボロボロじゃねえか」
「ワシも年老いたって事だ………」
「よく言うぜ。おい、戦えねえならカリムの所にいな。後は俺が引き受けてやるからよ」
「………あまりワシをなめるなよ?強がり言ってるガキに全てを任せて逃げるほど衰えてはおらんよ」

そう言ってニヤリと笑い立ち上がるロレンス。
そして懐に仕舞った薬を飲んだ。

「ふぅ………バルト、死ぬんじゃねえぞ?」
「ジジイもな。カリムを泣かせるんじゃねえぞ?」

そう言って互いに笑った2人。

「いくぜえええええええ!!!」
「さて、反撃開始と行くか………」

対照的な2人が敵に向かって走りだした………















「次!!」

バルトは荒々しく敵をなぎ倒していった。

「くそっ、死ね!!」
「なめるな!!」

聖王騎士の剣の突きを避け、ガーフォルで斬り裂いた。
そんなバルトに今度は誘導弾が多数四方から飛んでくる。

「ボルティックランサー!!」

誘導弾に誘導弾をぶつけるバルト、更にランサーが誘導弾を貫いた後、威力が落ちず、敵に向かって飛んでいった。

「くはははは!!大したことねえな管理局!!ボルティックブレイカー!!」

斧に溜めた魔力を巨大な斬撃は大勢の敵を一気に飲み込んだ。

「どうだ!!うっ………!?この!!!」

砲撃を放った隙を銃で撃たれ、左腕から血が流れるが気にせずボルティックランサーで銃を撃った敵を貫いた。

「来いよ!!俺はまだまだやれるぜ!!!」

その声はまさに野獣のように獲物を求めているように見えた。

「あいつ………あんなに目を輝かせて………撃たれた痛みとかどっかに飛んで行ってるんじゃないのか………?」

そんなバルトを冷静に敵を対処しながらそう呟いたロレンス。

(魔力の方は薬のおかげで無駄に消費されるのは抑えられた。………だがこの分だと俺もそろそろ限界かもな………)

舌打ちしつつ、敵の攻撃を避け、カウンター気味に攻撃を返し、更に距離を取る。

(これ以上は敵に付き合う必要はないな。バルトのお蔭で相手の指揮も随分落ちている。今なら逃げる隙を得られるかもしれない………)

そんな事を考えていた時だった。

「!!バルトーーーー!!!」

バルトの視界から外れた場所で集束魔法を撃とうとしていた魔導師が居た事に気が付いたロレンス。

「あの2人が部隊をまとめていた2人!!バルトのアホ、気が付いてねえ!!」

テンションが上がっていたバルトは当然ロレンスの声にも気づかず、前の敵に集中している。

「くそ………こうなったら!!」

覚悟を決めて駆け出すロレンス。途中敵の攻撃を受け、傷を負うも気にせずバルトに向かって行く。

「よし、クレナ離れろ!!フォースバースト!!」

集束された魔力は渦を巻きながらバルトに向かって発射された。

「ん?なっ!?」

バルトを飲み込めるほどの砲撃を今のバルトに防ぐ手立ては無かった。

「バルトーーー!!!!」

そんなバルトをぶん殴って吹っ飛ばすロレンス。

「!?ジジイ!!!」
「バカ野郎、油断しや………」

その言葉の途中、砲撃の中に消えるロレンス。

「ジジイーーーー!!!!」
「や、やった!!」
「あなた、騎士団団長を………えっ?」

そんな喜ぶ2人の魔導師の胸にバルトのランサーが突き刺さっていた。

「あれ………?」
「ク、クレナ………」
「あ、あなた………シャイデ………」

そう小さく呟いて絶命する2人。

「貴様等!!!!!!!」

その瞬間、バルトは戦鬼となった………





















「………リム様、カリム様!!」
「ん………あれ?ロイさん?ロイさんは確かお父様と一緒に任務に付いて………」
「カリム様こそ、何故こんな穴の中で寝ているのですか?」
「穴………?ってあれ?何で私外にいるの!?それにここはどこよ!?」

穴から顔を出し、叫ぶカリム。

「ここはアグラットですよ!!何故こんな危険な場所にいるんですか!?」
「えっ!?アグラット!?私確か自分の部屋で………あれ?その前にシエルさんと確か会って……」
「連れてこられたのですね………バルトは何をしていたんです?」
「バルトは………ってあれ?何これ?」

懐に何かある事に気が付いたカリムはそれを開け、読んでみた。

『ジジイを助けに行く。気が付いたら俺が来るまでその穴の中で隠れてろ』
「バルト………助けに来てくれたんだ………」
「団長を助けに………」
「ロイさん、一体何があったんです?」
「………実は」

そう次のセリフを話そうとした時、2人の前に人影が現れた。

「「!?」」

ロイは武器を構え、カリムは穴に体を隠した。
しかし相手を見て、カリムは穴から飛び出た。

「バル!!………ト?」

バルトの姿は全身返り血を浴びており、目は暗く、まるで別人の様にカリムは感じた。

「バルト、お前一体………団長は………?」
「………ロイ、東に進んで2kmほどの場所に輸送艦がある。そこにいる敵は全て排除した。それでカリムと一緒に逃げろ」
「逃げろ!?だがお前と団長はどうするつもりだ!!」
「………ジジイは死んだ」

「…………………えっ?」

「………俺が殺した」

カリムはバルトの言った事が分からなかった。頭で理解しようとしても頭が全く働かなかった。

「バルト、お前………!!」
「ジジイが死んだ以上もうどうでもいい………俺はまた流れるだけだ」

そんな風に呟くバルトにカリムはゆっくり近づく。
そしてバルトの頬を思いっきり叩いた。

「人殺し!!!!何でお父様を殺したの!!!!何で、何で!!!!!」

そんなカリムの言葉をただ黙って受け止めるバルト。

「本当にお前が………?」
「ジジイは俺が殺した、俺が弱かったからだ………全て俺のせいだ………」

そんなバルトの言葉に全てを察したロイは返す言葉もなく、何も返せなかった。

「カリム………」
「触らないで!!!」

触れようとしたバルトの手が止まる。

「済まない………」

そう言って背を向けるバルト。

「どこに行くバルト!!」
「全てにけりをつける。先ずはこの戦闘を行った奴等全てを殺し、セルド大司祭並びに管理局は俺が潰す!!!」

「!?おい、バルトお前!!!」

「俺は名を捨てる。………そうだな、バルトマン・ゲーハルトでも名乗ろうか?裏切りの聖騎士、俺にぴったりだ。カリムを頼むなロイ。………じゃあな、カリム」

そう言った後、バルトは雷神化し、その場から消えたのだった………



























「その後、俺はバルトマン・ゲーハルトとなった。先ずはセルド大司教を暗殺し、そののち、管理局の裏で暗躍する冥王教会に協力し強さを求め続けて今に至るって感じだな」

苦笑いしながら話すバルトさんだが、誰もが言葉を返す事が出来なかった。

「………確かシャイデから親はバルトマンの大虐殺の時に殺されたって言ってたからその時かもしれませんね………」
「そうかもな。だからあいつが俺を恨む理由はあるってことだ」

星の問いにバルトは何も否定もせず肯定した。

「………そんなもの誰にでもあるものさ。シャイデ君や零治君も大事な人を無くして恨みが全く無いって事は無いはずだ。だけどその後は前を向いていけるかどうかが大事だと思う」
「スカさん………」
「シャイデ君も零治君も前を進んでいる、苦しい事を乗り越えてこそ人は成長する。気にするなとは言わない、だけど深く気にする必要は無いと思うよ」

そんなスカさんの言葉に皆がうんうんと頷いた。

「ありがとよ………さて、話は最初に戻るが、始末は俺がつける。だから俺に協力してほしい」
「零治君含め、私達はもっと前からクレインを追っている。むしろ喜んで協力させてもらうよ」

話を聞く前から決めていた様な顔で言うスカさん。
他の皆も反対は無いようだ。

「助かる。………それで申し訳無いんだが………もう一つ頼みがある」
「頼み………?」





「………バルトマン・ゲーハルトとカリム・グラシア、2人を会わせる手助けをしてほしい」 
 

 
後書き
さて、2014年に入りました。
この平凡も今年中には終わると思います。それと同時に一息つけるかな………

とりあえずパソコンも復活したし、地道にやっていけるし、これからもよろしくお願いします!!! 
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