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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―

作者:★和泉★
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Introduction
  第二話 ルームメイト

「西園寺、ちょっと来い」

 最初のSHRが終わり、次の授業までの少しの時間で千冬さんに呼び出される。
 丁度良かった。彼女にとって不本意だったかもしれないが、僕にとってはこの学園における唯一の味方でありこれから多大な迷惑をかけることになる。一刻も早く直接話がしたかったから。
 
 案内された誰もいない宿直室で千冬さんと向き合う。

「お久しぶりです、千冬さん……失礼、織斑先生」
「ああ、学園ではそう呼べ、西園寺。……しかし、お前の家も束も無茶をする、こっちの身になれ」

 そう言いながら軽く出席簿で僕の頭を叩いた。
 むろん、力は入っていないので全く痛くはない。本気で叩かれたら出席簿が砕け散るか頭蓋骨が陥没するかだろう。
 そんなことを考えていたらちょっと睨まれた。……まさか心が読める?

「……申し訳ありません」

 とりあえず千冬さんの言葉、心の中の言葉、どちらにともとれる形で謝っておく。

「一番の被害者はお前自身だろう。不本意ではあるが何かあったら頼れ、だが極力問題は起こしてくれるなよ。お前なら大丈夫だと思うが……くれぐれも問題を起こすなよ」

 幸い僕の謝意は前者で受け取ってくれたようだ、頭蓋骨陥没は御免だから、うん。あ、だから睨まないで……。
 それにしても二度目の忠告は言外にいろいろ意味が込められている……よね。
 当然か、教師も生徒も全て女性という環境の中に男が一人、しかも女装して。というよりそもそもこの状況が既に問題だ。千冬さんが言いたいのは、この状況をいいことに生徒に手を出すな、ということだろう。僕なら大丈夫というのは信頼されてるのかヘタレだと思われているのか、前者だと信じたいけどたぶん両方だろうな……。

「心得ています、これからご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
「……ところでその口調はどうにかならんのか?」
「やっぱ変かな? 僕の周りの女性がこんな感じだったからどうしても。それに一応名家のお嬢様だったからね、紫音は。そう思ってこの口調にしたんだけど……この学園だと逆に浮いちゃったかな、失敗したかも」

 自己紹介のときの喧噪を思い出して嘆息する。
 今まで女性に理想を抱いていたわけではないが、習い事や稽古事で僕に指導する人や女中などはやはり御淑やかなお嬢様だったり淑女だったりするわけで。唯一の例外は束さんと千冬さんだが。
 通っていた学校の生徒、教師などは印象にも残っていない。特に何かを話すことも無かったし、こちらも聞くつもりもなかった。
 そんな環境故かどうしても僕の中の女性というのはこういう話し方、という固定概念があったようだ。

「まぁ、今更変えても怪しまれるだろうしボロが出る。やりやすいようにしろ」
「わかりました、ありがとうございます」

 言葉は厳しいが、気にかけてくれているのが伝わる。今まで誰かに心配されるということがほとんどなかった僕にとっては素直に嬉しかった。束さんは……本当に心配してくれてるのか怪しいし。
 お嬢様モードに戻って偽りの口調で述べたその謝意は、僕からの本心だった。

「それから……更識には気をつけろ」

 話が終わり、扉に手をかけた千冬さんは一言そう言い残して出て行った。
 
 『更識家』

 裏で暗躍する暗部組織に対抗する、言うなれば対暗部暗部の一族。その一族の当主は、代々『楯無』の名を襲名している。つまりクラスメートの『更識楯無』は更識家の現当主ということになる。
 正直、男であるという核にも匹敵する爆弾を持っている僕にとっては天敵だ。ロシア代表であることや僕と同年代でIS学園に入学することは知っていたがまさかクラスメートになるとは思っていなかった。

「はぁ……」

 今日何度目かわからないため息をつきながら、僕は教室へと戻っていく。



「--という訳で、現在では通称『アラスカ条約』によってISの軍事利用の禁止、情報の開示と共有、研究のための超国家機関の設立などが決められました」

 山田先生により、授業が進められる。
 といっても、最初の授業ということもあり内容はISに携わるものなら常識ともいえる内容。事前に配布された百科事典のような厚さの本をしっかり読んでおけば問題無かった。僕は特殊な家柄と交友関係(誰とは言わないが)により、ISの知識に関してはそうそう遅れを取らないとは思っている。まぁ、自分が操縦者側にまわるとは思っていなかったけど。

「--開発者である篠ノ之博士がコアの開発を中止しその内容も公開していないことから、現在新たなコアを開発することができず、その絶対数も限られたものとなっています。……えっと、サファイアさん? その数がわかりますか?」
「……」

 指名された本人からは返事が無い。

「サ、サファイアさん……?」

 山田先生が泣きそうな目でこちらを見る。それは一つ後ろの席の生徒に向けられたものだろうけど、何か自分が悪いことをした気になってしまう。
 そんなことを考えている中突如殺気のようなものを感じ、思わず後ろを振り向くと、目の前あるのは死刑執行の場面だった。

「ぅあったぁ……ッス!」

 断首……もとい、出席簿をその頭に振り下ろす千冬さん。……腕が見えなかった。
 凄まじい音がサファイアさんの頭から鳴り響き、乙女らしからぬ叫び声が聞こえてくる。
 それにしても叫び声にまで忘れずつけるなんて、その語尾は彼女のアイデンティティーなのだろうか。

「初日から居眠りとはいい度胸だ」
「い、いや寝てたように見えて実は授業ちゃんと聞いてたッスよ!」
「ほぉ、なら先ほどの問いに答えてみろ。分からないようなら一週間この授業のレポート提出だ」

 世界の終りのような表情を浮かべるサファイアさん。そのまま前を向き直ればよかったけど、図らずも目が合ってしまった。当然、無言の懇願を向けてくる……。

(……4……6……7……)

 無視するのも気が引けたので口パクで伝えてみる。下手な動作はすぐ横に佇む魔王に気取られる。

「よ、467ッス!」
「……ふん、救われたな」

 どうやら僕の口パクを正しく汲み取ってくれたようだ。正しく答え、解放される。

「お前はあまり甘やかすな」

 去り際に一言そう言いながら、軽く小突かれてしまった。……やはり気づかれていた、恐ろしい。

「た、助かったッス~……」

 そう言いながら机に突っ伏すサファイアさん。
 今まで目の前にいた彼女がそうしたことで、その後ろの席の生徒と目が合う。
 『更識楯無』、この学園で最も警戒すべき相手。
 こちらに気づいた更識さんは、先ほどと同じようにウィンクをしてくる。僕も同じように微笑み返して前を向くことにした、というよりそれしか出来なかった。……喰えない人だ。正直、何を考えているのかよく分からない。それでいて、他の生徒より僕に対して若干意識を向けられている気さえする。

 授業が終わった後、「紫音は命の恩人ッス!」とフォルテさんにやたら感謝された。大げさに思えるかもしれないけど直前の一撃や威圧を鑑みればあながちそうとは言い切れない。あ、呼び方が変わったのは彼女にファーストネームで呼んで欲しいと言われたから。
 
 その後の授業は特に問題もなく過ぎ去り、昼休みになった。
 うん、授業は……ね。休み時間のたびに僕や更識さんはクラスメートに囲まれることにはなったけど。
 何はともあれ昼休み。

「紫音は昼は学食ッスか?」
「ええ、今日はお弁当作る時間もなかったので学食に行こうかと」
「それじゃ一緒に行かないッスか?」
「あら、なら私もご一緒させてもらおうかしら」

 突然入り込んだ声の主はやはりというか更識さんだった。できればあまり関わりたくはないのだけど、クラスメートである以上それは無理だろう。なら少しでも友諠を結んで円滑な関係にしておくほうがいい。

「はい、是非ご一緒しましょう」

 こうして一年生の全専用機持ち3名、しかも一人は国家代表という小国程度なら攻め落とせそうなパーティで食堂に向かうことになった。当然目立つが、僕以外の二人は全く気にしている様子はなく楽しげにふんふふんと鼻唄まで歌っている。

(はぁ……)

 自分のためにも、この学園では目立たない程度に無難な交友関係を築こうと思っていたが、初日にしてその目論見はどちらも破られたと言える。片や代表候補生の専用機持ち、片や既に国家代表の暗部当主。無難どころではなくこの学園のトップ2と言ってもいい、二人とも目立ちすぎだよね。
 視線の半分近くは僕の方に向いてる気がするけどきっと気のせいだ、うん。
 
 食堂に付いた僕たちは食券を購入する。僕はオムライス、フォルテさんは日替わりランチ、更識さんはパスタにそれぞれ決めた。
 食券を購入し、待つ間も周りからの視線は止まない。出来上がった食事を手に取り空いている席に移動するとそれに合わせて視線の波がついてくる。……この二人の図太さが正直羨ましい。

「この学食、予想以上においしいッス!」
「そうね、この値段で味は高級レストランレベル、侮れないわね」

 気にせず、手元の料理を味わっていた。うん、確かにおいしい。僕ももう避けられない視線なんか気にせず食事に集中することにしよう。

「そういえば、楯無はなんで日本人なのにロシア代表なんスか?」
「それは自由国籍を持ってるから。ロシア代表になった細かい経緯は……ひ・み・つ」

 何気ないフォルテさんの質問でも心底楽しそうに答える更識さん。
 更識さんの専用機『ミステリアス・レイディ』は、『モスクワの深い霧』の異名を持つロシアが開発したIS『グストーイ・トゥマン・モスクヴェ』を元に彼女が開発したらしい。そのあたりに何かしらの経緯があったのかもしれない。

「そういえば更識さんはSHRで生徒会長になるって言ってましたが何かこの学園でやりたいことがあるんですか?」

 なんとなく、彼女が自己紹介時に言っていた生徒会について振ってみた。
 特に他意はなかったが、国家代表にまでなっている彼女が特殊ではあるとはいえたかだか一学園の代表である生徒会長に何を求めているのかは興味があった。しかし……

「あら、そんな他人行儀じゃなくて楯無でいいわよ。ふふ、なんで生徒会長を目指すかはね……おもしろいからよ! 学園最強=生徒会長なら、私がなるのが必然よね。それに会長になればある程度は権限もあるから、問題にも対処できるし気になる生徒の動向も見やすくなるしね……例えばしおん(・・・)ちゃんのこととか」

 その一言に僕の警戒レベルは一気にMAXになる。思わず敵意剥き出しで睨みつけそうになるが、なんとか堪えた。表情も動作も、違和感がないように抑えることはできたはずだ。

「私の名前は確かにそう読めますけど……あだ名にしてもその呼び名はあまり好きではありませんので申し訳ないですがしのん(・・・)と呼んで頂けませんか?」

 僕のことを既に知っているのか……、それとも何か気づいてカマをかけてきているのか……、はたまた天然か。判断できない今の状況じゃこう答えるのが無難だろう。

「そうだったわね、ごめんなさい。最初にあなたの名前を名簿で見たときには読み方を勘違いしていたから、そのまま出ちゃったわ。改めてよろしくね、紫音(しのん)ちゃん」

 楯無さんも特に表情に変化を見せずそう言い放つ。……やはり喰えない人だ、これでは判断できない。どちらにしろ警戒はしておくべきだろう。

「こちらこそ、よろしくお願いします。楯無さん」

 こちらも悟られないように、笑顔で返す。この『人たらし』とも言われる暗部当主にどこまで効果があるのかはわからないが……。

「な、なんか空気がおかしい気がするッス、何事ッスか!?」

 僕たちのやり取りの間ガツガツ目の前のランチを食べていたフォルテさんが、いきなり急に飛び上がったように騒ぎ出した。……空気が読めるのか読めないのかよくわからない人だなぁ。



 
 昼休みが終わり、午後の授業が始まる。
 お腹もいっぱいになり、眠くなる頃合いだが午前中の顛末を見ているこのクラスに再び死地に向かうような自殺志願者はいないようだ。滞りなく授業は進み、一日の最後となるSHRの時間となった。

「さて、初日がまもなく終わるわけだが、一つ決めなければならないことがある。このクラスの代表者だ。一般的な学校で言うところの学級委員長だと思ってもらって構わないが、このIS学園ではそれに加えてクラス対抗戦などにも出場することになる。自薦他薦は問わないが一年間は変更できないから慎重に選べ」

 千冬さんからクラス代表の選出について説明が入る。
 クラス対抗戦のように実戦の機会が得られるのは嬉しいけど、目立つのは避けたいし僕にはやる事もある。それにきっとフォルテさんや楯無さんあたりがうまくやってくれるだろう。

「はい、西園寺さんを推薦します!」
「わたしも~」

 そんな僕の思考を無視してクラスメートから推薦の声があがる。……勘弁してほしい。

「私はサファイアさんで!」
「当然、更識さん!」

 予想通りの二人も同様に推薦される。助かった、これで僕が代表になる確率は少し減る。
 というより、他に候補ができたなら辞退すればいいか。

「他にはいないか? 推薦された者は起立しろ、ちなみにこの時点での辞退は認めん」

 先回りされてしまった……。

「う~ん、私は生徒会に入る予定だからできれば辞退したいのだけど……ふふん、そうね」

 楯無さんは何かを考える素振りを見せたあと僕に視線を向けながら、これは名案とばかりに切り出す。

「織斑先生、せっかくならこの三名で模擬戦をするのはどうでしょう? お互いの力量も計れますし、代表選出の方法には適切ではないでしょうか」

 とんでもないことを言い出した。というより僕のほうを見て言ったのは気のせいではないと思う。秘密云々は置いておいて、意識されているのは間違いないか。
 とはいえ、同学年の専用機二人と模擬戦を行えるのは魅力的な提案である。目立つことは避けられないが、どうせ目立つならこの際気にしても仕方ないのかもしれない。

「学園としては問題ない。西園寺、サファイア、お前たちはどうだ?」
「……はい、問題ありません」
「あ~、いいッスよ。正直クラス代表なんてガラじゃないッスけど模擬戦やるなら話は別ッス」
「よし、なら試合は一週間後とする。アリーナの手配はこちらでする。全員専用機なら訓練機は必要ないな。よし、ではこれでSHRは終了だ」

 試合は一週間後。正直、楯無さんはともかくとしてサファイアさんにも今の僕では勝てるかわからない。一週間でどこまで調整できるかにかかってるなぁ、今の僕のISには重大な欠陥がある……、いやISというより原因は僕にあるんだろうけど。ま、やるだけのことはやってみよう。



 突然決まった代表決定戦に沸き立つクラス。
 僕たちを囲んだクラスメートとの会話もそこそこに、教室を出ることにした。
 いろいろあって疲れたのもあるが、これからのことについて考えなければいけない。まずは、屋上に移動して人気が無いことを確認して束さんと連絡を取ることにする。 

『もすもすひねもす~、待ってたよし~ちゃん! もう束さん暇で暇で死にそうだったよ~』
「それはごめんなさい、束さん。そんなことより朝話した件ですが」
『そんなことってひどい! それにそんな話し方、束さんは嫌いだな~、どうしよっかな~』

 ああ、そうだった。こういう人だった。

「うん、ごめん。ずっと今日はこのままだったし気が抜けなくて。それで、えっと束さんに貰ったものの説明をしてほしいんだけど」

 そう、僕はIS学園に女子として入学するにあたり束さんからいろいろと貰っていた。というより昨日、一方的に送りつけられていた。中身をみて驚愕したものの、とりあえず使い道は理解できるものはいくつか使用している。一部は説明書みたいのがあったけど、途中で面倒になったのかずいぶん投げやりだった。

『了解! えっと、まずはもう着けてると思うけどし~ちゃん専用シリコンバストだね。本物と見分けつかないくらいの質感で、専用のリムーバーでないと剥せないから直接触ってもわからないんじゃないかな、ちなみにサイズと形は束さん好みにしたよ!』

 束さんの好みは置いておいて、これは確かに助かった。ちょっと大きすぎる気もするけど……、何かあったときの保険にはなる。悔しいことに初めて見た時、あまりにリアルでちょっとドキドキしてしまった。

『自分の胸にドキドキする変態さんに紹介する次のアイテムは、特性ISスーツ! 下半身はサポーターも兼ねていて、極力自然な形で女性に見えるようになってるよ。あとちょこっと材質とか弄ってあるから耐久力もあるし、そのままシャワー浴びれば洗濯も特に必要ないからずっと着ててもいいよ!』

 あなたも心が読めるんですか、束さん。
 それはともかく、このISスーツも助かる。本来であれば授業では水着のようなISスーツを着て操縦することになる。男の僕が着ればそれは悲惨なことになるのは目に見えている。

『しーちゃんのそんな姿を見てみたかった気はするけどね~、さてさてお次は……IS用の調整端末? これはいっか、わかるよね』
「いやいやいや、分かるけど一応飛ばさないで説明してよ」
『う~ん、我儘だなしーちゃんは。えっと、束さん特性のその端末使えば一般的には手の及ばないところまで調整できるよ、それこそコアまで、ね。まぁ、凡人さんには何の意味もないけどしーちゃんなら上手く使えるんじゃないかな。特にしーちゃんのISはちょっと特殊だからね、本当なら束さん自ら調べたいところだけど』

 束さんの言うように、僕のISは特殊だ。そもそも、本来は紫音専用機であるこのISが僕に反応している時点で異常なのだ。その代償なのか、ところどころ問題があり、それの調整にはどうしてもコアすら候補にいれて調整する必要がある。当然、STCにそこまでの技術はない。少なからず、束さんに技術を教わってきた僕がやるしかない。

『とりあえずこんなものかな? 他にもなにかあった気がするけど忘れちゃったからわからないのがあったら連絡してくれればいいと思うよ!』

 連絡する口実を無理やり作られた気がするけど、確かに当面必要なものは十分かな。
 しかし、やっぱり規格外だね、束さんは。貰ったもののどれをとっても技術水準が一つ二つ抜けている。このシリコンバストなんて特許取ったらすごいことになるんじゃないだろうか。

「うん、何から何までありがとう、束さん。何もなくても、定期的に連絡するようにするから、それじゃ」
『し、しーちゃん……! そんなに束さ』

 感謝の気持ちは本当だし連絡はしっかりしてあげたいのも本音だったけど、これ以上は束さんが調子に乗るのが目に見えていたので言葉半ばだがすぐに切った。
 向こうでは通話が切れているのも気づかずにクネクネしてるかもしれないが問題ないだろう。

 さて、日も暮れてきたし部屋に戻るとしよう。
 いつまでも屋上にいたら誰かの目につくかもしれないしね。
 


 部屋へ行くのは実は初めてだ。入寮するにも私物はほとんどないので、あらかじめ送ったいくつかの荷物を千冬さんに部屋に運び入れてもらっていた。あまり千冬さんの手を煩わせたくはなかったが、千冬さんの方から提案してくれ、幸い荷物も少なかったので甘えることにした。
 今頃、部屋の中には事前に送ってある荷物が届いているだろう。束印の数々は、持ち歩けないものに関しては発送したので明日くらいには届くだろう。
 
 ここで一つ気になるのが、誰がルームメイトかということ。
 IS学園の寮は基本的に二人部屋で、人数的な問題でもない限り必ずルームメイトがいる。
 僕が男だとバレる確率が一番高いのは、このルームメイトからだろう。寝ている時、シャワーを浴びている時、他にもいくらでも考えられる。正直寝ている時ですら気が休まらないというのは勘弁してほしいが、一人部屋であるということに期待するのは無駄だろう。

 部屋の前までたどり着き、既に先に到着しているであろうルームメイトを思い浮かべる。
 しかし、いくら考えても仕方ない。僕は意を決して扉を開けた。

 そこにいたのは

「あら、遅かったじゃない」

 考え得るルームメイトとしては最悪の相手、更識楯無だった。

 
  
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