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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep11悪夢の幕開け~Tragedy~

†††Sideクロノ†††

「手遅れだったみたいだな」

僕の前を飛ぶルシルが、あるビルの屋上で発生している黒い球体を見て呟く。僕とルシルとシャルの3人は、通信妨害が発生した現場へと急いで駆けつけたが、すでに“闇の書”は完成した後だった。

「クロノ、2人の姿を確認できたんだけど・・・1人で行く?」

「・・・ああ、僕の・・・弟子としての務めだ」

僕には見えないが、シャルの目には2人の仮面の男が居ることを確認できているんだろう。当然ながら向こうは未だこちらに気付いてはいないようだ。

「なら俺とシャルは、フェイト達と合流してアレ、いや八神はやてを止める。クロノ、下手な慰めは要らないだろうから何も言わないでおくよ」

「気にしなくていい。そっちは任せたぞ、ルシル、シャル」

「ああ」「ええ」

ルシルとシャルは、なのは達が居るであろうあの黒い球体が発生しているビルへと向かった。ここからは僕の役目となる。今回の事件の裏で暗躍を繰り返していた“2人”を確保するために。

「どんな理由でも、こんなことをしてはいけなかった」

頭に思い浮かぶのは、僕の師であり友人のリーゼ。これから僕はあの2人を・・・。2人の仮面の男の近くにまで来たとき、あの黒い球体が爆ぜた。向こうも向こうで大変だろうが、僕は僕の仕事を果たす。

――ストラグルバインド――

「え!?」「な・・・!?」

未だに僕の接近に気付いていなかった仮面の2人を捕縛魔法で拘束する。拘束されてもなお抵抗する2人の前へと僕は降り立つと、仮面の2人の身体から粒子が漏れだす。

「ストラグルバインドの効果は知ってるだろう」

2人が発動している魔法が強制的に解除されているのはその所為だ。僕が仕掛けたストラグルバインドは、特別な効果を持った捕縛魔法だ。効果としてはバインドの基本、対象を拘束できるというもの。そしてもう1つ、魔法による対象の強化を無効化するというもの。それには変身魔法の強制解除も含まれる。その効果を受け、2人の仮面の男の輪郭が徐々に光の粒子となって崩れていく。

「変身や強化の魔法も、例外なく強制的に解除する。もちろん君たちのもだ」

完全に変身の解けた仮面の男の正体は、やはりリーゼ達だった。僕の足元へと仮面が転がった音だけが空しく聞こえた。

「こんの・・・クロノ! 今すぐバインドを解除しろ!」

「ストラグルバインド、か。私たちは教えてなかったんだけどな」

「1人でも精進しろ、と教えてくれたのは君たちだろう。リーゼ・・・」

その言葉をいつも胸に今まで腕を磨いてきた。それなのに、その結果がこれだった。僕はこんな形でリーゼ達と会いたくはなかった。

†††Sideクロノ⇒フェイト†††

私となのはは“闇の書”から距離を取るため、“闇の書”の死角であるビルの陰に隠れた。“闇の書”の攻撃を防いだなのはは右手を押さえている。あれだけの魔法だったんだ。無傷で済むはずはなかった。

「なのは、ありがとう。右手、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ、フェイトちゃん・・・」

そうは言うけどかなり痛がってる。あれほどの威力を防ぐだけの魔法を私は持っていない。だからなのはだけに防がせたことに対する「ごめんね」謝罪をした。

「フェイト! なのは!」

私となのはを呼ぶ声が聞こえた。姿を見なくても判る、私の大切な人の声だ。頭上から聞こえた声の方へ視線を向けると、そこにはルシルとシャルが居た。なんかルシルとは久しぶりに会った気がする。

「大丈夫、2人とも?」

「私は大丈夫なんだけど、なのはが私を庇ってさっきの魔法を防いだの」

シャルに私はそう答えた。するとルシルがなのはに近付いて、なのはの右手を取って容態を診る。

「これなら・・・。傷つきし者に汝の癒しを(コード・ラファエル)

ルシルの治癒魔術だ。いつもこの魔術に私たちは助けられてる。蒼いけど、でも優しい光がなのはの右手に包んでダメージを回復させていく。なのはの顔も痛みが引いてきたのか楽な表情になっていってる。

「ありがとう、ルシル君」

「このくらいなんてことはない。それよりフェイト。ソニックフォームでは彼女のような広域攻撃型には辛い」

「うん、そうだね。バルディッシュ、ライトニングフォーム」

≪Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form≫

ルシルの言うとおり、あの子はルシルと同じ広域攻撃型だ。避けきることが難しいなら、ソニックフォームの防御力だと心許ない。なら少しでも防御力を上げるために、ライトニングフォームへと変える。

「遅れてすまない!」

「あたしらも参加するよ!」

ここでユーノとアルフも合流した。

「さて、あとは彼女をどうやって止めるかだな」

ルシルが私たちを見回して思案顔になった。倒すんじゃなくて、止める。それが難しいのは判ってる。何か良い手があればいいんだけどなぁ・・・。

†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††

“夜天の書”である彼女ひとりに対して俺たちは6人。おそらく動きくらいは止められるだろうが、その先が問題だ。未だ俺たちにはやてを救う方法はない。倒すだけなら、俺とシャルの2人でも出来るはず。
しかしこの一件の結末は悪者を倒して終わり、という単純なものじゃない。倒すのではなく助けるために戦わなければならない。良い手はないかと思案している中、“夜天の書”の方へと視線を向けると同時に結界が張られたのが判った。

――ゲフェングス・デア・マギー――

この辺り一帯を大きく閉じ込める結界。ヴィータから複製しておいた物と同じ結界魔法だろう。俺が「閉じ込められたな」と独り言として呟くと、フェイトが「やっぱり私となのはを狙ってるんだ」そう漏らした。フェイト達が狙われる理由は判らないが、フェイトがそう言うのであれば、俺たちの知らない何かがあったんだろう。

「えっと、どうすればいいのかな・・・?」

「さっきクロノと会ったんだけど、何としても解決法を探すって言ってた」

「ああ。それと、援護の方も向かわせるってことだけど、まだ時間が掛かるみたいなんだよ」

ユーノとアルフがそう言う。クロノがグレアム提督とリーゼ姉妹から解決法を聞き出すことになっている。俺とユーノとクロノで、解決法のいくつかを一応立ててみたが、どれも問題点があった。まず強力な氷結魔法で凍結した後に次元の狭間、もしくは氷結世界へと隔離・封印。破壊をするわけじゃないから転生機能は働かないだろう。
しかしそれは問題ありの方法だった。完成前でのその方法では外部からの干渉となって、主であるはやてを呑み込む強制転生を行う。それでは意味が無いから、凍結が行えるタイミングを調べて、判明した。

(だがそのタイミングは、管理局員としての俺たちの首を絞めるようなものだった・・・)

完成した後での暴走直前。その時はまだ“夜天の書”の厄介な機能は働かないと言うことが判った。だからそのタイミングで凍結を行えば良いだろう、という考えだったが、それは無理だった。管理局法に則れば、“夜天の書”の暴走が始まる前では凍結・次元の狭間への封印処置を行うだけの罪が持ち主と“夜天の書”にはなく、それを行えば逆に管理局側が違法行為として悪になる。
それ以前に、凍結を解除する術が絶対に無い、というわけでもないのも事実。その他のプランも似たように管理局法違反、今後の展開の不明瞭という問題が生まれ、却下されていった。最後に残ったのは、ハッピーエンドで終わるための答えはどこにも無い、という慈悲の無い結果だけだった。

「・・ルシ・・・ル・・ル・・・ルシル!」

「あ? どうした、フェイト」

「ルシル、あなた何ボーっとしてるのっ」

「すまない。考え事をしていた」

「しっかりしてよね。この中で1番の戦力なんだから」

「ああ、判っている。みんな、クロノがハッピーエンドの切符を土産に持ってくるまで、俺たちだけで頑張ることになる。はやてを何としても助けるぞ。それが守護騎士の最期の願いだ。願いを受け継ぎ、願いを果たせ」

みんなが強く頷く中、グレアム提督たちの解決法が俺たちと別のものであれば、と願わずにはいられない。クロノから連絡が入るまでは、きっちり時間を稼ぐとしようか。

†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††

“闇の書”が翼を羽ばたかせて私たちへと向かってきた。だけど気になるのは、“闇の書”に追随するように空を翔る緑色の長髪の少女。そしてビルの屋上伝いに飛び跳ねている、両目を閉じた何やら貴族のような服装を纏った男。

「フラウロス!? ズェピア!? 馬鹿な!」

その2人を見たルシルが驚愕の声を上げた。その反応から知り合いのようだ・・・て、まさか。

「ルシル、知り合いなの?」

未だに目を見開いているルシルの様子を見て、フェイトが心配して声をかける。

「あれは俺の使い魔のようなものだ。フェイトには以前教えたことがあるだろ? 魔力だけで構成された使い魔が俺にいるって。・・・あの2人もそうなんだ」

それを聞いた私たちは気付いてしまった。ルシルが私たちの知らないところで“闇の書”に蒐集されていたことに。なのはが「いつ・・・ルシル君、いつ蒐集されたの?」信じられないといった顔でそう聞いた。

「あれは・・・フェイトが聖祥小学校に転入してすぐだったか」

なるほど。だからあの時からルシルは戦闘に参加せずに無限書庫での調査に就いたんだね。やっぱり様子がおかしいと思ったんだ。それを聞いたなのは達は完全に固まってしまった。ユーノだけは何故か驚いていない。もしかしてユーノも知っていた? 一緒に無限書庫へと行ったのだから、ルシルがいる理由くらいは聞いていたかもしれない。

「ルシル、あとで1発殴らせて。今はそれだけ言っとく。なのは、フェイト。今はまず闇の書をどうにかするのが先、いいね?」

「「うん」」

まったく、こんなときに知りもしたくなかったことを知ってしまうなんて。

「なのは達は闇の書の相手をお願い。ルシル。あなたは私と一緒に異界英雄(エインヘリヤル)を潰す、オーケー?」

額に青筋を浮かべながらみんなに確認を取る。そんな私を見たみんなが黙って何度も頷く。拒否権なんてものは存在しない。

「最後に1つ。みんな。無理はしないこと」

「「「うん!」」」

「おう!」

ここでなのはとユーノ、フェイトとアルフと別れる。4人は“闇の書”をどうにかするために。私とルシルは、“闇の書”より厄介だろうフラウロスとズェピアを潰すために移動開始。

「シャル、そちらは任せた。ズェピアは結構な怪物だから気を付けろ」

私が相手をすることになった貴族風の男、ズェピアは“エインヘリヤル”だ。つまり魔力の塊。ということは、魔術師としての戦いになってしまうということだ。

「ごめんね、トロイメライ。・・・キルシュブリューテ!」

私が携えるのはデバイス・“トロイメライ”じゃなく、神器・“キルシュブリューテ”。折角直って私のところに戻ってきてくれたのにあんまりだと思うけど、おそらくデバイスじゃ傷ひとつ付けられない。だからこその神器だ。

「ふむ、此度の演劇においてはどうやら私は脇役のようだ。さて、剣を携えし娘よ、命に保険は懸けたかね?」

何あの口調? 演劇とか脇役とか意味が解からない。とにかくやることは変わらないから、「上等!」私は瞬時に間合いを詰め、“キルシュブリューテ”を一閃する。

「フフ」 

――クリーチャーチャンネル(エス)――

ズェピアが纏っているマントに覆われた。防御でもするのかと思ったんだけど、彼はそこから姿を消していた。私の斬撃は空を斬り、勢いを殺せず踏鞴を踏んだ。

「フェイク!」

――シリーニュース(マリス)――

声は私のすぐ真後ろから聞こえたから、考えるより先に前へと跳んだ。視線の端で捉えたのは、足下から延びる黒い爪の斬撃だった。

「ほう」

「なるほど、確かに“気を付けろ”ね」

再度対峙する私とズェピア。“キルシュブリューテ”による直接攻撃は少し見直した方がいいかもしれない。だったら彼の間合い外からの攻撃をすればいい。

「せぇぇい!」

魔術としての単純な魔力刃を放つ。と、ズェピアはそれを半身ずらしたことで回避。彼の転移に気を付けながら、さらにいくつもの刃を放っていく。だけどそれも容易く回避されていく。コイツ、ステップが上手い。

「キャスト!」 

――レプリカント・コーディネーター(イド)――

突然現れた少年の黒い影。学ランのようなものを着ているから、どっかの学生かな? その少年の形をした黒い影が瞬時に私へと間合いを詰めて来て、手に持つ短刀を振るってきた。

「・・・っく」

私はそれを何とか避けて、影の少年を斬り裂いて消滅させた。その直後、私の直感がこの場から離れろと告げてきた。それに従ってすぐさま後方へと退く。その瞬間、現れたのは巨大な黒い竜巻だった。

「カット! カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォッ!」

「うわっと!」

今のは結構危なかったかもしれない。あの黒い竜巻はまずい。私は周囲を警戒しつつ動くことなく待つ。猛威を振るい続けたその竜巻も消え、ビルの屋上が静まり返った。

「どうした娘。このまま何もせずに舞台を降りるかね?」

「まさか。降りるのはあなたの方よ」

魔術の大半を魔法へと変えたことで今使える魔術は少ない。それでも負けるつもりはない。神秘の塊である“キルシュブリューテ”の一閃さえ当てられれば勝てるはずだ。

(仕方ない、接近戦に戻す)

やっぱり私は外からの攻撃には向かない。直接叩っ斬る。それこそ私の本来の戦い方だ。私はもう1度ズェピアとの間合いを詰める。いくら魔力で強化しても速度はさほどない。こういう時、生前使っていた歩法・閃駆が恋しい。あれがあれば、シグナムとの戦いの時だってもっとマシな、ううん、絶対に勝っていたのに。でもこんな子供の体じゃ出来ないんだよね~。早く大きくなりたい。

「少し芸が無いのではないかね?」 

――クリーチャーチャンネル(エス)――

再びマントを纏って消えたズェピア。転移で撹乱しようだなんて、くっだらない。私は“キルシュブリューテ”を足元に突き刺して、周囲一帯に魔力の刃を突き出させる。すると、「むう・・・!」かかった。刃に囲まれたズェピアを発見する。私は囲んでいる刃ごとズェピアを斬り裂いてやろうかとしたところで・・・

――レプリカント・コーディネーター(イド)――

私の体を大きな手が押し潰してきた。

「ぅがっ?」

何の気配もなかったから気が付かなかった。背後に現れていた大男の影のことを。巨大な手から解放された私は何とか立ち上がろうとしたんだけど、ズェピアの纏っていたマントが私を掬い上げるようにして襲ってきた。身動きの取れない私はなす術なくその一撃を受けて、上空へと打ち上げられた。

「開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す」

(まずい!)

それはいつか、ルシルが使っていた複製術式だ。まさかコイツがオリジナルだったなんて。

「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ!」

――ナイトルーラー・ザ・ブラッドディーラー――

それは暴力の渦となってビルごと私を蹂躙した。その暴力にさらされたビルの上半分が完全に倒壊してしまう。ビルが崩れる中、私は必至に瓦礫に押し潰されよう防御に専念したけど、物量がありすぎて途中で崩される。
少しばかりの視界暗転。気が付けば私は瓦礫の上で倒れ伏していた。体を起こそうとしてる中、近く・・・頭上からズェピアの声が聞こえてきた。

「あぁ、無理をしなくてもいい。客席に残るのは君ひとりきりだ、遠慮なく休みたまえ。ホールの灯りは消しておくよ」

「・・・いっつつ、待ち・・待ってって言ってんでしょ・・・まだ・・まだ。まだまだ!」

私は立ち上がって、“キルシュブリューテ”を構え直す。こんな程度で私が負けるなんて思わないでよね。これくらい、生前で何度も経験した。それにもしダメな状態でも私は立つ。諦めの悪さは“シュテルン・リッター”一なんだからねっ。

「そうか、では第二幕と洒落込もうかお嬢さん」

第二幕? 違う。これで終幕にしてやる。もちろん私の勝利っていう形でね。“キルシュブリューテ”の刀身に魔力を付加して、ズェピアを真っすぐ見つめる。今度はお前を地に平伏させてやるから覚悟してよね。

†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††

「・・・お久しぶりです、と言うべきなんでしょうか、ルシリオン様」

クリーム色のタートルネック・ワンピース、緑色の長髪はツーサイドアップ、蒼い双眸、150cmに満たないほどの少女、名をフラウロス・ヴォルテウス・フィン・アズーラヴィンドが、俺の姿を見て小さくお辞儀した。
参ったな。まさかフラウロスが相手になるとは。この世界に来てから対峙する敵としては最強だ。いや、おそらく完全な状態での顕現じゃないだろう。フラウロスが完全な状態でこの世界に現れたのなら、俺やシャルに制限なんて付かない。

(フラウロス・ヴォルテウス・フィン・アズーラヴィンド。最下層魔界の一国シュゼルヴァテラスを治める双子の魔人、ルリメリアとリルメリアの親衛隊に所属する魔人だ)

当然その実力はケタ違い。今の俺では手も足も出せずに一瞬で殺されるだろうが、そこは“界律”からの制限が働くはず。フラウロスのような強大な力を持つ魔人が、無制限で存在できるわけがない。

「久しぶりだな、フラウロス」

とりあえず、挨拶を返す。説得して戦闘を回避できればいいんだがな。

「わたしは本物ではなく偽物なんですよね? なんとなく解かります。ここは魔界ではありませんし・・・ここはどこでしょう? それにどうして小さいんですか、ルシリオン様。あと魔力も同情してしまうくらい僅かしか内包していませんし・・・。あ、テスタメントの契約とやらの最中ですか・・・?」

そう一方的にまくし立ててきたフラウロスに、「そんなところだ」と答える。さて、長話をする時間もないし、さっさと説得を始めてどうにか参戦しないよう仕向けないと。

「フラウロス。今は俺の言うことを聞いて、大人しく引き下がってくれ」

「申し訳ありません。どうやらルシリオン様の言うことに従うことは出来ないようです」

説得開始、そして終了。しかしフラウロスは申し訳なさそうに目を伏せた。“夜天の書”に召喚された“エインヘリヤル”ということで、主としての管制権限が俺には無いようだ。改めて「どうしてもか?」と聞くと、やはり「申し訳ありません」と首を横に振った。

「はぁ・・・判った。ならフラウロス、自決か特攻、好きな方を選んでくれるか」

「自決か特攻ですか? えっと・・・って、どちらを選んでも、わたし消えますよね」

「すまないな。ここは絶対に負けることの出来ない場面なんだ」

そう告げると、フラウロスは申し訳ない表情を浮かべるが、すぐにキリッとした真剣なものになり「手合わせ願いします」と意識を戦闘モードへと切り替えた。フラウロスから放たれる魔力。やはり最下層魔界の“魔族”の1体。制限下でも凄まじいな。

「申し訳ありません、ルシリオン様。わたしとしても負けるわけにはいかないんです。わたしは、ルリメリア様とリルメリア様――シュゼルヴァロードの御姉妹に仕えし者。たとえわたし自身が偽物であっても敗北も許されません」

「・・・そうだな。判った。が、こちらとしても退けない。全力で行くぞ、フラウロス」

「はい、お願いします」

交わる視線、互いの魔力が入り乱れる。可能な限り短期決戦へと持ち込む。ここで下手に魔力を消費するわけにはいかない。が、正直な話、今の状況で余裕勝ちできる相手じゃない。

「参ります。優雅なる風羽(ユヤ)・・・!」

「我が手に携えしは確かなる幻想!」

フラウロスは大気操作を得意とする魔人だ。彼女の周囲に生まれる風の球。対して俺は複製術式を引き出す呪文を告げる。先に放たれたのはフラウロスの攻撃。追尾してくる風の弾丸を回避しつつ炎の大剣で焼き払う。

焔杖大火(えんじょうたいか)!」

炎の杖を手に、迫る風の弾丸を薙ぎ払い焼滅させる。間髪いれずに炎杖をフラウロスに投擲。炎の砲撃と化したそれに対し彼女は・・・

――厳かなる嵐刑(ズアンリアン)――

火炎砲撃の上下左右から挟み込むようにして球体状の暴風を発生させた。ものすごい勢いで火力が減衰していき、フラウロスに届くころには弱々しいものになっていた。

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

シャルちゃんとルシル君が、ルシル君の使い魔さん達との戦いを始めた。そして私たちも“闇の書”さんを止めるために動き出した。今はフェイトちゃんと“闇の書”さんが何度も激しい攻防を繰り返している。

「プラズマランサー、ファイア!」

「アクセルシューター、シュート!」

フェイトちゃんが距離を開けると同時、私とフェイトちゃんは射撃魔法を放つ。弾幕を張って“闇の書”さんの行動を制限する。

≪Panzer geist≫

その間にユーノ君とアルフさんが「チェーンバインド!」で捕獲しようするけど、“闇の書”さんは魔力を纏って、私とフェイトちゃんの仕掛けた弾幕を力ずくで突破することで回避。それを見たフェイトちゃんが「あれってシグナムの・・・!」驚愕の声を上げる。

「降り注ぎて彼の者を討て、氷牙凍羽刃」

≪Eiszapfen Flügel≫

“闇の書”さんが腕を振るったと同時に、氷で出来た羽根のようなものがいくつも降り注いできた。

≪≪Round Shield≫≫

私たちはシールドを張って何とか防ぐことが出来たんだけど。今の魔法は間違いなくシャルちゃんの魔法だった。でも威力がかなり高い。でもどうしてこんなことが出来るの? まるでルシル君の複製能力みたい。

「なのは! フェイト! おそらく闇の書は、蒐集した魔導師の魔法を使えるんだ! だから気を付けて! もしかすると、ルシルの魔術も使ってくるかもしれない!」

ユーノ君が離れた場所からそう説明してくれた。ルシル君の魔術も使う? そうなったらかなりまずいかもだよ。だってルシル君の魔術って、どれもこれも卑怯って言えるくらいにデタラメなんだもん。

「なのは、もしそうならルシルの魔術が使われる前に・・・!」

「うん、なんとしても闇の書さんを止めないと・・・!」

私の火力とフェイトちゃんの速度で必ず止める。止めてみせる。フェイトちゃんは“闇の書”さんを翻弄するように空を翔ける。

「バルディッシュ!」

≪Haken Saber≫

「はぁぁぁぁーーーっ!」

「ゼーリッシュ・ヴィーダーシュタント」

≪Seelisch Widerstand≫

またシャルちゃんの魔法を使って、フェイトちゃんの“バルディッシュ”の一撃を完全に防いでるけど、“闇の書”さんはいま完全に動きを止めている。今がチャンスだ、きっと。

「ディバイィィィン――」

≪Master !!≫

「・・・え!?」

ディバインバスターを撃つ準備に入った途端、“レイジングハート”が叫んだ。“闇の書”さんがフェイトちゃんの一撃を防いでいる左手とは逆の右手を私に向けて・・・

「ディバインバスター」

≪Divine Buster Full Burst≫

「撃ち滅ぼせ」

私の魔法を撃ってきた。防御じゃなくて回避行動に入ろうとした時・・・

――煌き示せ汝の閃輝(コード・アダメル)――

横合いから大きな蒼い砲撃が飛んできた。そして“闇の書”さんが撃ったディバインバスターを掻き消していった。そんな突然の事態に私とフェイトちゃん、“闇の書”さんも動きを止めちゃった。

『すまない! そっちに流れ弾が飛んだ! 大丈夫か!?』

ルシル君が私たちに向けて念話を通してきた。どうやらさっきの砲撃はルシル君のものらしいんだけど・・・。

(流れ弾って威力でもないんだけど!)

どちらにしても助かったことには違いないから『えっと、大丈夫! 逆に助かったから、ありがとうだよ!』お礼を言っておく。

『そうか、それは良かった・・のか? まぁ無事ならそれでいいんだ』

そう言ってルシル君からの念話が切れる。ルシル君の方も大変みたい。さっきからシャルちゃんとルシル君が戦ってる場所一帯のビルがいくつも崩れてるし。どんな魔法を使えば、ビルを一撃で倒壊させられるんだろう・・・?

「チェーンバインド!」

「リングバインド!」

この僅かな時間が私たちにとって有利なものになった。もう1度ユーノ君とアルフさんがバインドを仕掛けて、今度は見事に成功した。

「・・・今だ! レイジングハート!」

≪Divine Buster Extension≫

「シュート!」

「バルディッシュ!」

≪Plasma Smasher≫

「ファイア!」

動きをバインドで押さえられた“闇の書”さんへ向けて、2人同時の砲撃を放った。完全に直撃コースだ。

「盾」

≪Panzer schild≫

だけど、たったその一言で現れたベルカの魔法陣のシールドに、私とフェイトちゃんの砲撃が止められた。
「刃を以て、血に染めよ」

≪Blutiger Dolch≫

「穿て、ブラッディダガー」

“闇の書”さんは2つの砲撃を防ぎながらも新しい魔法をさらに撃ってきた。いくつもの短剣が私とフェイトちゃん、ユーノ君たちへと襲い掛かる。でもなんとか直撃する前に離脱できたから、私たちに大きなダメージはなかった。

「輝けたる光において其の御姿はいと美しくただ煌いて。その威光の前にて有象無象は塵芥と化す。満ち足る――」

“闇の書”さんの足元に5つの円環が現れて、球体を形作るように回り始めた。何かの魔法の準備だと思うんだけど、どういう魔法か判らないから迷っていると・・・


「逃げろぉぉぉーーーーーーっ!」


遠くで緑色の髪の女の子と戦っていたルシル君が叫んだ。その様子は尋常じゃなくて、すごく焦っているようにも見える。そしてすぐさまルシル君から念話が来た。

『急いでその場から離れるんだ! それはかなりまずい! えっと・・そうだ! フェイト! アルフ! 指輪と腕輪を持っているか!?』

『え、あ、ごめんなさい。ルシルに一人前と認めてもらえるまでは使わないってアルフと決めたから、今は部屋に大事にしまってあるんだ』

『Oh! あぁそうか・・・とりあえず彼女から可能な限り距離を取れ! 一応、放たれる前に妨害するが、もし放たれた場合は全力で防御に移ってくれ!』

ここまで切羽詰ったルシル君の声を聞くのは初めてかもしれない。そして魔法の正体を知っているということは、あれはルシル君の魔術なんだろう。

「アルフ、ユーノをお願い! なのはは私と!」

「あいよ!」

「え? うん!」

フェイトちゃんに抱えられて、私たちは“闇の書”さんから全力で離れる。円環の球体の中心には、ルシル君の魔力光サファイアブルーの閃光が揺らめいていた。
 
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