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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep9迫り来る刻限~Time limit~

†††Sideシャルロッテ†††

「ん? ぅん・・・っ!」

「起きたようだな、シャル。気分はどうだ?」

意識が覚醒してすぐに耳に届いたのはルシルの声。私が居るのはベッドの上で、横になって寝かされている状態だった。何でこんなところで寝かされているんだろう、よく憶えてない・・・?

「ルシル・・・? どうしてこんな・・・あ」

ルシルに聞こうとしたところで思い出した。私、シグナムと戦ったんだけど、でも負けちゃって、すぐになのはと同じように魔力を奪われたんだ。いくらなんでもあまりに不注意だった。戦闘後こそ最も気を付けるべき時なのに。なのにあんなにも簡単に後ろをとられるなんて。不覚・・・。

「思い出したか。何はともあれ無事で良かったよ、シャル。それにしても何故魔術を使わなかった? キルシュブリューテと君の固有魔術を使えば楽に勝てただろうに」

ルシルはそう言うけど、私は魔術師ではなく魔導師として戦いたかった。だからこそ使わなかった、使いたくなかった。

「やだ。私は魔導師なんだよ? だったらデバイスと魔法を使うのが当然でしょ」

「そこまで染まっているわけか。君は魔導師じゃない。魔術師だ。3rdテスタメント・シャルロッテ・フライハイト。使えるものは使わなければ意味がない。デバイスと魔法で勝てないと判明したならば、即座に神器と魔術を使用するべきだった。君は何処まで行こうとも魔術師だ。魔導師じゃないんだ。その一線は忘れない方が良い」

今の私が望んでいる在り方を、これでもかって言うくらいに否定してきたルシル。解かってる、そんなことくらいは・・・解かってるんだ。でもだからと言って、魔術師に戻ってまで勝ちたくない。

「それと君の魔術は非殺傷設定が出来ないという件だが、いくらでもやりようがあるはず」

「そうかもしれない。それでも私は相手が魔導師だったら、魔導師として戦い続ける。例えその所為で負けたとしても、死んだとしても・・・この道を貫く!」

これは意地だ。すごくつまらない意地。本当の自分――守護神を忘れていたいから。それにこの世界の私が死んだとしても、消えるのは本体から切り離された分身体だ、何の影響もない。そして未だに“界律”との本契約が済んでいない以上は死んでもまた召喚されるはずだ。

「・・・そうか、判った。君がそれほどの覚悟を持ち望むなら貫き通せ。今まで散々こき使われ続けた君だ。それくらいなら少しは許されるだろう」

ルシルは頭を掻きながら呆れた。その表情はさっきまでとは違って、とても柔らかなものへと変わっていた。あまりにアッサリと意見を変えてきたから少し疑ったけど、ルシルの優しい目を見れば、本当に私の思うままにしてもいい、って言ってくれてるるってことが判った。

「ごめんね、ルシル。私さ、今ね、すごく楽しいんだ。こんなに楽しい時間は初めてなんだ、だから大切にしたい。いつかこの世界を去って、別の世界へと召喚されてもなお忘れることがないように」
 
「気にするな、この数千年の間に何度も組まされたパートナーだ」

「ご迷惑をおかけします。っとそうだルシル、現状はどうなっているの?」

これだけは聞いておかないといけない。ルシルも真剣な表情を浮かべて答えてくれた。

「ああ、アースラが稼動したことによって、司令部を海鳴市のマンションからここアースラに移した。そして君のことだが、活動に支障がないのなら高町家へと帰れるらしいが・・・どうだ?」

「全くもって問題なし。体の方の傷、ルシルが治してくれたんでしょ」

体を包み込むようにしてルシルの魔力が残留しているのが判る。これはラファエルの特徴だ。温かさと優しさが残る、慈愛の魔術。

「ああ。そしてもう1つ、君のデバイスであるトロイメライだが」

「・・・あまり良くない話みたいだね」

ルシルの表情から察する。確かにあれだけ派手に壊れたんだから、最悪2度と使えないなんてことも。うわ、すごく泣きたくなってきた。“トロイメライ”と一緒にもう2度と戦えないと思うと、心が締め付けられる。

「トロイメライはかなりの破損で、核にすら被害が及んでいるらしい。無茶をしたものだ。で、どれだけ急いで修復したとしても、年内ギリギリだそうだ」

「・・・え? 直るの?」

ルシルになんて言われたのか、再確認するために聞き返す。

「直る。だからそんな泣きそうな顔をするな」

良かった、あの子は直るんだ。負けたままで“トロイメライ”を失ってしまうかと思ったら泣きそうだった。

「うん。でも本当に良かった、これでリベンジ出来る」

「程々にな。それじゃあ俺は無限書庫での調査に戻るから。リンディ艦長には俺から連絡を入れておく。そのままなのは達と帰るように」

シグナムへのリベンジに燃えていると、ルシルがそう言って椅子から立ち上がった。本当にお世話になります。

「ありがとう、ルシル」

「ああ」

少しした後なのは達が来て、私は海鳴市へと戻った。

†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††

無限書庫で“闇の書”の詳細を調査するという任務を請け負って数日。調べれば次々と発見される“闇の書”の情報。今も現在進行形で色々と情報が出てくる。長年名付けられていた“闇の書”という名称。だが実際はこの名は正しくはない。正式な名称は、“夜天の魔導書”。もしくは“夜天の書”というらしい。良い名前だ。
しかも “夜天の書”の有していた本来の機能も素晴らしいものだった。偉大な魔導師の技術を蒐集し研究するために生み出された、持ち主と共に旅をする魔導書だったのだそうだ。本当の姿は、健全な資料本だったんだ。だと言うのに、どうして“闇の書”などと言う禍々しいものに変わってしまったのか。

「これはちょっと許せないな・・・」

「ああ、いつかの持ち主の誰かが改悪した所為で、“闇の書”――“夜天の魔導書”は壊れ、破壊の力を揮うだけになってしまった」

考古学者の一族スクライアの人間であるユーノの怒りも良く解かる。俺とて自他ともに認める本の虫だ。こういう特別な、そして健全な書物を狂わせるとはとてもじゃないが許せん。アリアも「馬鹿みたいに強い力を得ようとするのは今も昔も変わらないのね」と憤りを見せている。

「ルシル。これ見てくれ。無限再生と転生機能の原因って・・・」

「どれ?・・・間違いないな。持ち主と共に旅をする転移プログラムと、破損データを修復するプログラム。無茶な改変の所為でこれらが暴走しているんだ」

どこの誰かは知らないが余計なことをする奴もいるものだ。もし時間を遡れるのなら、プログラムを改変した奴を見つけ出し、1発とは言わず、何発も殴り飛ばしているものを。今はもう死んでいるであろう犯人に殺意を漲らせながら、さらに詳しい情報を得るために調べ続ける。

「・・・おいおい、これは何の冗談だ」

「どうしたの? ルシル君」

アリアが俺の見ている資料を肩越しから覗きこんできた。

「これを見てください。持ち主に対する性質が、一番最悪な方へと改悪されているんです」

「どれどれ」

“闇の書”の信じられない情報が記載されている資料を、ユーノにも見えるように開いてみせる。

「わざとじゃないだろうな、これは。もしこれがわざとなら、改変した奴は天を突き抜ける馬鹿だな」

アリアもまた「これは何と言うか、酷いね」と呆れている。実際は酷いじゃ済まない。俺が差し出している資料に目を通しているユーノの表情が見る見るうちに険しくなっていく。
それはそうだ。なにせ、一定期間蒐集をしなければ持ち主を侵食していくと言うんだ。それを防ぐために蒐集を繰り返し、完成させたらさせたで今度は持ち主の魔力を、無差別破壊のためだけに延々と使わせ続ける。そのため、“闇の書”の主となった者には全て同じ結末が訪れることになる。

「つまり、自滅という、もっとも愚かな最期を迎えることになるんだ」

「これは本当に冗談じゃないね。守護騎士や彼らの主はこのことを知ってるのかな?」

「蒐集しても主を殺し、蒐集しなくてもまた同様に主を殺す・・・笑えないぞ、本当に」

これを知っているのなら、あんな誰かれ構わず襲撃するという強硬手段を取ってまで、蒐集を繰り返さないだろう。しかし話が話だ。蒐集しようがしまいが自滅の道の果てに向かうことになっている。ダメだ、ハッキリと答えが見出せない。

(知っているとすれば、待っているのが滅びであろうと解かっていてまで蒐集するメリットは何だ?)

そしてそれは主の命によるもので・・・いや待てよ。思い出せ、アルフは言っていたな。

――ザフィーラが言ってたんだけどさ、闇の書を蒐集してんのって守護騎士だけの意志らしいんだよ。だから主って奴はアイツらが蒐集をしてるの知らないみたいなんだけど・・・本当なのかね~?――

全員その情報には驚いたものだ。クロノはこちら側を惑わす偽情報の可能性もあると言っていたが、まず間違いなく真実だろう。シャルもフェイトもなのはも、ザフィーラの話が本当だと信じて疑っていなかったな。直接ぶつかれば解かるというものだ。守護騎士の愚直とまで言える純粋な人格。それを思えば彼女たちは嘘は言わないだろう。

「ユーノ。夜天の書の主、この事実を知っていると思うか?」

「聞かれてもハッキリと答えられないよ、そんな質問。・・・でも、この事実を知っていても知らなくても蒐集するしかないよ、きっと」

「だな。・・・今回の事件、思っていた以上に厄介だな。目的が一層判らなくなった」

守護騎士のリーダーであろうシグナムがこれまでにいくつかヒント(自覚はないだろうが)を漏らしていた。大切な仲間の為。己が仕えし主の為。シグナムの言葉は特に信じるに値するものだ。主の為に蒐集している守護騎士。
だがその果てに待っているのは純粋な滅び。一体何を考えて蒐集しているのかを必死に考える。蒐集しないという待ちの構えではなく、蒐集するという進む道を選んだことに、今回の事件の根幹があるんじゃないだろうか。

(考えろ。今まで手に入れた情報(ピース)を組んでいけ。今までは機械的な応対しなかった守護騎士。今回は自らの意志で蒐集するという動きを見せるほどの、人間的な様子を見せている守護騎士。滅びへの早道である蒐集するという行為。それが主の為であり仲間たちの為でもある・・・)

そこで1つの仮定が生まれた。それは、“夜天の書”の停止方法を知っているのか?だった。しかし、もしそうなら今までの“闇の書”事件はおそらく起きていないだろう。くそっ、何かが足りない。

「ユーノ、停止や封印方法についての資料は見つかったか?」

「そんなモノがすぐに見つかったら苦労しないって」

「それもそうか」

しばらく調査に没頭して無限書庫に静寂が続く。何十冊もの資料を読み漁り、そして辿り着いたとある情報。発見したのはユーノだった。

「これを見る限りじゃ完成前の停止は難しいかもね・・・」

「・・・夜天の書が真の主と認めた者以外、管理者権限が扱えない、か」

未完成である“夜天の書”のプログラムは、たとえ主であっても停止させることも改変し直すことも出来ないという。さらに厄介なことに、外部からの操作は一切受け付けず、無理に行おうとすれば主すらも吸収し、いずこかへランダム転生してしまうシステムのオマケ付き、と。まったく。改変した奴を血祭りにあげたいな。

「完成前では停止も出来なければ封印も出来ない。そしてチャンスがあるべきゴール――完成後は破壊の限りを尽くしてトンズラ。外部が出来ることと言えば、暴走して破壊行動を行う前に破壊して阻止するしかない、と」

「ええ。だから闇の書事件は、アルカンシェルと言った高威力の攻撃での破壊によって終わるっていう結末を迎えざるを得ないの」

「厄介過ぎるね、それ」

アリアの沈痛な表情。ユーノもまた似たような表情を浮かべている。散々解決方法を探し続けて、その結果がどうしようも出来ないとは。それでも何か、もっと良い方法が見つからないかと資料を探し続ける。時間はまだまだある。

「ごめん、私はここまでだ。交代でロッテがもう少しで来るから、それまで2人で頑張って」

とここで、アリアが顔の前で手を合わせて謝る。俺とユーノは「お疲れさまでした」とアリアを見送った。再び俺とユーノだけになった無限書庫。空気がずっしりと重い。

「そうだ。よし。もう1つの問題の方に意識を割こう」

「急にどうしたの?」

「・・・すまん、声に出していたか」

「うん、ハッキリと。疲れてるんじゃないか? 毎日遅くまで調査してるし。少し休んだ方が良いんじゃ・・・」

「それを言えばユーノもだよな。それに、好き好んで調査しているんだから問題ない」

「まぁ、僕も調べものとか好きだから、気持ちは解かるよ。でさ、もう1つの問題って?」

「・・・仮面の男、だ」

「あぁ、クロノが言っていた・・・」

クロノに貰った仮面の男のデータをモニターに表示する。

「見るからに強そうだよね。それに、魔法の腕も相当みたいだし」

そうなんだよな。初の干渉は、守護騎士との初邂逅の時。ヴィータを逃がさないために魔術を使おうした時、死角からのバインドを仕掛けられ、身動きが取れなくなった瞬間に背中に蹴りを一撃。
次に干渉してきたのは、俺と守護騎士の戦闘だった。粉塵によって視界が最悪だったと言うのに、的確に俺の両脚にバインドを仕掛けてきた。
3回目の干渉。フェイトとなのはがデバイスにカートリッジシステムを搭載しての初陣。結界外での“夜天の書”の持ち主の捜索の時だ。シャマルを見つけ、仕掛けようとしたところでまた俺の前に現れた。狙っているのか?と思えるくらいに俺の前に姿を現す。冗談じゃないぞ。

「ちょっ、ルシルっ? 恐っ、恐いってその顔!」

「あ? あぁすまん? というか、そんなに恐い顔をしていたか?」

「してたしてた。聞いたけど、仮面の男ってルシルのところばっかに出るよね。やっぱり危険人物だって思われてるんじゃないの? 僕たちの中で1番強いのってたぶん、ルシルだし」

「危険人物って・・・。1番強いかどうかは知らないが、蒐集されたことで最も弱くなっているのは知られているだろう、俺が蒐集された現場に居るのだから」

「それでもなお危険レベルが高いって思われてるってことじゃないのかな? 実際、魔法が使えなくても指揮とか出来そうだし」

「どれだけ俺を高く見ているんだよ・・・」

嘆息しか出ない。が、すでに俺はもう危険人物としては見られないだろう。何せ俺よりクロノを優先させ、俺がシャマルへと仕掛けようとするのも放置したんだ。それはつまりシャマルを相手にして、俺はもう何も出来ないと見限ったからだ。それはそれでイラつくな。ああもう、余計にモヤモヤする。

「でも、それだけじゃ済まなかったんだよね・・・」

「ああ、そうだな。俺のことならまだ許せるが、この男はシャルとシグナムの、騎士としての決闘を穢した」

つい昨日、シャルが蒐集された。シグナムとの真剣勝負――騎士の決闘が終わった直後。シャルがギブアップしたその瞬間、シャマルのような特殊な転移術式によって背後から魔力炉(システム)を体外に無理やり引き出された。
アルフの話だと、アルフが来るまでシグナムはシャルを抱きかかえていたそうだ。それはまるでシャルを守るかのようだと聞いた。シグナムとて騎士だ。同じタイプのシャルをまったくの他人とは思えなかったんだろう。

「でも考えればおかしい奴だよね、この仮面の男って。いくら激戦を繰り広げた後だって言っても、あのシャルやシグナムに気付かれないように接近するなんて」

「かなり高レベルなステルスなんだろうな。それに気配断ちも文句なし。この前、それで撒かれた」

ステルスだろうが何だろうが、万全の状態なら戦闘中であってもシャルなら気付いただろうな。全てはタイミングの問題だった。仮面の男は、シャルの強さも判っていたからこそギリギリまで奇襲を待っていた。シャルを警戒していた証拠だ。

「それだけじゃないよね。シャル達の居た世界となのは達の居た世界、どれだけ急いで転移しても20分は掛かる距離なのに、なのはのバスターを完璧に防いで、間髪いれずになのはとフェイトをバインドで拘束。その9分後には別世界のシャルの背後から一撃・・・。ルシル、こんなこと出来る?」

「無理だな。そもそも俺やシャル・・・いや魔術には個人レベルでの転移術式は無いんだ。もしあったとしても、強化されたなのはの新型バスターを容易く防御、そのうえで2人に長距離バインド。そのどっちも出来ないことはないが、相当骨が折れるぞ」

こんな制限だらけで雁字搦めにされた今の俺では高難度だ。

「一体何を企んでいるんだろうね、この仮面の男って。だって夜天の書って外部からの干渉を一切受け付けないんだから、手伝う意味が無いんだ」

「それもそうだよな。守護騎士の蒐集を手伝っているということは、夜天の書の完成を望んでいる証拠だ。完成させたところでこの男には何のメリットもない。・・・何か余計に混乱してきた」

「少し休憩しようよ、ルシル。ちょっと詰め過ぎたかも。頭の回転が鈍ってるよ」

「・・・そうだな。じゃあ少しだけ」

未整理区画を出、一般区画内に設けられている休憩室へ向かうことに。廊下を歩く中、前方から執務官の制服を着た1人の少女が歩いてきた。ただ歩いているだけの少女だが、身に纏う空気が戦闘者のそれだ。強い。ここまでハッキリと強いって思える魔導師に会ったのは初めてかもしれない。
それだけじゃない。何か懐かしい。懐かしいんだが、これは少し悪い意味での懐かしいかもしれない。その少女とすれ違う――というところで、悪寒が走った。堪らずその場から離れようと足に力を込めた瞬間・・・

「可愛い子見ぃ~~っけ❤」

「なんだぁぁぁっ!?」

その少女にいきなり抱きすくめられた。わけも解からず混乱。ユーノが視界に端に映る。ユーノは完全に呆然としていて、俺を助ける見込みがない。自分を救えるのは自分だけだ。だから「いきなりなんですかっ!」と離れようともがく。だが少女の力は思っていた以上に力が強く、頬擦りを否応なく受けるしかない。ここまで本気で思い、口にすることはなかった。そう、「誰か助けて」なんて。

「ねえ、君、お名前は?」

「だったらまずは離れてくれませんかね?」

「ん~。教えてくれたら話すかも~?」

「・・・はぁ。ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。嘱託魔導師です」

解放されるために名乗ると、彼女は「セインテスト? どっかで聞いた覚えが・・・」そう唸った。俺は心のうちで、ありえない、と断じた。アースガルドの四王族の一角、セインテスト王家の人間にのみが語れるもの。聞き憶え。ありえない。それだけは決して覆らない・・・はずだ。

「何をやっているんだい、セレス」

「お? ロッテじゃん! お疲れ!」

アリアと交代で来てくれたロッテに、セレス、と呼ばれた少女が敬礼をして返す。その間にも俺を離そうとしなかったが。頬擦りを止めてくれたことだけでは助かった。

「セレス。ルシルが困ってじゃん、放してやんな」

「ん、了解。ごめんね、ルシリオ・・・ルシル君❤」

ようやく解放してくれた。

「んじゃ改めて、ルシル、ユーノ、おっつ~。なんか判ったかい?」

「はいっ。さすが無限書庫と言えるような、探せばちゃんと欲しい情報が出てきますから」

「ある程度情報を見つけ、纏めようとしているところです」

「おお、さすがだね。でも悪いね。あたしらももっと手伝えりゃいいんだけど、仕事がね」

「気にしないでください。俺もユーノも、無限書庫での調査は好きでやっているんですから」

「あはは、そっか。うーん、ホント優秀だよねあんた達。ねえねえ、本格的に管理局に入ってみちゃどうだい? 無限書庫付きの役職もあるし、待遇は良いし、寮もあるから生活面は大丈夫だよ」

ユーノは「考えておきます」と前向きだが、俺は微苦笑で済ますことに。

「君たち局員じゃないの?」

まだ居たのか、この人は。ジリジリと警戒しながら距離を開け、しかしセレスもまたジリジリと距離を詰めてくる。うぐっ、これが肉食動物に狙われた獲物の気持ちというものか・・・。

「あ、自己紹介がまだだった。あたし、セレス・カローラ。見ての通り執務官やってんの♪」

セレス・カローラ。灰色の髪をサラッと払い、流し目で俺を見てきた。一体何をしたいんだ。とにかくすぐにでも離れたいために「失礼しますっ」と、未整理区画へ逃げるためにダッシュ・・・出来なかった。

「なっ!?」「え?」

一瞬で目の前に回り込まれた。俺もユーノも驚きに目を見開いた。速い、シャルやフェイトほどに。

「もうちょっとお話ししようよ♪ 休憩室に向かおうとしてたし、時間あるでしょ?」

に、逃げられないのか・・・? ユーノを見ると、諦めたかのように肩を落とした。ロッテも「んじゃ情報まとめ、やりますか!」笑った。

†††Sideルシリオン⇒????†††

はやてちゃんの病室を、廊下の陰からひょっこり顔を出して覗き見る。本当だったら私だって病院に来ているんだから、病室にお見舞いに行くべきなんだけど。でも行けない。だって今、はやてちゃんの病室にはお見舞客が居る。ただのお客さまならはやてちゃんと一緒にお迎えするんだけど、いま来ているのは一般のお客さまじゃない。

(はぁ。まさかすずかちゃんのお友達の中に、なのはちゃん達が居るだなんて)

そう、はやてちゃんのお見舞いに来たお客様の中に、私たち守護騎士のことを知ってる管理局の子たちが居る。なのはちゃん、テスタロッサちゃん、フライハイトちゃんの3人だ。頭を抱えて唸っていると、通り過ぎていく人たちから奇異の視線を向けられた。問題を起こすとバレちゃうかもしれないから、咳払いしてニコニコ笑顔を振りまいて誤魔化す。

「もう! どうしてこうなっちゃったの~・・・」

事の始まりは今朝だった。蒐集に出かけているシグナム達のお弁当を作っている最中、はやてちゃんのお友達であるすずかちゃんからメールが届いた。内容は、今日の放課後(ちょうど今の時間帯)に学校のお友達を連れて、はやてちゃんのお見舞いに行ってもいいですか?というものだった。

(本当に良い子ね、すずかちゃん)

あの子の優しさに感動しているのも束の間、送られてきた写真を見て私は凍りついた。そこに写っていたのは、管理局の魔導師であるなのはちゃん、テスタロッサちゃん、そして先日蒐集したフライハイトちゃんだったのだ。一瞬で頭の中が白くなる。まずいことになった。

(このままだと闇の書の主がはやてちゃんだと知られてしまうわ・・・)

そう思った私は混乱しながらもシグナムへと連絡を入れた。頼れるのはやっぱり、私たちの将だと思ったから。事情を聴いたうえでのシグナムの提案は、私たちの正体を知るなのはちゃん達がお見舞いに来ている間は、私たちは病室に居ないことを心がける、というものだった。だからこうして病室に居ることなく、こんな出歯亀みたいなことをしている。

(でも本当に助かったわぁ、シグナムに連絡して。私ひとりじゃ焦ってばかりで何も出来なかったかも・・・)

シグナムの言うとおりだった。まず、はやてちゃんの魔法資質の大半は“闇の書”の中。詳しく検査されない限りは、はやてちゃんが“闇の書”の主だって気付かれない。もし気付かれていたら今頃大騒ぎだ。それが無いっていうことは、今も気付かれていないことになる。
ああもう。こんなことになるって判っていたら、始めから変身魔法で正体を隠しておけばよかった・・・ってつくづく思う。全ては過ぎたことだと判っていても後悔ばかりが出てくる。もう少し気を遣っていれば、こんなに悩んで考える必要もなかったのに。

「はぁ。はやてちゃんのお友達なのに、挨拶どころか会うことも出来ないなんて」

そう思うと余計に悲しくなってくる。さらに追い込みを掛けてくるような提案を、シグナムは出した。はやてちゃんと主治医である石田先生へのお願い。それは、私たちの名前をなのはちゃん達の前で出さないこと。
明らかに何か勘繰られるようなお願いだ。実際に、なんでなん?、どうしてですか?って聞かれちゃったもの。でも答えられるようなものじゃないから、ただお願いします、って頭を下げることしか出来なかった。シグナムは仕方のないことだって割り切っていたけれど、私はもう辛くて辛くてしょうがなかった。

「どうしてこんなことになっちゃうの?」

私の溜息だけが聞こえた。もう何度目かも判らない。はやてちゃんの病室の前を数往復する中、僅かに開いてる扉の向こうから聞こえてくる楽しそうな笑い声。

(本当に良い子たちなのね、なのはちゃん達も)

楽しそうに談笑するはやてちゃん達の様子を窺って、罪悪感がハッキリと生まれてしまった。確かに必要な行為だったとしても、お見舞いの品を持ってきてくれたなのはちゃん、率先して面白い話をしてはやてちゃんを笑わせているフライハイトちゃんの2人は特にだ。

「シャマルさん? どうかなさったんですか?」

私に声を掛けてきたのは石田先生だった。私は返答に困ってうろたえていると、「中に入ってお話でも――はダメなんでしたっけ」と苦笑い。そして私は場所を変えて石田先生と話をした。私たちにはやてちゃんを支えてあげてほしいと。
それから少しして、すずかちゃん達が帰ったのを確認して、私ははやてちゃんの病室へと戻った。

「はやてちゃん。お友達のお見舞い、その、楽しかったですか・・・?」

「うんっ、楽しかったよ。みんな、ホンマに良え子ばかりでな、友達になれたんよ♪ それでな。あと他にも、ルシリオン君って子がおるんやって。写真見せてもらったんやけど、ルシリオン君、女の子みたいにすっごく綺麗なんよ。また時々来てくれるって言うてたし、今度はルシリオン君も連れてきてくれるって」

「そ、それは良かったですね(大丈夫、落ち着いて)」

「なぁシャマル。もうすぐクリスマスやなぁ」

クリスマス。この世界での特別な日、だったわよね。聖なる日で、この世界の人たちはその日を祝うっていう・・・。

「みんなとのクリスマスは初めてやから、それまでに退院して、家族みんなで楽しむことが出来ればええな。うん、それまでにちゃんと治さなアカンな。よぉし、頑張るでっ♪」

「そうですね、はやてちゃん。きっと大丈夫ですよ。その日までにはきっと治りますよ。そうしたら、家族みんな揃って、クリスマスを楽しめます」

そうよ、もう立ち止まることは出来ないのだから、あとは何が何でも前に進むだけ。はやてちゃんが楽しみにしているクリスマス。はやてちゃんが笑っていられるように。その日までに何としても終わらせる。
 
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