ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三十二話:男のロマン
「……着替え。どうしようかな」
「……そのままだと、動き辛いのか?」
「それほどでも無いけど」
馬車を停めていた場所に、着いて。
呟いたところで、ヘンリーに問われます。
これで走り回ってたし、動きやすさという点では特に支障は無いけれども。
でもこの格好で戦うとかなり際どいことになるというか、下手したら見えるんじゃないかと思うわけで。
スカートの長さ的に。
「……やっぱり着替えようかな」
「何でだよ。いいだろ、動けるなら。折角リボンも着けたんだし」
「……」
なんか、もっともらしいことを言ってるようだが。
「……なんで、着替えさせたくないの?」
「……」
「……男のロマン?」
「……」
……否定しないのか!
形だけでも否定してみればいいのに!
信じないけど!!
「……やっぱり着替える」
「……ちっ」
「だから舌打ちしない!」
なんで、そこはこだわるんだ!
灯台を駆け上がるのは咎めたくせに、全く意味がわからない!
他の人間男性が見てなければいいとでも言うのか!?
ヘンリーを無視して馬車に入ろうとすると、モモが寂しそうに擦り寄ってきます。
『ドーラちゃん、着替えちゃうの?リボンも、はずしちゃう?』
……うっ。
ヘンリーの男のロマンはともかく、モモにこんな悲しそうにされてしまうと……!
「……着替えるけど!髪型も戻すけど、リボンも結び直すから!今日は、一日着けてるから!」
『ほんと!?』
悲しそうだったモモが、途端に瞳を輝かせて喉を鳴らし始めます。
『嬉しい!なら、今日は一日お揃いだね!』
「うん!お揃いだから!だから、着替えても大丈夫だよね?」
『うん!ちょっと残念だけど、仕方ないもんね!』
良かった、モモの了解が得られた。
ほっと息を吐くと、またヘンリーが声をかけてきます。
「結び直すなら、俺が」
「結構です!」
またあんな触り方されたら、堪ったもんじゃない!
せっかく立ち直ったところなのに!
下心しか感じない申し出を切り捨てて、馬車に入ろうと乗り口に手をかけて。
……この段差もなあ。
いつもは気にしてないけど、このスカートだと……。
ちらりと後ろを見ると、こちらを見詰めるヘンリーと目が合います。
「……あっち向いてて」
「……ちっ」
「……だから!もう!」
下心があるんだとしても、もうちょっと隠そうとかできないもんかね!?
隠せばこっちだって油断して、隙を見せるかもしれないのに!
まさか、わざとやってるのか!?
ヘンリーにじっとりとした視線を向け、渋々ながら後ろを向いたのを確認して。
スカートの裾を気にしつつ、素早く馬車に乗り込みます。
「あ。見え」
「!!」
後ろで呟く声に、咄嗟にスカートの後ろを押さえてバッと振り向くと、またヘンリーと目が合います。
「……ない」
「……!!」
……コイツは、本当に!
一体、何がしたいんだ!
あと見えたか見えなかったかはともかく、結局見てたのか!!
「……ヘンリー」
「何だ?」
「……ばか。きらい」
「……!!」
上目遣いで睨みつつボソッと呟くと、予想以上に衝撃を受けたような表情で、ヘンリーが目を見開きます。
思ったより反応が大きかったがまあいいや、自業自得だ。
何がしたいのか知らないが、調子に乗りすぎだ。
衝撃に固まるヘンリーを放置して馬車の奥に入り、荷物の中から着替えを取り出して、さっさと着替えてしまおうと服に手をかけて、ワンピースの背中のボタンを外して腰まで引き下ろしたところで。
「……ドーラ!!悪かった!!俺が、悪かった、か……ら……」
「……」
勢い込んで馬車に踏み込んできたヘンリーと、目が合います。
ヘンリーの視線はやや下で固定されてたので、正確には目は合ってなかったかもしれないが。
「……ヘンリー」
「……」
はだけた胸元を、下ろしていたワンピースを引き上げて隠しながら、また上目遣いで睨み付けます。
「……変態。大っきらい」
「……!!」
またヘンリーが、衝撃で固まってますが。
着替えたいので、とりあえず出てってくれないか。
と思ってると、モモが乗り込んできてヘンリーの服をくわえ、馬車の外に引っ張り出します。
『……もー、ヘンリーさん。止めるスキもないんだからー。ドーラちゃんにきらいって言われちゃったからって、動揺しすぎー』
心の声だからくわえてても関係無いのか、支障なくぶつぶつ呟くモモに無抵抗で引っ張られるヘンリーが、馬車の外に姿を消して。
モモが再度、馬車の中に首を突っ込んできます。
『ドーラちゃん、ヘンリーさんにはあたしたちでよく言っとくから。わざとじゃないから、あんまり怒らないであげてね?』
「……モモが、そう言うなら」
わざとだなんて、私だって思ってないし。
きらいとか大きらいとか、その場の勢いというか怒りの表現であって、本気で嫌いというわけでもないし。
そうか、しかしきらいは言い過ぎだったのか?
ばかとかえっちとかそういうのだけだと下手すると喜ばせそうだと思って、これでも考えた結果なんだけど。
だとしたら、何て言えば良かったのか。
……まあいいか、もう済んだことだし。
ヘンリーも、少しは反省したらいい。
色んな意味で。
などと考えつつ、着替えを済ませて髪型も戻し、改めてリボンも結び直して。
「お待たせ!じゃあ行こうか!」
気分を切り替えて、馬車の外に出ると。
『うん!行こう、ドーラちゃん!』
「参りましょうか」
「おーし!いこーぜー!」
「ピキー!」
「………………行くか」
元気に応じてくれる仲間たちに、どんよりとしたヘンリー。
何これ、どうしよう。
とりあえず、モモに近寄って状況を聞いてみます。
「……モモ。ヘンリー、どうしたの?」
『うーん。ピエールさんに通訳してもらいながら、一緒にお説教してみたんだけど。最初はぼんやりしてるみたいだったのが、なんか言う度にどんどん落ち込んでいっちゃって。途中からはコドランくんたちも一緒に励ますようにしてみたんだけど、それでもやっぱり変わらなくて。ずっとあんな感じなの』
「……」
何それ、めんどくさい。
え、ていうか私が悪いの?
もしかしてやっぱり、言い過ぎだったの?
考え込む私に、ピエールがそっと近寄ってきて小声で進言します。
「……ドーラ様。ヘンリー殿は確かに引き際を間違えたところはござりましたが、あの御言葉はいかにも酷であったかと。拙者らの取り成しでは最早どうにもなりませぬゆえ、どうか」
「……わかった」
私の保護者たるピエールに、この状況でこんなフォローの言葉を吐かせるほどとは。
なんて、めんどくさいんだ。
でもそんなに堪えるとは思わなかったし、あれだけのことでそこまで落ち込ませてしまったなら、やっぱり私も悪かったか。
どんよりとした空気を纏って溜め息を吐くヘンリーに、歩み寄って声をかけます。
「ヘンリー」
俯いた顔をのろのろと持ち上げて、ヘンリーが答えます。
「…………ドーラ。…………悪かった」
間が長い。
空気が重い。
そんなにか。
そんなに、ショックだったのか。
「いいよ、もう。確かに怒ってたけど、そこまで落ち込ませたかったわけじゃないし。もう、気にしないで」
「…………嫌いに、なったか?もう」
「なってないから。あれだけでどうこうなるほど、短い付き合いじゃないでしょ」
好感度的なものが存在するなら、多少は下がったかもしれないけれども。
それでもマイナスに振り切って嫌うまでいくのは、よほどのことがない限りもう無理だろう。
「……お前に、嫌われたら。……俺は」
「だから、ならないから嫌いにとか。私が怒ってるのがどう言ったら伝わるかって、考えたらああなっただけで。ばかとかそんなこと言っても、そんなに効かないでしょ?」
「……嫌いじゃ、無いのか?」
「うん。でも、怒ってたけどね。そんなに落ち込むと思わなかったから。酷いこと言っちゃったみたいで、ごめんね」
「……いや。俺が、悪かった。……気を付ける」
持ち直したように、顔をしっかりと上げてヘンリーが言いますが。
……これは、まだだな。
まだ、落ち込んでるな。
「……ヘンリー。ちょっと、来て」
「……何だ?」
腕を掴み、私の急な行動に戸惑うヘンリーを、馬車に引っ張り込みます。
「ヘンリー。座って」
「……ああ」
なんだかわからない様子ながらも、ヘンリーが素直に腰を下ろします。
私も腰を下ろして、ヘンリーを抱き締めます。
ヘンリーがさらに戸惑ったように身動いで、口を開きます。
「……おい、ドーラ」
「嫌いじゃないから。なるわけないでしょ、嫌いにとか。ヘンリーは、なるの?私がちょっと間違って、嫌なことしちゃったからって。それで私を、嫌いになるの?」
私の問いに、呟くようにヘンリーが答えます。
「……俺が。お前を、嫌いになるわけ無い」
「私は、酷いこと言ったのに?思ってもないのにきらいだって言って、ヘンリーを傷付けたのに。それでも、嫌いにならないの?」
「ならない。絶対に、お前を嫌いになんかならない」
今度ははっきりと、断固とした口調でヘンリーが答えます。
「なら、私だって。十年一緒にいたのに、今も一緒にいて守ってくれるのに。本気で嫌がるってわかってればしないって知ってるのに、ちょっと間違えたくらいで。嫌いになんかならない」
「……ドーラ」
ヘンリーを抱き締めたまま片手を頭に伸ばし、ゆっくりと撫でます。
「ごめんね。酷いこと言って、ごめん。もうわかったから、もう言わないから。だから、もう落ち込まないで」
私の背中におずおずとヘンリーの腕が回されて徐々に力が込められ、強く抱き返されます。
「……ドーラ。悪かった。本当に、気を付けるから。だから本当に、嫌わないでくれ」
「大丈夫。ならないよ、嫌いになんて。ヘンリーも、ならないんでしょ?」
「……そうだが」
「大丈夫だから。嫌いな相手に、こんなことするわけないでしょ?」
「……ああ。そうだな」
柔らかい口調で答えたヘンリーの顔を、探るように見詰めます。
「……もう、大丈夫?」
だいぶ、落ち着いたように見えるけど。
「……もう少し、このままでもいいか?」
「うん。いいよ」
またぎゅっと抱き締めて、頭を撫でて。
思い出したように、聞いてみます。
「……ところでさ。あれは結局、何がしたかったの?」
「……」
男のロマンとか。
単純に見たくてやってるだけのようには、どうも思えないんですけど。
「……そんなに、見たいの?」
「……見たいは、見たいが……」
やはり、それだけではないのか。
「……なんで、いつも先に飛び降りようとするの?」
「……誰か先に行かないと、危ないだろ。そんな対象じゃ無いってわかってても、ピエールとか他のヤツらにだってわざわざ見せたくないし」
「……」
私の立場から言わせてもらえば、仲間内ではヘンリーに見られるのが一番問題なんだが。
私の安全とかそういうのを盾に取られると、単純に文句も付け辛い。
「……なら、下に履いてれば済むことじゃない。なんで、文句言うの?」
「……見たいは、見たいし」
「……」
一石二鳥的な。
あれか、事故なら仕方ないとか言ってた、そういう言い訳が立つのか。
その辺が、男のロマンか。
だからって見せる気は無いが。
「……さっきのは、何なの?見たかっただけ?」
見る以外の目的は無さそうだから、一石二鳥ではないが。
事故としての、男のロマンには違いない。
「…………それは…………いいだろ、別に。本気で嫌がるってわかったから、それはもうしないから」
「……」
まだ、何か隠してそうな雰囲気だが。
もうしないって言うし、問い詰めるほどでもないか。
下手につついて、妙な答えを返されても困るし。
「……もう、大丈夫だから。そろそろ、行こうぜ」
「……わかった。なら、行こうか」
明らかに、誤魔化そうとされてますが。
問い詰めないことに決めたし、あんまり出発が遅くなっても困るし。
ヘンリーもすっかり立ち直ったみたいだし、今度こそ!
ポートセルミの町を後にして、まだ見ぬ潜在的な大恩人!
ベネットじいさんの待つ、ルラフェンの町に向かいましょう!
ページ上へ戻る