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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百三十話:モンスターのお食事の件

「イナッツさん、お久しぶりです。……ずっと奥に、いらしたんですか?」

 そんなわけ無いだろうと思いつつ、自分の中で一番常識的な可能性として聞いてみます。

「やーね!そんなわけ無いじゃない!」
「ですよねー。……なら、どうやって」
「内緒よ?モンスター使いのネットワークを使って来たのよ!」
「ええっ」

 旅の扉的な?
 確かにモンスターを移動させられるなら、人だってできてもおかしくは無いが。

 でもそんな使い方ができるなら、船とかもう要らないのでは。
 完全代替とはいかなくとも、少なくともビスタとポートセルミの連絡航路に関しては。

「誰でもってわけじゃ無いのよ?ネットワークの管理者権限だから、おじいちゃんたちも無理なの。私だけね」
「あ、そうなんですか。……って、ええっ?」

 管理者って。

 じいさんの助手的立ち位置かと思ってたのに、それってなんだか。

「……イナッツさんって。もしかして、偉い人なんですか?」

 私の問いに、頷きながらモンスターじいさんが答えてくれます。

「うむ。モンスター使いのネットワークを築き上げ、預けたモンスターをどこのモンスターじいさんからでも簡単に引き取れるようになったのは、イナッツ嬢の功績じゃ。正式にまとまった組織では無いとは言え、彼女以上に影響力のある者はおらぬし、モンスター使いネットワークの実質的な代表と言っても過言では無いの」

 なにそれすごい。

 その旅の扉的ななにかの開発者がイナッツさんだって、そういう話ですよね?それ。

「またまたー!おじいちゃんたら、上手いんだからー!モンスター使いでも無い私が、そんなに偉いわけ無いじゃないー!」

 軽く否定するイナッツさんに、モンスターじいさんが言葉を重ねます。

「いやいや。オラクルベリーの同輩の不祥事が進退問題にまで発展しておるのは、イナッツ嬢の意向が大きいと聞いておるぞ?」
「あらやだ、人聞きの悪い。将来有望な新人の女の子に、未遂とは言えセクハラするようなおじいちゃんに、あんな大きな町のモンスターじいさんの役目は任せられないじゃない?後はつかえてるんだから」

 え、師匠ってセクハラしてたの?

 うん、いかんね、それはいかんよ。
 セクハラは、犯罪ですからね!
 後を任せられる人材がいるなら、未遂の段階で円満に勇退して頂くべきだね!

「ふむ。惜しい者を亡くしたの。女癖の悪さを除けば、優秀な男じゃったが」
「やだそんな死んじゃったみたいに!大丈夫よ、退職金も年金も十分だし!疎遠になってた息子さんが、喜んで引き取ってくれるみたいよ?良かったじゃない!」

 ……女癖の悪さゆえに息子にも見捨てられてた老人が、金を目当てに引き取られていくみたいに聞こえるんですが……。

 ……き、気のせいだよね!

 キレイな心で聞けば、これはきっといい話なんだよ!!

「そんなことより!ドーラちゃん、今日は女の子らしい格好なのね!こうやって見ると、完全に女の子よね!うん、やっぱり可愛いわ!」
「あ、ありがとうございます」

 そんなことなんだ。
 師匠の余生は私の服装より軽い、そんなことなんだ。

「ところで、私に用事って?モンスターのお食事のことって聞いたけど?」
「あ、はい。キラーパンサーが仲間になったので、少し聞いておきたいと思って」
「え、キラーパンサーまで仲間にしちゃったの!?ほんとにすごいのね、ドーラちゃん!あ、この子ね!名前は?撫でてもいいかしら?」
『うん、撫でて撫でてー!』

 イナッツさんの問いに、モモが嬉しそうに喉を鳴らして答えます。

「名前はモモです。どうぞ、撫でてやってください」
「モモちゃんね!わー、フカフカね!しっかりお手入れしてもらってるのね!」

 さすがに慣れた様子でイナッツさんがモモを撫で、モモもそれなりにじゃれついて。

 落ち着いたところで改めてイナッツさんが口を開きます。

「ところで、お食事だったわね。キラーパンサーの好みは、さすがに私にもわからないけど。本人に聞いたほうがいいんじゃないかしら?」
「好みは、そうなんですけど。食べてはいけないものがあるなら、わかれば教えて頂きたいんですが」
「ああ、そっちね!それなら、無いわよ!」
「え?そうなんですか?ネギとか、大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、そんな猫じゃあるまいし!」
「まあ、そうなんですけど」

 この世界でも、猫にネギはダメなのか。
 そして猫の常識は、キラーパンサーには当て嵌まらないのか。

「基本的に魔物は、人間よりも丈夫に出来てるからね。人間が食べられて、彼らに食べられないものは無いわ。逆は、たくさんあるけどね」
「そうなんですか」
「そうなのよ。人間の食べ物だけで育てようとすると、好き嫌いして栄養が偏る場合があるから、そこは気を付けないとダメね。色んなものを、満遍なく食べさせるようにしたほうがいいわね」
「わかりました」

 モモに限って、好き嫌いとかそんな心配はしてないので。
 そうとわかれば、もっと色んなものを食べさせてあげられますね!

『そっかー。タマネギとか、食べても大丈夫なんだ!』
「そうなんだって!良かったね、モモ!」
『うん!大丈夫なら、あたし食べてみたいものたくさんあるんだー!』
「うん!たくさん色んなもの食べようね!」

 じゃれあう私とモモを、イナッツさんも他のみんなも微笑ましそうに見守ってくれてます。

「お役に立てたみたいで良かったわ。用事は、これでおしまいかしら?」
「あ、はい。すみません、これだけのことでわざわざ来て頂いて」
「いいのよ!私が来たくて来たんだから!ドーラちゃんたちに何かあったら最優先で呼んでって、おじいちゃんたちに言ってあったからね!」
「うむ。これで呼ばねば、儂が酷い目に遭うところじゃった。ドーラ嬢は、何も気にするに及ばんよ」

 酷い目って、なにそれこわい。

 え、なんでそんなに気に入ってくれてるの?
 そんな気に入られるような何かをしてたっけ?私。

「もー!おじいちゃんたら、余計なこと言わないでよ!ドーラちゃんに怖がられちゃうじゃない!」
「おっと、これは失礼した。まあ、言葉の綾じゃて」
「ドーラちゃん!私はそんなことしないわよ?セクハラで引退だって、ただの自業自得だし!何もしてない人に、そんな酷いことしないから!」
「だ、大丈夫です。わかってますから」

 何気に師匠の処分に関わってることを肯定されたような気がしなくも無いが、私に害は無さそうというか、かなり好意的なのはわかったので、十分です。

「それじゃ、ご厚意に甘えて。何かあれば、また頼らせて頂きますね」
「ええ!いつでも、呼んでね!もう少ししたらオラクルベリーのおじいちゃんも代替わりするから、そうしたらあっちにも来てもらえるし!いいわよね、ヘンリーくん?」
「……次のじいさんは、大丈夫なんだな?」
「大丈夫よ!今回は特にそこを重点的に審査したから、間違いないわ!」

 そして審査って。
 やっぱりイナッツさん、相当偉いんじゃ……。

「それじゃ、今回はこれで帰るわね!代替わり前で、私もちょっとだけ忙しくてね。でも、いつでもドーラちゃんが最優先だから!遠慮しないで、絶対にまた呼んでね!あ、ネットワークの件は、本当に内緒にしてね?お使いとか、頼まれちゃうと面倒だし!頼まれても、そんなの突っぱねるけどね!」
「あ、はい。わかりました」
「それじゃ、元気でね!ドーラちゃん、ヘンリーくんに、モモちゃんたちも!」
「はい。イナッツさんも、お元気で。どうもありがとうございました」

 明るく言い置いて奥に消えていくイナッツさんを、見送ります。

 忙しいなら無理しなくても、と言う前に先回りされてしまった。
 私が最優先って、何でだ。

「ふむ。ならば、儂にももう用は無いかの?」
「そうですね、今日のところは。お世話になりました」
「なんの。こちらこそ、美味い茶と珍しいモンスターたちとの有意義な時間をありがとう。用は無くとも、また寄ってくれるかの」
「はい。近くに来た折には、ぜひ」
「ふむ。では、気を付けてな」


 じいさんに見送られて、モンスターじいさんの事務所を後にします。


「さて!モモがなんでも食べられるってわかったことだし!お店を覗いて、食べ歩きでもしよっか!」
『うん!』
「可愛いリボンとか、気に入ったのあったら買ってあげるからね!」

 私の提案に、モモが少し考えます。

『……ビアンカちゃんのリボンがあるから、他のはいらないけど。でもドーラちゃんとお揃いなら、やっぱり欲しいかも』
「そうだね!お揃いにしようね!いくら大事なリボンでも、いつも同じっていうのも寂しいもんね。私は、いつも着けるわけにはいかないし。お揃いにできる日とできない日で、使い分ければいいね」
『うん!』

 モモと並んで歩き出そうとしたところで、またヘンリーに捕まります。

「……今度は、走り回るなよ。町中なら、人は多いし。ナンパとか痴漢とか、本気で危ないから」

 確かに。

 灯台とかモンスターじいさんの事務所辺りは人が少なかったから、一人で走り回っても、そうそう誰かとすれ違うことも無かったけど。
 町中ならモモだって走り回れないんだから私が走る必要も無いし、今度は本当に、ヘンリーから離れないほうがいいかもしれない。

 納得してヘンリーに寄り添い、ぴったりとくっつきます。

「わかった。じゃあ、行こうか」

 ヘンリーに掴まりながら、変な人に絡まれないように気を付けようと気合いを入れて。

 動き出さないヘンリーを不審に思って、見上げます。

「ヘンリー?どうしたの?早く、行こう?」

 見上げた顔を、じっと見下ろされます。

「……いや。……やけに素直ってか。……可愛い、な」
「……」

 しまった、油断した。

 別のことを警戒するあまり、こっちが疎かになっていた。

 ……そんな、愛しいものを見るような目で見るな!

「……べ、別に!これくらい、普通でしょ?いつものことでしょ!?」
「顔、赤いぞ」
「……いいから!モモが待ってるから、早く行こう!」
「そうだな。行くか」

 同意の返事にほっとして、歩き出そうとしたところで。

 不意討ちのように、抱き締められます。

「……へ、へへ、ヘンリー!?」
「少しだけ。こういう設定なんだろ?今日は」
「だ!だからって!」

 誰も見てないようなところでこんなことして、何の意味があるっていうんだ!

「……やっぱり、妙に作ってないのが一番可愛いな」
「……!!」

 ……作ってた時のほうが、よっぽど赤くなってたくせに!!

「……さて。惜しいが、そろそろ行くか。モモが、待ってるからな」
「……」

 ……抱き締めたかったからしたみたいな、そんなことをわざわざ言うな!

「拗ねるなよ。また後でしてやるから」
「……拗ねてないし!要らないから!」
「そうか。でも、するかもしれないけどな。そういう設定だし」
「……」

 ……くッ!!

 ダメだ、一旦ペースを握られたらなかなか取り返せない……!
 ここで演技に入っても、そのままあっさり受け入れられてしまいそうだ!
 誰も見てないところでイチャイチャする、ただのカップルになってしまいそうだ!!

「……もう!いいから、行こう!行かないなら、一人で行くから!」
「行くよ、俺も。一人で行かせてまた他の男に触らせるとか、冗談じゃない。お前は、俺が守る」
「……いいから!!行くなら、早く!!」
「ああ。行くか」



 言い訳のしようも無く真っ赤な顔で、意地になったようにヘンリーにぴったりとくっついたまま、モモを追いかけて町中を目指し、歩き出します。

 ……これは、演技!
 そういう、設定!
 大丈夫、いつもやってるんだし、これくらいなんでも無いし!
 町中に入る頃には、顔色だって戻るから!

 ……戻るよね?

 ……戻る、はず!

 戻してみせる!!

 と、自分に散々言い聞かせながら。 
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