“死なない”では無く“死ねない”男
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話数その17 違わない
「……ったく、面倒増やしやがって……」
ブツブツ呟きながら、晋は爆弾をお手玉する。傍から見ていてソワソワしてしまう光景だが、当の本人はには“不死身”という力の為、別段特別な事をしているような、そういった緊張した表情ではない。
「わ、たくしを……人間如きが倒すなんて、無理ですわよ」
先程の爆撃による怪我が、完治とまではいかずとも幾らか治っているレイヴェルが、再び空へ昇りながら晋を睨みつける。
「……なるほど…“フェニックス”ってのは、名前だけじゃねぇって訳か……」
「そう、我がフェニックス家は“不死鳥”の名の通り、不死身の肉体を持っていますわ。いくら破壊されようとも焔と共に甦る……先程の爆弾も避ければいいから、あなた方には倒すことなど不可能でしてよ?」
「……なら、お前後回しな」
そう言うや否や、晋はいきなりニィとリィに抱き付いた。 抱きつかれた二人は勿論の事、兵藤達やレイヴェル達も呆気にとられる。
「な、何してるにゃ!?」
「にゃあ!? 放せスケベ!」
人間だからと侮っていた二人は、予想した以上の力を持っていた晋に戸惑い、抜け出すのにもたついている。
それを羨ましそうに見ていた兵藤だったが、ふと晋の口に咥えられている物が目に入り、表情を強張らせる。
「き、木場! 早く離れろ!!」
「えっ!?」
兵藤が言葉を発すると同時に、晋とニィとリィの周りに大量の爆弾が敷かれた。そう、彼が加えていた物、それは―――“爆弾”だったのだ。
「……Killyou」
晋がその言葉と共に口の爆弾をかみ砕くと、それを合図にしたかのように大爆発が起きる。爆風の影響で踏ん張っていない者は吹き飛ばされ、耐えている者はその威力に背筋を凍らせる。
「自爆だと!?」
「人間らしい、哀れな手段ですわね……しかし、ニィとリィがやられてしまいましたわ」
レイヴェル達は晋のまさかの攻撃手段に驚くが、兵藤達は気付いていた……“コレは自己犠牲の為の自爆では無い”と。
『ライザー様の“兵士”2名、戦闘不能』
「「「「へっ?」」」」
「ちょ……なぜ!? あの人間も死亡しているから戦闘不能では―――」
「……違うから呼ばれてねぇんだろうが……往生際悪いっての…」
非難していたレイヴェルは、聞こえてくる筈の無いその男の声を聞き、機械仕掛けの人形のようにゆっくり振り向く。
「―――っ!? な、何で……っ!?」
そして、居た。居る筈の無い男……晋が、先ほどとは違う服を着て、手を当て首を鳴らしながら。
「……兵藤、残り三人だ……一人引き受けてやるから、頑張りやがれ…」
「やっぱお前、異常だぜ……」
そういいながら、兵藤は倍化状態を維持したまま『騎士』と『僧侶』へ向かっていく。 晋は残りの仮面の女、『戦車』を相手する事になった。
「あの『兵士』の言う通りだな……貴様は異常だ。何故、アレだけの爆発を起こして無傷で居られる?」
「……それ答えるほど、敵に甘かねぇよ……」
「だろうな」
言うが早いか、仮面の女は晋に拳を叩きつける。 晋は見事に吹き飛び、木に叩きつけられるが、これといって苦しそうにも痛そうにもしていない。
「……痛て」
「わざとらしいな」
言いながら女は間を置かずに連打を叩き込んでいく。拳の押収、蹴りの連発、とうとうそれに耐えられ無くなった後ろの木が張り裂けるように砕け散り、晋も吹き飛んだ。
普通ならば、もう立てないだろうと警戒するだけに止めるはずだが、仮面の女はまだ戦闘態勢を崩してはいなかった。
理由は言わずもがな、晋が再び立ってきたからである。
「あ~……自然は大切にしようぜ? いくら作った空間とはいえよぉ……」
(おかしい……明らかに、何かがおかしい……)
そう思いながらも、彼女は晋への攻撃を続ける。が、何回吹き飛ばそうと何回殴打しようと、何事もなかったかのように晋は立ち上がってきた。肉を潰した感触は何回も感じたし、骨が折れた音だって何回もした。なのに、目立った傷なく晋は立ち上がってくる。
(何だ……何なんだこいつは!? 本当に人間なのか!?)
唯丈夫なだけで有れば彼女も驚かなかっただろうが、晋の体はそこまで硬く無く、悪魔から見れば寧ろ脆かった。にも拘らず、彼は立って来ているのだ。
「(コレで決めてやる!)おおおおっ!!」
「…うごっ」
「うわっ!?」
彼女は腹を突くつもりだったのだが、調子が狂ったのか拳が当たったのは顔であり、力の籠ったその一撃は見事に彼の顔を貫いてしまっていた。
驚く仮面の女だが――――本当に驚愕するのはこの後だった。
彼女の腕を、頭が無くなり死んだ筈の晋の手が掴んだのだ。
「な―――」
驚愕の要素はそれだけでは無い……何と晋の顔が彼女の腕を包む様に再生し、彼女の腕をがっちり捕らえてしまった。
「う、うわああっ!!?」
「……るせぇよ、さわぐな」
「もがっ!?」
思わず叫んでしまった女の口の中に、晋は爆弾を押しこみ、何時の間に付けたのか分からない彼女の腹の傷にも爆弾を押しあてていた。極めつけに、でか過ぎる爆弾が二人の間に現れる。
「もぼぅぅぅ!?」
「……Killyou」
その一言と共に、再び大爆発が起き、当たりに爆風を飛ばす。 その威力たるや、かなり小さいがクレーターを作るほどであった。
『ライザー様の“戦車”1名、戦闘不能』
晋はグレイフィアからのリタイアの通達を聞くと、また何処からともなく銃を取り出し、ぐるぐる回す。
「……ハイ終了……そんじゃ次は…」
「―――っ!?」
「……エセお嬢様、あんただ」
「ひっ…!?」
「……策士は厄介だからなぁ…潰しとかねぇとな」
彼の戦闘を見ていたレイヴェルは、怯えた表情で飛んだまま後ずさる。
――――泥仕合が再び幕を開けた。
後書き
ますます晋が、ヒロイン有りのルートから遠ざかって言っている気がします……
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